第19話
原作チームからの連絡を待ちながら、対爆弾魔チームからカードを善意で譲り受けたレイアです。
いや〜、『奇運のアレキサンドライト』とか優秀すぎる餌だな。入れ食いとはまさにこの事だよ。
この間集まった対爆弾魔チームを全員狩り終えて、今の私たちの手持ちカードはお互いに指定カード88枚だ。これに、『一坪の海岸線』が加わる予定なので実質89枚になる予定だ。
「あれから大分時間が経つがやはり連絡は無いですね。まぁ、レイザーに勝たないとカードがもらえないという汚いルールを知らない以上、8勝を挙げる算段が付けばお呼ばれされる事はありませんか」
「ならば、プランBという事になるな。そうなると、ゴレイヌの能力をどのような方法で潰すかに掛かっている。正面切って戦えば負ける事は無いが、逃げに徹されると厄介だ」
敵と味方の位置の入れ替えを自由に行える能力などかなりすごい。その気になれば分厚い鉄板で囲まれた脱出不可能な檻に相手を押し込む事だって出来るのだからね。
私がもしも、その能力を持っていたら何かのネタにあったようにゴリラ同士で交尾させている所を入れ替えてあげるとか精神的苦痛を与える行為をしてあげたいな。
「相手がスペルを唱える暇も無く堕としてみせます。一発じゃ不安なので4.5発連続使用すれば声すら出せないでしょう」
「……まぁ、そうだろうな。『賢者タイム』の連続など耐えられる男は居ないだろう。もしいたら、ある意味尊敬に値する」
自分自身が男である為、その辺はよーく分かる。
「まぁ、G・Iの話は置いておいて…まずは、久しぶりの肉を食べましょう。あっちに戻ったらしばらく肉が食べられない生活になるので」
「そうだな。好きなだけ食っていいぞ。一般人は滅多に味わえない特別な肉だ、有難く食え」
どうりて、見るからに高級感が溢れるお肉だと思った。グラムいくらなのか聞くのも怖いよ。
焼きあがったお肉を一枚食べてみると…
「う、旨い!!」
今まで食べていた肉は一体なんだったのだというくらいに旨い!! ちなみに、我が家は一応一般家庭である為、お肉は近くのスーパーが主流である。
「そうだろう そうだろう。なんせ、念能力を覚えさせた牛の肉だからな、旨味が何倍にも強化される」
商売の幅がミルキのせいで大分広がっていないか…。それにしても、食用の牛に念を覚えさせるとは…多分、一匹育てるまでに何体もの牛が死んだだろうな。それにしても、念で強化する発想はなかったわ。
「流石ミルキ様です。その発想はありませんでした。それにしても、最近随分と商売の幅が広がっていますね。近い将来、伝説の殺し屋ゾルディックから揺り籠から墓場まで安心てご提供する株式会社ゾルディックとかになりかねませんね」
あぁ…墓場はすでに提供しているね。
「それもありだな…まぁ、家を継ぐのはキルアか兄貴だから、それは無いな。万が一俺が継ぐ場合は流石に自重するさ」
それから、くだらない雑談をしながら美味しくお肉を頂きました。
こうして、伝説の殺し屋と対面して肉を焼く私ってある意味すごいなと思う。世界広しといえども、ゾルディックの人と焼き肉を食べたのって私が最初ではないだろうか。
ギネスブックに申請しようかな…『ゾルディックにホームステイして一番長く生き残った人』あたりで。
数日後、ゾルディックにあるレイアの工房にて。
適度にゲーム内に戻りつつカード情報を集めたり、ミルキに神字と爆弾や銃火器の使い方等を指導してもらっております。『記憶の兜』のおかげで捗りまくり!! 一度聞いた事を忘れないとか神過ぎるアイテムだ。ゲーム内でしか使えないのが残念だけどね。
「ほほぅ…今度の新作は、デカいな。等身大か?」
「そうなんですよ!! 実は、今度は今までにない試みをしてみようと思って色々と執事の方に材料の手配をお願いしたのです」
ミルキは、自室に籠る事が多いが…たまに、私のいる工房まで足を運んでくれる。私が何を作っているか気になっているようだ。
