10話
現在、ビスケと暮らして早二ヶ月…まさか、初の同棲相手がビスケだとは自分でもびっくりだ。見た目だけは美少女と同棲なのだが、何ら興奮もしないのは何故だろう。
ごめんねピトー…君にあげる初めて…奪われちゃった。
・・・
・・
・
と、冗談はこのくらいにして基本四大行を学習中のレイアです。
四大行とは、『纏(テン)』『絶(ゼツ)』『練(レン)』『発(ハツ)』のことである。そのそれぞれの特性は…まぁ、説明する必要は特にいらないだろう。
当然というべきか、無理やり目覚めさせられたのは言うまでもない。もちろん、オーラの垂れ流しで死にかけたよ…原作では自然体が一番とか言っていたが、世の中そんなに甘くはない。なぜなら、自然体が一番と知っていてもそれを実践できる人物はどれだけいると思う? まぁ、そんなわけでビスケに助けてもらい死ぬ寸前で命を取り留めました。
「集中しなさい。四大行が下手くそだと本当に死ぬわよ」
「師匠!! 集中しているのですが、纏が上手くできません」
念を覚えて一ヶ月以上経つのに、今だに纏が綺麗に収束しない。所々からオーラが漏れており、蛇口から水滴が落ちるかのようにオーラが漏れ漏れである。絶と練は、まぁ普通と言われた。発については、当分先になるだろう…。
念の応用については、まだ教わっていない。概要は知っているからやろうと思えば出来るだろうが、生憎沢山の事を一度に実践出来るほど優れていないのでね。
「そりゃ…あんたの才能が無いからだわさ。だけど、安心しなさい。死の危険が迫れば人間いやでも成長するだわさ」
死の危険って…主にその原因は、ビスケになるのだろうね。というか、この訓練マジで死ぬ!! どんな訓練かというと、纏を行なっている私にビスケが指弾を打ち込むという訓練だ。ビスケ曰く、纏がしっかりと出来ていれば問題なく防げる程度の威力らしい…誰を基準に問題ないと言っているか問いかけてみたい。
「ビスケ師匠、地面に穴が空く程の指弾だと冗談なしで纏の上からでも青痣になるのですが…」
「その程度問題ないだわさ。それに、毎回ちゃんと治療してあげているじゃない」
まぁ、確かに治療もしっかりしてくれている。全く、そういうところはしっかりしているんだよね。
それにしてもさ、美少女状態であの威力だろ。しかも、弾は空気だというのだから驚きだぜ。もし、元の姿に戻ったら戸愚呂並の指弾を放ってくるに違いないわ。
筋肉怖いわ…
「それじゃあ、逝くわよ」
「何処からでもOKです!! 戸愚呂(ビスケ)師匠!!…あっ」
ビスケと言ったつもりがトグロをいい間違ってしまった…テヘ。
「…いっぺん死んでみる?」
「それ、アニメがちが…」
その瞬間、ビスケ師匠がとてもいい笑顔で笑った。
ギリギリギリ
ビスケの指先に尋常でない力が込められている。そして、指が弾かれた。
バーーーン
知覚する事はできないが、恐らくあの状態でのフルパワーの指弾が発射されたのは火を見るより明らかだ。万が一、頭に当たれば私のガードの上からでも首から上が吹き飛んでしまうだろう。
し、死にたくない!! ここまで来て、死んでなるものか!!
集中しろ レイア!! ビスケの能力は、すでに知っている。その事から指弾が誘導弾のような能力でない事は明白。ならば、指弾は指を弾いた方向に直線に飛ぶはず!!
ビスケの指先は…えっ!!
いやいや、ビスケ師匠。いくら私がイケメンだからって私のハートを射るなんて乙女だな。それに、私にはピトーという将来を(勝手に)誓った人?がいるのに困ったな。
ははははは…って、冗談じゃねーーーーぞ。
なに笑顔で可愛い弟子を殺そうとしているのだよ。ちょっと、呼び名を間違えただけでしょう。誰でも人の名前を呼び間違える事はるんだから、その位は大目に見てよ。それに、四捨五入したら100歳なのだから、落ち着きを持って下さい。
くっそ!!
こうなったら、一か八か硬を用いてピンポイントで防ぐしか生き残る道がない!!
