24話
遠くに巨大なアリの巣が見えて、絶好調のレイアです。
蟻の巣の周辺は、非常に見通しが良く 隠れての接近は不可能。おまけに、トンデモナイ広範囲の『円』が張られている。おまけに通常の『円』とは異なり、歪な形をしており不定期に形が変化している。
「信じられんサイズの『円』だな」
100m超えの『円』が出来る念能力者だって世界的に数少ないというのに、半径2kmはある『円』などまさに規格外!!
そんな規格外の存在と原作組は、もうすぐ戦闘になるだろう。
戦闘中にもあの広大な『円』を維持できるとも思えんが…念の為、更に距離を取っておくのがいいだろう。
「蜂での追跡はもう必要ない。それより、この場より更に1km…いや、2km後方へ移動しよう」
「そんなに離れるの!? だって、あの子達までここから2kmもあるのよ。更に離れたら見失うわよ」
見失うなんて事は無いさ。
もうすぐ、嫁がここにきて暴れるのだ。遠くからでもはっきりとオーラを見る事が出来るから問題ないさ。
「それは無いさ。後、帰りも身支度をしておいてくれよ。もうすぐ、あの子達がお帰りだ。無理やりでもしがみ付いて帰れよ」
「や…やっと、帰れるのね。それに無理矢理にでもってどういう事?」
そりゃ、キルアがゴンを背負って全速力で走って帰るからしがみ付けって事だよ。それに乗り遅れるような事があれば、君の運命はそこまでだ。
だが、そんな事はポンズに伝える義理も無いので私はこの場から離れた。
会いたいのに会えないってつらいけど…もう少しの辛抱だ。
待っていてねピトー。必ず、私が貰いにいくから!!
「あ、そうだ…ミルキ様に、キルア様発見の報告をしておいた方がいいよね」
お世話になった人の家族を見つけたのだ。一報入れておくのが礼儀だと思い連絡をとった。
『レイア? まだ、生きているようだな。それで何の用だ? こっちは、お前が残していった遺産(笑)のせいで忙しいんだ』
『勝手に殺さないでくださいミルキ様。それにしても、例の品気に入ってくれて何よりです。ミルキ様ならあのボーカロイドを実現できると思っていたので何よりです。世間話はその位にしておいて…NGLでキルア様を発見しました』
『……死ぬ可能性は?』
一瞬、間が空いたが流石はミルキだ。私が言いたい事を瞬時に分かってくれたようだ。私がキルア発見の報告を入れるという事は、何かしら問題が発生するというのが分かっている所が素晴らしい。
『感情のままに相手に飛び掛かれば100%死にます。相手の実力は、一流ハンター相手にかすり傷程度しかダメージを受けない程の奴です』
『相手が完全に格上ならばキルなら必ず逃げる事になるだろうから問題ない。キルと行動を共にしている連中には、時間稼ぎ役が居るんだろう?』
『肯定ですミルキ様。名前は、カイト…フルネームまで存じ上げませんが、ジン・フリークスの弟子に当たる存在です』
『それなら、レイアが気にする必要はない。それに、キルも既に一人前だ。自分の尻位自分で拭かせろ』
まさに、仰る通りである。自分の意志でこの国に来て、好き勝手やっているのだ…いざ危険になった時だけ実家の権力を頼るのはちょっとね。
『了解しました。だけど、自分の身の安全が確立していてキルア様が窮地にいる場合はちょっとだけ手を貸してあげますね』
『好きにしろ』
まぁ、そんな場面など早々訪れる事は無いだろうが…ゾルディックに恩を売っておくのは将来的に考えても決して悪いものではない。むしろ、プラスしかないだろう。
ミルキとの通信を切った。
これで万が一、キルアとゴンが逃げずに三人で立ち向かう展開になっても私は助けなくても問題ないと確証を得た。みすみす見殺しにしたとなっては、ここから生きて帰ったとしてもゾルディックの方に殺されかねないからね…主にイルミとかイルミとかイルミとかに。
「ちょ、ちょっと!! あんたの携帯なんでここから繋がるの!? 私の携帯は圏外よ」
「なぜって?そりゃ、ミルキ様特性の携帯電話だからですよ。それが何か?」
別に携帯電話が繋がろうとそうでなかろうと問題なかろう。
主人公一行の仲間が既にハンター協会に連絡して討伐部隊をこっちに寄越す手はずになっているのだからね。
「貸しなさいよ!!」
「貸してもいいが何処に掛けるつもりだ?」
せめて土下座位して懇願して欲しいものだ。
完全に準備不足だったのが問題なのに、さも私が携帯電話を貸さないのが問題のようにみえる。
「そんなのハンター協会に決まっているでしょ!! この現状を説明して応援をお願いする以外に何があるっていうのよ」
