20話
『一坪の海岸線』を手に入れた翌日に、ゲームの外でキルアからミルキへ電話が掛かってきた。
内容は言うまでも無く『一坪の海岸線』絡みの案件だ。完全に私達が犯人だと決め付けてくる辺りが実に鋭い。まぁ、実質あのゲームを攻略できそうなチームを考えてみればおのずと答えは出るだろうけどね。
筆頭は、爆弾魔組。次点で髭組。そして、原作組と救世主組と続くのである。当然、その中で爆弾魔組と髭組と原作組が除外されれば答えは一つと言うことだ。
普通のゲームならば、もう一度同じイベントをクリアしたらと言えばいいのだがカード上限値が設けられている仕様上それは無意味。また、主要メンバーが負傷している状態で再度レイザーに挑むのはナンセンスだ。再戦したとしてもレイザーが一度見た能力については対策を講じてくるだろう。
「当然というべきですか、交渉を持ちかけられましたね」
「ゲームクリアを目指す以上、当然の流れだ。キルが交渉を持ちかけてきたという事は嘘偽りが無く安全に取引ができるが…対応はどうする? 本来ならば、魅力的な取引でもあるのだが……将来的に、髭のカードがゴレイヌにカードが渡る展開は分かっている。その為の準備もほぼ万全だ。わざわざ、取引に応じる必要もないがどう考えている?」
実に迷いどころだ。
確かにミルキの言う通り、今取引に応じずにゴレイヌから奪えばそれでいい事なのだ。しかし、私達がほぼ独占状態のカードであろうがあいつらは主人公補正で手に入れてしまうだろう。どういった手段かまではこちらの想定できないが、この世界は主人公を中心に回っているはずだからな…。
・・・
・・
・
「その取引に応じましょう ミルキ様。取引条件は、『爆弾魔』が独占しているカードとSSSランクのカードを除いて私達が持っていないカードを2枚ずつという条件でね」
決して相手にとっても悪い条件ではないはずだ。
「なぜ、SSSランクを除く必要がある?」
「特に理由はありませんが…しいて言えば、SSSランクのカードまで奪ってしまうと相手は自分たちより先に私達がクリアしてしまうのではないかと警戒してしまうじゃありませんか。そのせいで、標的が我々に変わる可能性も否定できません」
「それもそうだな。どの道、最後に笑うのは私達には変わらないからな。キルには、条件を伝えて取引に応じるか確認しておこう」
ミルキが携帯を取り出してキルアに連絡を取った。流石にこちらの条件が条件だけに髭にも確認するとの事で返事待ちとなった。
翌日。
正面には、ゴン・キルア・ビスケの三人がいる。そして、そのはるか後方に髭チームが揃っている。
「お怪我の具合はどうですかキルア様」
「かなり痛いけど…今は、そんな事より兄貴とアンタの顔をぶん殴りたくてうずうずしているよ」
キルアを筆頭に何やら相手側から冷たい視線を感じるのは気のせいだろうか?
「キルア様もビスケ師匠もそんな虫けらを見るような目で私達を見ないでください。私達は、このゲーム内で正当な方法でカードを手に入れただけですよ。自分達が取り損ねたからって私達を恨むのはお門違いです」
「一理あるだわさ。でもね…人間分かっていても許せない事ってあるんだわさ。弟子じゃなかったら、出会い頭に本気のレバーブローを食らわせていたところだわさ」
ビスケが頭の血管をピクピクさせてシャドウボクシングをしている。正直いって、めちゃくちゃこえぇーーーー。だって、パンチの速度が肉眼で捉えきれないほど早いんだよ!! あんなので殴られたら私の体を貫通するわ。
「お互い言いたいこともあるだろうが…さっさと、取引を行わせてもらおう。私もレイアも何かと忙しい身分でな。分かっていると思うが、こちらが提供するのは『一坪の海岸線』の複製品だ。カードの効果を無効化にするような装備は外しておけ」
「ったく、分かったよ。こっちのカードは…そっちが指定したカード各二枚ずつ。後、事前に言っておいたが、『闇のヒスイ』は入ってないからな」
そのくらい許容範囲だ。『爆弾魔』は、どうせ後一か月程度でこのゲームをドロップアウトする事は分かっている。ゲイン待ちをしていればいいだけだから、何も問題ない。
お互いにカードを確認し、無事に交換を終えた。無論、キルアにカードを渡して即座に『一坪の海岸線』を複製して指定カードポケットにしまった。
「ねぇねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
ゴンが私達に話かけてきた。
