27話
蟻の巣から数キロ離れた森に来ているレイアです。
女王から褒美の話があってからのレイアの行動は実に早かった。女王の気が変わらぬうちに何としてもキツネとキャス子に近い体系をした女性を確保しないといけないからだ。
最初に起こした行動は、ポルコさんが管理している餌の貯蔵庫の確認だ。今まで各部隊が捉えてきた人間どもが生かさず殺さず置かれている。その中で、私の理想ともいえる女性を探したのだ。だが、世の中思い通りにはいかなかった…都合よくそんな女が見つかるはずもない。
だが、目的の女が居ないならば調達しに行くまでの事!!
不幸中の幸いというべきか、本日はキメラアントが餌の調達を行う日であり7人もの師団長が遠征に行く予定なのだ。私の事を快く思っていない師団長もいるが、なかには友好的に接してくれる変わり者もいる。もっとも、私に友好的に接してくれる理由は既に分かっている。
「キツネか目的の女を捕えたら貸しだからな」
そう、私の能力をレンタルする気なのだ。正直自分の能力を他人に使われるのは気に食わないが…団長のように奪われる訳ではない。
それに、能力名または能力を目視しないかぎり、レンタル条件を満たせないはず。仮にすべての条件を満たされて私の能力がレンタルされたとしても…多用できる能力でもないし、戦闘する相手の名前を知っていないといけないという条件をクリアするのは転生者でもない限り厳しいだろう。よって、レンタルされても問題ないのだ。
「勿論ですハギャ殿。後、他の方もキツネか目的の女性を見つけたら是非殺さずに私の所に持ってきてくださいね。見つけていた頂いた部隊の方々には、ポルコさんにお願いして一週間だけですが夕食のおかずを倍に増やします」
下級兵などは話せない者が多いが、私の言葉が理解できたようでやる気が伝わってくる。やはり、飯で釣るのが最強だな。
拠点である私の居る場所から、各々の師団長率いるキメラアントが近隣の村に向かって散って行った。以前は、勝手に先行するものが居たようだがここ最近は襲撃が多い事と生き残る為にという事で全面的に師団長に従っている。
こりゃ、会長達も苦労するなと思った。
他人の事は置いておいて、私は早くこの1/5キャス狐フィギュアを完成させねばならない。材料が揃ったとしても女王が見当違いのキメラアントを産んでしまっては元も子もない。
なんだか、汚れ仕事はキメラアントに押し付けているような心苦しさもあるが…気にしたら負けだよね。適材適所という言葉もあるし、時間が無い今はキメラアント達にお願いする以外方法が無い。
まぁ、自ら率先して人を殺しているわけでもないし、キメラアントの餌になって死ぬ予定の人を少し早めにこの世からいなくなってもらうだけだ。この行いが悪行でないと信じていなければ、いくら強靭な私の心でも痛む事くらいはある。
フィギュアを彫りつつ、キメラアント達の行動を見てみると実に手際がいい。何より、山道にも関わらず移動速度が速すぎる。山道で野生の獣に出会ったら逃げ切れないと言われる事が良くわかるわ。
これから捕まる人間には申し訳ないけど、せめて苦しまずに死ねるようにしてあげます。その位なら許される範囲だろう。
そんな事を思いつつ、順調にフィギュアを彫り進めていった。
・・・
・・
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数十分後。
キメラアント達は、未だに戻ってきてはいない。きっと、好き勝手暴れているのだろうな…念を覚えた事だし、能力のテスト的な意味もかねてさ。
遊んで来てもいいけど、しっかり私の目的の物は探してくれているだろうか…それだけが心配だ。キツネとナイスボディの妙齢の女性……今思えば、かなり難易度の高い注文をしてしまったのではないかと思う。
