2話
ゾルディック家執事襲来事件より、二年が経過して今8歳のレイアです。
実は何を隠そう…あの黒スーツを着た執事こそが私の漆塗りの師匠なのである。一体、ゾルディック家の執事は何者だと言いたくなる。正直、ここまで多芸に秀でているのならば、執事にフィギュアづくりを命じればいいと思う。
しかも、この人さ…私の実家のお隣に住んでいるのだよ。なんでも、私が一人前の漆塗り職人になるまで帰らないそうだ。
両親には、親切なお隣さんから漆塗りを学んでいますと可愛く言っているが…マジ命懸け過ぎる。
「集中しなさい。線が歪んでいます」
「はい!! 師匠」
という事で今日も元気に漆塗りを学習中です。
早朝に漆塗りを学び、昼間が学校、夕方に道場、夜にフィギュアづくり。既に過労死しそうな殺人的なスケジュールだ。かと言って、漆塗りもフィギュアも勝手にやめられない状況だ。死にたくないもん。
だが、考えようによってはタダで最強のボディーガードを付けてもらっているとも取れるのでありがたさ半分といったところだ。
「そろそろ、学校の時間ですね。行ってらっしゃいませ レイア様」
「今日もご指導ありがとうございました ワジマさん。行ってきます〜」
基本的にいい人なのだろうが…顔が怖い。いや…ゾルディック家の執事であるからいい人いうのは間違いだな。命令一つで二年間指導した私でも躊躇いなく殺すだろう。
怖い 怖い。
学校にて。
「好きです。付き合ってください」
クラス一の美少女が私に告白してきた。正直言えば、私ロリコンでもあるから嬉しいよ。でもね、私は浮気しない事にしているんだ。
「ごめんなさい。私には既に心に決めた人?が居るので」
最近、学校で呼び出される事が多くなった。素直に無視するのもいいのだが…こういう多感な年頃の女性を無下に扱うと後が怖い。だから、誠意をもって謝る事にしている。それでも、翌日には陰口を叩かれることが多いけどね。
モテる容姿に生まれたのは非常に嬉しい。女性に好かれるのも歓迎だ。しかし…断らればならないのだ。それが、将来の自分の糧になるのだから今は耐え忍ぶ。
「や、やっぱりホモだって噂は本当だったのねーーー」
女の子が何やら大声でとんでもない事を言いながら走り出した。そんな根も葉もない事をどの口がいうんだ!!
「まてや…って、無駄にはぇええええーー」
口封じをしようと思ったときには既に女の子は居なかった。口封じと言っても、当然物理的な意味じゃない。ただ、私がホモじゃないとわかるまでじっくりと話し合いをするだけだ。
翌日、学校では私がホモと認識されていた。
くっそ!! 登校拒否してもいいレベルだぞ これ。
数週間後の道場にて。
何やら、むさ苦しい高弟から身の毛がよだつような熱い視線を感じる。その高弟は、やたらと私の世話を焼いてくれる…特に組手の相手を積極的にしてくれる。まぁ、私としては非常にありがたい。
ここ二年、私はワジマさんが実家でもやっていたと言うに筋トレを導入した。筋トレというか…ぶっちゃけ、ゾルディック家の門番がやっていた重石を付けるトレーニングだ。あれが存外、いいトレーニングになるのですよ。まぁ、重さはゴン達が付けていたお守りの1/3程度だけどね。子供のうちから無理をすると身長が伸びなくなるから控えめにしておいた。
そんなわけで同世代の子では、既に私の相手としては役者不足となってしまっている。
だから、年次の上の先輩や高弟に混ざる事もしばしばといった感じだ。
「本日の鍛錬はここまで!! 皆のもの気を付けて帰るのだぞ。ここ最近、暴漢の被害が多くなってきている。いいかお前ら…返り討ちにしろ!!」
「「「「「押忍!!」」」」」
まぁ、私には関係ないけどね。
こういう時に男に生まれてよかったわとつくづく思う。こういう心配がなくなるからね。母の事は少なからず心配ではあるが…うちのお隣さんを考えれば、何も問題がない。
さーて、今日も死ぬほど疲れたからさっさと家に帰って、掘り掘りしよう…木彫り的な意味で。
「お先に失礼します!! 」
「あぁ、気を付けて帰るんだよ」
道場の皆に挨拶をして、帰路についた。
帰り道にて。
「朱に交わればなんとやら…か」
なんだかんだでこの世界を満喫している自分が怖いな。前世と比べて肉体面がかなり強くなっている事もあるのだろう。まぁ、それでも道場の高弟には勝てないけどね。正直、道場の連中を見ているとみんなハンター試験合格できるんじゃないかと思う位だ。特に体力面が異常に優れている気がする。