ミルキは、面倒だからお前が対応しろと目で言っている。
「あぁ、俺もアニキに聞きたい事…というかちょっと頼みたい事があるんだけど」
私がゴンに捕まると同時にミルキもキルアに捕まった。おそらく、キルアのヨーヨー作成に関する件だろう。
まぁ、ミルキの事はほっておいてとりあえずゴンの話を聞いてあげるかな。
それにしても、この子まぶしいよね。私達がカードを反則スレスレの手で奪ったというのに目が輝いているんだよ。本当に純粋な子だなと思う。これが、近い将来 敵になると思うとゾっとするよ。
「何が聞きたいんだい?ゴン・フリークス」
「どうやって、『一坪の海岸線』の入手方法を手に入れたの?」
もしかして、私達が最初のレイザー戦メンバーを拷問の末に情報を聞き出したのと勘違いしているのだろうか…万が一そうだとするならばお門違いもいいところだ。
最初から知っている情報を聞き出すのに拷問などする必要はない。まぁ、カードを善意で分けてもらったことはあったけどね。
「こっちには、ある情報源があってね。それを使ったまでだよ」
「情報源ってどんな?」
それで教えたらダメでしょう。純粋な興味からだろうけど、おじさんはそこまで親切じゃないよ。
「じゃぁ、ヒントをあげるよ。このゲーム、グリードアイランドって名前はね…製作者の名前を一文字ずつ使った物なんだよ。君のお父さんの文字も使われているでしょう」
「ちょっと、なんであんたがそんな事しっているだわさ!!」
原作組や製作者位しか知らない情報を喋ってみたら、面白い位反応してくれた。うまくいえば、製作者と私達に繋がりがあると思ってくれるだろう。そうでなくても、色々と勝手に勘違いしてくれる事間違いなし。
「しゃべりすぎた レイア」
「あ、ミルキ様。もうご用事は終わりました?では、外に帰りましょうか。どうせ、残るカードは『爆弾魔』と髭組が持っていますからね。」
「そうだな。俺の用事もここじゃ無理だ」
ビスケとゴンは、まだ私から情報を聞き出したかったようだが華麗にスルーをして『離脱』で外へ戻った。
さて、原作組が大詰めに差し掛かっているように我々も大詰めに差し掛かっている。無論、他のチームはまだその事には気づいていないだろう。なんせ、私達が独占しているカードは無いのだからね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
旅団後方支援担当のシャルナークです。
実は、先日団長が念を封じられてから団員内での揉め事など沢山あったけど最近は除念の目途が立ってかなり雰囲気が良くなったこの時期にとんでもない物を見つけてしまった。
正直、誰に相談したら良いかすら分からない。
というか…これはマズいよ…マズ過ぎるって!!
何時ものように電脳ネットで情報収集に勤しむ中でとんでもない情報を見つけてしまった。電脳ネットによくある投稿サイトにそれはあった。俗にいう大人の掲示板でカップルが様々な写真をアップロードして他人の意見を聞いたりするそういうサイトだ。
そして、誰かが投稿した一枚の画像を見ている。
その写真には、男女のカップルがホテルで事を終えた後の画像である。この掲示板の性質的に珍しくもない。画面端に移っている睡眠薬や大人の器具は別段問題ではないのだ。よくある事だ。
ただし…そこに写っているのが見知った人物でない限りだ。
「これって…どうみてもノブナガとマチだよね」
最初は、何かの冗談かと思った。あらゆる手を尽くして画像が作り物でないか調べ上げたが…どうにも本物のようだ。どこかのマフィアが死んでいる事になっている旅団員に汚名を着せる為にやったかと思ったが違うようだ。
確かに、ウボォーが死んでから何かと沈んでいるノブナガをマチが少しだけ気遣っている様子はあった。だけど、それがいきなりここまでの事に発展するのだろうか…はっきり言ってあり得ないと思っている。
そもそも、マチは団長にゾッコンだ。いくらウボォーが亡くなって沈んでいるノブナガの為にそこまでするはずはない。それに、画面端に写っている睡眠薬ってクジラでも眠らす事ができると言われている強力な物だ。
よって導き出さ答えは……
「こういう時にパクノダが居たらな…はぁ〜」
真偽は定かであれ、裏を取っておく必要はありそうかな。
翌日。
G・Iでの除念士の捜索と並行して二人の動向を見張ってみたが…いつもと変わらなかった。別に恋人みたいな様子もなく、ただの仲間と言った感じだ。
と思っていたらノブナガが動いた!!
