3話
ヨークシンから更に2年が経過しました。そして、今日で満14歳になりました。言い換えれば、ハンター試験まで後2年というところまで来ていた。
ちなみに、お世話になったワジマさんは昨年実家に帰っていった。ろくに挨拶もできずに別れてしまったのは非常に悲しい。役目が終わったら即座に帰るとか、執事としては有能かもしれないが…人としては幾分かアレですよね。まぁ、執事の教育方針がかなり特殊な家だから理解はしているけどね。
ワジマさんの事は、置いておいて…
今日は、私の誕生日という事で両親が手作りのケーキまで用意して祝っていただいております。
「お誕生日おめでとう レイア」
「おめでとう レイア」
「ありがとう お父様、お母様」
こうして、家族で食事を楽しめるのは最高だ。やはり、こういう暖かい家庭を持ちたいよね…ピトーと一緒に。そんなわけで、今日一日はいつもの非日常を忘れて ただの子供に戻ります。
数時間後。
両親と楽しい時間をすごし部屋で電脳ネットを見てみると、一通のメールが来ている。とっても、嫌な予感がする。普通なら、フィギュア関連のメールであろうが、本日は、私の誕生日だ…そんな日にくるメールなど不幸のメールに間違いない。
恐る恐るメールの送信元を見てみると、案の定Milkyからだった。
大事なファンを悪く言うわけではないが、誕生日には見たくないネームであった。誕生日に、暗殺一家からメールを貰うってさ…なんだか、怖いじゃん。いつも、お前を見ているぞ的な意味でさ。
「えーと、なになに…」
セオリーの如く、挨拶から入り…誕生日に祝辞…作品に対する評価…次回作の予定の質問などなどが書かれている。そして最後に…こう書かれていた。
『オヤジ達にレイアの作品を熱く語ったら、家族の像を作ってもらおうという話になった。良い返事が期待している』
・・・
・・
・
ドクンドクン
冷汗は流れ、心拍数はかつてない程に高くなっている。
か、考えるのだ レイア!!
相手の気分を害さず且つこの場を乗り切る方法を…すぐに返事をする必要はないだろうが、どんなに遅くても一週間以内に返事をしなければ本当に命に関わる。
ポク ポク ポク チーーーン
ダメだーーー!!
一休さんスタイルで考えてはみたが何一つアイディアが出てこない。そもそも、ゾルディックの依頼を断るとか無理ゲーだろう。ハンター試験や学業があるから、お断りしますとか言った暁には、イルミに針でめった刺しにされそうだ。
諦めよう…人間諦めが肝心だと何処かで聞いた気がするしね。
私は、素直に快諾の返答を送った。
誕生日に死刑執行書にサインするような行為をする事になるなんて、私は世界一不幸な少年じゃないか。
恐らく、10人の大家族像となると・・・最低半年は帰れないのかな。家族にどう説明しよう。後、道場にも話をつけておかないとだめだよね。
二週間後。
絶対に行きたくないでござる!! どこぞのニート侍みたいなセリフを夜な夜な吐きつつ…とうとう、お迎えの日がやってきました。
快諾のメール送信後は、二週間後に迎えの者を寄こすからそれまでに身辺整理をしておけとの事だった。私が二年後のハンター試験受験の為に頑張っているのを知っていたのだろう…あちらから、道場に行けない為 代案として執事の方が指導をしてくれる事になりました。当然、像作成にあたり報酬までちゃんと用意してくれるとの事だ。
「相手先にご迷惑をおかけしないようにね」
「子供のうちは何事も経験だ、しっかりやってこい」
両親には、電脳ネットで知り合った家庭にホームステイと言って乗り切った。もろちん、裏を合わせる為に、色々とゾルディックの方にも協力いただいた。真実など告げられるはずもない…伝説の暗殺一家にお呼ばれしたので一年位戻る事が出来ませんなんて、どの口が言えるというのだ。
私に出来る事は、親に心配を掛けずに笑顔で家を出ていく…ただそれだけさ。
「もちろんですお父様、お母様。 では、いってきますね〜。お父様もお母様も体には気を付けてください。毎週必ずメールしますね〜」
子供らしく、元気に腕を振りながら家を出た。そして、家の目の前に止められている黒塗りの高級車へと足を運んだ。
バタン
運転席から懐かしい顔の人が出てきた。やはり、あなたがお迎えに来てくれましたか…さりげない心遣いなのだろう。
「お久しぶりです レイア様。私が、ご案内を務めさせていただきます」
「お久しぶりです ワジマさん。今日からよろしくお願いしますね」
神様…今だけは、貴方を信じたいです。どうか、生きて帰れますように。
一週間後、ドキア共和国のククルーマウンテンにて。
実家からココまでは存外遠く 道中ホテルに泊まりながら一週間かけてここまで来ました。なんと、ホテルは全てロイヤルスイートを用意してくれて最高でした。
ブルジョア万歳!!
