今回は短めです。
感想は大歓迎です。
次ぎくらいに設定だします。
地図の挿入方法が少し分からない今日この頃。
協定締結
以前訪れたセリューネ公爵邸には劣るものの、公爵という爵位に見合った豪華絢爛と言う言葉が相応しい広々とした一室。
その部屋の中心に設置された巨大な円卓には4人の貴族が席についていた。
「それで、今回我々を呼び出したのはどういった用件か?
まさかただ交流を深めたかったわけではないだろう」
僕の右に座っている男、ファットン侯爵家当主のファットン侯爵がこの邸宅の主でありこの場への招集をかけたメイベント公爵家当主のメイベント公爵に訊ねた。
御年60を越えるファットン侯爵は白髪に所々茶色の毛が混じった
ファットン侯爵の反応にいち早く反応を示したのは、話しかけられたメイベント公爵ではなく僕の左、ファットン侯爵の正面に座っていたケティーネ侯爵家当主のケティーネ侯爵だった。
「・・・・・・え、違うの?」
本来ならば周囲の物音にかき消されるほど小さな声、だが静寂に支配されていた室内で響き渡るには十分な声量だった。
一気に僕とメイベント公爵の視線を奪ったケティーネ侯爵は、私は何も言ってませんよ、とでも言うかのように素知らぬ顔を決め込んでいる。
しかし室内は程よい温度に保たれているにも拘らず、彼の顎を伝わる一滴の汗は彼の本音を雄弁に語っていた。
「・・・・・・メイベント公爵、どうなのだ?」
高齢ゆえに最近少し耳が遠くなったファットン侯爵は、ケティーネ侯爵の失態に気づかず口調を強くしてメイベント公爵に再び問いかけた。
「う、うむ。
今回はだな、デュ、デュステール侯爵に頼まれてだな、諸公らを招集したのだ」
メイベント公爵は強い口調にいささか焦ったようで、非常に寂しい事になっている頭頂部から額にかけて浮きでた汗をハンカチで拭きながら応えた。
その様子は貧乏だが仮にも公爵の位に就く貴族には到底見えず、上司に怒られるただの中年親父となんら変わらなかった。
同じ公爵でもセリューネ公爵と比べてしまうとここまで差があるのかと思ってしまう。
そんなメイベント公爵の言葉を聞き、ファットン侯爵は僕にその老いて尚鷹のように鋭い目を向けた。
「ほお、だがそこに居るのは侯爵本人ではなく、その息子だが・・・これは一体どういうことだ?」
「う、うむ。
私も気になっていた!
どういうことだね!?」
ファットン侯爵の言葉に続き、今まで借りてきた猫のように大人しかったケティーネ侯爵が先ほどの失態を取り返すかのように言葉を重ねた。
メイベント公爵は矛先が自分以外に移ったことを敏感に感じ取り、あからさまに安堵している。
・・・・・・こいつらと協力してあのセリューネ公爵に対抗するのか?
僕の心は早くも挫けそうだった。
やあ、僕、アリストことアリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールは現在、軍事協定締結のためにメイベント公爵邸の会議室にいる。
僕の他に会議室いるのは、メイベント公爵、ケティーネ侯爵、ファットン侯爵の3人だ。父さんは第二次領地改革の調整で忙しいから領地においてきた。
「ふむ、それでその協定を受け入れると我々はどういった恩恵を受け入れられるのだ?
聞く限りでは、武器の発注を受けるデュステール侯爵家だけが利益を上げ、その他の家は軍事費こそ削減できるものの、領民の収入源が消える事になるのだが?」
僕がこの会談の目的と協定の提案を行うと、説明中ずっと深く考えていたファットン侯爵から質問が来た。
もっともな質問だ。
メイベント公爵とケティーネ侯爵も同意見らしく、こちらを不安の混じった表情でじっと見ている。
だが、そんな質問は想定済みだ。
「ご安心ください。
確かにから我が家にはそれなりの金銭が流出しますが、軍事費削減によって得られる金額はその損失を埋めて
領民たちの新たな収入源にはその分を当てれば良いのです。
そうすれば諸公らは領民の収入を減らすことなく、歳出を減額できるでしょう」
僕の説明を聞き、メイベント公爵とケティーネ侯爵は不安ではなく歓喜の表情でこちらを見る。
その瞳には間違いなく希望の光が宿っていた。
特に3家の中で現状、最も財政状況の悪いケティーネ侯爵は嬉しさのあまり涙まで浮かべている様子だった。
「なるほどのぅ、アリスト殿の提案は分かり申した。
確かに貴君の提案は我々にとって悪い話ではない。
私は貴君の提案を受け入れよう」
ファットン侯爵は少しの間考えるかのように目を閉じた後、僕の提案を受け入れた。
すばらしい。
これで目的は達成された。
「ありがとうございます。
では、これから協定の調整をします。
先ほど配った資料を開いてください——————」
この会談で締結された協定の内容は以下の通りである
メイベント公爵家、ケティーネ侯爵家、ファットン侯爵家の3家が保有する諸侯軍の兵器の生産と整備をデュステール侯爵家が一手に引き受ける。
その対価として3家はデュステール家に対し金銭を支払う。
協定締結が終わった後、僕は会談開始時とは打って変わって明るい表情のメイベント公爵たちと談笑を楽しんだ。
お互い今まで多額の軍事費に財政を圧迫され、貧乏生活を味わってきただけあり、公爵たちの話には共感できる部分が多かった。
しかし、話の途中で僕は見逃せない言葉を聞き取ってしまった。
「——— えっ、昔は援助金がもっと多かったんですか!!?」
思わず大声で叫んでしまったが、無理も無いだろう。
公爵たちは僕の反応に驚いているが、ケティーネ侯爵が答えてくれた。
「あ、ああ、昔と言っても20年ほど前なのだが。
今の国王陛下であるロベスピエール3世陛下は少し困ったお方でな・・・・・・
新王宮を建設する為にあらゆるところから建設資金を掻き集めておられるのだ。
しかも完成した王宮をさらに増築しているので、我らへの援助金はいまだ減額されたままだ」
ケティーネ侯爵の言葉にメイベント公爵とファットン侯爵が苦々しげに頷いている。
どうやらロベスピエール3世がヴェルサイユ宮殿を建設しているおかげで、4家への王宮からの援助金は減額され、財政が火の車となってしまったようだ。
いや、4家の財政はもともと火の車だろうがね!!
「な、なるほど。
ありがとうございます」
思わず頭を抱えそうになるが、何とか我慢する。
今まで我が家の財政状況については調べてきたが、思えば財政に関しては大昔の事と10年前から現在までの事くらいしか調べていなかった。
文明の進歩が無いからてっきり財政も変わらないと思っていたが、どうやら家に帰ったら20年以上前の財政状況についても調べなければなさそうだ。
いや、まあ、援助金が増えても減っても財政状況は変わらないから気づかなかった可能性もあるけど、そこは気にしない!
その後、公爵たちの話を聞く限り、どうやら減額前の援助金は現在の1,5倍ほどの額らしい。
・・・・・・流石に減らしすぎだろ。
更に話を聞くと、どうやらロベスピエール3世は戦争もそれなりに好きらしく、即位当初はゲルマニアやトリステインと何回かやらかしたらしい。
ガリア南部の小国群にもちょっかいをかけたそうだ。
大丈夫なのか、この国・・・?
まあ、原作までちゃんと大国のままだったし、大丈夫でしょ!!
僕は原作知識によって悩みから逃げた。
それからは公爵たちと各家に勤めている侍女の中で一番の美人さんについて盛り上がった。
もちろん僕はサラちゃんを推しました。