三週間戦争
デュステール侯爵邸当主の執務室。
歴史ある侯爵家の名に恥じない広さを持ったその部屋には執務机と椅子、書棚と小さなインテリア程度しか置かれておらず、無駄に広いために酷く寂しく感じられる。
普段は父さんが日常の執務を行うためにこの部屋を使用するのだが、僕との2人だけの話し合いの時もこの部屋が使用される。
今までデュステール領で行われてきた数々の改革もこの部屋で最終的な決定がなされた。
そして現在、僕と父さんは、情報収集のため一週間前セリューネ公爵領に派遣した家臣が提出した報告書と協定関係の3家からの書状を囲んで唸っていた。
家臣からの報告書には調査期間が短いにもかかわらず、戦争の経緯や結果、国際情勢の変化、増税に関する主だった貴族の反応など多くの情報が書かれていた。
首都リュティスから遠く離れているというのに、これほどの情報が集まっているとは改めてセリューネ公爵家の繁栄振りが分かる。
僕は調査に費やした数千エキューの存在を意識的に思考の隅に追いやった。
うん、情報って一気に揃えようとすると高いんだね。
これからはコツコツと真面目に情報網を構築していく事にする。
まず今回の戦争だが、最終的にガリア王国、トリステイン王国、帝政ゲルマニアの3国が参戦し、9月4日から同月28日の期間で行われた。
なんという……短い。
その短さから戦争の名前が三週間戦争と名づけられている。
戦争の原因は諸説存在している。
ガリア王国は、トリステイン王国アルロン伯爵がガリア王国イルソン子爵領に侵入し、数人のメイジと供に警備隊を攻撃したと主張している。
一方トリステイン王国は、供を連れ乗馬をしていたアルロン伯爵をイルソン子爵領の警備兵が突然襲撃し、それに対し護衛が反撃したと主張している。
2国の主張に全く登場していなかった帝政ゲルマニアは、むしゃくしゃしてやったそうだ。
後悔はしているが反省はしていないらしい。
見事に主張が食い違っていて、現状ではゲルマニアが碌でもないという事しか分からない。
なんでも当事者達が戦争初期に全員死亡し、その関係者達も急激な戦争の激化に対応できず軒並み行方が分かっていないそうだ。
戦線が3週間という短い期間内で何度も大きく移り変わったため、このような事態が発生したのだろう。
ゲルマニアは突然、帝政ゲルマニア ツェルプストー辺境伯領からラ・ヴァリエール公爵領に侵攻し散々引っ掻き回した挙句、ガリアとトリステインの講和が成立すると、賠償金を支払って撤退したらしい。
本当にゲルマニアは碌な事をしないな!
各国が戦争に投入した戦力だが、戦争の期間と比べてかなり大きいそうだ。
戦場の周辺貴族の諸侯軍の他に、ガリア王国は常備兵力の半数近くを、トリステイン王国に至っては常備兵力の大半を投入したらしい。
ゲルマニアは周辺貴族の諸侯軍と空軍の一部を投入したそうだ。
兵力的にはトリステインが劣勢で、当初はガリアの圧勝だと誰もが思っていた。
まさにトリステイン王国存亡の危機。
しかしそこに全ての近衛隊と王国軍の精鋭を率いたフィリップ王子が颯爽と登場し、あっと言う間に質量供に勝るガリア軍を壊滅させて、その場でガリア王国と講和を結んだ。
さらにそのまま風竜に乗り単身でラ・ヴァリエール公爵領に駆けつけ、そのままの勢いでゲルマニア軍に
まるで物語のような顛末に僕と父さんはこれを読んだ瞬間、言葉を失った。
そこからはフィリップ王子の活躍ぶりが延々と書かれているので説明を省く。
簡単に纏めると、フィリップ王子は単騎で1個ガーゴイル兵連隊を壊滅させ、1つの魔法で砦を粉砕し、地上からフネや竜騎士を魔法で次々と撃ち落したらしい。
なにその化け物。
おそらく多分に誇張されているのだろうが、それでも一騎当千の英雄だと言う事は分かった。
戦争の話はここまでにして、増税に対する諸侯の反応だが、今のところはいくつかの派閥が消極的な反発をしているだけで、態度を明確にしていないらしい。
恐らくフィリップ王子と言う化け物の存在が