と、馬鹿な事を考えているうちにゾルディック家の門…通称「黄泉への扉」まで来てしまった。
「す、すごく大きいです」
ゴクリ
「どうなさいましたレイア様?」
「ちょっと、持病の癪が…ところで、あの壁のような扉 開くのですか?」
少し無理がある返しだったが…まぁいいだろう。
「えぇ、開きますよ。ここからは、徒歩になりますので私は門番と話をつけてきます。しばしお待ちを」
そういって、ワジマさんは車を降りて門番の所へ行った。
確か、原作でも車が走れるような場所じゃなかったからね。もしかしたら、車が走れる隠し通路とかもあるかもしれないが、そんなルートを部外者である私の為に使うはずないしね。
それにしても、ヨークシンといいゾルディック家といい思わぬところで原作主人公一行が行く場所に行ったな。
なんの因果やら…。
「試してみようかな」
原作のゴン達一行が着た当初は開ける事が出来なかったこの扉をね。心源流拳法を10年、そして重石トレーニングを8年と原作組みと比べてかなり長い年月を鍛えている。
荷物を持って車を降り、扉の前まで着た。
キルアのように3の扉までは無理にしても、1の扉…出来る事ならば2の扉まで開けられるといいな。全身の筋肉をほぐすために、軽くストレッチをして扉に手を当てた。
ワジマさんもこちらに気がついたが、特に注意する事なく見守っている。
私がこの扉を開ける事ができないと思っているのだろうか。それとも、扉を開けてゾルディック家に正式な手順で入れると思っているのだろうか。
見せてあげましょう…10年間の成果を!!
「うぉおおおおおおおおお!!」
扉は、想像以上に重い!!
だが、この程度の門を開けられずしてどうする。将来相手取る事になるゴン、キルア…そして、何よりピトーを手に入れるのにこの程度の壁を開けられなくてどうする!!
力を振り絞れ!! 前へ進め!! この10年間が無駄でなかった事を証明しろ!!
