やっと更新できました。遅くなってしまい申し訳ありません。
29話
今朝から妙な胸騒ぎがしているレイアです。
温泉を掘ってから早数日、日に日に嫌な予感というか…胸騒ぎが強くなってきている。しかも、今日は特別だ。一級死亡フラグ建築士ばりに、死地へ赴いた私の直感が言うに今日……王が誕生すると告げている。
できれば、キャス狐の方が先に孵化して欲しかったが無理なようだ。キメラアントの孵化が早いとはいえ、状態を見る限り後三日は掛かるだろう。王は、仲間であるキメラアントすら食べてしまうほど悪食だ。キャス狐と一緒に蟻の巣最下層辺りでひっそりとやり過ごそうと計画していたが無理だ。
キャス狐の卵が今は大事な時期で動かせない以上、王が産まれる際は、私一人で蟻の巣最下層でやり過ごすしかないな。いくら王でも、孵化前のキメラアントまで食べてしまわない事を切に願おう。幸い、私の部屋は女王の部屋からも距離があり、また蟻達が沢山集まるような場所でもないからキャス狐の卵だけ放置したとしても生き残る可能性は高い。
外に逃げておくのもありだが…万が一、外に逃げ出している最中に王が誕生してそれが見つかったら間違いなく殺されてしまうだろう。原作では、産まれてすぐに最上階の見晴らしのいい場所で食事をしていたからね。この世界でもそうなるかは微妙だが…可能性は考慮しておく必要があるだろう。
だから…
王が隣の国に出ていくまで最下層でひっそりと過ごすかな…
そうと決まれば、さっそく大事な荷物だけを纏めて引っ越し開始だ。
作成途中のキャス狐の着物を丁寧に折りたたみ、手入れ中のベンズナイフをしまい、万が一の備えとして作っておいた燻製肉などの保存食を詰めた。後は、私が逃亡したのではない事を証明する為に、一時引っ越したという旨を書いたメモを残しておこう。
まぁ…私を監視しているであろうシャウアプフの分身がどこかにいるから一応伝えておくかな。
「シャウアプフ様、今日からしばらく最下層で暮らしますので引っ越しますね。後、私の勘によれば本日王が誕生します」
誰もしない空間にそう告げて私は荷物を背負い最下層を目指した。
キメラアントの巣最下層にて。
温泉の熱気で蒸し暑いはずの部屋だというのに、とても寒い。手が震えてキャス狐の服を作るどころではない。
「まずいな…これはまずい」
何が原因でここまで寒いのかは、理解したくないが分かっている。
原作と異なり、栄養が豊富な餌を食べすぎたせいで原作よりパワーアップした王が今まさに生まれようとしている。その禍々しいオーラがヒシヒシと伝わっていている。
絶で気配を絶つことも考えたが…絶の状態で王の異常なオーラに当たれば廃人になる事は間違いないから普段通り鎧に着込み、部屋の隅っこで王という嵐が過ぎ去るのを待つ。
はやく、コムギに会って王が少しでも人間に対して、生かしても良いかな程度の感情を得るのを切に願う。
・・・
・・
・
「ヒィイイイイイイィィィィーーーー」
息を潜めていると、キメラアントの巣の中に一際大きい悲鳴が響いた。その声は悲鳴というよりまさに断末魔と言った方がいいだろう。
王の誕生までは、王に対してとてつもない程に恐怖を抱いていたが…女王の断末魔を聞き何故が私の震えや恐怖心は少しずつだが和らいできた。
よくよく考えれば、私に後戻りという選択肢などないのだ。新しく作った能力の仕様上、今逃げてもどの道死ぬだけだ。むしろ自暴自棄になるくらいが丁度良くバランスが取れるのだ。
私は、G・Iから持ち帰ってきた三枚目のカードと私の第二の能力である一枚の契約書を改めて確認した。
この契約書さえあればいかにピトーとてあがらう事は出来ない。絶対強者であるピトーを生涯拘束する程の制約を課したのだ。
『自己強制証文(ねこのおんがえし)』
某ゲームに出てくる物を参考にして、体を犠牲にまでして作り上げた最低最強の能力だ。無論、対象者はピトーに限定されるがな。この能力に課せられた制約を纏めるとこんな感じになる。
1:ネフェルピトーにしか効果が無い。
2:能力開発から二年以内に本能力を使用しなければ、能力者は絶命する。
3:契約書にネフェルピトーが自分の意志でサインしない限り、能力の効果は発生しない。
4:契約書にネフェルピトーがサインをしない場合は、能力者は絶命する。
