新年始めまして、861です。今回は新年第一号となります。 それでは、どうぞ。
第三話【デートと襲撃と人生の分水嶺・後編】
・・・次の日。俺、兵藤一誠の1日は、デートの帰りに彼女に刺し殺され、赤い髪の誰かがやって来た(そのくせ、殺される前に相手は黒い羽根が生えた)なんていう奇妙な夢を見て始まった。
更に、松田と元浜の2人の記憶から、彼女こと【天野夕麻】ちゃんの記憶がごっそり抜け落ちているという反面、余り接点無かった筈のクロナが何故か覚えているという始末。
で、放課後にいつものように友人宅にてアレなのの鑑賞会があったのだが・・・、
「・・・あれ、もう電気消したのか? 」
「何言ってんだお前? 」
「(・・・いや、明かりはとっくに消えている。むしろ、明かりがある時よりもはっきりと見える) ・・・悪い。なんか、調子悪いから帰るわ」
「えー、もう帰るのかよ」
「お前、なんか今日おかしくねぇか? 」
「それは俺が一番自覚してる。じゃあな」
そんな感じで俺は友人宅から帰る。・・・帰る途中にも妙な違和感は消えなかった。むしろ、昼間よりも違和感が強くなっていた。具体的には・・・、
「(・・・なんなんだこの感じ。昼間よりも力が漲るような・・・) 」
そんなコトを考えていると、奇妙を通り越して奇っ怪な体験をするはめになった。
「(・・・!? なんで、この距離からまるっきり聞こえんだよ!? ありえねぇだろ、どう考えても!? ) 」
聞こえたのは、だだをこねる子どもとそれを叱る母親。そして、子どもを宥め母親と二、三言葉を交わし店の中に戻る店員。(しかもその店員は高島先輩。)という、それほど珍しくもない光景。・・・問題は、俺とそのやりとりのあった場所。母親と子ども、店員がいるのがスーパーの前。・・・で、俺が今居るのが、店の正面の路地の奥。まるっきり反対側、普通に考えて声を張り上げでもしない限り聞こえる訳がなのである。
余りの気味の悪さに、気がついたら足が勝手に走り出していた。それで、ついたのは例の公園。デートの終着地にて、俺が刺された場所。そこであれを思い返していたら、背中側からゾワリと来たんで振り返ると・・・、
「・・・だ、誰だテメェ!? 」
そこにいたのはどこの探偵だテメェな格好なオッサン。思わず後ずさる、【つもり】だったのだが、
「(またかよ、俺の体どうしちまったんだ!? )」
立ち幅跳びでも無理な距離を普通に跳んでいた。
ソイツが現れやがった時は、稀有なものよとか、このような地方都市でどうたらこうたらとかそんな感じの独り言を言ってやがったけど、それを無視して、冗談じゃねぇ関わってられるかと全力で公園の奥へ逃げるも・・・、先回りしてやがった。空を飛んで。
「・・・これだから下級な存在は困る。さて、主人の気配も仲間の気配もなく、消える気配も魔法陣も出さない。状況から判断するに、貴様は【はぐれ】か」
ソイツは呆れたようにそう吐き捨てると、何も無いところから手品か何かみたいにガラスかなにかで出来た槍の穂先みたいなのを取り出した。
「・・・なんだよそれ、これも夢の続きだってのか!? 」
「・・・ならば、狩ってしまっても問題あるまい・・・! 」
「(・・・冗談じゃねぇ、同じ殺されるなら、あんなオッサンじゃなくて、美少女の方がまだマシだ・・・! )がはっ・・・!? 」
・・・逃げだそうとするも、相手が投げた槍が俺の腹をぶち抜くのが早かった。
「・・・存外、しぶといな」
「・・・痛ぇ、なんでだ?? 夕麻ちゃんの時よりも全然痛ぇ・・・」
一周回って不思議な事に、まだ俺は生きていた。その上、抜こうとすると手に激痛が走った。
「・・・光、貴様等には相当堪えるであろうよ。さて、止めといくか」
そう言ってまたもう一本、光の槍を生成(そういう風にしか表現出来ない)する黒い羽根のオッサン。
「(・・・死にたくねぇ、誰か、誰でもいいから助けてくれよ・・・!)」
すると、意外なところから援軍が来た。
「・・・おい兵藤、なんだそりゃ死にかけか」
現れたのは制服姿の高島先輩。
「・・・た、高島先輩」
