30話
王と護衛兵と別れて、女王の間を目指して歩むレイアです。
「王は王でも、まさか女王陛下だったとはね…」
見た目が原作のままで実は性別が雌でしたなんて…本当に何の冗談かといいたいが、これが真実である以上受け入れねばならない。
確かに、キメラアントの生態は基本的に全ての個体が雄だ。だが、そのキメラアントの中でも雌の個体も存在する。それが、女王の存在である。
世界を統べ、種の繁栄という意味的に考えればメルエヌが女王であったとしても何の不思議もな……いのかな? キメラアントという種を後世に残す必要があるからね…そして、交配の相手がおそらく護衛兵といったところだろう。世界最強とそれに限りなく近い存在が結びつくのだ…生まれてくる子供は更に凶悪な存在になるだろう。
・・・
・・
・
私のピトーになる予定が、まさか王の花婿候補だったとはね…。
知りたくなかった事実だ。
こういう時、自分が無駄に良い目を持ったことを後悔するよ。性別なんて知りたくなかった…。世の中知らない方が幸せな事もあると初めて思ったよ。あの姿で雌とかねーよ。全裸で歩かれても対応に困るよ。
というか、そうなると少年誌で全裸姿の王を載せていたあの雑誌は完全にアウトではないか!! ……いや、富樫もおそらく性別なんて考えてなかったのだろう。それとも、私という異物のせいなのだろうか。
どちらにせよ!!
メルエムという存在が更に異質な者になったのは間違いないという事だ。
ザワザワ
女王がいる部屋を目指して、備え付けられている階段を徐々に上るにつれて血生臭い匂いが漂ってきた。辺りを見てみると、見るも無残な死体となったキメラアント達が転がっている。
五体満足の死体が殆どない…。頭部が欠損している死体が殆どである事からメルエムに美味しくいただかれたのは間違いないだろう。原作と異なり、キメラアント達も栄養豊富は人間どもを食らっていたからね。王にとっては人間同様に餌に見えたのだろう。
この様子だと…師団長クラスまで食われたのではないかと心配してしまうよ。
まぁ、食われたとしても何にも問題ないけどね。むしろ、今後の動きやすさを鑑みて是非とも食われておいて欲しい。誰も気づいていないとはいえ、もう一人の王を始末しようとしているのだ…下手を打って事が明るみに出て争いになるのはごめんだ。
しばらく歩くと、目的地である女王の間まで到着した。
そして、その付近には生き残ったであると思われる師団長と兵団長クラスの蟻達がたむろっていた。原作補正とでも言うべきなのだろうか…あれだけの惨状だったというのに生き残った連中は、原作と同じメンツだ。だが、これは不幸中の幸いでもある。なぜなら、全員の名前が分かるからね…私の能力の発動条件は満たされている。
「誰でもいいから治療できる奴を早く連れて来い!!」
「やれるだけの事はやってみよう。その間に、ネフェルピトー殿のお気に入りの人間を連れてきてくれ」
コンドル型のキメラアントとイカ型のキメラアントが何やら女王の治療の為に色々と画策中の模様だ。そんな騒動の中、なぜか私がご指名されたのかは謎だが・・・碌でもない事は、間違いないだろう。
女王を心配している二人は私の存在に気づいていないが、他の蟻達の視線は私に集まっている。
そんなに見つめられたら気まずいだろう…常識的に考えて。
「絶妙なタイミングで来てしまいましたが…私に何か用ですか?」
空いた部屋の扉から今にも死にそうな女王の姿がうかがえる。死んだ他の蟻達と異なり、原型は留めているが、内臓が殆どダメになっているのが良くわかる。ほとんどの臓器が木端微塵だよ…あの状態で生きているのが不思議なくらいだ。流石は、キメラアントといった所だろう。
私の声を聞き、これ幸いとコンドル型のキメラアント…コルトが私に詰め寄ってきた。
「今すぐ、女王の治療をしてくれ!! 必要な物は全て揃える。だから、女王を必ず救ってくれ!!」