今更ながらポンズを逃がした事を後悔した。ポンズならば年齢的にもスタイル的にも問題をクリアできるだけでなく、天然のレアモノであるから素体としては十二分だったのにね。ポンズがこの国に再び戻って来る事は無いだろうから、無い物ねだりはしない。だから、期待してるよハギャさん。
・・・
・・
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数分後。
キョロキョロ
うーーーん、視線を感じた気がしたが気のせいか。見渡せる範囲では、誰も居ない…熱源探知にしても誰も居ない。
ザザザザザ
草木をかき分ける音がすると共に、ハギャの部隊がこちらに戻ってきた。
「くっそ!! 待ち伏せされた」
確かに部隊を引き連れていた狩りに行った時と比較して部隊の人数が少ない。どの程度戦闘したか分かららないが、キメラアントの中でも戦闘面に優れているハギャの部隊をこうも簡単に削るとは…討伐部隊の恐ろしさが良くわかる。
「ハギャ殿が無事で何よりです。他の部隊の者達はどうしたんですか?」
「奴らは既に撤退した。俺らの部隊が殿を務めたからな」
なるほど、こうやって他の部隊の人に貸しを作っているのか…。能力集めとはいえ、ハギャも大変だな。
「流石、ハギャ殿です。自ら殿を務めるなんて他のキメラアントには出来ない事を平然とやり遂げるなんて憧れます!! ………ところで、目的の物は?」
私の質問に対してハギャは、親指を立てて後ろにいる部隊員を示した。
ハギャの部下の下級兵がキツネ二匹と良い体つきをした妙齢の女性を背負っていた。女性は、20代後半くらいだろうが容姿については問題なしだ。もっとも、年齢などは女王がどうとでもしてくれよう。
「素晴らしい!! では、急いで撤収しましょう。先ほどから、どうにも見られているような嫌な視線を感じて…」
「こんなところに長居する気はねーよ。さっさと帰るぞ」
この後の事を考えて、スキップをしながら帰るレイアであった。
その様子をはるか遠くから覗いているネテロ会長が『あいつ、なんで生きてるんじゃ』という呟きには気づく事はなかった。
数日後。
レイアの部屋の天井には、数日前にはなかったキメラアントの女王が生んだ卵らしきものがぶら下がっている。
その部屋を訪れる者達がその卵をみて首をかしげている。それもそのばず、女王が王を育てる為に力を注いでいる最中、卵を産むといったあり得ない行動をしたのか理解できていない。しかも、その卵が人間に手渡されたなど既に理解の範疇を超えている。
「何時ごろ、孵化するのですかね。もし、孵化したらピトー殿が戦い方を教えてあげてもらえませんか?」
「面倒だニャ」
「今なら、レイア特性のマタタビ酒を三合プレゼントしちゃいます!!」
「引き受けた。大船に乗ったつもりで期待するニャ」
ここ最近、マタタビ酒なる物を作り始めてからピトーが私の部屋に足を運ぶようになった。猫が混ざっているキメラアントだけあって、マタタビは効果抜群のようだ。これで間違いなく、ピトーのなかでの私の株は急上昇したに間違いない。
まぁ、酒だけでなく、これから生まれてくるであろうキャス狐にも少し興味があるようだけどね。実際は、興味というより監視に近いだろう。キャス狐には忠誠心の刷り込みを女王に依頼している事もあり、王>女王>レイア>その他 と言った感じで忠誠心が刷り込まれている。よって、キャス狐に限って言えば、護衛兵より上位に命令権限を持っている事になるのだ。
「では、これがマタタビ酒になります。酒造りは不慣れなもので、味が一定ではありません。飲んだ感想など頂ければ、味の改善に繋がるかもしれませんのでよろしくお願い致します」
ピトーは、私からマタタビ酒を貰うとそのまま部屋を去って行った。
酒瓶を抱えて尻尾をフリフリして部屋を出ていくピトーが無性に可愛くて、危うく背後から抱きつきそうになったのは秘密である。
討伐隊、ミルキ、原作組、幻影旅団がどうなった知りたい等のご要望があれば少しづつ本話に混ぜていこうと思います。