「とりあえず、殺人事件の現場なのは理解できたんだが・・・、おいそこのダンディなオッサン。色々と何なんだこの状況は!! 」
普段よりも、明らかにキレてる高島先輩。
「何とは・・・、一体どれの事を指しているのやら」
「・・・惚けるなよ。アレも、これも、ソレも、この状況を構成する一切合切、Everythingだ! 」
「・・・仮に、教えたとして、答えを得たまま生きて帰れると思っているのかね」
石が直撃したことも含めてか、さっきまでより段々苛つき気味になってきた黒い羽根のオッサン。
「・・・さあな。けどな、俺は日頃の行いが良いからな、或いは溜まりに溜まった貯金が俺達を助けるかもしれないだろ? 」
「・・・そうか。ならば、その溜めている容器ごと、叩き割るとしようか・・・! 」
そう言ってもう会話は終わりとばかりに二人は構え、端から見たら無茶としか言いようがない戦いが始まった。・・・意外な事に、高島先輩は良く保っていた。あくまでも良く保っていただけで、普通に考えて色々と差がありすぎた。
・・・そうしてそれは、割と唐突に訪れた。オッサンが投げた槍をかわすも、逆の手に生成した槍が高島先輩の右脚を貫き、そのままごろごろと転がった。
「・・・あぁくそ、やっぱり厳しいか」
「只の人間にしては、意外にやるな。だが、ここまでか」
「誉めてんのか貶してんのかはっきりしろ。・・・こうなったらヤケだ。どうなろうが知ったことか」
相手を睨んだままそう吐き捨てると、ポケットの中から何やら取り出した。
「・・・アレは」
ポケットの中から取り出したのは、デートの日に配っていて受け取ったカードというよりチラシ。
「・・・見ろ、これ曰わく、あなたの願い叶えるんだそうな。鬼が出るか蛇が出るか、或いは神だか悪魔が出るか、こうなりゃ乾坤一擲の大博打ってヤツだ! 」
「・・・なる程、あのような一見無茶をやらかしたのはそのような切り札、或いは奥の手があったからか」
「そうなるな。ついでに言うと、さっきから痛いの我慢しているんだが、そろそろ我慢からやせ我慢に移行する頃合いだ」
どこか感心した風な黒羽根のオッサンと無理やり膝立ちで膝がガクガク鳴っている高島先輩。
「さて・・・、それはマズい。本当に喚び出されるのは実に面倒な事態になる。最悪、ここの管轄の悪魔など|召喚《ヨビダ》されては、実に面倒な事になる」
「知るか。・・・さぁて、摩訶不思議な皆様方よ、俺に力を貸してくれ! 」
そう言ってチラシを持った手と逆の手を突き上げたとき、信じらんない事が起きた。
「・・・なんですか、ソレ」
「・・・知るか」
高島先輩の右手に現れたのは、手首から肘まで覆う腕甲と、そから伸びた人差し指と薬指に嵌められた三層構造の指輪を繋ぐ鎖。全部金色の。
「・・・まさか、セイクリッド・ギアの所有者だったとは」
「セイクリッド・ギア? 」
「・・・実に奇妙な因果だ、こうなるとは誰に予想ができようか」
「感慨深げなところ悪いんだが、セイクリッド・ギアって、何なんだそれは? 」
「くどいぞ青年、何も語ることはないぞと、先ほどから言っているではないか」
「そうかよ。それはそうと兵藤」
「・・・な、なんです? 今、喋るのもキツいんですが」
「・・・見ろ、これは凄いぞ。手をかざすとどんどん傷が塞がっていくんだ。で、ちょっと待っててくれ。俺の方を塞いだら|兵藤《オマエ》の方も治してやる」
そう言いながら脚をこっちに見せてくる高島先輩。言った通り、指輪がはめられた手を槍で貫かれた脚にかざしていると、川が土砂で埋まるみたいにどんどん傷が塞がっていく。
「・・・うぅむ、予定外ではあるが、余計に生かしておくわけにはいくまい」
「そうなるのか、冗談じゃないな」
「残念だが冗談ではないよ。・・・む!? 貴様等の仕業・・・、ではないな」
そのとき黒い雷みたいなのが明後日の方から飛んできた。相手が飛んできた方を向いたのにつられてそっちの方を見ると・・・、
「・・・リアス先輩、何で・・・」
そうして俺は色々と限界だったらしく、気を失った。 その後少ししてドサリという音。どうやら高島先輩も限界だったらしい。
・・・Interlude side R.