女王を救いたいと思う気持ちは十二分に分かるが…仮にも、今の女王の様子をみて必ず救ってくれとは無理難題である。しかも、これで救えなかったら私が悪者みたいになるんだろう。
はっきり言って『だが、断る』と言い放ってやりたい。
だけど、空気が読める私はそんな事は言わない。それに、女王への接触はこちらにとっても非常にありがたい。
「…分かっていると思いますが、あれ程までに傷ついた女王を完璧に治療するのは私では不可能です。私に出来る事は、延命措置程度です。ですが、少なからず望みはあります」
「どうすればいい!? 女王が治るなら何だってする」
「念能力により治療です。貴方達キメラアントの体は、非常に特殊です。残念ながら、今の医療技術をもってしてあそこまでの大怪我は完治できないでしょう」
「しかし、治癒系の能力者は…」
そう、ピトーしかいない。
そして、既に断られている事も知っている。無論、私からお願いしても恐らく難しいだろう。おまけに、当事者は既に巣を旅立ち他国へ向かっている真っ最中だ。
「ピトー殿しかいませんね。そして、既にここを旅立ったのも知っております。ここに来る前にご挨拶を致しましたからね。おまけに、ピトー殿を除き治癒能力持ちがキメラアントの中で居ないことも存しております。そう…キメラアントの中にはですがね」
治癒系の能力を持った念能力者ははっきりってレアだ。
除念程ではないにしろ、探すのは非常に困難だろう。おまけに、ピトー程の治癒能力をもった者は恐らく人間の中には居ないだろう。
「人間に治癒能力を強制的に覚えさせろと…」
「それでは、人間が能力を開花させる前に女王の命が尽きてしまうでしょう。……討伐部隊に降伏しましょう。それが、女王を助けられる可能性がある唯一の手段です」
もしかしたら、餌の貯蔵庫にゴンやキルア並の才能を持つ人もいるかもしれないが…例え、それほど程までの才能があったとしてもわずか数日で念を完全に取得し、治癒能力系の発を覚えるのは無理だろう。万が一できたとしても、使い物になるレベルには達しないだろう。
「人間を襲っていた我々に手を貸してくれるのか? むしろ、これを機に攻め込んでくるのではないのか?」
「どの道、王と護衛兵が居ない現在。討伐部隊と真面にやりあって勝てるキメラアントは居ません。仮にも、人類最強クラスの念能力者がここにきているのです。全滅させられるか、降伏して生き残れる事に賭けるしか道はありません」
例え、この場に残った全員が一斉に討伐部隊に挑んだとしても恐らく勝てないだろう。ネテロ会長と実際戦った事は無いが、化け物クラスの実力者だという事は間違いあるまい。
「っく!! 残った者達と相談してくる。お前は、女王の治療を…」
「各々の意見もあると思いますので、しっかりと纏めておいてください。この場で争いごとになれば、女王の延命措置どころではありませんから」
私はその間に、もう一人の王の排除と女王の延命をやるとしよう。
人間と大分異なってはいるが、やる事は同じさ。要するに、臓器をつなぎ合わせてギリギリ死なない程度にしておけばいいのだ。旅団のマチほど器用に縫合は出来ないが、時間を掛ければそれなりに元通りにはできるだろう。…外見だけだけどね。
コルトが他の師団長達の方へ向かうのを見届けて、私は女王の傍へと移動した。イカモドキのキメラアントの一緒についてきたが問題ない。原作でも、治療を行ったらしいが…もう一人の王の存在に気付けない程度の奴だ。
「急いで女王の治療を致しましょう。私は、破損した臓器と血管、神経をつなぎ合わせます。貴方は、止血と女王が意識を失わないように声を掛け続けてください」
「わかった。だが、一人でそれほどの作業大丈夫なのか?」
「問題ないさ。貴方達に医療技術などを教えたのは誰だと思っているのですか」
いうまでもなく、私が医療技術などをキメラアントに教え込んだ。生かすにしろ殺すにしろ覚えておいて損はない技術だ。もっとも、繊細な作業と集中力が必要な為、ほとんどのキメラアントは聞く耳を持たなかったけどね。
数十分後。