「マチ、この間美味い料理を出す店を見つけてな 良かったどうだ?」
「なんでアンタとそんなところ行かないといけないのよ」
普段通りだな。そもそも、マチが団長以外の誘いに乗るはずがない。
「まぁ、そういうなってこの間世話になった礼の意味を込めてな。代金は、俺が持つ」
「———まぁ、それならいっか。不味かったら殺すわよ」
・・・
・・
・
えっ!!
ちょ、ちょっとまって!!
マチがノブナガと二人っきりの食事に同意した!?
それに、この間世話になったってナニ!? どういった意味で世話になったのかkwsk説明してくれ。というか、他の連中もいる中で誘っているのにこの件で反応しているのが自分だけだ。
ど、どういうことだ。
そうして、マチとノブナガは何も無かったかのように部屋を出て行った。
「…あの二人って付き合ってるの?」
主に、物理的に…
部屋に残っているファイタンとシズクに声を掛けてみた。
「興味ないネ」
「さぁ」
質問する相手を間違ったようだ。そもそも、団員同士の関係が希薄である為 こういった事柄を話せる団員など団長を除けばマチ位なものだ。だけど、マチに「ノブナガと付き合ってるの?」なんて聞けるはずもない。
そんな事をしたらマチに拷問された挙句に例の画像を見せる事になるだろう。万が一、本当に付き合っていたとしても旅団内が荒れる事は間違いないだろう…流石に恋人のあわれもない写真を全世界にばら撒くのはどうかと思うよ。だが、最悪なのは二人が付き合ってない場合だ…旅団同士のマジキレはご法度だけど、流石にコインでどうこうなる問題じゃない気がする。
数時間後、とある料亭にて。
二人がアジトを出てから、尾行をしてきたけどどうやら本当に食事のようで安心した。二人が旨そうな飯を食う最中、カロリーメイトで栄養補給をしつつ陰ながら監視を続けている。
「なんで、こんな事しないといけないんだ」
思わず口に出してしまったが、まさにその通りだと思った。二人の関係が分かった所で口を出せるはずもないのだからそもそも無視していれば良かったと後悔した。
そして、二人が料亭をでて次の店へと移動した。
更に数時間後。
一体、何軒の店を梯子にするんだ。
既に最初の店から5件目になる。店を移動するごとにマチも段々と酒が回ってきたのだろうか少し顔が赤くなっているのが分かる。対するノブナガは、特に酔った様子もない。
まぁ、ウボォーが酒豪だったからね…それに付き合わされていたノブナガも相当な物なのだろう。
しかし、店を移動するごとにピンク色のネオンが沢山ある地域に近づいているのは偶然なのだろうか…そうだよね ノブナガ。
そして、六件目に移動中していると思われるノブナガとマチを付けている時に背後から声を掛けられた
「よぉ!! シャルナーク。奇遇だなこんなところで会うなんて」
「あぁ、フィンクスか。ちょっと、野暮用で……」
「野暮用?手伝ってやろうか?」
「——手伝ってもほしいのは山々なんだけど…そんな大したことじゃないから俺一人で十分」
正直、誰かを巻き込みたい気持ちは重々あるが…旅団員の関係がギスギスしかねないこの問題はあまり広めるべきではないだろう。最悪、俺の胸の内に留めておけばいいだけだからね。
「そうか、なら帰るわ」
フィンクスを見送り、再び二人を尾行しようと思ったが…それは不可能となっていた。
気配が完全に消えている…今までも尾行していた時は、そんな様子など無かったけどまさかこのタイミングで気配を消されるなんて…気づかれた!?