「・・・紅い髪。貴様、グレモリー家の者か」
眷族となった“彼”の元に転移すると、ちょうど堕天使が止めを刺そうとしているところだったから魔力を飛ばして割り込みをかけた。そうしたら案の定槍を投げてきたけど小猫が手刀で弾き返し、また投げてきたのは朱乃が雷撃で撃ち落とした。
「リアス・グレモリーよ。始めましてかしら、堕ちた天使さん」
「これはこれは。なる程、この街はグレモリー家の管轄だったか。そうなると、彼は君の眷族という事になるな。・・・その場合、もう一方の扱いはどうすればいいのやら」
「そうなるわね。・・・もう一方? この場には他には誰も・・・、」
そう言われて辺りを見回してみるも、特には誰も・・・。
「・・・部長」
小猫が何やら袖を引っ張るから、そっちを見る。そこには、草むらから不自然に飛び出た下半身。
・・・しばらくするともぞもぞじたばたと動き出し、何処かへ去って行った。どうやら脚の持ち主は無事だったらしく、名も知らない堕天使は苦々しい顔でそっちを見ていた。
「・・・離脱に成功したか、面倒な。さて、それはそれとして。彼が眷族だというのなら放し飼いにしておかない方が良い。私のような輩が散歩がてらに狩ってしまうからな。ま、無用なお節介だろうがな」
「ご忠告痛み入るわ。・・・けどね、」
そこで一旦言葉を切る。
「・・・何かね? 」
「私の眷族にまた手を出すようなら、今言ったまま、言葉ではなくそっくりそのままお返しするからそのつもりで」
「そうか、それは気をつけねばな。さて、それとは別に・・・、まぁ、相手を利するような事は敢えて言うまでもないか」
白々しい台詞の後に、聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。
「・・・あらあら、そちらは独り言のつもりでしょうが、しっかり聞こえていましてよ? 」
「聞こえてた、ばっちり」
「それはそうだろう、聞こえるように言ったのだからな」
「それで、今言おうとしたのは何なのかしら? 」
「大したことではないよ。そこの眷族と先ほど逃げきった者、さほど気にしてはいなかったが改めて思えば同じ意匠の格好だったなというだけだ」
「そこのってのは、どっちかしら」
「さてな。それともう一つ、我々や貴様等、或いは奴らならばともかく、単なる人間がこのような場から無事に逃げおおせた事、その意味は言わずもがなだと思うがね。これで以上」
「・・・そう、確かに意味ある情報ね」
「・・・やれやれ、つい喋り過ぎてしまったな。今日はここまでにしておこう。・・・我が名はドーナシーク、願わくはまた会わぬ事だ」
最後にそう言って、堕天使ドーナシークは空に吸い込まれるようにして消えていった。
「・・・部長、これは予想通りの展開なんでしょうか」
「半分だけね」
「それよりも、ほっといたら死にます」
「・・・死なせないわ。なんてったって私の・・・」
・・・interlude out.