グチャグチャ
「ふぅ〜、予想以上にきついな」
壊れた臓器を元通りにすべく、肉片同士をつなぎ合わせている。どれもこれも似たようなパーツだからとてもつらい。言うならば、真っ白の5000ピースのパズルをしているような感じだ。
そして、何よりキツイのは、この奇怪な臓器の中に埋もれた小指ほどしかない王をばれないように発見し、始末するという事だ。
全身全霊を持って探してはいるものの未だに発見できていない。
あまり、大胆に臓器を動かしていしまうと女王が死ぬ可能性もあるし、王が産声を上げてしまう可能性もある為、気を付けないといけない。
王を探しつつ治療をしたおかげで、人間の私の目からみても、今にも死にそうだった女王の顔が少しずつだがよくなってきている。だが、それでも長くは持たないだろう。何分、出血量が尋常じゃない。他のキメラアントの血液を輸血しようかとも考えたが…やめておいた。同じキメラアントとはいえ、体のつくりが違い過ぎて、下手に輸血をした場合死ぬ可能性の方が高い。
まだ、死なれては困る。
「やはり、出血が多すぎますな。我々の血液を輸血できないのが悩ましい」
「こればかりはどうしようもありません。早いとこ、コルト殿が討伐部隊の治療班をここに連れてきてくれる事を祈るだけです。血液を検査する装置さえあれば、輸血可能か判断できますからね」
我々が女王の治療を行っている最中、師団長同士での話し合いに決着がついたのだ。そして、今コルトが討伐部隊に白旗を持って行っている頃だろう。
ちなみに、白旗は万国共通の降伏の証だと教えてあげたよ。
「それまで、他の者達がおとなしくしていればいいのだが…」
「十中八九、無理でしょうね。女王がいてこそ成り立っていた生態系です。そして、女王が危篤。新たな王は、護衛兵をつれて他国へ。残った者達の行動は、大体予想がつきます」
コルトが討伐部隊を連れて来れば、残っているキメラアント達の処遇が確定する。悪くて、処分。良くて、保護観察という名目の実験材料だ。人間とキメラアントを掛け合わせたという、とても貴重なサンプルだ。マッドなサイエンティストが見れば喜んで解体するだろう。
「相変わらずいい勘してんな。俺らは、コルトの野郎が戻って来る前にここを発つ予定だ。各々でやりたい事もあるしな。それで、お前はどうすんだ?」
私の後には、これから出立するであろうキメラアント達が居た。そして、ハギャが私に今後の予定を尋ねてきた。
レイアは、戦闘力という面ではキメラアント達と比較してかなり劣るが、人間の世界に精通した知識とハンターという特別な職についており人間の世界ではかなり融通が利く存在である。実際、蟻の巣での事務能力や無駄に手先が器用な所はキメラアント内でもそれなりの評価を得ていたのだ。
要するに非常に便利な駒なのだ。
「それは、私も一緒に来るかというお誘いですか?」
「あぁ、俺が王になったらそれなりの待遇を約束してやるぞ」
百獣の王といわれるライオンがベースになっている事が原因かは分からぬが、自分が王になれるという考えに私はアホだと思った。
万が一、ハギャがどこかの国の王になれたとしても王と護衛兵の三人に勝てるとは到底思えない。それに、原作知識がある以上、こいつにそんな未来が無い事は分かり切っている。
まぁ、そんな事を口に出して言うほどバカではないがね。
「私が、キメラアントの巣まで来た理由をお忘れですか? 私は女王の治療が終わり、討伐部隊の方と入れ替わりでピトー殿とにゃんにゃ…じゃなかった。ピトー殿にお仕えに行きます」
「……相変わらず、未来に生きてるな。じゃぁな、俺らはいくわ」
ハギャとその一同達に呆れられたような気もしたが気のせいだろう。
居残り組とわずかに残して他のキメラアント達は、各々の判断で各国に散って行った。
更に数時間後。
ふっふっふ
ついに…ついに、見つけた!!
女王の体から延びる血管や神経を全て辿っていく地味な作業の末、もう一人の王に繋がっているへその緒を発見した!!
