かなりのお久しぶりです、861です。今回は、異伝その1となりました。それではどうぞ。
・・・四月も下旬、極東の島国では遅咲きの桜が散る頃、某国、某基地某室。
「・・・さて、本題に入ろう。貴官が呼ばれた理由だが、この顔は知っているな? 」
そうして見せる一枚の写真。
「は、無論であります」
「そうか、なら話は早い。それなら、本官が何を言わんとしているかはわかるな、フランベルク“曹長”? 」
「ま、待って下さいヴィクトリカ|教官《センセイ》! 何で昇進しているんですか! ぼ、自分の階級は確か・・・」
とっさに素の口調が出そうになるフランベルク。
「元、教官だフランベルク。それに、今は職務中だぞ、私のことはクリストフォルス中佐と呼べ」
「えー、中佐だって僕のことファーストネームで呼んでるではないですか」
「偶には良いだろう、ヨハン。それで、今の問いは? 」
某ゲンドウよろしく両肘を机についてニヤニヤ笑いを浮かべる、金髪ショートのグラマラス美女こと、ヴィクトリカ・クリストフォルス中佐と、言外にやや呆れている風な、首元で切りそろえたプラチナブロンドにやや中性的な顔立ちの、平均よりやや小柄な体格なヨハン・エーリッヒ・フランベルク曹長。
「何をしに行けかまではわかりませんが、IS学園行って来いってコトなんでしょう、どうせ? 」
拒否権は無いと感じているのか、なんとなく投げやりな態度のヨハン。
「察しが良くて助かる。私は頭の回るガキは好きだぞ? 」
「・・・光栄であります、クリストフォルス中佐」
「何だ、その微妙な顔は? 私と貴様の仲ではないか、そう肩肘張るものではないな」
「・・・今、思い出したくない事を思い出したので」
「そうか、お前にとっては一歩間違えば心底はた迷惑な状況だったな、アレは」
「ええ。いくら女尊男卑のこのご時世とはいえ、あれはナイ、です。そもそも僕に、そんな趣味はありませんから」
何やら、二人しかわからない話をする二人。
「さて、これ以上長話をするのもアレだとは思わんか、フランベルク? 」
「・・・長くしたのは中佐の方では? まあ、そろそろ終わらせたいとは思っていましたが」
「そうだな。さて、これは正式な辞令だが、拒否権はそちらにある。どうする、フランベルク? 」
「含むような言い方して、拒否権などありはしないのでしょう? 」
敬礼に疲れたのか両腕を下ろし、皮肉を言うフランベルク。
「そう言うな。まあ、気持ちはわからんでもないが」
「それに、この時期なら“入学”ではなく、“編入”という形になると思いますが? 」
「そりゃそうだろう。・・・まぁ、“あの”IS学園だからな、自力試験のみによる入学とは違い、編入ともなると難易度はかなり跳ね上がるだろうさ」
「勿論知っていますよ、確か、国の推薦が要る、んでしたよね? 」
「ああ。
・・・ま、こういう話が出る以上、上の連中は貴様を推薦したようだが」
「あー、あの、一言言ってもよろしいでしょうか」
「・・・許可しよう。なんだ、ヨハン? 」
ヨハンの声色に妙なモノを感じつつも、発言を許可するクリストフォルス中佐。因みに、妙なモノとは、呆れと憐れみが一緒に混ざったようなソレである。
「それでは。・・・当人に話を持ちかける事もなく、拒否権無しの事後承諾。上に言われてそんなしょうもない指令を出す羽目になったヴィクトリカ教官が気の毒というか、上の手抜き振りにあきれ果てるというか。
・・・あ、上層部には言わないでくださいね」
「・・・言うわけないだろう。私が、どういう人間かぐらいわかっているだろうに」
全体的に
『やれやれだぜ』
な風に言ってから、思い出したかのように『今のはオフレコで! 』なジェスチャーを取るヨハンと、
『それはわざと言っているのか? 』
と言わんばかりな皮肉を込めた笑みを浮かべるクリストフォルス中佐。・・・元教官と元生徒、上司と部下という間柄ではあるが、何気に馬が合う2人である。
「それでは、ヨハン・エーリッヒ・フランベルク曹長、任務に行って参ります! 」
「うむ、言うまでもないだろうが、我が国の恥曝しにはなるなよ? 」
「はっ! 了解であります。それでは、失礼いたします」
最後はきっちりと締める2人であった。
・・・というのがあったのが数日前、諸々な用事を片付け、いざや日本へ。・・・用事の中には、ある人物とのよりを戻すというのもあったのだが。