「いいや、まだそんなに遠くには行っていないはずだ!!」
こうして夜通し町中を探し回る事になった。
翌日。
朝まで探し回ったけど、結局見失ってからあの二人を見つける事は出来なかった。そして、恐る恐るいつものお気に入りサイトを開いてみると…新しい画像が投稿されていた。
当然、そこに写っているのはノブナガとマチだった。しかも、今度のはただの画像でなくて…『幻○旅団のあの子を俺のムスコで一刀両断』なんてふざけた三流メーカーが出すようなパッケージのようになっていた。
しかも、ご丁寧にサンプル動画がみられるリンクまで張られていたので当然踏んでみた。
・・・
・・
・
「ははははは…どうすりゃいいんだよ ノブナガさんよぁ!!」
俺は、すぐにパソコンの電源を切り部屋を飛び出した。
旅団員になって初めてマジキレしてノブナガに殴り掛かった。この時、周りにいた旅団員に押さえつけられてコイン勝負で決着がつけられた。いうまでもなく、ノブナガの勝ちで勝負は終わった。
この一件以降、『働き過ぎだから少し休んだ方がいいよ』なんて周りが言うようになった。
ちなみに、最初に見た画像もシャルナークが見つけた動画もミルキとレイアによる投稿である。ただの、嫌がらせの為だけに自分の動きを人形にトレースさせる能力を部下に作らせてまでこんな物を投稿するアホがこの世にいるなど露程も思わないシャルナークであった。
*****************************************************
*****************************************************
*****************************************************
何が悲しくてむさ苦しい男の背中を望遠鏡越しに通じて眺めなきゃいけないんだ…どうせ覗くなら美少女の着替えを覗きたいものだと思うレイアである。
ミルキがキルアに頼まれたヨーヨーを渡すついでにG・Iに戻ってきた。もっとも、キルアに呼ばれなくてもそろそろゲーム内に戻る予定ではあった。『爆弾魔』がゲーム入口を監視するイベントがあったからね。
私とミルキは、『爆弾魔』が動くと同時にゴレイヌに襲撃を掛ける予定だ。その理由は簡単だ…原作組を呼ばれては厄介だからである。原作組が到着するまでにゴレイヌからカードを奪えるか微妙だ。最悪、ゴレイヌと原作三人組を相手にするなど正直無理だ。おまけに、子供と女相手には私の『賢者タイム』は通じないからね…性的な理由で。
ゴレイヌが監視する先に『爆弾魔』を見てみると何やら喜んでいる様子だ。
ゴレイヌの手札には、移動系のカードは何もないのは原作知識で知っている。だから、警戒すべきは『離脱(リーブ)』のみだ。ゲーム内にいれば『同行』でどこまでも追いかけてやるのだが、流石に外までは無理だ。おまけに、ゾルディック家からバッテラ氏の城までは遠すぎる。
「抜かるなよ レイア」
「もちろんですとも」
ミルキが信頼してくれている以上それに応えようと思うレイアであった。私の役目は、射程距離ギリギリから『賢者タイム』を用いてゴレイヌのスペルカード使用の阻止のただ一つだ。ゴレイヌの能力の特性上、二人以上で挑むと同士討ちさせられる可能性があるからだ。位置の入れ替えとかマジですごい能力だと思う。
もし、団長の念能力が封じられていなかったら生け捕りにして売り飛ばしてあげたいくらいだ。きっと、いい値段で売れるだろう。
ゴレイヌが『交信』を用いてしてゴンたちに『爆弾魔』の動向を知らせている。そして、ゴレイヌが通信を終えて本を閉じた。
その瞬間、私とミルキはゴレイヌ目指して全力で駆けた。
地面を蹴る足に瞬間的にオーラを集中させる事で車並みの速度が出せる。その為、ただでさえ身体能力が糞高いミルキは500メートル近くあったゴレイヌとの距離をぐんぐんと締めていった。常日頃鍛練を怠っていないが、それでもミルキには遠く及ばないのだ…後から追いかける私の身にもなって欲しい。もっとも、オーラを一点に集中させるような芸当は得意なので少し遅れてはいるがギリギリついていける。
そして、ゴレイヌが居る場所に到着した。
「あんたらは…ちっ!!」
ゴレイヌがこちらに問いかけようとするが、ミルキが問答無用でゴレイヌとの距離を縮めた。その速さはまさに瞬速といっても過言でない。
脳と声帯さえ無事で生きてさえいれば、相手からカードを奪えるので五体満足で居る必要はない。
ゴレイヌがミルキの実力を悟ってか、青ざめた顔をしつつも念獣を二体出現させた。黒と白のゴリラが現れた。
「ぷっ」
正直に言おう…私はこれを見た瞬間、笑いをこらえるので必死だった。なぜなら、レインボーゴレイヌネタが頭を横切ったからだ。他にもゴレイヌさんに携わる数々のネタを思い出してしまったのだ。
緊迫した雰囲気を壊すようで大変申し訳ないが、転生者なら誰でも笑いたくなると私は思う。だって…ゴリラだよ。ゴレイヌさんだよ。
レインボーゴレイヌ!!