増税に反対したくても、もし再びフィリップ王子と戦う事になれば、少しでも軍の補充を進めた方が安全だ。
もしも増税に反発したが為に、軍の補充が遅れたままトリステインと再び戦争になったら、今度こそガリア王国は敗北する。
そのため諸侯は慎重になり、今は必死にフィリップ王子や各国軍の損害を探っているのだろう。
諸侯の態度が明確になるのは、情報が十分に集まってからになるはずだ。
「……手詰まりだな」
報告書を読んだ父さんが、厳しい表情でポツリと
執務室が静寂に包まれていた為に僕は容易にその言葉を拾う事ができた。
僕は報告書から視線を
たぶん今の僕の表情は相当厳しいものになっているだろう。
書状には今期の兵器購入の取り消しと、兵器購入リストの更新が書いてあった。
すでに今期の納入品が生産されている状況では、到底受け入れることは出来ないが、書状の最後に書かれていた一文が、僕達の拒否を許さなかった。
『なお、要請が拒絶された場合、当家は協定を離脱する』
協定締結時では、協定を離脱してもメリットはなかった。
しかし王宮から軍の質の低下が許可された今、工廠を稼動しなくとも兵器を市場で入手できるようになったのだ。
今までは市場に流れていなかったり、市場価格だと高価すぎたりして、領の工場を稼働させるほか無かった。
だが新たに購入予定の兵器は、市場に多く流通しているし、市場価格も決して高くはないのだ。
デュステール以外の3家はすでに自領の工場を稼動させなくても、領地運営には支障をきたさない。
しかしデュステールはすでに軍需産業として定着してしまっているので、簡単には3家のようにいかないのだ。
まさかデュステール侯爵家のために僕が構築した協定が、かえってデュステールを苦しめる事になろうとは皮肉である。
「父さん、このままでは侯爵家は破綻します」
僕の言葉に父さん表情がさらに厳しいものとなる。
「やはりそうなるか?」
表情とは違い父さんの声には諦めの色が混じっている。
「セリューネ公爵家を頼ればこの危機を乗り越える事は出来るでしょう。
しかしその瞬間、侯爵家はセリューネ公爵家の完全な傘下となります。
侯爵家の権益は根こそぎ奪われ、領の運営はセリューネ公爵家の意向に従わねばなりません。
そうなれば最早侯爵家に未来はありません。
いずれ使い道がなくなれば捨てられるか、使い潰されて終わりでしょう。
どちらにしても最終的に侯爵家は破綻します」
僕の話が終わった時、父さんの顔には諦めと絶望以外存在しなかった。
「誇りを捨てたとしても滅びの運命を先延ばしにしただけ……か」
そう言って父さんは頭を垂らす。
これほど父さんが小さく見えたのは初めてだ。
胸がモヤモヤする。
実は、父さんと言っているものの、僕はこの男を父親としては見ていなかった。
精神年齢ではこの男よりも10歳近く年上なのだ。いくらなんでも心の底から父親だと思う事はできなかった。
どちらかと言うと同世代の友人のように思っていた。
しかし、かれこれ15年間も親子として生活していたせいで、心の片隅ではこの男を父親として認めていたようだ。
僕はこれ以上、父さんのそんな姿を見たくはない。
よし、どうせ滅びるのなら、悪足掻きくらいしようじゃないか。
もう出し惜しみなんてしない。
今まで散々、最も効果的な機会を狙っていたのに、このような後手に回った状況で使わざるを得ないなんて、悪手にも程がある。
「父さん……賭けになりますが、1つだけ方法があります」
僕のその言葉に父さんがガバッと頭を上げた。
その表情には驚愕が張り付いている。
「忘れたのですか?
領内の農業生産力を倍増させた方法を、デュステール侯爵家が保有する最大の切り札を」
父さんが思い出したようにつぶやいた。
「……農業改革」
「そうです。
輪栽式農業、堆肥の活用……どちらも未だ領外には知られていません。
これを餌に交渉を挑みましょう」
僕がそう言うと、父さんの表情に希望が蘇ったが、すぐに渋いものとなる。
「確かにそれならば何とかなるのかもしれん。
しかし良いのか?