「意地があんだよ!男の子にはっ!!」
ギィゴォオオーーーン
1の扉が鈍い音を響かせて、徐々に開いていった。
まさに、感動の瞬間である。原作のゴン達では、来た当初開ける事が出来なかった門をこの私が開ける事に成功したのだ。10年間、幼少期の楽しい期間の全てを犠牲にしたかいがあった言うものだ。
しかし、原作キャラ達は一ヶ月掛からずこの門を開けてしまったという事を後々思い出し、枕を濡らす事になるのであった。
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ゾルディック家に軟禁されて、早一年が経ちました。そして、先日15歳になりました。今でも、このコワモテな人達に囲まれて誕生日ケーキの蝋燭を吹き消したのは記憶に新しい。一体、なんの罰ゲームだよと言いたい位だ。
レイア用作業部屋にて。
私は、執事達が暮らしている屋敷で作業をしており、今では執事の皆さんとお茶をする程の仲になりました。赤の他人を本邸に住まわすのは危険だ等の問題だとか、色々と裏事情はありそうだけどね。
『拝啓
お父様、お母様元気にしておりますか? 私は、ホームステイ先の方と一緒に仲良くやっております。勿論、道場に通っていないからといって怠けてはいませんよ。むしろ、以前より激しいトレーニングを日夜しております。後、今年中には帰れそうなので、久しぶりにお母様の手料理が食べたいです。切実に…
PS
お土産いっぱい買って帰りますから、楽しみにしていてください。
敬具』
メール送信完了。
今週の生存報告が完了した。年が明けて作業完了の見通しが経ったが…本当に完成したら家に返してもらえるのかな。死体で家に帰るなんて嫌だよ。
既に像自体は完成し、残るは塗装のみといった現状だ。我ながら良い出来だと思う。シワや血管、髪の毛は勿論再現できるものは全て再現した。まさに、命懸けの作業だった。人間、命懸けとなると限界を超えられると言うのを実感した。
まるで、本人達がここにいるかの様な威圧感だ。
コンコン
「失礼いたします レイア様。そろそろ一息つかれませんか?」
「いつもありがとう ワジマさん」
見計らったかのようなタイミングで私を休憩に誘ってきてくれた。まるで、何処かでメール送信が終わるのを確認しているかのようだ。
「いつ見ても素晴らしいですな…ここ数年で更に腕を挙げられたのがよくわかります。これならば、旦那様達もご満足いただけるでしょう」
「ははは、そう言っていただけると作った方としても嬉しいよ。もっとも、出来栄えがいいのは当たり前だよ…命懸けだから」
「心中お察しいたします」
私の一言にワジマさんの表情が少し暗くなった。一応、責任は感じてくれているのね。
今でも鮮明に思い出せる…一年前のあの時の事を。
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「私がご案内できるのは、ここまでです。この扉の向こうに皆様がお揃いです。絶対に失礼の無いようにお願い致します。もし、ご機嫌を損ねるような事になれば命の保証はしかねます。ご武運をお祈り致します」
へ!?
本邸まで案内されて、いきなり死ぬかもしれないとか酷すぎる。事前に話をつけて最低限命の保証位してくれよ。
ドーーーーン
まるで、この先に大魔王が居座っていてもおかしくないような立派な扉の前で放置された。男は度胸だ。なるようになれ!!
扉に手を開けるべく手を掛けた。
あ…開かない!!
更に力を入れてみるが開かない。なるほど、試しの門並にきつい扉という事か。
「うぉおおおおおおおーーー!!」
早く、挨拶せねば一秒ごとに相手の機嫌が悪くなるかもしれない。だが…一向に扉はびくともしない。一体、どれだけ重い扉なのだ。
もしかして、引き戸か!!
古来より、押してもダメなら引いてみと諺があるしな。
では、さっそく…
「どぉぉぉおおおりゃーーーーーあああああ!!」
全力で引いてはみるが…びくともしない。こんな扉を毎日開閉するとは、ゾルディックは化け物か!! いや、化け物だったわ。
「あの〜、レイア様…その扉はスライド式です」
・・・
・・
・
そういう事は早く言ってよね!! 絶対に中で待っている人達に私のうめき声が聞こえたじゃないか。気を取り直して、扉を開けた。
その場所は、漫画でキルアとシルバが二人で親子の誓い?だっけな…そんなのをやっていた部屋であった。そして、部屋の中にはゾルディック家の人達が総集合していた。当然、キルアも居たがまるで興味がないようでこちらの顔すら見ない。ミルキとイルミを除いて、大体そのような反応だ。
イルミから感じるのは、恐怖…圧倒的恐怖!!