さて、なんやかんやでIS学園到着したのは真夜中である。
「・・・暗くてなんとなくしか全体像見えませんが、でけーとしか言えないんですが。てか、どこに行けばいいんだか」
因みに今いる場所は正面ゲート前である。
「えぇ・・・っと、本校舎一階総合事務受付・・・? 地図くらい載せとけば良いのに、不親切な」
折り畳んでからポケットに仕舞うヨハン。
そのままキャリーバックをガラガラと引っ張りながら敷地内を探し回る事にした。
「もしもーし、本当に誰もいないんですかー? 」
あちこち歩き回るも、一度のエンカウントも無し。
「はぁー、困りましたね、本当に。こっちとしてはさっさと手続き済ませたいっていうのに」
どこぞのアリーナの前、キャリーバックに座って一休み。
「しょうがない、ダメもとで調べてみますか」
そう言うと携帯を取り出し、某ネット地図のサイトにアクセス。
「IS学園IS学園っと。 ・・・あぁ、なるほどなるほど」
地図を確認し、探索再開。そうしてこうして、目的地に到着。
「すみませーん、編入手続きしたいんですが」
窓口から中に声を掛けると、中にいた事務員は一瞬、これでもかと驚いた表情を見せた。・・・無理もなかろう、声を掛けられ振り向いたら、そこにはプラチナブロンドに紫紺眼、右目には六角形の機械的な眼帯、女子とするには長身、(まさかの)男子ならばやや小柄な、どちらともとれる顔立ちの若者がいたのだから。
とはいえ、そのあたりは流石にプロ、動揺をおくびにも出さず、手続きを進めたのであった。
「さてと、これで手続きは完了ね。ようこそIS学園へ、えっと・・・、フランベルク君、さん、どっちだったかしら? 」
「ヨハン=エーリッヒ・フランベルク。普通に男ですよ、僕、最初に言いましたよね? 」
なぜ聞くのかと、首を傾げるヨハン。
「そ、そうだったわね。あはは・・・」
何かをごまかすような愛想笑いをする事務員A。
「それで、僕は何組ですか? 」
「フランベルク君は二組よ。・・・あら」
「どうかしたんですか? 」
「二組といえば、この間転入してきた彼女も二組だったわねって」
「彼女? 」
「そう。確か・・・、【凰 鈴音】さんだったわね」
「そうですか。それでは失礼します」
「そ、そう」
一礼して、その場を後にするのであった。
そうして次の日、一年一組の教室にて、凰鈴音が宣戦布告をしているタイミングで、後ろから声を掛けるヨハン。
「へーぇ、貴女が凰鈴音さんですか」
「ひゃッ!? あ、アンタ誰よ!? 」
「誰かとはご挨拶な。・・・おっと、はじめまして、織斑千冬先生」
「見ない顔だな、他のクラスか? さっさと戻れ。もうSHRの時間だぞ」
「ち、千冬さん・・・」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな、邪魔だ」
「す、すみません」
「あ、すみませんでした」
織斑教諭に言われ、すごすごとドアから退く2人。
「・・・・・・」
それからじぃっとヨハンを見る織斑教諭と、その眼力に後ずさるヨハン。
「な、何か? 」
「そうか、貴様が、か。 なに、朝の職員会議で話だけは聞いていたのでな」
「そう、ですか」
二人が睨み合いしている最中、鈴音が捨て台詞を吐いた。
「また後で来るかね! 逃げないでよ一夏! 」
「さっさと戻れ」
「は、はい! 」
「は、はい」
そうしてその場から立ち去る二人、・・・両方とも“二組”へ向かって。残されたのは、その直後不用心に吐いた言葉のせいで集中砲火受ける事になった一夏と、砲火を吐いたせいで出席簿を喰らった一組クラスメイト複数と、更に、正体不明の転入生への疑問であった・・・。
「で、アンタは結局誰なのよ。あと、初対面なはずなのに、なんてあたしの名前知ってんのよ? 」
早歩きで教室に向かう途中、そんな事を問う鈴音。
「名前を知っていたのは事務員さんが言ってたからです、同じ二組の転入生がどうとか」
「あー、あの人か、納得いったわ。・・・あれ、今“同じ二組”って」
「さて、到着。すいません、遅刻しました」
「あら、なんの偶然かしらね? 転入生組が揃って遅刻だなんて」
「は、はあ・・・、その、一組、というか一夏に宣戦布告してて遅れました」
そんな感じで教室に入る鈴音。