今の状況では、あちらから相応の対価など引き出せんし、足元を見られるかもしれんぞ」
「構いません。
確かに惜しいですが、出し惜しみをして侯爵家が破綻しては本末転倒です。
今はこの状況の中で手に入れることの出来る利益を他家から毟り取ることに尽力しましょう」
その日の内にデュステール侯爵家から会談の場を求める早馬が各所に派遣された。
それから2日後父さんはケティーネ侯爵家、ファットン侯爵家、メイベント公爵家の領地に、僕は王宮に向かった。
アリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールとデュステール侯爵が各地に旅立つ日より時を
ヴェルサルテイユ宮殿内にある一室でも話し合いが行われていた。
その部屋に集まった面々は誰もが、王宮で働くものならば知らぬ者はいないほどの人物達であった。
大国ガリア王国の国王たるロベスピエール3世を筆頭に宰相たるリシュリュー枢機卿を始め、財務卿や軍の元帥など誰もが国家運営に深く関わっている。
彼らが今日、一同に集まったのは28日に講和条約が結ばれ、終結した戦争が原因だ。
9月4日、トリステイン王国アルロン伯爵領とガリア王国イルソン子爵領の間で起きた
そして国境周辺の貴族から王宮に救援を求められた結果、ロベスピエール3世直々の命により4個歩兵連隊8000名、1個騎兵師団6000騎、2個ガーゴイル兵師団10240体、砲亀兵2個大隊72頭、2個竜騎士連隊216騎、両用艦隊60隻の派兵が急遽決定したのだ。
宰相は当初こそ反対したものの、トリステインの国王が病に倒れ、国内が動揺している状況を考慮に入れた結果、短期決戦を条件に許可を出してしまった。
その結果が、軍団規模での戦力派遣である。
12日には国境での戦闘に先遣艦隊16隻、2個竜騎士大隊72騎が参加。トリステイン王国軍に国境を越えて侵攻されていた前線を国境ラインに引き戻した。
14日、トリステイン側もフネ24隻と1個竜騎士連隊108騎を戦線に投入。
ガリア空軍と戦場で接戦を繰り広げた。
15日になるとトリステイン側が再び優勢となっていたが、戦いの最中、ガリア王国軍に王宮から救護部隊の先遣隊2個騎兵連隊2400騎、両用艦隊36隻、4個竜騎士大隊144騎が到着し、戦況は一転した。
19日には更に救援3個騎兵連隊3600騎が到着。
20日、ガリア側に2個歩兵連隊4000名、2個ガーゴイル兵連隊2560体が到着。
ガリア軍は国境を越えて侵攻するも、トリステイン側の陣地に阻まれ戦線停滞。
21日、ガリア側に2個歩兵連隊4000名、2個ガーゴイル兵連隊2560体、2個砲亀兵大隊72頭が到着。
制空権に加え、砲亀兵による火砲戦力が戦線に投入された事により、必死の抵抗を続けていた各所のトリステイン陣地が陥落し、アルロン伯領を始めとする国境部諸侯領の半分がガリア軍に占領される。
ようやくトリステイン軍に救援としてフネ24隻が派遣されるも焼け石に水だった。
22日、漁夫の利を狙った帝政ゲルマニアが5個歩兵連隊10000名、1個砲亀兵大隊36頭、1個竜騎士大隊36騎、フネ16隻の軍勢でトリステイン王国ラ・ヴァリエール公爵領に侵攻。
ラ・ヴァリエール公爵は周辺貴族と共に迎撃するも、ガリアとの戦争に兵を取られていたため、苦戦する。
トドメとばかりにガリア側に王宮から1個ガーゴイル兵師団5120体が救援に駆けつける。
この時点でガリア王国の誰もがガリアの勝利を信じて疑わなかった。
しかし、それは23日になって崩された。
23日、トリステイン王宮からフィリップ王子率いるグリフォン隊、ヒポグリフ隊、マンティコア隊の3個近衛兵団300名、2個歩兵連隊4000名、3個騎兵連隊3600名がアルロン伯の救援に到着。
快進撃を続けていたガリア王国軍の侵攻を一旦停止させる。
24日、グラモン元帥率いる王国軍3個歩兵連隊6000名、1個竜騎士大隊36騎、フネ12隻がラ・ヴァリエール公爵領に到着。
ゲルマニア軍も救援部隊を警戒し進撃を停止した。
25日、フィリップ王子が会戦でガリア軍に勝利。
報告によると王子は近衛隊を率いてガリア軍に吶喊し、ガリア軍主力部隊に大打撃を与えた。
その結果、ガリア陸軍は指揮系統をズタズタにされ、組織的な軍事行動を取れなくなった。
敗北したガリア軍はトリステイン領内の国境付近にある陣地まで後退。
26日、フィリップ王子がガリア軍に占領された陣地を陥落。
報告書によると王子は陣地の最後部で砲撃をしていた砲亀兵部隊を強襲し、2個大隊72頭全てを皆殺しにした。
その後王子は、空中でガリア陸軍を支援していた両用艦隊、竜騎士部隊を魔法で次々と撃ち落し、壊滅させる。