「その必要はない。既に、私達が監視している連中の仲間がハンター協会に応援を頼んでいる。数日もしないうちに、ハンター協会の選りすぐりの猛者が来る予定だ」
「………短い付き合いだけど、あんたの性格がよくわかるわ。どうせ、聞かれなかったから答えなかったんでしょう。命の恩人でなければ、顔をぶん殴っていたわよ」
ポンズの眉間しわが寄っている。全身がぷるぷると震えており、怒り爆発といった雰囲気だ。
「別に今殴ってもらっても構わんよ。ただし、私を殴るなら早くした方がいい」
「どういう事?」
それはね…はるか遠くに見える蟻の巣から我が愛しのピトーが顔を出したからだよ。
「間もなく、監視していた連中が敵と遭遇する。そうなれば、子供二人は全力で国境まで戻るだろう」
「なんであんたにそんな事が…」
分かるんだよ。
ポンズが次の一言を発する前にピトーが原作組めがけて飛んだ。
その姿は、実に狂おしい程美しかった。
ウェーブの掛かった金髪、そしてその頭からちょこっと飛びでている猫耳、スレンダーな体系に加えて僕っ子と来た。この世界での最先端の萌を集めたかのような存在!! 富樫…あんたは神だよ。
ピトー……生まれて十数年、君に会うだけの為にすべてを捨ててここまで来た。
そして、ピトーが原作組と鉢合わせた。
ゾワゾワ
「な、なっ…あんなオーラ、勝てるわけないじゃん」
遠目からでもはっきりとわかる…ピトーのオーラの異常性がね。だが、それでこそ私が欲しているピトーだ。その容姿とは裏腹にそのエゲツナイ程のオーラがまた素晴らしい。最強で且つ萌な存在なのだ。
「そうだな。まっとうな手段じゃ勝てないだろう。なんせピトーは王直属の護衛の一人なのだからね。それはそうと、あの餓鬼どもが走り出したぞ。今から行かねば置いて行かれるぞ」
ピトーと出会ってからのキルアの初動は早かった。ゴンを一瞬で沈黙させてその場から離脱を始めていたのだからね。しかも、まさに命がけの逃げでもあって早い早い。火事場の馬鹿力とはこの事だなとしみじみ思った。
「まだ、色々と聞きたい事あったけど取りあえず逃げるわ!! あんたは逃げないの?」
いいから早く逃げろよポンズ。
あんまり長時間話し込んでいると本当に置いて行かれるぞ。それに、カイトのやつもいつまでピトーの相手にもつか分からんしな。戦力差を見たところ…一分程度だろう。
「いいから早く行け。私は嫁に会う為だけにここまで来たのだ。ここで逃げるなど選択肢にない」
ポンズが私の言葉を聞き少し考え込みピトーと私を見比べ始めた。
「ま、まさかと思うけど…あんたが言っていた嫁って…」
「恐らくご想像通りだが、それが何か?」
この私の一言をきいたポンズの顔は、何やらこの世のものではない物を見るかのような顔をしていた。恐らく、ポンズの中ではレイアもピトー同様な異常な存在に認識されたのだろう。
「ここまで、ありがとう。さようなら」
「あぁ、さようなら」
身をひるがえしポンズは、キルアが通り過ぎる方向へ全速力で走って行った。
・・・
・・
・
ふむ…ポンズに別れを告げたのはいいけど、一人だと心細い。人間一人じゃ生きていけないというけど、その事が良くわかる。
「まぁ、これからはピトーが居るからいいか」
再び戦場を覗いてみた。
カイトが負傷させながらも懸命に能力を行使している。銃に鎌などバリエーションが多く、そのどれもが素晴らしい威力だ。あのピトーですら回避しているのだ…きっと当たれば痛いのだろう。
だが…その拮抗も長くは続かなかった。実力差があるのは当然のことだが…カイトが片腕だったことが一番の原因だろう。いつもある腕が無いのだ…体のバランス、武器の扱い方などにどうしても差異が生じてしまう。そういった隙を見逃すほど敵はおろかではない。
そして、カイトの体がばらばらになった。
「あぁ〜、やっぱり死んだか…」
遠くでカイトの首を撫でているピトーをみて…思った事は一つだ!!
私ですら頭を撫でられた事が無いのにカイトが撫でられるってどういう事よ!!
くっそ、死者に鞭を打つとか恨むのとかはお門違いだと思うが…殺したいほど憎い!!カイトに対してこれでもかというほど邪悪な念力を送りまくった。
リア充爆発しろーーー!!
だが、それが命取りだったと後悔する事になる。
4km近く離れているから安全だと思ったが…野生の獣の感性を舐めていた。
・・・
・・
・
「やべーー、視線がモロあっちゃったよ……」
と、とりあえず目が合っちゃたので手を振ってみた。
すると、ピトーもかわいらしい手でこちらに手を振ってくれるではありませんか!!
テラかわゆす!! なにあの可愛い生き物!!