5:契約を持ちかける際に、契約内容をネフェルピトーに一字一句間違わず伝えなければならない。その際に嘘偽りを言った場合は能力者は絶命する。
6:契約書にサインされた場合でもネフェルピトーが出した要求を全て完遂しない限り、能力は発生しない。要求を完遂できない場合は、能力者は絶命する。
7:能力発動時にこの能力に使用したメモリーごと失う。
我ながらきつい制約を作ってしまったと常々思う。だけど、この位しないとピトーを拘束するなんて不可能だ。この能力のキモになりそうなのがやはり6番の項目だろうね。白紙の契約書だから相手が出した要求すべてに答えねばならない。
だが、いかなる要求を出されても私は答えるつもりだ。その為にここまで来たのだからね。
そして、この能力を補助すべく用意したのがこの最後のカードだ。私の今後の運命は、この最後のカードとタイミングに掛かっている。
私は今後の計画を再確認し、カードと契約書を鎧の内側にしまい込んだ。
「……だけど、その前にこの修羅場をどう切り抜けようかな」
何が修羅場かというとね…それは
ズゥーーーーン
その瞬間、私の後にあったはずの壁が綺麗にぶち抜かれた。厚さ二メートル以上ある壁をたった一撃でぶち抜くとかありえないだろう。しかも、ぶち抜いた本人は、軽くオーラを集めて殴っただけだというしまつ…手におえる存在ではない。
砂埃が舞う風によって吹き流され、その先に立っていたのは現時点でこの世界最強の存在であるキメラアントの王…メルエムであった。そして、その後ろに近衛兵の三人が居た。
マジこいつ等なんで王をここに連れてきているんだよ!! 私が最下層に隠れた意味が全く持ってないだろう。もっと他にやる事あるんだろう!! と激しく抗議してやりたい。
「小汚い部屋だな…拭け」
王が自慢の尻尾をこちらに差し出して拭けと言ってきた。
確かに、今の砂埃のせいで若干汚れてはいるが拭くほどの物ではない!! なんて言えるわけないだろ。そんなこと言った日には、死ぬよ。たった今、立てた計画が全て水の泡だよ。
「お、お任せください」
私はすぐさまキャス狐の服用に取っておいた上質の布を使い王の尻尾を丁寧に拭いた。近くで見てみるとマジで○ラゴンボールに出てくるアレにそっくりだ。きっと、尻尾を相手に刺すとエネルギーとか吸い取る仕様なんだよね。
「もう良い。まさか、餌が我らと同じ巣穴で平然と暮らしていようとはな。貴様の今までの貢献を鑑みて、生かしておいてやる」
そして王は何事もなかったように部屋を立ち去った。
「いやー、一時はどうなるかと思ったけどよかったニャ」
「王も一目であなたがいかに我々に貢献したか見抜いたでしょう。やはり、紹介して正解でした」
「おぃ、さっさと行くぞ」
………今、シャウアプフがトンデモナイ台詞を言ったぞ。
王に私を紹介しただと!! もっと、タイミングを見計らってから紹介してくれよ。このタイミングでの王って人間を餌としか思ってないんだぞ。そんな王と私が出会ったら私が死ぬかもしれないって思わないのか。
「言いたい事は山ほどありますが、早く行ってください。王をお待たせすると色々と不味いので」
「そうですね。では、また後ほど」
「またニャ」
護衛兵の背を見送りながら、驚愕の新事実についてどう対応しようか検討中だ。
キメラアントが性別的に雄ばかりだったのはそういう訳だったのか…
「『賢者タイム』は王にも通じる能力だと自負していたが、間違いだったな」
不幸中の幸いなことに、『賢者タイム』が王に通じる通じないは私のプランには全く関係ないのだ。だから、私が今やるべきことは一つ。
将来的に死ぬ王より、今の私にとって重要なのはもう一人の王の方だ。
キャス狐への命令権は私が最上位で無ければならないよね…常識的に考えて。
女王の死と王の誕生、その二つのイベントが同時におこり荒れる蟻の巣を女王の部屋目指してあるくレイアであった。
メルエムに、『賢者タイム』には効果がありません。理由は…言わなくても察してくれると信じています!!
どうでもいいですが…いつかレイアの口からピトーに『僕は君に逢うために生まれてきたのかもしれない』というカヲル君のセリフを是非使いたいと思っている作者がここにいる。