「あいつらなら好きに使え。必要な物はすべて用意させる………それにしても、なんだか見た事あるデザインな気がするのだが」
私のラフ画を見てミルキが思い出したかのように言ってきた。
「やっぱり、分かります?ヨークシンの地下オークションで戦ったマチって女旅団です。彼女、着やせするタイプですね」
「実在する人物のフィギュアか……まぁ、悪くないな。それにしても、なぜ服の上からでも正確なスリーサイズや服で見えない黒子の位置が分かる? それが一番気になるのは俺だけか?」
「……あれ?言われてみれば、そうですよね。なんで服の下まで見えたんだ」
ミルキに言われてみれば確かにそうだ。前にメンチのフィギュアを作った時もお尻のおできが見えたし、なぜだろう。もしかして、これが転生特典!!……なわけないよな。
「まさか、こんなところにリアルスケルトンメガネ持ちが居たとは…」
「ちょちょ!! ミルキ様、なんか爪が伸びて指先がおかしくなっていますよ!!」
ミルキの指先が肉体操作で指先をナイフのように鋭くしている。もちろん、とんでもない程のオーラを集中させている。
「大丈夫だ、痛みを感じる事は無い。替えの目などいくらでも用意してやる」
これは、やばい!! ミルキの目が久しぶりにマジだ。
こういう時は、やることは一つ!!
「『賢者タイム』『賢者タイム』『賢者タイム』!!」
今のミルキ様には、判断力が鈍っている。その心を落ち着かせるのにはこれが一番だ。確か、センリツも似たような事ができたよね。音楽で心を落ち着かせる的な行為がね。
「くぅぉっ!!」
ミルキがまるで生まれたての小鹿のようになった。膝をつかなかっただけ凄いといえよう。
ミルキがいつ持ち直すか分からなかった為、怒られる前に部屋を出た。
ミルキの熱が冷めるまで守衛さんの所に泊めてもらおう。
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「才能の無駄遣いここに極まるだな」
「そんな事ありませんよ ミルキ様」
今までのフィギュア…いや、これはもうドールの部類だろう。
球体関節機構を用いて関節部分をスムーズに動くようにし、世界一堅いと言われる木材で骨として用いている。その上、最先端の医療機関でしか使われていないシリコンや人工皮膚などを利用して本物の人間と同じ肌を再現している。触り心地は、はっきりって素晴らしい物だった。しかも、香水も流行り物だな。
近くで見ても人間そっくりだな
ドクンドクン…
「なんか、心臓も動いているような気がするんだが俺の気のせいかレイア?」
「おぉ、流石ミルキ様!! そこにもう気づかれるなんてすばらしい!! 実は、より現実味を出す為に人工心臓を付けているんだお」
「アホだろう。常識的に考えて」
流石の俺も脱帽だ。
この分野においてはまさに天才的技術の持ち主だと思うが…アホなのが残念なところだ。まぁ、アホは嫌いじゃないがな。
それにしても、俺にこの人形をどうしろといいたいんだ。確かに、フィギュアを集めるのは趣味だぞ。等身大も問題ない。肌がリアルなのも全然OK、むしろ歓迎だ……あれ、何も問題なくないか。
「えぇ〜、折角作ったのにいらいないんですか…ここ数年で一番の出来栄えだと思うんですけど。仕方ない…今なら、スパッツ/スク水/ブルマ/メイド/セーラー服/ブレザー/袴/修道服もセットでお付けしまいます!! しかも、今回だけの特別サービス このエロティックな下着一式までお付けしまいます!!」
「でも、お高いんでしょう?」
「それがなんと!! たったの20万ジェニーでご提供させていただきます!!」
「買った!!」
気が付けば、懐から札束を取り出してレイアに渡していた。
人間の性って怖いよね…本当に。