「………ッ」
まるで極寒の地に裸で居るかのような感覚に襲われた。一歩も動く事ができない…挨拶しようにも声すら発生出来ない。なぜなら、私が何かしらしたら死ぬ…そんな気がしたからだ。
「これイルミ、そんな殺気を立てるな。相手が今にも死にそうな顔になっているぞ」
「わかった。ただし、少しでも変な動きをしたら殺すよ」
無機質な瞳をしたイルミが私に警告をした。
一体、ゾルディック家の総力を前にして何か揉め事を起こせるような人物などこの世にいないだろう。
「孫が悪い事をしたな。楽にするといい」
ゾルディックの中で一番 話が通じそうなゼノが助けてくれた。
「はぁはぁ…助かりました ありがとうございます。改まして…レイアと申します。この度は、みなさまの像をお作りするという事でミルキ様よりご依頼を受けました。よろしく お願い致します」
無難に挨拶をした。何をするにも命懸けのこの場では、下手に長い話をするのも死に直結しかねない。早いところ、挨拶を終えてこの場を立ち去りたい…。
「で、俺達は何をすればいいのだ?」
シルバの渋い声が響いた。
対面するだけで、本能が逃げろと警告してくる。これが、世界最強の一角…本当に同じ人間なのかと疑問に思ってしまう。一体、どうやって鍛えればそこまでたどり着けるのだ。
胃に穴が空いてしまいそうだ。
「は、はい。皆様の寸法を図るために…」
トストストス
私の足元にイルミの針が飛んできた。
「…立ち上がって一回りしていただければ結構です。後は、私の方でデザイン致します。もし、ご希望のポーズ等があれば言っていただければその通りに作り上げます」
本当は、メジャーとか使ってじっくりと図りたいのだが、イルミから警告された。
大体、ゾルディック家の御婦人相手にそんな暴挙など出来るはずもない。その為、服の上から目視で計測する。私の程の変態になれば、例え服の上からであろうともスリーサイズなどを判断できる。
なんでも、変態という名の紳士になればこの程度常識らしいと電脳ネットで見た。私がよく見るサイトでも、この特技を身に付けている人物は数多いと聞く。
そして、永遠にも感じられる寸法の測定が終わった。今までの人生で一番集中した時間であったのは間違いないだろう。目に、脳に、記憶に全てを記憶させた。集中しすぎて、少々目眩がしてきたよ。
測定後に、キルアの母親とカルトからポーズというか…キルアと手を繋いだ像にしてくれといったささやかなご要望だ。無論、私は快諾しようとしたがキルアが恥ずかいから止めろと言っていたが…最終的に、カルトの泣き落しでキルアが折れた。
ここで私はとある疑問に気がついた。
確か、漫画のバスガイドは10人家族と言っていたが…何度数えても9人しかいない。何かしらの事情で席を外しているのだろうか…聞いてみたほうがいいかな。それとも、家庭の事情と言う奴なのかな…ワジマさんも「皆様がお揃いです」と言っていたからね。
他人の家庭事情に踏み込むのは止めておこう…なんだか死亡フラグな気がする。
「そうそう、最後に言い忘れるところだった…もし、くだらない像だったら殺すよ」
ゾクリ
「わ、分かっております。私もプロとしても誇りがあります。作るからには、皆様が満足するものを作ります。ですから、私からも一つお願いが…」
「言ってみていいよ」
「満足いく像を作ったら…生きて帰らせてください。私は、まだやるべき事があるのです」
こんなところで、まだ死ぬわけにはいかない。死ぬなら、嫁の胸の中でと固く誓っているのだから…こんな、むさ苦しいところで死ぬなんてゴメンだ。
という、本心を隠しつつ真剣な眼差しでイルミを見た。
「…好きにすれば、ただし外で家族の事しゃべったら殺すから」
そう言って、イルミが部屋を出ていった。それにつられて、他の者もご退場していった。
花畑が見えた…マジで!!
だが、生きて帰れる光が見えた。これが、”取引”に該当するかわからないが…家族全員の前で嘘を付くような事をする一家ではないからね。
さて、死ぬ気でやりますか…生き残る為に。
「無茶しやがって…。いいか、絶対死ぬなよ。お前には、まだまだフィギュアを作ってもらわないといけないんだからな。必要な物や欲しい物があったらなんでも言え、すぐに用意してやる」
パリパリ
ポテチを食べながら励ましてくれるミルキの優しさに泣きそうになった。
「私も死にたくありませんから…死力を尽くしますよ。ミルキ様」