「死んでたまるかぁぁぁああああ」
心臓に全てのオーラを集中させた。無論、念の応用にあたる硬などやった事すらない。だが、必ず成功させてみせる。それが、漢ってもんだろ。
ズドォン
ベキバキバキ
ビスケの指弾が直撃したのだろう…着弾と同時に私の肋骨を数本持っていった。だが…賭けに成功した。支払った代償はとても大きい…私の骨が。
「がぁああっぁぁぁぁ…」
「よく防いだわね。少し、力加減を間違って殺したかと思っただわさ。とりあえず、おめでとう。…だけど今、私の年齢がどうとか不埒な事考えていたでしょ。短い付き合いだったわ。さよならだわさ」
あ…ビスケが笑顔のまま更に次弾を装填した。
まさか、ビスケに対してよからぬ事を考えたのを本能で察知したのか。
女の勘は、恐ろしいな。
ビスケの指を弾いた姿を見て、脳天に鈍い衝撃をくらい意識を失った。
数日後。
「知らない天井だ」
目覚めたら、大病院の個室に居た。
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魔法美容師(まじかるエステ)と桃色吐息(ピアノマッサージ)を多用して一日20時間体制で修行を行なっているのだが、今だに基礎が下手くそなのには絶望しただわさ。
「うーーん、基礎は下手くそなのになんで応用が上手なのかしらね…教えてもいないのに」
本人は、気づいていないようだが『周(シュウ)』と『凝(ギョウ)』は既に十分実践レベルだ。フィギュア造りをしている時の数時間、ずっとその二つを同時に行なっている。
今日も修業中に力加減を間違ってしまい、殺してしまったと思ったけど…教えてもいない『硬(コウ)』を使って凌いだのは驚いたわ。まぁ、基礎同様下手くそだったけどね。
本当に防御面は、壊滅的ね。
まぁ、馬鹿な子ほど可愛いと言うけど…それにしても若い子の肌っていいわよね。治療という名目で、若い子の肌を触りたい放題っていいわよね。
「うぅ〜〜ん」
「あら、寝言かしら? 何かしらお姉さんに言ってみなさい」
ほっぺをつついてみる。
ぷにぷに
「それが、ビスケ師匠の100%の…ムニャムニャ。筋肉怖い…」
何を言っているか分からないけど、どうやら本当に殺して欲しいみたいね。
「まずは、80%と行こうかしら」
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ビスケに病院送りにされてから更に二ヶ月後、私の念の腕前はあまり上昇していなかった。
理由は、簡単だ…『纏』がヘタクソな事と口が災いして病院で過ごす事が多かったからだ。
決してふざけているわけではないのだが…寝言まで制御出来るはずがない。目が覚めたら知らない天井だなんて展開が何度もあった。
だが…そんな私でも自慢できる事がある。
それは、念能力の応用を学び始めて少しした頃に『凝』と『周』に対してはビスケから褒められる程の腕前だと言う事だ。自覚はないのだが…趣味でやっていたフィギュア造りが関係しているのだろう。後、次点で『流』と『隠』もなかなかだと言われた。
だけど…その他の『纏』が絡む大部分の念能力の扱いについてはお粗末…または、壊滅的に才能が無いと言われた。だから、私の修行内容も得意な部分を伸ばす事に重点を置く事になった。
「はい、こ「六!!」…っち」
ふっふっふ
ビスケが不定期に指先に出す数字を言い当てるといった原作でもある『凝』の修行真っ最中です。また、『周』と『流』の修行も兼ねるからといってフィギュア造りをしながらの修行である。なんでも、適切なオーラ配分とナイフへの持続的且つ効率的な『周』を学ぶ為らしい。
こういってはなんだが…得意分野の修行は楽勝である。
「なんで、こっちが完全に数字を作る前にいいあてられるのかしらね」
「数字なんて特徴的な物は、半分くらい形を作れば自ずと答えは出てきます」
視線をビスケに向けたまま、フィギュア造りを着々と進める。それにしても修業中にフィギュア造りが出来るのは幸いだ。最近、何があったか知らないが私のアドレスに読みきれない程、大量のメールが来る。フィギュアを是非売ってくれといった内容ばかりだ。まぁ、そんな訳でお客様を蔑ろに出来ないので頑張って増産中だ。
「なるほどね…じゃあ、これ!!」
「東京特許ぎゃぎょふ…そんな早口言葉言えるか!!」
なんて大人げない事をしてくるのだ…数字から一気に難易度が上がったじゃないか。見えていても言い切れないよ コレ。
「はいはい、ずべこべ言わず、腕立て500回ね」
いつか覚えているよ このババァめ!!
ハッ!!