後日、レイアの提案でノブナガにナイフを折られた仕返しをしていなかったという事だったので、それにフィギュアを利用する事になった。ノブナガとマチが同じベッドで寝ている写真を撮ってネット上に流すのだ。もちろん、ノブナガもレイアお手製の人形だ。そして、写真の隅に強力な睡眠薬の瓶をあえて写るようにしておくといったアイディアだ。
仲間割れ狙いとは、外道だな。
別件だが、フィギュアの服から下着に至るまで全てレイアの手作りだと知った時 俺の中でレイアの変態度が一段階上へと上がった。無論、この件が無くともTOPを独走中だ。
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灯台の頂上で美しい夜空と心地よい夜風に打たれつつ、鯖缶とおにぎりを食べているレイアです。
飯自体は旨いんだけど、潮風というのはどうも体にべた付く感じがして飯が不味くなる感じがする。まぁ、贅沢言っていられないけどね。
「レイザーとやらは、なかなか強いな。あの中で正面から戦えるとなればヒソカとビスケ位だな」
「そうですね…今のキルア様では勝てないですね。潜在的な才能でいえばレイザーを上回っておりますけど、念能力を使った実践が圧倒的に不足しております」
念なしでもおそらくはレイザーが勝つだろう。いくらキルアが暗殺一家のエリートと言え、相手はキルアが生まれるより前から念を知り、体を鍛え上げている脳筋だ。早々、差は埋まらん。
「キルにはいい経験になるさ。まぁ、その苦労した成果を丸々横取りする俺らは差し詰め子悪党といった所だろうな」
「まぁ、ゲームの攻略法なんて色々ありますからね。このゲームでは、他人のカードを奪う事を推奨している節もあるから別に悪じゃないですよ。ただ、『爆弾魔』に『一坪の海岸線』の情報を流してここの座標を監視させている辺りは少しあくどいかなと」
私とミルキは、『一坪の海岸線』に化けるNPCを拉致して原作組が上がって来る灯台の頂上にいる。これがどういう事かというと、原作組が苦労してレイザーを倒して手に入れるはずのカードを先に奪いとる作戦だ。このカードの入手条件は、レイザーに勝利とNPCを灯台の頂上に連れてくるという二点だ。その為、既にNPCを灯台に連れてくるという条件は満たしており、後はレイザーが敗北するのを待つばかり。
そして、面倒な『爆弾魔』のお相手も原作組に引き受けてもらおうという一石二鳥の作戦だ。『爆弾魔』は、状況から考えてゴンか髭が『一坪の海岸線』を持っていると考える。ゴンと髭は持ってないと言い張るだろうが、そんな言い訳が通る連中でもない。
その為に、現実世界に帰りたいプレイヤーを使って『爆弾魔』と連絡を取るなど面倒な手順まで踏んだのだ。
ドゥーーーーーン
大砲が放たれるような音が鳴り響いた。
「どうやら、ゴンが本気になったようですね」
「キルを砲台代わりにしたあのやり方か…気に食わんな」
「まぁ、お気持ちはわかりますが抑えてください。折角、誰にも気づかれずにここに潜伏しているんですから殺気なんて漏らしたらレイザーや『爆弾魔』に気づかれます。そうなったら、標的が我々になってしまいます」
「……改めて考えたら、俺が全殺しにしても問題なくないか?」
・・・
・・
・
ミルキの実力は、ビスケと同等と考えて問題ないだろう。おまけに、念能力はビスケの補助タイプと違いガチガチの戦闘向け。真っ向勝負では、ミルキが有利だろう。その事を考慮してミルキが『爆弾魔』の三人を同時に相手にしたとして……あれ?実は楽勝に勝つんじゃない。
「————ミルキ様が全殺しにしちゃいます?」
「いや、俺の信念は最小限の努力で最大の結果を得る事だからやらん。むしろ、働いたら負けかなと思っている位だから」
NEETの鏡のような存在だな…まぁ、それを言えるだけの金・力・権力など全て揃えている辺りがすげーよ。
「それでこそミルキ様!!」
「褒めても何も出ないぞ」