・・・俺こと高島奏司が一晩考えた結果としては、とりあえずあの場にいた誰かに接触するという結論に至った。まあ、かなり頭ん中でシミュレートさせたから多少は大丈夫だとは思うんだが・・・。
さて、今日は妹は朝練な為、クロナと登校。で、校舎到着早々、
「・・・・・・は? 何で? 」
「(・・・そりゃあそうなるわな)」
それを見た瞬間、両目ガン開きにし、朝っぱらから間抜けな面をさらす羽目になったクロナ。原因は、兵藤一誠とリアス・グレモリーが一緒に登校してきた、それだけ。ただそれだけだが、他の連中からしたらウルトラ級の衝撃だったようだ。俺はそれを無視して二人に近づいたら声をかけられた。
「あ、高島先輩。おはようございます」
「おはようクロナ、それに奏司も」
「おはようございます、リアス先輩。それで、どういった経緯で・・・」
すると、グレモリーが兵藤に何やら小声で言い、それに返事するかしないかで立ち去った。その直後、兵藤は松田と元浜に飛び蹴りを食らったのだが。
そんなの知らんと俺はさっさと階段を上がる、するとバルコニーとしか言いようのない場所の端の方でグレモリーは黒髪ショート紫眼眼鏡の(同学年のグレモリー及び姫島辺りと比べたら)色々小柄な女生徒と何やら話をしていた。相手はこの学園の生徒会長こと、3年|支取蒼那《シトリ ソウナ》である。因みに、俺と同じクラス且つ生徒会副会長の|真羅椿姫《シンラ ツバキ》曰く、あの二人は【幼なじみ】レベルの親友なんだとか。 ・・・どうでも良いが、生徒会連中は個人的にはどいつもこいつも名前が面倒くさい、と思う。二年生の放送局員時代は冗談抜きで捻った。 ・・・それはともかく、二人に近づいて声をかけた。
「おはようさん、支取」
「おはようございます高島君」
「・・・なあ、二人のどっちでも良いんだが、頼みがあるんだがいいか? 」
二人の側まで近寄り、話の中身が中身なだけに、辺りを見回し他の連中に聞こえない声のボリュームで話を切り出す。
「何でしょうか、貴方が頼み事だなんて珍しいですね」
「言われてみればそうね、なんというからしくないわね」
「・・・緊急事態だからな、仕方ない」
「・・・それで、頼み事とは? 」
「・・・昨日、奇妙な事態に巻き込まれた。で、何で兵藤がピンシャンしてるんだグレモリー? 」
「・・・どうして貴方が、それを知っているのかしら? 」
案の定突っ込まれたから、あったままを言う。
「そりゃあ、その場にいたからだ」
「・・・なるほど、そういうワケでしたか」
得心がいったと言わんばかりの支取。
「そういう訳で、力を貸してくれないか? 」
「・・・当然、ただじゃないわよね? 」
「・・・力を借りる以上、そちらには何かしらの対価を支払う義務がありますから」
「・・・何だよ、思いっきり最短距離で当たりじゃないか。それで、話が通じる以上、こっちには説明を求める権利、あるんだよな? 」
遠回りするべきだったかなと若干腹の中で反省しつつ、そこを確認する。
「・・・聞くのは別に構わないんだけど」
「それ相応の覚悟、ありますね? 」
念押ししてくる二人。
「無けりゃ声をかけたりしないさ。・・・そういう訳で、よろしくたのむ」
とっくに覚悟は決めてきた、今更臆病風なんぞ吹かれるワケがない。
「そう。それじゃ、放課後に」
「リアスは旧校舎のオカルト研究部部室、私は生徒会室にいますから」
「わかった、またあとでな」
そうして俺はその場を後にした・・・。
・・・To Be Continued.
如何でしたでしょうか? 今回は久々の一人称回でした。案外楽ですね、これ。
それでは。