私が一人バカな思いにふけっている最中、ミルキ様の拳がゴレイヌの脇腹に当たる瞬間だった。だが、その瞬間ゴレイヌの姿が白いゴリラに変わった。無論、ゴリラはミルキのワンパンをくらって見事に破裂した。
パーーーン
一体、ミルキの拳にはどれほどのオーラが込められているのだろうか…念獣が弾けるということはレイザーの念弾に匹敵する程なのだろう。
「くっそ!! ブック!!」
ミルキの攻撃をギリギリのタイミングで避けてバインダーを取り出した。正直に言えば、とてもよい判断だ。相手との力量の差を一瞬で把握して、勝てないと悟ったのだろう。
だが、それで逃がすほど我々も甘くはない。
「レイア!!」
ゴレイヌが手にしたカードを見たのだろう。
手にしたカードは間違いなく『離脱』だ。原作組に協力しすぎた事をあの世で後悔するといい。
「ゴレイヌさん。あんたの念能力は、ネタ的にも神スキルだったよ」
「こんなところで死んでたまるか!! 『離「『賢者タイム』」あぁ〜あぁ…ぁ〜〜」
ゴレイヌさんがカードを手にして呪文を唱えようとしたが…それは叶わなかった。生死を分けるこの緊張感の中、賢者タイムになるのはさぞかし最高の気分だろう。
ポト
ゴレイヌさんが持っていたカードが地面に落ちた。そして、頼みの念獣も精神状態が不安定になった為、消えてくなった。
そして、何とも言えぬ香りが辺りを満たし始めた。はっきり言おう、貧血気味の時にこの臭いは最悪の気分である。自分の念能力がまさか自分に害があるスキルだとはこの時まで思わなかった。
…今後は、風下にいる時には自重しようと思う。
半ば放心状態のゴレイヌさんだが、その眼にはまだ闘志が宿っている。
「レイア…徹底的にヤれ」
ミルキがアゴをくいくいと動かして命令してきた。風下にいる私に死ねと申されるのか!! 確かに、ゴレイヌの意識がいつ戻ってきて行動を開始するか分からない今 意識を完全に落とすのは急務だと言えよう。
ミルキからの無言の圧力に耐え切れず、捨て身の攻撃にでた。
「受けてみて賢者タイムのヴァリエーション(笑)!!『超(スーパー)賢者タイム!!』」
『超賢者タイム』とは、新能力とかではなく『賢者タイム』を短時間の間に絶え間なく行う事であり、その威力は口では語れない。だが、これだけはいえる圧倒的、快楽の最中意識を手放すことになるのだと…。
もわ〜〜ん
生臭い匂い充満し、ゴレイヌさんが地面に崩れ落ちた。白目を向いて口から泡を吐いているがその顔はニヤけており本気で気持ち悪い。おまけに、血液を失いすぎて私もマジでつらい。
だが、そのいつまでも血液対策を行わないレイアではない!!
すかさず、手持ちの荷物から輸血パックを取り出し自分へ輸血を開始した。むろん、血液は事前に自分から抜き取って冷凍保存させたものだ。他人の血液は、病気とか怖いからね。
自分の能力ながら恐ろしい物を開発してしまったと思う。
「相変わらず、酷い能力だな。本当に酷い能力だ」
「何故に二回も…」
「大事な事だから二回言ったまでだ」
崩れ落ちたゴレイヌの元にミルキがやってきた。そして、懐から小さい箱を取り出し、箱を開けた。その中には、注射器が2本入っており中身は、一週間で発病して死に至る病原菌と高純度の麻薬だ。
ゴレイヌさんには、すぐに死なれると原作組が私達を犯人だと断定して復讐されるかもしれないから、時間を見て死んでもらおうと思う。無論、生きている間にゴレイヌさんの口から私達が犯人だと言われない為に廃人になってもらう。
「効果もコスパも最高にいい素敵な能力じゃありませんか。世界広しといえども、こんな奇特な能力者は片手で数えられる位だと思いますよ」
「片手どころかレイアしかいないと思うぞ。第一、相手の名前が分からないと使えない能力なんて普通は役に立たん。それを実践で使っているレイアがある意味 異常なんだよ」
原作を知っているという前提がないと成り立たない能力だからね。
「まぁ、その話は置いておいて…さっそく、ゴレイヌのカードを物色しましょう。バインダーを閉じる力も残っていなかったみたいなので、手間が省けました」
「これで残るは、『爆弾魔』が独占しているカードのみか…全く、ヌルゲーだな」
こうして、ゴレイヌのバインダーから髭達が長年集めた血と汗と涙の結晶がミルキとレイアの手に渡った。
この時、原作組または『爆弾魔』が各チームの所持カードを確認すれば未来は変わったかもしれないが…この終盤に差し掛かった時に、誰もそれを行わなかった。