さらには陣地の中心に建てられていた砦を、王子は魔法で中のガリア軍ごと粉砕した。
敗北したガリア軍は国境線まで後退。
27日、ゲルマニアが進撃を再開する。
グラモン元帥はラ・ヴァリエール侯爵と協力して遅延戦闘を行う。
フィリップ王子が国境線を越えガリアに侵攻。
28日、戦場の様子を聞き、竜籠によって駆けつけたガリア王国宰相リシュリュー枢機卿がフィリップ王子に講和を提案。
フィリップ王子はこれを受諾する。
トリステイン軍は戦前の国境線まで後退し、ラ・ヴァリエール領に転進。
しかしフィリップ王子は単身、ラ・ヴァリエール公爵領に駆けつけ、そのままの勢いでゲルマニア空中艦隊に吶喊。
ゲルマニア空中艦隊は1隻残らず空から消滅した。
さらにここでも砲亀兵部隊を護衛についていた1個歩兵大隊ごと皆殺しにする。
ここに来てゲルマニア軍司令官はトリステイン軍と講和条約を結ぶ。
これが3週間戦争と呼ばれる戦争の全容だった。
投入戦力
トリステイン 王軍 5個歩兵連隊10000 3個騎兵連隊3600 4個竜騎士大隊144 フネ60隻
貴族 アルロン側 10個歩兵中隊1250 11個騎兵中隊528 6個竜騎士小隊24
ラ・ヴァリエール側 20個歩兵中隊2500 1個騎兵大隊240 1個竜騎士大隊36 フネ4隻
ガリア 王軍 4個歩兵連隊8000 1個騎兵師団6000 2個ガーゴイル兵師団10240 2個砲亀兵大隊72 2個竜騎士連隊216 フネ60隻
貴族 15個歩兵中隊1875 6個騎兵中隊288 7個竜騎士小隊28
ゲルマニア 5個歩兵連隊10000 1個砲亀兵大隊36 1個竜騎士大隊36 フネ16隻
損失
トリステイン 王軍 近衛兵団32死亡109負傷 歩兵801死亡3716負傷 騎兵903死亡1688負傷 竜騎士59死亡57負傷 フネ27隻撃沈3隻大破15隻中破
貴族 アルロン側 歩兵407死亡643負傷 騎兵192死亡315負傷 竜騎士14死亡10負傷
ラ・ヴァリエール側 歩兵379死亡1652負傷 騎兵73死亡116負傷 竜騎士17死亡13負傷 フネ3隻撃沈1隻中破
ガリア 王軍 歩兵1903死亡3104負傷 騎兵2090死亡2573負傷 ガーゴイル5412破壊 砲亀36死亡 竜騎士71死亡79負傷 フネ21隻撃沈16隻大破13隻中破
貴族 歩兵738死亡1007負傷 騎兵118死亡149負傷 竜騎士13死亡15負傷
ゲルマニア 歩兵714死亡2856負傷 砲亀兵36死亡 竜騎士19死亡16負傷 フネ9隻撃沈5隻大破2隻中破
会議室にいる者達の仲で敗北の原因を分からぬものなどいなかった。
ガリアはトリステインに敗北したのではない。
フィリップという英雄に敗北したのだ。
会議は紛糾する。
フィリップが健在の内はトリステインと同盟を結ぼうとする者、軍を拡大し対抗しようとする者、戦争とは違う方法でトリステインに報復をしようとする者など、それぞれの人物がそれぞれの意見を主張しあった。
方針如何によっては莫大な権益が動き、巨大な損害をどこかの勢力が被る可能性があるのだ。
各々が自らの利益と敵対派閥の弱体化、国家の利益と存続など様々な要素が複雑に絡み合う。
しかし、進展の見せない会議に苛立った王の一言により、それまで喧騒に包まれていた会議場に静寂が訪れた。
「———それで……結局のところ、フィリップ王子から勝利を勝ち取る策を持つ者はおらんのか?」
誰も応えようとはしない。
否、応えられない。
王国を各分野で率いる者達が集まっても、フィリップ王子に対し勝算のある策を出す事ができなかった。
先ほどまで議論を交わしていたのは、王子を打倒する方法ではなく王子を封じ込める事を前提とした方策なのだ。
先の戦争に参加した将軍から一兵卒まで、皆が嘘を言っていない限り、フィリップとは、どのような策を弄しても力ずくで打ち破る、何らかの枷で封じ込めない限り抗う事さえできない……そんな化け物であった。
そんな奴に対抗できる存在などこのガリアに———
「……いた」
誰かが発したその言葉。
たったそれだけで、その場にいた者達はある人物を脳裏に思い浮かべる事ができた。
アリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステール。
デュステール侯爵家嫡男であり、ガリア王国建国以来の魔法の天才。
齢7つにして風のスクウェアとなり、13歳では水のスクウェアとなったガリアが誇る鬼才。
ハルケギニアで最も有名なメイジの一人。
彼ならばフィリップ王子に対抗できるのではないだろうか。
いや、才能ならば彼の方が上手だ。
何れは勝利する事も決して難しくは無い!