はっはっはっはっは
原作組が半ば命がけの死闘を繰り広げている最中、バカな会話をしている二人がここにいた。
十数分後。
「さっきから、気になっていたんだがその首から下にかけて全身包帯をしているのは新手のファッションか?」
「いくら私が変態でもそんなファッションはしませんよ。包帯をしているのは、今開発中の念能力に関係しています。『賢者タイム』だけでは、ちょっと達成ができない事がありまして…その為に、新しい能力を開発中です」
ミルキの顔が微笑んでいる…正直、えらくキモイ。笑みが薄気味悪すぎて引くわ。
そして、急に真顔になった。
「当然、この間の人形が人間のように動く能力なのだろうな?」
「この間ミルキ様専用に作った等身大のアレの事ですか?」
「それ以外に何があるんだ?」
何があるのだと言われても…ミルキから只ならぬプレッシャーを感じる。回答を間違えれば、半殺しにされるような気がするが、嘘をついても仕方ないよね。
「えーーっと、今作っている能力は残念ながらミルキ様が思っているような物ではないです」
「な…なんだと!! あれほどの技術を持ちながら、それを活用しないとか…才能の無駄遣いにも程があるだろう。常識的に考えて」
「ほめて頂けるのは本当に嬉しいのですが、どうしても譲れない物があるんです。確かに、人形を操作する念にすれば今より強くなれるかもしれません。ですが、それだと私の目的が達成できないのです」
念のメモリーや才能など様々な事を考慮しても作れる能力は後一つだろう。仮に複数の能力を作ったとしても人が持つメモリーの上限の関係から考えて大した能力にならないのは明白。それに、その念能力を研磨する時間がないからね。
「極めて残念だが…こればかりは仕方ない。人に強要されて作った能力など使い物にならないからな。それで、一体どんな能力を作っているんだ?同じ操作系だからアドバイス程度ならしてやる。ついでに助力が必要ならいつでも言え、どんなものでも揃えてやる」
ミルキがため息を付きながら助力の申し出をしてくれた。それにしても、凹みっぷりは半端無い。そんなに人形が動く能力を期待していたのか・・・まぁ、私もピトーを嫁にするという目的が無ければそっちに走っていただろうな。
「操作系らしく相手を操作する能力にしようと決めているのです。そして、相手を生涯縛る!! そういった能力にするつもりなんです。」
「分からんでもないが無理だな。他人を操作する能力というのは基本的に何かしらの前提条件を付加する必要がある。知っての通り、某旅団の携帯男は相手にアンテナを指すという行為を必要としている。オーラの消費量も馬鹿にならん。おまけに、その能力が永続的に続けるとなると不可能に近い」
私のオーラ総力は、確かに決して多くは無い。『賢者タイム』を連発しているからオーラ総量は多く見られるが・・・実は違うのだ。『賢者タイム』は、馬鹿みたいに効率がいいだけだ。ミルキも当然、その事を知っている。
だけど、そんな事分からずに能力を開発しているレイアではない!!
「ふっふっふ・・・人間命がけになれば出来ない事なんて無いんですよ」
まぁ、掛け値なしの命がけだけどね。
この能力を使う事を考えると今からでもワクテカが止まらないよ。
ニヤニヤ
「———薄気味悪い笑みを漏らすな。それで、怪我と能力はどういう関係があるんだ?」
「ミルキ様のご存知の通り、操作系の能力者が最も能力を発揮しやすいのは能力者の身近な物や思い入れのある品物だというのは念能力の常識ですよね」
「そうだな。レイアの場合はフィギュア、次点でベンズナイフと言った所か」
うーーん、ミルキならきっと分かると思ったのだけど残念だ。案外盲点なのかな…
「残念ながらハズレです。もっと身近な念能力の材料になりうる物があるじゃありませんか……」
「分からんな、回答は何だ?」
