31話
握りつぶした王を丁重に葬り、コルトが討伐部隊をここに連れてくるのをひたすら待っているレイアです。
コルトが出て行ってから、ほぼ丸一日が経過した。
女王の容体は、相変わらず芳しくない。どう頑張っても、後数時間の命に見える。それほどまでに女王は弱っている。食事でも口に出来れば状況は変わりそうなのだが・・・生憎と内臓があれでは栄養が吸収できるとはとても思えない。
「まずいな…。早く、討伐部隊の治療班を連れてこないと長くは持たないぞ…」
「一体何をやっているのだ…」
心配している風にはしているが、正直言えば女王の生死など私にとってはどうでもいいのだ。どの道、死ぬ事は分かりきっている。治療を行ったのも王の抹殺が目的だからね。既にその目的も果たされた。
後は、キャス狐の孵化を待ってここを立ち去り王の元へ行くのみだ。
・・・
・・
・
あれ…会長達が来た場合、私の処遇ってどうなるのだろう。命の心配はする事はないだろうけど、身柄の拘束なんて事は十二分にありえそうだ。キメラアント達への念能力の指導なんて、どう考えても不味い。
しかし、栄養豊富な人間を女王に進呈する事で人的被害を最小限に抑えたという功績もあるにはあるが…そんなの、被害が最小限になったとは誰が判断できだろうか。おまけに、生き残っていたであろう人間達もキメラアント達の最後の晩餐により綺麗に処理されてしまった。
「イカさん、イカさん。少し、尋ねたい事があるんですがよいですか?」
「なんじゃ?」
「今更ですが、討伐部隊の方が来たら私の立場って非常に不味くありませんか?」
「そうじゃの…我々の為に尽くした分、人間としての立場は危うくなるんじゃないかの…お主が人間だとしても」
「ですよね〜」
討伐部隊の連中が来る前に逃げ…れないよね。
孵化前のキメラアントン卵なんて、研究者が群がるような物おいていけるはずがない。かといって、卵の事を隠しつつ又は守りつつ討伐部隊をやり過ごすなんてことも不可能だろう。
隠れるにしても一時凌ぎになるだけか…ピトー程ではないにしろ、討伐部隊の連中も超一流だ。かなりの範囲に円を展開できるだろうしね。
むしろ、ここは開き直って会長達に情報を売りまくって誤魔化すかな…一応ハンターという身分だしさ、潜入調査という名目でここにいる事にすればなんとか……ならないかな? 王と護衛兵の念能力とか耳よりな情報もあるし何とかなるだろう!!
しばらくして。
静まり返っていた、蟻の巣に沢山の足跡が響く。
「コルト殿、お帰りで…」
「あぁ、揉めそうな連中がいないのは不幸中の幸いだな」
王の誕生からほぼ一日が経って今、やっと討伐部隊の到着だ。
コルトの後方には、防護服のような物を着込んだ医者らしき人間が多数いる。医者達は、女王が居るこの部屋を見て、一瞬変な顔をしたがすぐさま仕事の顔へと切り替えた。女王の部屋は、蟻の巣の構造からではありえない程、加工されているから無理もない。
床、壁、天井に至るまでこの私が全身全霊をもって改装したのだ…飾られている美術品の贋作だって良い値段がつく事間違いない程だ。まさに女王の間にふさわしい内装になっている。
すぐさま、携帯用の無菌室らしきものが作られ手術が行われた。
「止血縫合は、貴方達がやったの?」
「その通りだ」
「うむ、私達ではこれ以上の処置は無理だ」
私とイカで復元できるところは、可能な限り治した。だが、復元した臓器の大半が機能しておらず…もはや時間の問題。
「私達だって似たようなものよ。動いていない臓器を全て人工臓器に付け替えるわ。それで、奇跡的に女王が回復する事を祈って」
討伐部隊が到着まで女王を生存させたので私はそろそろこの場を離れてキャス狐の卵の保護へ向かおう。後の展開は、見えているから見るまでもない。
ドン
さり気なく振り返りってみれば、何やら肉壁にぶち当たった。
「これは失礼。それじゃあ……」
いつの間に背後にいたモラウの胸板に衝突したので、謝ってその脇を華麗に通り過ぎようとしたら、ガッシリと肩に手を置かれてしまった。