「さて、もう知っているとは思うけど、今日も、転校生を紹介します。フランベルクくん、入って来て」
「はい。 ・・・えー、本日から皆さんの学友となります、ヨハン・エーリッヒ・フランベルクと申します。 オーストリアから来ました。あ、時間的に僕への質問は後にして欲しいのですが・・・、それでも、質問したい事があるんだぁ!! な方はいらっしゃい、・・・ますねやっぱり」
クラスメイト達のギラギラとした爆発寸前の圧迫感にたじろいだヨハン。
「・・・とりあえず、どっち? 」
「確かに、コスプレやら女装やらで違和感が敵前逃亡したと言われた事はありました、それでも僕は男です! 」
・・・その言葉が、彼女達を爆発させるトリガーとなった。
「ッシャー!! 二人目男子ktkr!! 」
「なにィ、リアル男の娘なの?! そんときのシチュ詳しく!! 」
「神様ご先祖様ありがとう、お供え物は一つランク上にしとくから! 」
「ねぇねぇ、フランベルク君は、付き合ってるひといるの? 」
「ああぁーもう、質問が山のように浮かんできたァ! 」
「てか、その眼帯何? 」
「あ、あはは・・・」
乾いた苦笑いを浮かべている教師A。
「・・・皆さん実に元気がよろしいようで。
さて、何から何まで答えれば良いのやら。まず、女装やらコスプレについてですが、訓練生から候補生に上がって、実際の公式任務に参加するようになった頃から、その当時の教官だった人のアドバイスで性別偽ってた時期があるんですよ。なんでも、いま世界にバラしたら面倒な事になるからとかなんとか 」
「つまり? 」
「趣味じゃありません、任務です」
「なるほどー。で、付き合ってる人、いるの? 」
若干の期待を込めて放たれたその問いは、
「付き合っている? はて、どの段階までを指してるんですか? 」
明らかに“いる”前提の、質問返しで打ち砕かれた。
「フランベルク君、それってつまり・・・」
「はい♪ 僕には、少し年上の恋人がいます、残念ながら」
そうして浮かべる、威圧するような満面の笑み。それには流石に黙るしかないクラスメイト一同。
「他には、いらっしゃらないようなので」
そう言うとヨハンは空いている席に座った。 そうしてSHRは終了。
「・・・いつの間に嗅ぎ付けてきたんだか」
時刻は3時限目終了後。 一年二組のクラスの前には、ズララララと人の山。ヨハンにはそれが偵察部隊に見えていたり。
「・・・」
徐に立ち上がったヨハン、教室の外へ。 別に文句を言う為ではない。
「「「・・・・・・」」」
「・・・話しかけたいならすれば良いじゃないですか、何を遠慮してらっしゃるんですか? 正直、イライラするんですが。真夜中の蚊みたいで」
微妙に判りづらい例えを言うヨハン。
「蚊? よりにもよって? 」
「ええ。何を牽制しあってるかは知りませんけど、正直鬱陶しいんです」
それだけ言うとどこかへ。
「あ、ちょっと! ? 」
「なんですか、ついて行きたいなら勝手にどうぞ。 ・・・と言っても、今から行くの、トイレですけどね」
言葉の後半は根性悪い言い回しで、露骨におちょくるような態度をとるヨハン。悪戯に引っかかった相手を|嘲笑《わら》うような、そんな感じで。
「・・・ぐぐぐ」
「それでは失礼」
顔半分振り向き手を振りながらその場を立ち去るのであった。
「お気持ちは大変ありがたいのですが、申し訳ありません、先約をいれていますので」
「そ、そっか。ならしょうがないね」
・・・これは昼休みに入ってすぐのやり取りの最後の部分である。実際の所は、先約なんぞ無く、単純にぞろぞろついて来られるのが面倒くさかったという訳であった。
「さて、何にしましょうかねっ・・・、と」
その時視界の隅に朝会ったツインテールを見た。
「あ、そうだ」
で、所謂連想ゲームのノリで今日のメニューを決めたのであった。
それから食券を買って並び、食券を出し待っていると、先ほどのツインテールが後ろでなにやら立ちふさがっているようだ。
「(なにやってんですかね、あの鳳鈴音? さんは)」
「はいよ、天丼おまち」
「あ、はい」
「お、そういえばあんたが例の二人目ってやつかい? 」
「ええまあ、そうですけど。あと、なんか多くないですか、これ」
もう広がってるのかと、内心たじろぐヨハン。
「たくさん食べて頑張んなよってことさ。ハンデ抱えながらも自分なりに努力してきたんだろう?
