22話
近代兵器の威力は、やはり最高だと思うレイアである。
C4でサソリ女と蜘蛛男を葬り去る事に成功した、これこそ近代兵器が有効であるという証拠だ。だが、数に限りのあるC4を多用するのは今後の事を考えるとあまりよくない。それに、爆発音が酷い為 使えば一発でキメラアントに感知される。
おかげであの現場から逃げるのにかなり苦労しました。数が多すぎるだろう。
幸い、兵団長クラスの蟻は居なかったのでミルキ特製の銃をメインにしてしのぎ切った。流石は、劣化ウラン弾だ…ダムダム弾と同じくキメラアントの固い皮膚など物ともせず突き破って殺害してくれる。
キメラアントも私を舐めてかかってきてくれるおかげで、思いの他 楽に倒すことができた。バカの一つ覚えのようにみんな特攻してくるんだもん。おかげで、ゼロ距離で銃を撃てるわ ベンズナイフで解体できるわ 凄く楽だったわ。
おまけに、後から来た部隊が死体を回収して巣まで持ち帰ってくれるから放射能汚染も期待で来て一石二鳥だ。ピトーへの心配もあるが…王の近衛兵は、無意識でも尋常じゃないオーラを身に纏っているから多少の事は問題あるまい。それに、王が生まれれば 蟻達の死体など放置したままこの地を離れるしね。
「———ね———聞いてるの!?」
「いや、聞いてない。それで、なに?」
私が弾の補充と蟻の体液で汚れたスーツやベンズナイフの手入れをしているとポンズが話しかけてきた。
「とりあえず、蜂が無事に帰ってきたから恐らく誰かがさっきの町まで来てくれると思うわ。これからどうするつもり?」
これで間違いなく、蜂に持たせた手紙は原作組に届いただろう。私のせいで原作では無人に近い町だったかもしれないが、仲間が死んだ事の調査等でキメラアントご一行がいるかもしれないが問題あるまい。
全うな手段で無いにしても私でも兵団長クラスのキメラアントを倒せたのだ。原作組の性能を鑑みえるにどのような蟻の集団がいても負ける事などあり得ない。おまけに、カイトとかいうチートもいるらしいからね。ただし…ピトーのような近衛が来たら本当にお終いだがね。
それで私がこれからどうするかというと…そんなの決まっているじゃないか。
「(未来の)嫁に会いに行く以外何があるというんだい ポンズ君」
「……えっ!?」
ポンズが私に対してとても失礼な顔をしている。そして、次にはとても申し訳なさそうな顔へと変化した。顔芸を見ているようで面白いが…一体何を考えているんだ。
「これでも、容姿を含めてそれなりに自分を磨いてきたつもりなのだがね。そんな私に嫁が居てはおかしいのかね?」
これでも学生時代からそれなりにモテていたのだよ…男女問わずね!! 何気に学生時代では、女性より男性に告白される事の方が多かったのは、このレイア
一生の汚点といって間違いないだろう。
恐らく、容姿がカヲル君にクリソツなのがいらない効力を発揮しているのだろう。
私のスペックを客観的に見てみると将来有望かもしれない若手プロハンターであり 掃除、洗濯、料理、裁縫を完璧にこなし医学書を丸々記憶しており嫁の健康管理も完璧に行える自信もある。おまけに手先が器用の為 内職(フィギュア造り)でそれなりに稼ぎもある。更に世界的有名人(ゾルディック)へのツテもあるという素晴らしい人材ではないか。この世界に婚活パーティーとかがあれば間違いなく一番の売れ筋になるだろう。
「別に、おかしくないわ。ただ…ごめんなさいね。一刻も早く奥さんの所に行きたいのを私達のせいで引き留めちゃって。言いたくはないけど、さっきの蟻があちこちにいる以上……もう……」
ポンズが本当に申し訳なさそうに頭を下げている。
どうやら、私の嫁がこの国の人で…嫁に会う為に密入国までしてきたと思っているようだ。だけど、この国は各地に蟻が蔓延っていて私の嫁が既に亡き人になっていると思っているのだろう。他にも色々と勝手に私の事情を妄想してくるようだが…特に訂正する必要もあるまい。
「生きているさ。嫁に会う為にここまで来たと言っただろう。そんなすぐに諦めてたまるか」
「あんたの事、ちょっと誤解していたわ。私の仲間をエサに蟻を葬るような下賤な奴だと思っていた事を詫びるわ。本当にごめんなさい」
別に間違ってないのだが…こういう場合は、誤解させていた方が何かといいのだろう。
「別に構わんさ。そう思われるだけの事もした…嫁の為とはいえ悪かったと思っている。後、こういう辛気臭い話題はやめよう。それより、ポンズはこれからどうするんだ?」
「どうするって…国境まで送ってくれないの!? 」
現在の位置から国境まで移動する事は生憎と私にはできない。原作組がここを目指して網スピードで接近してきているはずだ。原作組の後を付けないと遠目でピトーに会う事は叶わないだろう。
「悪いが嫁の事が最優先でね。もし、私についてくるならば働いてもうぞ。タダで守ってやるほど私はお人よしではない」
「ぐぐぐ、それってどの道 私には選択肢が無いじゃない。ここに留まるのも国境まで戻るにも一人じゃ無理だわ」