特に組手の指導をしてくれる高弟なんて、体力・スピード・攻撃力とどれをとっても他の高弟と比べて抜きに出ているからね。恐らく、ハンター試験受験時のハンゾー位強いんじゃないかな。
ザワザワ
一瞬、肉食獣に狙われているような気がした。
「あれ…誰もいないか。おかしいな、今…気のせいか」
背後を振り返ってみても誰もいない。周りを見回しても誰もいなかった。きっと、最近頑張りすぎで疲れているのだろう…帰ったら掘り掘りしよう。
翌日、高弟の一人が行方不明になったと聞いた。
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ミルキ様からの命令でレイア様の護衛について早二年が経った。
子供の成長とは恐ろしいものだ…私がゾルディックで長年かけて学んだ事をスポンジのように吸収していくのだから。後、4.5年もすれば一人前と言ってもいいだろう。ミルキ様が手厚く保護するのも頷ける。
特にフィギュアといった模型づくりの才能は実に目を見張るものがある。一つ一つの作品に対して愛情すら感じられる程だ。遠くない未来、名前が売れる事は間違いないだろう…主に変態という意味で。
時計を見るともうすぐ8時になる。
そろそろ、道場が終わり帰宅される時間だ。
最近は、この辺で若い男ばかりを狙った暴漢が出ると噂されている。しかも、それなりに腕が立つらしく今だに逮捕に至っていない。レイア様は8歳ではあるが、その身体能力は既に大人にも引けを取らない為、普通の暴漢であれば返り討ちにする事位可能だろう。まさに、心源流拳法の道場に四年も毎日通い続けている成果とも言えるだろう。
「念には念を入れるとしよう」
身だしなみを整えて家を出た。
レイアの帰宅路にて。
レイア様から20m程後方に獲物を狙うような目付きの男がいた。
なるほど…捕まらないはずだ。
あの男は確か、レイア様の身辺調査を行なった際にリストに載っていた。レイア様が通う心源流拳法道場の高弟だったはず。ハンター試験合格間違いなしと言われる逸材であるが、いささか素行が悪いとも言われている。
念能力までは取得していないようだが、身のこなしを見る限り今のレイア様では勝てないだろう。
暴漢がレイア様に背後から襲いかかった。それと同時に私は、暴漢の前に立ちふさがった。
「悪いが、貴様には死んでもらう」
ゴキリ
私は男の背後に回り込み首の骨をへし折った。そして、男の死体を背負ってその場から離れた。
その時間、僅か一秒たらず…誰にも気づかれる事はなかった。
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暴漢事件から更に4年が経過して、12歳になったレイアです。
心源流拳法に通いつめて8年。フィギュア原型師歴も同じく8年。もう、立派な変態の仲間入りを果たしました。ワジマさんからは、今年いっぱいで指導する事が無くなると言われて寂しいです。
ワジマさんの事はおいといて、私は父の仕事の関係で家族揃ってヨークシンに来ております。無論、オークションは今現在開催中です。まさか、幻影旅団と関係ないイベントでここにこられたのは僥倖だ。
本日は、いつもの木彫りのフィギュアとはうって変わって時代の最先端を誇る「ねんどろいど」を30体程作って持ってきた。日頃のフィギュアづくりの合間にセコセコと作った物だが、出来栄えは自信がある。ジャパンで流行っているアニメや漫画のヒロインをモチーフにしたり、前世で見たことがあるモノを再現したりと様々な物を作ってきた。
と言うわけで、今日も商い頑張ります。
「じゃあ、お父様お母様。15時にホテル前で!! 行ってきます」
仕事を終えた両親を二人っきりにしてあげるという気遣いのできる息子って素晴らしいよね。本当は、子供一人物騒な場所に行かせるのも良くないと言われたのだが…これでもお父様より強いのだけど と言ったら、お父様が崩れ落ちた…ごめんねお父様。
ヨークシンの値札競売市にて。
ここは、誰でも好きに取引が出来る会場だ。もっとも、値段は付けないで規定時刻まで最高値を付けた人に売るというルールがあるけどね。
だけど、私の「ねんどろいど」の価値がどの程度か知る良い機会だなとも思う。一般人相手では、1個辺り300ジェニー位で売れればいいかな。いつもフィギュアをオークションにかけているサイトに出せば、良い値で買ってくれる固定客がいるので確実に儲かるが…それではつまらないからね。
という訳で、私はレジャーシートを広げて客を待つ。
一時間経過。
物珍しさに、何人かの目を引くが値段つかず。時間はまだまだあるから、本でも読みながら待つとしよう。
二時間経過。
