25話
ペンを片手にホワイトボードに向かっているレイアです。
「いいですか、念能力というのは体から溢れだす生命エネルギーの事です。あらゆる生命がもっており、それを使いこなす者を念能力者と言います。皆様の中でレアモノと呼ばれる存在がそれに当たります」
そう…私は、キメラアント達に念能力の講義を行っている。また、人間世界の社会情勢やキメラアントを殺しえる可能性がある武器等について分かる範囲で説明している。
この行為自体、人類に対して裏切り者になりかねないが…自分の身を守る為でもあったのだ。誰も私を責める事は出来ないだろう。
それにしても、この講義を聴き見来ている連中は兵団長以上の存在だが…知らない顔もぽつぽつ居るな。既に、ピトーみたいにオーラという存在に自力で気づきかけている奴もいるから恐ろしい連中だな。私が念能力をここまで覚えるのにどれだけ苦労したと思っていると文句の一つでも言ってやりたくなる。
「ここまでで何かご質問のある方は、いますか?では、続けます。念能力には六つの属性があります。そのどれかに誰しもが必ず属していると言われております。皆様のお手元に水の入ったコップに葉っぱが浮いていると思います。後ほどこれを用いて各々の系統を判断します」
「ほほぅ、そういう事ができるのか。各々の系統が分かる事によるメリットは?」
知的な雰囲気が漂うペンギンみたいな蟻から質問が上がった。
「はい、それぞれの系統に習得の難易度が変わってきます。例えば、この六角形の図の頂点にある強化系は、具現化系や操作系に関連する能力は鍛えづらくなります。また、その系統を鍛えられる限界値という物もあり自分の系統から離れた事をやろうとするのはあまりお勧めしません。詳しくはお手元に詳細な資料を纏めておりますのでご参照ください」
その後も私の知る限りの念の知識を公開していった。『四大行』と『応用技』なども無論、丁寧に説明を行った。
正直言えば、蟻共がここまでおとなしく素直に私の講義を聴くのには理由がある。
「ふーーん、それで葉っぱが枯れるのは何の系統かニャ?」
「これは、特質系になります。あのカイトという人間を元通りにつなげた辺りから予想はしておりましたが…非常に珍しい系統です」
そう…ピトーがこの場に全員を呼び集め私の話を聞くように言ったのだ。だから、誰も反発などしない。
やはり、王の為にキメラアントの強化や栄養たっぷりの餌、人間の情報.etcを提供する方法などを惜しみなく提供するといった辺りが良かったのだろう。おまけで、レインボーダイヤの効果もあるだろうけどね。それでも、今のピトーにとっては私もただの家畜以上キメラアントの下級兵以下程度にしかみていないだろうがね。
「では、これから皆様の精孔を強制的に開きます。自然体を維持してオーラが漏れないようにイメージをお願いします。オーラが安定したら、皆様のお手元にあるコップに両手を添えてオーラを垂れ流すイメージをしてください」
原作でキメラアントが行っていた暴力という名の洗礼ではなく、私が丁寧に精孔をあける事で死傷者を0にしてしまうだろう。この事により、原作組などは苦労するかもしれないが致し方あるまい。
そして、集まったキメラアント全員が念能力を取得した直後…講義場の雰囲気が一気に重くなった。それは、言うまでもなくこの場にいるピトーとの実力差を肌で感じ取ったのだろう。
こうしてキメラアントの戦力が大幅に強化されたのである。
キメラアントの巣、厨房にて。
「ポルコさん、もうすぐ王が生まれるに当たり女王様の食事回数が多くなってきております。そして、いくら女王様でも毎日同じ食事内容では飽きてしまうと思うんですよ」
「だったら、どうしろというべさ」
原作でポックルを調理したブタのキメラアントのポルコさんとお話をしている。
こいつら料理という概念がないのかと言いたくなるくらい雑な食事をしているのが気に食わない。嫁の体調管理の為にもここは私が頑張るしかないでしょう…常識的に考えて。
「いいですか…『煮る』『焼く』『蒸す』などといった簡単な調理方法があります。今から私がこの鳥を使って調理をするので貴方は私が用意したレアモノを使って同じように調理してください」
言っておくが、いくら私が外道だからといって人間を食べるほど外道に成り下がってはいないぞ!! 私は、キメラアントが女王への食事の足しになるのではと思って持って帰ってきた人間の家畜を頂くのだ。
そして、今からポルコが調理しようとしている食材が、私が先ほど精孔を無理やり開いてオーラ全開状態の活きのいい人間だ。こういった方法を使う事で栄養価の高い食事を取る事が出来るので女王もご満足いただけるはず…そして王もきっと満足してくれる事間違いなしだ。
ひいては、私の株も上がる事間違いなしだ!!
