28話
そろそろ、ピトーとの仲を一歩前進させたいと思い色々と画策しているレイアです。
マタタビを使った餌付けで大分距離を縮める事に成功したと思うが、私が描く仲にはまだ遠い。だから、そろそろ次の行動に出ようと思う。
その為に、私はキメラアント達が集まる部屋にまで足を運んだのだ。
私に対していい感情を持っている者もいれば、そうでない者も居る。もちろん、理由は簡単だ。人間である私が護衛兵や女王にある程度ではあるが、立場を認められており雑兵クラスのキメラアントより地位が高いからだ。
師団長や兵隊長クラスのキメラアントなら能力次第で私を完封できるかもしれないが、生憎とそこまで力を知識のあるキメラアントは、私を排除するのではなく利用できる便利な駒といった扱いをする事を選んでいる。
相手がどのように思っていようが、私は私のやりたい事をやるだけだからいいけどね。
「えーーと、この中で穴掘りが得意な方と伐採が得意な方いらっしゃいますか? 皆さんが忙しいのは重々承知ですが、ここの環境改善の為に少しばかりお力を貸していただけないかと…勿論、無償とは言いません。お手伝い頂けた方には、私自ら皆様のお部屋の改装作業をやらせていただきます」
衣食住、これは人間が生きていく上で欠かせない物である。無論、キメラアントも人間同様に欠かせない物である。既に、食については大幅に改善された上にキャス狐の素材となった人間の件もあり、同じ餌で釣る程キメラアントの甘くはない。
だから、私がキメラアントに提供出来て 且つ キメラアントも欲しいと思う物を考えた結果これになったのだ。既に女王の寝室が大幅に改善されたのは周知の事実であり、それを行った者が私である事も知られている。
キメラアントも人間と同様に他者より優れた物を欲しがるのは本質と言えよう。
女王と自分たちの住まいを比べて、初めて自分達がどんな場所に住んでいるのかを再認識した今だからこそ、私の提案に価値が出てくるのだ。
まぁ…知識の低いキメラアントには分からないかもしれないが、言葉の分かる兵団長クラスにもなれば少なからず魅力を感じてくれるはずだ。
「手伝ってやる。いつも、旨い物食わせて貰っているからな」
「無償なら受ける気が無かったが、そういう話なら一枚噛ませてもらおう」
ゴリラと蛇のキメラアントがさっそく名乗りを上げてくれた。
原作でやられ役の人だったけど、思いの他いい奴らだ。
「ありがとうございます!!」
その後に続くように2名のキメラアントが手伝いに立候補してくれた。
これで集まったのは合計4名…体つきを見る限り穴掘りは苦手そうだ。どう見ても伐採チーム行だな。
ベースの半分が蟻のはずなのに、どいつもこいつも穴掘りが苦手そうなのが多いとかどういう事だよ。進化の過程で忘れちゃいけない物を忘れてきているだろう。
それにしても今のメンツだけでは、やはり人数不足だ…特に重労働になる穴掘りが実行する事すら難しい。兵団長クラスと通じて雑兵に強制労働させる事も不可能ではないが、それをやると唯ですら微妙な関係が更にゴタゴタになりかねない。
「伐採チームは集まったが、穴掘りチームが集まらない。う〜ん、どうしたようかな…」
「あいつらを使うか?」
兵団長クラスの蟻が自分の配下の奴を使うかと提案をしてきてくれた。
「非常にありがたいのですが、自主的に手伝って貰いたいので申し訳ありません。わがままで本当にすみません」
人間の貯蔵庫にいる奴らを使って働かせようかな…でも逃げられると厄介だし。それに、採掘器なんてないこの国では、基本的に手作業でしか採掘する事はできない。そんな事をしていては時間があっても足りない。かといって、念能力を覚えさせれば脱走に特化した能力づくりを作り出しそうだしね…厄介な事はごめんだ。
「おや、今度は何をやろうと考えているのです?」
背後からいきなり物凄い威圧感を感じた。
「シャ、シャウアプフ様!! 実は、温泉を掘り当てようと思い。今、キメラアントの方にお手伝いをお願いしていたところです」
相変わらずシャウアプフとのエンカウント率の高さにビックリだ。
討伐部隊も近くまで来ているようだし、人間である私に対して監視でも行っているのだろうか。そうでもなければ、ここまで絶妙なタイミングで現れる事に説明がつかない。
「温泉ですか? あまり、感心できませんね。討伐隊とやらが近くまで来ているこの状況下で敵に侵入経路をみすみす提供するような物ではありませんか」
「そ、そこまでは考え付きませんでした。私は、もうすぐお産まれになる王の為にと思い温泉をご用意しようとただそれだけの思いで…」
「……嘘ですね。私は、貴方の事をそれなりに気に入っているのですが…そのまま、白を切るというのならばこちらもそれなりの事をしなければなりませんよ」
ゾワ!!