フィギュアやベンズナイフなど人生の中で付き合った年数的には長いほうだ。しかし、それよりも身近で且つこの世に生を受けたときから付き合っているものがあるではありませんか。
私は、手に巻いている包帯を解いてミルキに見せた。
ミルキに見せた腕は、アルビノの為本来真っ白であるはずの腕が真っ赤に染まっている。血が固まり瘡蓋(かさぶた)になっている所や血が滲み出ている所や膿がでている所もあり自分で見ても見るに耐えない状況だ。
「人体…それこそが操作系の材料として最適。この世に生れ落ちた時からの付き合いがあるこの体こそ価値がある」
ミルキも私の考えに感服して開いた口が塞がらない様だ。
「———その為に、生皮や爪を剥いだのか?しかも全身の?」
「勿論」
なんかミルキの目がこいつ完全にイちゃってるよといった感じになっている。
拷問が日常茶飯事に行われるゾルディックならば理解があると思っていたが、この程度の事でミルキがそんな目を私に向けてくるのはちょっと予想外。
「———一一体どんな制約をつけている? いや、つける予定だ?」
「まだ、明確には定めていませんが。対象者は生涯一人。この能力で相手の操作に失敗した場合は私が絶命します。また、能力開発から二年以内に使わない場合は私が絶命します。成功した場合には、この念能力を失い使える能力が『賢者タイム』だけになります」
生涯一人と制約を欠けている次点で成功失敗に関わらず能力を失うのは当然だがね。ちなみに失うというのは念のメモリーごとだ。仮に誰かの念能力でこの能力をなかった事にしても失ったメモリーは戻らないという事だ。
「利用期間、対象、命か…まだ、足りんな。それだけでは、相手を生涯縛れない」
「その為に、こんなものを用意しています!! 正真正銘 私の血肉の結晶!!」
取り出したのは、たった一枚の紙切れ。勿論、ただの紙切れではない。私の皮膚と爪を溶かして紙状に伸ばし乾燥させる事で紙として代用し、そして神字を血で刻み込み、血で赤く染めた髪の毛で刺繍を編みこんだ。無論、どの工程にも自分の限界まで念を込めた。ちなみに、神字を書く際には以前にイルミから貰った異様に念が籠っていた針を使わせてもらった。無論、貯めていたオーラもしっかり活用させてもらったよ。
そして、完成したのが契約書だ。
「なるほど…相手にサインをさせる事で契約成立というわけか」
「その通り!! しかも、この契約で大事な事は相手が自発的にサインをする事が前提としています。要するに誰かに操作させてサインさせたり、騙してサインさせるといった行為は全て契約不成立と判断される仕様です」
「レイアがやりたい事がだんだん見えてきたな。だが、契約内容を読む限り『その身体、髪一本、血の一滴に至るまで、その穢れなく無垢な魂、汝のすべてを我に差し出せ』と書いてあるが・・・誰がこんな条件承諾するんだ? 相手にこれだけの条件を突き出すのに対してレイアが差し出す物が何も書いていないぞ」
「それは相手に決めてもらいます。ちなみに相手が出した条件を破ったり、条件を満たせない場合は契約不成立とみなされて私が死にます」
Fate風に言えばセルフギアススクロールといった所だろう。
「は、白紙の契約書だぞ!!」
「無論、それがどういう意味か理解しています。しかし、念能力の基本はハイリスクハイリターン」
その位のリスクなくして、世界最高の念能力者を上回る実力を持っているピトーを手に入れるなどありえない。
………
……
…
「相変わらずいい意味でイカれてるな。だが、それがイイ。興味本位に聞くが…誰に使うつもりだ?」
「もうすぐ、この世に生を受けるであろう。私の嫁(・)に」
「…親父達に頼んでいい医者を紹介してやるから、とりあえず診察を受けてこい。ゲームの事は心配するな。俺が二週クリアしてやるから安心して休め。気付いてやれなくてすまなかった」
そう言ってミルキが私の肩に手を置いた。
ちょ!!