言うまでもなく、誰も値段を付けてくれません。分かっていたさ、分かっていたさ。私の趣味が極めてごく一部の人間にしか通じないという事くらいね。でもさ…少しくらい夢を見てもいいじゃん。
あまりに暇だったので、近所の露店を見ようかなとも思ったが…荷物を置いたまま離れるなどこの世界ではタダで持って行って下さいと言っているも同義。
私も念能力が使えたら、”凝”で一攫千金大作戦とか出来たのだがな…と思いつつ、再び本を読む。
三時間経過。
「子供が一人で露店を開くなんて珍しいね。物騒な人が多いから危ないよ」
「そうなのですか。いやー、自分が作った作品が売れるか試したいなと好奇心でそこまで考えていませんでした」
私があまりに退屈そうで且つ客が来ないから、見るに見かねて隣で露店を出しているオジサンが話しかけてきてくれた。もっとも、オジサンの露店も客足はアレだけどね。
「変わった人形だが、なかなかいい腕じゃないか。折角だから、その人形一つとうちの値札のついてない商品を一つ交換しないかい?値札競売市に来て手ぶらじゃ帰りにくいだろう。まぁ、うちの商品は実家の倉庫から引っ張り出してきたガラクタばかりだがね」
オジサンが苦笑する。
「喜んで!! どれもこれも私が性を込めて作った作品達です。お好きな子を持って行ってください」
「ありがとう。では…この子を貰うよ」
どうやら、このオジサンはロリコンらしいな。迷わず、某白い悪魔の人形の白スク水verを取っていったよ。欲しいなら値段つけて買ってくれよ。今ならどれも値段ついてないのに…。
では、私も選ばせてもらいましょう。
「どれにしようかな…」
オジサンの露店の商品は、数こそあるが…その半分以上は値段が付けられていない。そして、一本の変わった形状のナイフに目が行った。最近流行りのデザインではなく、どこか古びたナイフだ。
・・・
・・
・
このナイフ…私の記憶が確かならば、ヨークシン編でゴンが見つけるハズのベンズナイフ!!
「オジサン、このナイフを貰っていいかな?」
「値札がついてないから構わんが…子供がナイフを持つのは、関心しないな」
ごもっともな意見だ。
「大丈夫ですよ。私こう見えて、趣味で木彫りを8年近くやっているので刃物の扱いは慣れています」
「そうか、なら気をつけるんだぞ」
ベンズナイフGetだぜ!!
きっと、良い切れ味なのだろうな…これを使ってフィギュア作りたいな。後、ハンター試験にも持参していこう。きっと、役に立つだろう。
四時間後。
結局、あの後も買い手がつかず時間切れだ。まぁ、売れはしなかったが物々交換でとてもいい品物が手に入ったのは幸運だ。
「じゃあ、オジサンまたねー」
「おぅ、気をつけるんだぞ 坊主」
タダ同然でベンズナイフをゲットしてすごく気分がいいです。オジサンには悪いけど、これが商売なのよね。
「あ…ナイフもったまま飛行機って乗れるのかな」
空港の金属チェックで当然引っかかり、両親に怒られたのは言うまでもない。
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「これも落札完了」
ワジマを送り付けてからというもの、数年でメキメキと腕を上げてきたな。おまけに、アニメや漫画のキャラだけでなくオリジナルキャラのフィギュアまで出し始めている。しかも、完成度が高い…まるで、完成された作品から取ってきたような感じがする程だ。
今回の新商品「ねんどろいど」も実に素晴らしい。
二頭身でありながら、そのキャラの個性を全く殺していない。むしろ、引き立たせているようにも感じる。
今回のオークションでは、全29体が即売付きで出されていた為、無論全て俺が落札した。
29体…なんだ、この中途半端な数は。
『ワジマ、レイアが作っている「ねんどろいど」という商品を知っているな?』
『存じ上げております。全部で30体作成し、ヨークシンの値札競売市で売り出したそうです。なんでも、一体も売れなかったそうですが…それを見かねて横の露店の方が持っていたナイフと交換したそうです。私もそのナイフを見せていただいたのですが…恐らくは、ベンズナイフかと』
ベンズナイフ…たしか、オヤジが趣味で集めている骨董品だったな。だが、そんなのどうでもいいんだよ。
俺にとって、大事なのはフィギュア!!
それにしても、値札競売市か…相手を見つけ出すのは不可能に近いな。まぁ、仕方ない。
依頼すれば、再度作らせる事は可能であろうが、それではファンとして邪道。俺の矜持に反する!! 作り手の支援はするが 過度な干渉はしない。
俺のクオリティだ。