辺りにいたキメラアント達も尻尾を巻いて逃げだしそうな程怯え始めた。シャウアプフがとても良い笑顔で圧倒的なオーラを使ってこちらを威圧しているのだ。師団長クラスですら青ざめており、雑魚蟻など既に失禁状態である。
ぶっちゃけ、私も血の気が引いている。
回答を間違えば死ぬな…。
「も、申し訳ございません。実は、ピトー殿と一緒にお風呂に入りたい!! という、素直な欲望です。ピトー殿に結婚を前提なお付き合いを申し込んだのに未だに何の進展もなく、思いついたのがコレでした」
「はぁ〜、そういう事なら素直に言いなさい。相変わらず、貴方がアホで良かったです」
今、この人、さりげなく私の事馬鹿にしたよね!!
「では!! 温泉掘っていいですか!!」
「ダメに決まっているでしょう。そんな事を兵達にさせるくらいなら周辺の警備でもやらせなさい」
あまりに正論だ。だが、ここで引き下がる私ではない。
「王がお生れになられたら、一緒にお風呂に入れますよ(ボソ」
「………」
「温泉は、疲労回復など様々な面で良い効力があるのは周知の事実。もし、王がお生れになった際にこの温泉をシャウアプフ様が王へご提供したならば必ずや王は貴方を褒めてくださいます(ボソ」
「…」
「あわよくば、お背中なんて流せるかもしれませんよ(ボソ」
「ここは王の為に全力で温泉を掘るべきでしょう。必要な人材や資材などは私が何とかしましょう。貴方は、必ずや王がご満足する温泉を作りなさい!! その命に代えても!!」
堕ちたな。
これで強制労働組が増えてしまったな。温泉の為とはいえ、キメラアント達と更に微妙な関係になる事は覚悟しなければならないと思うと少し頭が痛い。
数時間後。
蟻の巣下層では、信じられない速度で温泉の掘り当て作業と浴槽やその他設備が準備されていった。元々、この巨大なアリの巣を短期間で作った手前、ちゃんと命令さえできればその作業効率はトンデモナイ物である。
ジャポン風のお風呂を目指して、伐採チームが運んできた木材を切断し、私が作成した図面通りに蟻達が組み上げていく。無論、風情を出す為に木々や竹を植えたり、石庭作りなども欠かしてはいない。
ドゥーーーーーン
蟻達に指示を出しつつ、浴槽周りに装飾を施していると地響きが辺りに響いた。
「それにしても、モントゥトゥユピー様の破壊力は一線を画しておりますね。一発一発の威力がシャレになっていませんよ」
「我々、護衛兵の中でも物理的な威力だけで考えれば、王に一番近い攻撃力を持っているでしょう。…それにしても、掘りつづければ温泉に当たるんですか?」
ウボォー以上の火力とかマジでシャレにならんな。あんな攻撃食らったら、私なんてG・Iアーマー越しでも確実に死ぬわ。
「その点は大丈夫です。基本的に地中深く掘れば温泉は湧きますし、念には念を入れて温泉をダウジングする能力を開発してもらいましたので抜かりなしです」
「素晴らしい!! 是非とも、王と我々専用の温泉を用意しなさい」
「お任せください。最高の露天風呂をご用意させていただきます!!」
「そうそう、王と近衛兵専用のお風呂とはいえメンテナンスは必要です。特別に貴方だけは同じお風呂を使う事を許しましょう。但し、王が居ないときに限りですがね。無論、その時にたまたま、護衛兵の誰かが入浴していたとしても偶然なので仕方ありません」
なんて話の分かるお方だ!!
近衛兵公認で一緒にお風呂に入ってよいと許可がいただけるなんて、これ幸いだ!!