会議室にいた者は口々に、アリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールの名を挙げた。
今まで議論された方策は、どれを選んでもどこかの派閥が巨大な損害を被るものだし、中には特定の派閥の権益が拡大するものまで存在した。
しかし現在、王宮のいずれの派閥にも所属を明確にしていない彼ならば、どの派閥も被害を被る事も無いし、利益を得ることも無い。
妥協策としては優れていた。
それゆえ、今まで派閥争いで対立していた者達がこの案を支持するのも理解できないものではない。
それを苦々しく思うものは2人しかいない。
ロベスピエール3世とリシュリュー枢機卿だ。
彼らは知っていた。
アリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールは魔法の才能だけを持っているのでは無いことを。
彼らは理解していた。
魔法の才能を生かすよりも、他の才能を生かした方が巨大な利益を生む事を。
しかし、フィリップ王子に対抗できる戦力が他に存在しない以上、ガリア王国にはアリスト・ラズム・コネサンス・ド・デュステールを軍に登用させる以外道はなかった。
法律で貴族の嫡男は徴兵できないと定められているが、そんなものは簡単に解決できる。
徴兵できないのであれば志願させれば良い。
「しかし、どうやってさせるのですか?」
その質問に財務卿は唸る。
「10年前ならばデュステール領は貧しく、金で簡単に釣れたであろう。
しかし今のデュステールは何が起こったのかは知らぬが、成長をしておる。
このままの状況では、大事な一人息子を軍に行かせる事はしないだろう。
つい最近、敗北した軍では尚更だ」
財務卿の言葉に陸軍卿がにやりと笑った。
「簡単な事だ。貧しくさせれば良い。
軍事補助金を大幅に削減しよう。
そうすればデュステールの成長も停滞する」
「ならば増税もしてしまおう。
唯でさえ今回の戦費で財政は崩壊寸前だ。
諸侯の不満も、デュステール家が根をあげるまでならば抑えきれましょう?」
突然話をふられた宰相は、欠片も同様を見せずに頷いた。
「まあ、それくらいならばなんとかなるでしょう。
私の方でもデュステール家の締め付けには手を回してみます」
宰相は、エルフとの交易税を到底払う事のできない水準まで引き上げる事を決心した。
あの優秀な少年ならば、デュステール領だけに適合される無謀なまでの増税からこちらの意図を察してくれるだろうと信じて。
彼の少年が王宮にて面会を求めてきたら、全ての事情を説明しよう。
あの者にとってはそれが最も適した対応だ。
もしも反抗するのならば、デュステール家を潰すのみ。
所領を失った彼の者を、保護と厚遇を引き換えに軍に志願させれば良い事だ。
しかしあの少年ならば、そのような事態にはならぬだろう。
デュステール家への締め付けの解消、正当な報酬を条件に軍へ志願してくれるはずだ。
すまないな、少年。これも全て国家のためだ。
そういえばあの少年は、セリューネ公爵の娘と婚約をしていたのだな。
やれやれ、セリューネ公爵には大きな借りが出来そうだ。
実は前回、さり気なくネタを入れていたんです。
大丈夫だ、問題ない(キリッ
感想欄でどなたにも触れて頂けませんでしたけど、死亡フラグ建てておいたんです。