「あぁ、そうだそうだ。ネフェルピトー殿への食事は私が私室まで持っていくから気にしないでいいですよ。他のキメラアントの方々も護衛兵の人と一緒に食事をしては味すら感じられないでしょうからね」
レアモノ…要するに人間の調理方法を指導する事になるなんて想像もしていなかったけど…G・Iで人間の脳みそをクチュクチュした事や人間そっくりなフィギュアを作った事もあり対して抵抗が無かったのには自分もびっくりした。人間なれとは怖いものだ…。
こうして、レイアの三分クッキングが始まった。
その日から、女王への食事は栄養価が高いだけではなく味付けや盛り付けなどが多種多様になった。そして、キメラアント全体の台所事情が大きく改善されたのである。
キメラアントの巣、レイアの私室にて。
正直、ここが私室と言っていいものか微妙である。
キメラアントの巣の下層と中層にある20畳くらいある部屋に勝手に住み着きました。何処にでも住んでいいよとは言われたけどさ…王の近くは勘弁だろう。生まれた瞬間の王に出会ったら最後…八つ裂きにされてしまう。
後、この場所を選んだ理由は他にもある。
私の部屋のすぐ近くに人間の村から略奪してきた資材等が置かれているのだ。もっとも、自然由来の製品しかないこの国では、価値のある金品は殆どないが問題ない。私の狙いは、キメラアントの兵が民家から持ってきた箪笥や服、木材などのそういった物だ。
そんなのを何に使うかと言われれば…裁縫に決まっているだろう。
既にピトーの寸法は頭の中にある。だから、それに合わせて一つ一つ丁寧に作るだけさ。ところどころに神字をまぜたり、刺繍を入れたりと気合を入れまくってピトーのお洋服を作っている。
王の傍に使える物が着る服という名目でこのレイア作の特性メイド服をピトーに着せるのだ!! この使命は命に代えても果たす必要がある。カイトの戦闘で汚れた服をいつまでも来ているのは良くないし、王が生まれた際にそのような服装で会うのもよろしくないのではと言葉巧みにだましとおしてみせる!!
しかも、ピトー一人だけ服を新調したのでは怪しまれると思い、他の護衛兵には執事服をちゃんと用意している。
「まさに、完璧なプランだ…そうは、思いませんか?そこに隠れているキメラアント殿」
私は、何もない場所に対して話しかけた。
相変わらず素晴らしい潜入能力だ。
相手の能力を知らずには対策が組めなかったよ。G・Iアーマーに備え付けられた熱源探査機能に反応がでている。しかし、肉眼でその位置を確認しても何もない。いや、私が認識する事ができなくなっているだけだ。
だが、機械まで誤魔化す事は出来ないようだ。実際、別の次元に隠れているわけではないのだから、機械で見つけられないはずがあるまい。
「俺の能力もあんたのソレの前じゃ形無しか…自信なくすぜ」
何もなかったはずの所から突如カメレオンタイプのキメラアントであるメレオロンが現れた。相手が能力を解除した瞬間、その存在をはっきりと認識できた。某ヨン様みたいに完全催眠に近い能力でマジわろす。
「いいえ、そんな事はありませんよ。むしろ、この装備無しでは存在すら気づけませんよ。それでどういったご用件でしょうか?」
「特に用事はねーよ。ただの監視だ」
まぁ、疑われるのも分からないではないよ…キメラアントの巣にいる唯一まともな?人間なんだかね。
「そうですか…なら、みなさんの所に戻る際にメンテナンスを終えたイカルゴ殿の銃が有りますので持って行ってあげてください。後、念を覚えて力加減が難しくなっていると思いますので銃の扱いはくれぐれも丁重にお願い致しますとお伝えしてください」
「……お前さんに一つ聞きたいんだが。人間を売るような真似をして心が痛まないのか?」
もしかして、私をゴン達同様にお仲間に誘う気なのか?それとも純粋な好奇心から来る質問なのだろうか?