「ええ、まあ。といっても、こっちの目だけ極端に悪いってだけなんですが」
「おや、そうなのかい? 」
どうやら食堂のおばちゃんは、ヨハンが隻眼と勘違いしたようだ。といっても、言い方は哀れまれる風でもなく。わざわざ指摘するのもあれなのだが、ついつい訂正する。
「ええ、まあ。それでは」
そうしてその場を立ち去るのであった。それから適当なテーブルを探し座る。
「郷に入らば郷に従え・・・、だったかな? いただきます」
そうして食べ始める。どうにかこうにか箸を使いながら進めていると、隣の席に織斑少年達が座ったのだが、それを無視して食べ続けた。
そうして完食し、丼を片付けるために立ち上がったところで、先ほどから感じていた視線の主に声をかけた。
「なんですか? 」
「いや、朝から多少は気になっていたのだが、お前は誰だ? 」
「僕ですか? ・・・む、確かに二組の人以外に名乗った覚えありませんね。僕はハンス=エーリッヒ・フランベルグといいます。大抵愛称のヨハンと呼ばれることが多いです。それで、貴女は? 」
「箒。篠ノ之箒だ 」
相変わらずの箒。
「なるほど、篠ノ之箒さんですか。・・・ん? まあいいや。そうなると、そっちは噂の織斑一夏君で、そっちが同じクラスの中国代表候補生鳳鈴音さん。・・・・・・あとは、あれ、本気で貴女誰ですか? いや、冗談抜きで」
一人一人確認していくヨハン。と、結果的にこうなるのであった。ある意味仕方ないといえば仕方ない。
「な!? 本当に貴方、わたくしをご存知ありませんの!? 」
「・・・仕方ないじゃないですか、知らないんですから」
いやー、参りましたねーと言わんばかりの態度のヨハン。
「・・・全く、仕方ありませんわね。知らないのならば言って聞かせましょう、わたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生ですわ」
以前なら吼えたところを、今回は普通に応対するセシリア。・・・言い回しというか芝居がかった態度は変わるワケが無いが。
「セシリアさん“も”、代表候補生ですか。こりゃあ対戦が楽しみだ」
「「「も? 」」」
「ええ。さすがに今回はクラス対抗戦ですから鈴音さんに譲りますが」
珍しく好戦的なヨハン。
「アンタ、ハンス・・・だっけ? やけに引っかかる言い方するわね」
「そりゃしますよ鈴音さん。 だって、余所の|代表候補生《ミナサン》の実力、気にならない訳ないじゃないですか。ま、色々とアレですが」
何を仰るのかと言わんばかりのヨハン。
「・・・アレとはなんだ、アレとは」
そして、当然問われるであろう疑問を問う箒。
「自分で言ってませんでした箒さん? 余所の施しは受けなーいとか」
「言ったのはわたくしですわ」
「・・・そういえば、そうでしたね。で、当人の意思無視で、でしたよね? 随分とまぁ」
「ぐ」
「ぬぬ」
セシリアと箒の反応に皮肉で返すヨハン。ま、真横にいて聞こえぬ訳がないのだが。
「まったく、織斑一夏君、貴方がちゃんと言わないから」
「言っても聴くように見えるか? 」
「・・・ちゃんと言えば聞くんじゃないんですか? たぶん」
「「はーぁ」」
有りそうもない可能性に、つい口を揃えて溜め息を吐く二人。 で、これにてお終いと、そのまま丼を片付けに立ち去るヨハンであった。
それから放課後、主担任より自室の鍵(1037号室)を貰い、教室から出ようとした所で、同級生に自室番号を問われ、教えたらついでにとノート複数渡された。(ヨハンの同居人が偶々今日休みだったらしい)
それから荷物を回収し、自室へ。
特に問題の起こる事もなく、その日は終わりを迎えたのである。
to be continued・・・.
如何でしたでしょうか? この異伝は、なろうにて連載していた短編モノをいじくり回してます。もったいなかったので。 それでは。