私は、今まで座っていた場所から後ろに飛び下がった。
ズズゥーーーン
今さっきまで私が座っていた場所に50%の姿をしたビスケによって地面がえぐられていた。なんという威力だ…これが、二つ星ハンターの…熟練ハンターの実力の一部だというのか。
「はっはははは…」
「ちっ! つくづく私を楽しませてくれる子だわさ。少し早いけど、実践向きの訓練を開始しましょう」
ゴキゴキ
筋肉質のビスケがストレッチしながら私に死の宣言をしてきた。冗談じゃないぞ!! ただですら防御系の念が壊滅的は私にとって50%ビスケの攻撃など当たれば重体確定じゃないか。
こういう時は、逃げるに限る!!
「小手調べからいくだわさ」
ビスケが地面から小石をいくつか手にもって私に投げてきた。無論、今までの空気を使った指弾とはケタ違いの威力であるのは言うまでもない。しかも、小石がオーラで包まれておりその威力を更に肥大化させている。
見までもないが『凝』を使い込められた念を見てみると私の『纏』をらくらく貫通するくらいなのが分かった。だが…私だってこういう場合の対策を考えていないわけではない!!
防御を捨ててすべての力を攻撃に移す。要するに『凝』『周』『流』をもってして相手の攻撃を相殺する!!極限まで集中しないとかなり厳しいが…自慢じゃないが集中力にはちょっと自信がある。
飛んでくる石に込められた念を正確に把握し、それを相殺できるだけの念をナイフに込める。また、軌道を外らせる攻撃は全てそらす。
パパパーン
「っ—————!!」
一発目の石をナイフで弾き、二発目の石をナイフの底でたたき落とし、三発目をナイフの側面部で受け止めた。防ぎきったのはいいが、ナイフを持っていた手が痺れた。
なんつーバカ力だ!!
「あんた…器用なのはいいけど、防御に回す念を0にする自殺行為だわさ。まぁ、いまのレベルの攻撃なら防げるみたいだしジャンジャン逝(・)くわよ」
ビスケが笑顔で小石を拾い始めた。
その日もレイアが知らない天井で目覚める事になるのだった。
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「くっくっく」
通帳を片手に思わず笑が溢れた。
「おめでとうございます。ミルキ様」
「あぁ、お前らもよくやった。スタッフ一同には、それなりの報償を用意してやれ」
まさか、『魔砲少女 本気(マジ)狩る なのは』と『軽怨(けいおん)』がここまでの利益をだすとは思ってもみなかった。おまけに、今も売上はウナギ登りだ。通帳の額は増えるわ、ファンサイトは増えるわ、もう最高だ。
やはり、レイアの才能は本物だな。今は、念能力の修行をしているようだが…終わり次第一度呼び寄せて労をねぎらってやらねばな。ついでに、新しい金のなる木(ネタ)を調達しよう。
ジャポンのアニメ専門誌で謎の企業として取り上げられている当たりも滑稽だ。まさか、殺し屋がアニメ会社を運営しているとは思いもしないだろう。
だが…アニメが売れて金も増えていいこと続きだが一つだけ懸念がある。
パソコンを立ち上げてフィギュアのオークションサイトを開いた。
「っち…また落札できなかったか」
アニメのスタッフロールにレイアの名前を載せてからというものオークションサイトのアクセス数が爆発的に増えて、俺ですら四回に一回程度しかレイアの作品を落札できない。
「レイア様に直接連絡をいたしましょうか?ミルキ様」
「…いや、それは俺の矜持に反する」
ミルキの紳士的な対応によりレイアの平和は守られるのであった。
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また、やってしまった。
これで、レイアに修行をつけて何度目だろうか…少なくとも片手で数えられない位だ。
「この子、不思議と殴りやすいのよね」
病室のベッドで寝ているレイアの顔を見ながら呟いた。
バカでアホでそのくせ才能が無く…いや、才能はあると言えばあるがバランスが悪過ぎる。念能力者同士の戦いで防御がダメな能力者何て一般人と大差ない。以前にこの子がA級犯罪者から逃げられる程度になりたいと言っていたが…現状を見る限り、一生かけても無理だろう。
しかし、絶対ともいいきれない。
基本がダメダメだったせいで『発』の修行が遅れているが、開発する能力次第では化ける可能性もある。最も、とてつもなく厳しい制約を付ければギリギリというレベルだろうが…。
・・・
・・
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「あ…この子って何系統なんだっけ?」
今更ながら、弟子の系統を調べていなかった気づき『あちゃー』といった感じで額に手を当てているビスケが居た。
「目が覚めたら水見式をやればいいか」