「私に関係ない人間が何万人犠牲になっても痛くも痒くもありません。ご存知の通り、私はピトー様の為にここに来たほどの酔狂な人間ですよ。……それに、人間だったころも記憶を持つ貴方なら他人がいくら犠牲になろうと心が痛まないのが人間だという事をよくご存じでは?」
「そうだったな、それじゃあ失礼する」
再び目の前から煙のように消えた。
あ…あいつ、銃を置いていきやがった。職務放棄で訴えるぞ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「本日のお食事は、………」
つい先日まで、人間を磨り潰しただけの肉団子だったというのにここ数日で我が目を疑う程に劇的な進化を遂げていた。護衛兵と違いただのキメラアントには繊細な作業は出来ないと思っていた…手先的な意味と知性的な意味でだ。
いくらベースに人間を加えてからと言って持ち主が持っていない知識まで継承される事はあり得ない。とすれば…人間が持つ本などから知識を手に入れたか?
モシャモシャ
「女王、お食事はお口に合いませんでしたかニャ?」
以前来ていた服とは異なり、風変わりな服を着ているネフェルピトーが声を掛けてきた。
「そんな事は無い。これだけ栄養が芳醇な食事が続くとは思っていなかった。褒めて遣わす」
「ご満足いただけて何よりです」
・・・
・・
・
「して、一つ聞きたいのだが…その服はなんだ?先日まで着ていたものとは異なるようだが…」
「王の身近に使える者が着ると言われるメイド服だそうです。以前来ていた服と比べていささか露出が多いですが、機能性や耐久性に至っては今まで来ていた服とは比べ物になりません」
レイアが漢のロマンをこれでもかというほど詰め込んだメイド服である。市販されているメイド服などとは一線を画しているのは当然である。ピトーのあらゆる動作に対応できるように設計されている。当然、絶対領域など忘れてはならない要素も取り込んでおり、電脳ネットにピトーの写真を載せた日には一日で有名人になれる事間違いなしだ。
「そういう物なのか?」
「そういう物のようです」
まぁ、動きやすいならそれでもいいだろう。
「最近、食事の質や料理が載せられてくる器もまるで人間が作ったかのように繊細だが…一体何があった?」
「人間が作っておりますから。後、女王の為に新しい部屋も…」
料理が乗るお皿の一つ一つがキメラアントの目から見ても美しいと思えるような漆塗りの漆器が使われている。出すとこに出せばそれなりの値段が着くほどの逸品だ。
「パードン?」
「ですから、人間が(ry」
この後、女王に呼び出される涙目になるレイアであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「キメラアントの練度がここ最近、信じられない勢いで上昇していますね。おまけに、統率がとれた部隊も増えています。今後は、一体ずつ潰すという方法は出来ないかも知れません」
「そりゃ、厄介だな。国境であった奴からの情報も気になるし、忙しくて目が回るな」
厄介ごとが山積みじゃわい。
本当にモウラとノヴの二人を連れてきて正解だったわい。
儂を含めてこの二人も師団長クラスならば何人相手にしようと問題ないが…やはり、王直属の護衛兵をどうにかせんとな。全盛期ならまだしも今の儂では、100%勝てるとはいえん。それほどの連中があのメイド服を着た猫モドキいがいに二人も居るとなっては骨を折る。
しかし…なぜ、メイド服を着ているのかが最大の謎じゃがな。しかも、オーラまで込められたメイド服など今までにお目に掛かったことすらないわ。一体、どんな変態かお目に掛かってみたいものじゃな。
「あぁ…自らキメラアントに会いに行ったというハンターの事ですか。ですが、専門家の意見では生存の可能性は0だと言っていましたね。恐らく、情報だけ抜き取られて殺されたのでしょう」
「そうだろうな。奴らはそいつの情報を元にここまで強くなったとみて間違いなさそうだな」
ゴン君の同期のレイアとかいう白髪頭の少年だったかな。
アルビノという珍しい奇病を患っている事と今でも部屋に飾ってある儂とメンチ君の合体像があり、記憶に新しい。
もともと、残念な意味で変わった子だったからそれを拗らせたのだろう。ハンターなんぞにならず、芸術方面の職にでもついておればきっと大成功していただろうに…惜しい人材を亡くしたものだ。
「当面は、今まで通り相手の戦力を削ろう。不幸中の幸いだが、王が産まれるまで時間だけはある」
「そうですね」
「そうだな」
レイアという不確定要素を抱えつつも、順調にキメラアントの戦力を削ぐ、討伐隊がここにいた。その強さは、まさに人類最強クラスである。