ならば、私もここは気を利かせなければならないね。
「偶然じゃ、仕方ありません。私も王と近衛兵のどなたかが入浴していた際にたまたまメンテナンスが必要になってしまい他の方の入場をお断りする事があっても仕方ありませんよね」
「フッフッフッフ、当然ですね」
「えぇ、偶然じゃ仕方ありません」
こうして、欲望まみれの二人の手腕によって工事からわずか一日足らずでジャポンの温泉にも負けない位風情溢れるお風呂が完成したのだ。
無論、色々と文句はでたが温泉につかる事によって荒ぶるキメラアントの感情も綺麗に洗荒れる事になったのだ。
改めてお風呂の力は偉大だと認識した。
温泉が完成した夜の事。
お湯加減は完璧!! そして、私の準備も完璧!!
モントゥトゥユピーとシャウアプフが既にお風呂を終えた頃合いを見計らって、私はピトーの部屋を訪れた。何をしに来たかと言えば、一つしかない。
空気が読める事で定評のあるシャウアプフがピトーだけ残してお風呂を終えたのだ。これが何を意味しているのか理解できないほど私はアホではない。
「ピトー殿、本日完成したばかりのお風呂はいかがでしょうか?地下から湧き出た温泉を使っており疲労回復やお肌にも良いと非常に好評です」
「うーーん、お風呂ね。最近、水浴びだけじゃ飽きてきたからちょうどいいか」
み、水浴びをしていただと!! なぜそれを私に言ってくれない!!
このレイアが全身余すところなく洗いつくしてあげるというのにorz
「ではでは、さっそくお風呂の方へ行きましょう。既に、他の近衛兵の方はご入浴を終えており私達の貸切状態です!!」
「今、寒気がしたのは気のせいかニャ…」
まぁ、今着ているメイド服もかなり露出が多いからね。そりゃ、色々な意味で寒いだろう…特にスカートの辺りがね。
「おぉ!! それはいけません。直ぐに温泉につかって体を温めるべきです。今ならピトー殿の為にマタタビ酒の熱燗もご用意しております。ささ、すぐに行きましょう!!」
あぁ…やばい。これからの事が楽しみ過ぎてもうワクテカが止まらない。
「そ、そうだね。じゃあ、とりあえずお風呂にいこうかニャ」
嬉しさのあまりにスキップしながら歩くレイアの後ろを、何とも言いようのない不安に駆られるピトーがいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
うーーん、やっぱり何かうまく乗せられている気がするニャ。
温泉最高、お酒最高、温泉卵最高。
何不自由ない最高の状況だというのにも関わらず、なぜか釈然としない。
「ピトー殿、温泉にタオルを入れるのは反則ですよ…しかも、胸の位置までタオルを巻くとか私を殺す気ですか!!」
「言っている意味が分からないニャ」
なんだか、隠さないといけないと思ってしまったからどうしようもないニャ。他の奴らにはどうでもいいが…なぜか、レイアの前では隠さないといけないという衝動に駆られてしまう。
ピトー本人も気づけていないが、レインボーダイヤの効果によりレイアを少なからず意識しているのだ。そして、生前の知識を元に温泉ではタオルを胸の位置まで巻くという事を知っており、それをこの場で実践しているだけの事なのだ。
「まさか、こんなタイミングで貴重な輸血パックを使う事になるとは…ピトー殿恐るべし」
鼻血を垂らしながら、どこからか取り出した輸血パックを使いだした。
若干、キモイ。
「どうでもいいけど、さっきからそこに置かれているヘルメットに<○REC>って写っているんだけど、それなに?」
「…た、ただのメンテナンスのお知らせですよ。それより、温泉と一緒にマッサージなどいかがでしょうか!? このレイアがゾルディック流の指圧マッサージを無償にてご提供させていただきます!!」
10本の指先に器用にオーラを手中させ、細長いオーラの針を作っている。
あの程度のオーラなら大丈夫か…
レイアと自分とのオーラを比較して害意があった場合を想定したが、円を維持した状態であったとしてもレイアに負ける要素など無いと判断できるほど歴然とした差がそこにはあったのだ。
「じゃあ、最近疲れているしお願いするニャ」
だが、この一言が後々後悔する事になるのだった。
キメラアントの筋肉繊維まで見極める事ができるレイアの目 と 変態的なまでに器用な指先によって手も足も出ない状況に追い込まれることになるとは誰も思わなかっただろう。
その日の夜…、ピトーのとてもいい声が温泉に響いたがそれを聞いた者はレイア一人であった。
胸の位置までタオルをまくピトーっていいよね。
追伸)
更新が遅くなって申し訳ありません。
10月は仕事が忙しく、11月になったら落ち着く予定だったのですが…忙しいところに編入させらえれるという悪夢が…orz