そして、手を振っているピトーが急に視界から消えた。
「……完全に補足されたか。こりゃ逃げ切れんな」
おそらく、ここに到達するまでどの位の時間がかかるか不明だが…逃げ切れないのは確実だろうね。隠れても『円』で炙り出される。とすれば、私の取る道は一つしかないか……。
G・Iのクリア報酬の一枚、レインボーダイヤの出番だな。これを使えば、少なからず私が死ぬ事は無いはず。なぜなら、カードの説明文に『七色に光り輝くダイヤ。このダイヤを渡してプロポーズすれば100%成功する。手元にダイヤがある限り、2人が離れることはないだろう』と記載されている。
要するにだ…このカードを現物化してプロポーズさえしてしまえば、死亡する事は無いという事だ。なぜ、死ぬ事が無くなるかというと、二人が離れる事は無いだろうという記述は、死ぬときは一緒という意味を示しているからだ。もっとも、この効果は、G・Iで実際に試させてもらったから言える事なのだがね。もちろん、書かれている通りプロポーズも成功するよ…、男同士のプレイヤーに試してみたけど成功していたからね。
ガサガサ
物音をした方を見てみるとそこには長年恋い焦がれた存在がいた。
「まだ、人間がいたのか。レアモノだしちょうどいいかニャ」
尻尾を振り振りさせて凶悪なオーラをまき散らしてこちらに喋りかけてきた。ここに来る前に頭に針を埋め込んで恐怖心を麻痺させていなければ恐らく、眼鏡の人みたいに廃人になっていただろう。
ピトーに会えた嬉しさのあまり、私は何をするかを忘れてしまいついつい本音を言ってしまった。
「さっきの人間が使っていた能力、その能力の使い方、世界情勢、人間が使う武器とそれに関する知識、レアモノの製造方法など私が知っているあらゆる情報を提供しよう」
「別に無理やり聞き出すから問題ないニャ」
ピトーの歩みはいまだに留まらない。
「まぁ、私の脳をいじれば情報を引き出せるでしょうが…完璧には不可能でしょう。それに、貴方が無理やり私を生け捕りにして脳をいじるというのであれば自害します。無論、脳を木端微塵にしてね。貴方の王の為にも、その方がよいかと思いますが…」
ピトーの意志は固い…だが、王の為と一点を除けば別だ。
「ふぅーーん、まぁ話だけは聞いてやるニャ」
真偽は定かであれ私の口から情報を聞き出してから事を起こす気なのだろう。だが、今はそれで十分だ。
懐に大事にしまっておいたカードを手に呪文を唱えた。『ゲイン』と唱えた瞬間にカードがダイヤへと変わった。ピトーが警戒態勢に入ったが、脅威ではないと判断したようだ。
今こそ見せてやろう…日本人の真髄を!!
「結婚を前提にお付き合いしてください!!」
私は、ピトーの前に跪き日本人の奥義であるDOGEZAをした。
今までにない対応をされたピトーの方も一体何が起こったのか理解が及ばずお互いの時間が静止した。この時、静止した時間はカイトと戦闘を行った時間より長かったのである。
・・・
・・
・
土下座をしてどの位時間が経ったか分からないが…ピトーからの攻撃が無い以上、恐らくレインボーダイヤによる洗脳は完了したのだろう。
プロポーズの成功が恋仲になるとイコールで思われがちだが、そうではない。現実世界をみてよく考えてみ欲しい。相手の事が好きでなくてもプロポーズが成功する事なんて五万とある…むしろ、好き嫌いではなく打算的な考えでプロポーズが成功する方が多いともいえる。
さっきも述べたように、このカード効果では、決して恋仲になれるといったカードではない。良くて、友達以上恋人以下の関係まで感情を操作できるといったところだろう。
私がカードの効果を正常に働いているか確認する為に顔を上げてみるとピトーが先に口を開いた。
「ぼ、僕…男の子だよ」
ピトーから突き付けられた現実に私は考えた。
ピトーが言ったセリフを脳内変換してみると
男の子だよ
↓
男のこだよ
↓
男の娘だよ
この場合なんて言うのがいいだろうか『大丈夫だ問題ない』『なん…だと!?』など様々なネタセリフしか浮かばなかった。私の気のきいたセリフの少なさに絶望した。
だが、それ以上に私は歓喜していた。ピトーの口から『僕、男の娘だよ』発言を聞けたのだ 興奮しないわけがないだろう。
なぜなら!!
「この業界ではご褒美です!!」
ピトーがキメラアントという特殊な生物上、雄である可能性は最初から考慮していた。女で有ったら嬉しいな程度の思いだったのである。
それに、ピトーが男であることは、初見で気づいていたから何も問題ない。私の目をもってすれば服を着ていようとも○裸同然だ。…自慢になってないがな。
何度も言うようだが…私はピトーの性別など気にしてはいないのだよ。男であろうと女であると念能力という素晴らしい力があるから後付けで性別など改変する事もできるのだからね。
何より一番大事な事はだな…『可愛いは正義』なんだよ!!
可愛ければ性別なんて、些細な問題だと思う作者がここにいる。