「蟻がどこをうろついているかも分からないしね。運が良ければたどり着けるんじゃないかな。もし、私についてくるならば国境まで君をほどほどに守ってくれそうないい少年たちを教えてあげよう」
1人は気絶している子供だが、それを抱えている子供は数トンの重さの壁を楽々動かせるほどの怪力を持つ子だ。ポンズを追加で担いでも大した問題にはなるまい。
「それ本当?」
「無論だ。その子達への交渉は、私はやらないから君の交渉術次第だがね」
「わかったわよ、わかったわよ。働けばいいんでしょう!! ただし、絶対にその子達を教えなさいよ」
「交渉成立だな。では、さっそく働いてもらおう。蜂を使って辺りを警戒すると同時に手紙を届けた人物を尾行する為に蜂を使いたい」
キメラアントが蔓延るこの国で原作組との行動は死亡フラグだからね。しかも、カイトが敵の実力を知る為にわざとピトーの『円』に触れるなんて自殺行為をしやがる。一緒にいたとしても私が標的になる可能性は低いがね。
「なんで尾行するの?一緒に行動した方がいいんじゃない?」
「君がそうしたいならそうすればいい。ただし、私はかなり距離を取って後ろから尾行させてもらうから」
「———よくわからないけど、私も一緒に尾行する事にするわ。理由は聞いても教えてくれないと思うけど、あんたの準備の良さから考えて何か知っているようだしね」
なかなか鋭いな。
まぁ、知っていても決して教えない。万が一、敵側に捕まったら脳をクチュクチュされて情報を抽出される可能性がある。下手に興味を持たれるような事があれば、悪手以外の何物でもない。
「では、行くとしよう。精々死なないでくれよ」
「足手まといにはならないように頑張るわ」
レイアとポンズの同盟が完成した瞬間である。
「ミルキ様、コーヒーを持ってまいりました」
修道服に身を包んだ年端もいかぬ少女がミルキに飲み物を持ってきた。
「それにしてもいい拾い物だったな。飲まず食わずな上に、掃除から料理に至るまでこなせるとはいい意味で予想外だった」
そう、この少女はミルキがグリードアイランドのクリア報酬である少女シリーズの一人であるのだ。
流石に、人としての感情を持ち合わせていないが三人少女の容姿をした念獣を身近に置くだけで居るだけで【睡眠】や【ストレス】を解消し、【金】を生むのだから感情の有無などどうでもいいのである。
「そんな物達に頼らずとも、我々執事に行っていただければ掃除から洗濯、料理まで全て行わさせていただきますが…」
「念獣とはいえ、野郎に入れられたコーヒーより女の子に入れられたコーヒーが飲みたいのは当然だろう」
まぁ…この少女シリーズの容姿については開発者に再考させてやりたいと思っているがな。こういうのを作る場合は、まずそれなりの変態に依頼をしないとダメだと俺は思っている。俺が製作者の一人なら迷わずレイアにキャラ原案依頼を出すぞ。
「気分的な問題ですか…ならば、見習いに女も居ますのでその者をお使いになられますか?」
やはり、漢のロマンを理解しきれていないようだな。レイアならば今の会話で十分理解できただろうに…やはり、教育が足りないのか。
「必要はない。お前等には、お前等の仕事があるからそれに専念しろ。こいつら三人は、そういう細かい事は出来んだろうからな」
「かしこまりました。それにしても、レイア様もとんでもない置き土産をしていってくれましたね」
それに関しては全面的に同意する。
今まで誰も考え付かなかった事を当たり前のように言いやがって…それを実現するこっちの身にもなってみろと言いたい。
「VOCALOID計画とはな…パソコンで作った音楽を人の声を模した電子音で歌わせるなんて発想は普通思いつかんぞ。しかも、既にイメージキャラのフィギュアまで置いていきやがって」
俺の性格をよく知ってやがる。
こんな儲かりそうな計画を見たら実行せずにはいられないだろう。しかも、第二、第三のボーカロイドのフィギュアまで用意していきやがって…一体、どれだけ先を見越した計画なのか想像もつかない。
だが、この商売は間違いなくマニアの世界に激震を与える事は間違いないだろう。
なにやら言いように使われている感はいなめないが乗ってやろう。
「楽しそうですね ミルキ様」
「そう見えるか? なら、そうなんだろう」
レイアのお蔭で良くも悪くも忙しい毎日を送る事になったのである。
「睡眠をしなくても問題なくなり、ストレスも感じなくなるミルキ様とは違い我々は寝ないと持たないというのに…恨みますぞレイア様」
「愚痴を言う暇があったら働け働け!! 何としても来月までに完成させるんだ。なーに、24時間*30日*人数だ。工数としては十分であろう」
睡眠もストレスから永久的に開放されたミルキと違い、ブラック企業真っ青の勤務体制に涙する執事達がここに生まれたのであった。そのうち執事の中には自分の代わりに睡眠をとってくれる念能力を開発した者も現れるのであった。