臓器が上にかぶさり、どこ角度から見ても死角となっていた位置に王が居たのだ。
私は、治療行為を行いつつばれないように右手で慎重且つ優しく王を右手にのせた。そして、拳を軽く閉じた。
その王は、本当に小さい。そして、まるで人間の胎児の様にも見える。だが、見た目に惑わされてはいけない。この子が成長したら、人間よりはるかに強靭な肉体と念能力を持った存在になるのは間違いない。
某アニメで宇宙の地上げ屋と名高い一族だって、たった一人のサイ○人を見逃したせいで全滅させられたのだ。
よって、人類の敵になる可能性がある最強最悪の存在を弱い時に潰しておくのは至極当然である。
「人類の危機を未然に防ぐって私って…偉いんじゃない」
と、誰も褒めてくれないから自画自賛してみる。
「何か、言ったかね?」
「いえ、コルト殿はまだかなと…。それより、治療もこれ以上殆ど出来る事がありませんので皆様でお食事にいかれてはどうですか? 討伐部隊の方が来たら最後、レアモノを食する機会は二度と無いと思いますよ」
小声で漏らした独り言を拾われてしまった。今まで、極限状態だったが王を見つけた事により気が抜けてしまい、ボロが出るところであった。
「確かに、これ以上の治療はできないだろう。だが、このタイミングで食事を行うのは……」
「大丈夫ですよ。残った人達で口裏を合わせればいいんですよ。私は、何も聞いていませんし見ていません。…最後の食事になる可能性だってあるんですよ。少しくらい、いいじゃないですか」
レア物を食べる機会は今を逃せば間違いなくなくなるだろう。そして、状況次第では、本当に最後の晩餐になる可能性もある。キメラアントだって、最後位いい飯を食べたいだろうと心優しい私は、キメラアントを気遣ってあげた。
はやく、この場からいなくなれよ!!
「だが…」
「女王は、私がしっかり診ておきますのでご安心ください。さっきまで、近くにしたキメラアントの方々は、既に貯蔵庫に向かわれましたよ」
「なんだと!! ……し、しばらく席をはずす。後の事は、任せたぞ」
イカのキメラアントを見送ってから、メレオロンが隠れていないか確認する為、熱源センサーも確認してみるが問題なし。
これで、女王と二人っきりだ。
女王は、意識不明の重体。赤子の王も念能力は使えず、そして身体能力的にも、今の私に遥かに及ばない。今の王を文字通り捻り潰すのは赤子の手をひねるより簡単だ。
女王と王を結ぶへその緒をベンズナイフで切断し、王を取り出した。
手の中にいる王を見てみると、心臓が動いているのが分かる。
「悪く思わんでくれよ。さようならだ」
・・・
・・
・
グチャ
こうして、表舞台に現れる事無く一人の王がこの世からいなくなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
東ゴルトー共和国の王座にて。
この国の王にして、最高の権力者が一枚の紙と大人が丸々一人入る程の大きさをした棺桶二つを眺めながら薄気味悪い笑い声をあげていた。
「ぶひっひっひ、やはり愚民どもを使い只管応募をさせたのが効いたな。いいか、箱から丁重に出して、そこに用意した椅子に座らせろ!! 万が一、傷の一つでも付けたらどうなるかわかっているな?」
「は!! かしこまりました」
兵士達は、非常に動揺していた。王に直接呼び出されだけでなく、バイオハザード対策に着る防護服まで着せられたのだ。そして、我が国が誇るエイジェントを使っても何処からか届いたかも分からない、人間が入る程の郵便物を開ける事になったのだ。
中身については、一切他言無用とまで指示が出ており、口止め料まで渡されている。
兵士達は、息をのみ箱を開封した。
箱の中に入っていたのは………幼い少女だった。
「す、素晴らしい!! 流石、フィギュア界の巨匠と言われるレイア様の作品だ。ここまで、精巧なフィギュア見た事が無い」
王は、感動のあまり泣いていた。カタログスペックは、先ほど見ていたがやはり実物は違う!!
兵士達の中にも『フェイトちゃん、テラカワユス!!』と叫んでいる者や『なのはちゃん、キタ』とか意味不明な言葉を叫んでいる者もいる。
「王様!! 私は、一生貴方に着いていきます!! だから、たまに…彼女達に会わせてもらせませんか!?」
「私も!!」
「か、可能であれば記念撮影も!!」
昨今、東ゴルトー共和国ではテレビ放送でアニメ専門チャンネルなどが用意されるほどアニメに力を入れていたのだ。最高権力者である王が重度のアニメマニアで且つフィギュア集めが趣味だという事が原因だろう。
ちなみに、レイアの作品をミルキの次に多く落札をしている重度のファンの一人でもあった。
「ふっふっふ、愚民どもの要望に応えるのも王としての務めだ。但し、何事も私が最初だぞ」
盛り上がる兵士と王を遠くに、全うな兵士は『この国、もう駄目じゃね』と思いを募らせているのであった。
見た目はそのままで、性別が雌な王が誕生しました。
一応全裸だが、この作品はR指定にはならないぞ!!
読者の心の目に期待します。
次話は、キャス狐と一緒に旅立つ予定です。