ミルキの目が私を哀れんで見ている。
なにやらとてつもない誤解を受けている気がするのは気のせいだろうか…いや、あの目は完全に誤解している。きっと、「まだ、生まれてもいない奴の人生を生涯縛るなんてどんだけハイレベルの変態なのだよ。その為に、自分の命を掛けた能力まで作るとかイかれてやがる」といった感じに思っているに間違いない。
ここは、誤解を説いておく必要がありそうだ。
「ま、待ってくださいミルキ様!! 言いたい事はなんとなく分かりますけど、とてつもなく誤解しています!! 本当に生まれてくるんです。いや、もうマジで!! 」
「大丈夫だ、分かっている。安心しろ。俺はお前の事は信じているぞ」
ミルキ様が慣れた手つきで携帯電話を操作してメールを打っている。何を打っているかまでは見えないが…操作する手つきから「医者」と打ち込んでいるのが確認できた。
今まで様々な面でミルキの信頼を得てきたと思ったが・・・まさか、私の言う事を信じてもらえないとはショッキングだ。
ここは、なんとしても誤解を解く!!
「いやいやいや、そんな憐れむような目で見られても全く説得力ありませんよ。聞いてくださいよ。一年以内にこの世に猫耳の女の子がこの世に生まれてくるんですよ」
「うんうん、一年以内ね・・・という事は、相手は一歳という事になるのか。とんでもないレベルの変態だと思っていたがココまでとは、恐れ入った。———あれ?・・・一歳の相手にどうやってその契約書にサインをさせるんだ?条件云々以前に会話が成立しないだろう?」
「大丈夫です。彼女は、喋れますし見た目は私と同年代位。おまけに超強いんですよ。もう、惚れちゃうくらいに———いや、もう惚れていますけど」
合法ロリならず違法ロリである。…いや、この場合はただのロリコンという事になるのだろうか。いや、それは無いよね。だって、キメラアントに人間が考えた法が適用されるか定かでないからさ。アウトに近いグレーゾーンといったところだろう。
「未来に猫耳少女がこの世に生れ落ちて、一歳前後の年齢にもかかわらずレイアと同年代位に見える…そして、会ってもいないのに惚れていると」
「そうですそうです」
「それでいて、超強いと…具体的にはどの位だ?」
「ハンター協会会長のネテロを上回るくらい」
「はっはっは、確かにそれほどの相手ならば馬鹿げていると思えるくらいに制約を架す必要があるな…分かるぞ 分かっているぞ」
「いや〜、良かった理解してもらえて」
ミルキが顎に手を当てウンウンと顔を動かしている。
やはり、誰であろうと話し合えば分かってもらえるのだ。
「そうか、嫁を連れて帰って来られたら飯くらい奢ってやるぞ。だけど、その前にゲームが終わったらちょっとだけ時間と取れよ」
「その位お安い御用ですよ。ミルキ様も約束守ってくださいよ」
ミルキと話を終えた時、NPCがなにやらモグモグと独り言をしゃべり始めた。どうやら、ゴン達がレイザーに勝利したようだ。ゴン達がこの灯台に来るのが確か夜明けだったはず…今から大体30分位余裕がある。
私は、包帯を巻きなおして拉致ってきたNPCを海が見える窓辺に持っていった。これで全ての条件が揃った。
「キルア様には、悪いけど…これってゲームなのよね」
「あぁ、全く持ってその通り。キルには世の中の理不尽さを知ってもらういい機会にもなるだろう。カードのコピーするのも忘れるなよ」
「もちのロンです」
ポン!!
NPCがカードに化けた。
すかさずカードを拾い複製で増産し、お互いの指定ポケットに収納した。
SSSランクのカードが労力0で手に入るなんて、考えようによってはヌルゲーだ。
「では、爆弾魔のお相手は引き続きキルア様達にお任せしましょう」
「そうだな」
そして、私とミルキはお互い一枚のカードを手にして呪文を唱えた。
「「『離脱(リーブ)』!!」」
『爆弾魔』に見つかるのも、万が一ゴンたちが軽傷で早くこちらにきて鉢合わせになるのも面倒なので早々にゲームから退散だ。
後は、『爆弾魔』とゴン達が本格的に争う準備をしている最中、ゴレイヌを狙う準備を進めるとしよう。
ちなみに…ゲームクリア後、ミルキに拘束されて病院で精密検査を受けさせられる未来が待っているのは言うまでも無い。信じて貰えていると思ったのに信じてくれていなかったなんて酷いと思うレイアが未来にいるのであった。