…動けない。
「おっと、お前さんには色々と聞きたい事が有るんで少しばかり残ってもらおうか」
「知っている事を洗いざらい吐いてもらいましょうか。人間である貴方がここにいる理由など特に興味深いですね」
モラウだけでなく、ノヴ…ナックルとシュートまでもが揃っていた。賢者タイムで逃げ切れるかと言われれば難しい。モラウとか絶倫くさい相手にあの能力は厳しい…輸血パックを考慮してもこの人数を同時に戦闘不能まで堕とす事は不可能だ。
「黙秘権は?」
「あると思っているのか?」
「ですよね…。まぁ、何でも喋るんでとりあえず、私物には勝手に手を付けないでくださいよ。今大事な時期なので触れると大変な………モラウさん、頭下げた方がいいですよ」
私の忠告が何を意味しているのか、理解できていないようだ。
まぁ、私と対面しているから背後に目でもない限り見えないから仕方ないよね。
ゴン
「ぐぅっ!!」
背後からの見事な奇襲により、モラウの頭部へ綺麗に蹴りが決まった。
モラウへの奇襲のせいで、討伐部隊のメンバーに緊張が走る。
それも当然の事である。いくら、討伐部隊の受け入れに反対していたキメラアントが居なくなったとはいえ、腹の内までは分からない連中の巣の中に居るのだ。いつ、襲いかかってこられても対応できるだけの構えをしていたのに関わらず、モラウ程の実力者が攻撃をくらってしまったのだ。
「あらら、結構本気で蹴ったのに倒れないなんて、流石肉ダルマなだけはありますね。というか、汗臭いんで早くご主人様から離れてください」
蒼いノースリーブの和服に狐耳、大きな尻尾。妖艶な雰囲気を漂わせた女性…じゃなかった、女性型キメラアントが居た。
・・・
・・
・
ありがとう女王!!
今にも死にそうで苦しんでいる女王に心から感謝した。
ピトーだけでなく、キャス狐も手に入れられるなんて生きててよかったわ。まぁ、ピトーは予定だが…それも近いうちに現実になる。ピトーを手に入れる為に、しっかり働いてもらいますよ。その為に、女王から貴方を貰ったのですからね。
「とりあえず…グッジョブ!!」
親指を立ててグッジョブとアピールした。
討伐部隊の連中は、警戒しつつも私とキャス狐とのやり取りに唖然としていた。
キメラアント達は、見たことないキメラアントに対して一瞬頭を悩ませたようだが…私が女王から授かっていたのを思い出したようで、アレがそうかといった顔をしている。
「いててて、どうやら話を聞く事が増えたようだな」
モラウの額に血管が浮きでている。
というか、なんで私の方をみてそんな怖い顔をしているんだ。顔面に蹴りを食わらせたのは私の横にいるキャス狐だというのに・・・理不尽だわ。
数時間後、NGLの国境付近にて。
女王をキメラアント達が見守る元で丁重に葬り、私とキャス狐改めタマモは、NGL国境まで戻ってきている。本来なら重い処分も十分にあり得たのだが…そこは『ゴンとキルアの兄弟子だよ!!』『キメラアント達の念能力を探るべく単身で潜入したんだよ』と真実9割と嘘一割程度で乗り切った。
まじ、あの二人が討伐部隊の人たちにとてもいい印象を残しておいてくれたおかげで私の株もうなぎ上りだ。しかも、ビスケが師匠という事もあって私の株価の上昇が止まらない。
あ…ちなみに、後半の『単身で乗り込んだ』という件については隣で聞いていたコルトが横やりを入れてきて『ネフェルピトー殿に一目ぼれして、乗り込んできたと聞いたが』とか言ったせいで無謀なハンターから変態なハンターへクラスチェンジしてしまったよ。
そして、今何をしているかというと…
「どれも一筋縄ではいかない念能力じゃな…」
「護衛兵は、何とかなるでしょうが…王の念能力は不味いと思いますよ。食事のたびに力が上がってはシャレになりません。全盛期のネテロ会長ならまだしも、今ではよくて護衛兵と相討ちがギリギリかと思います」
王と護衛兵の情報を洗いざらい売りまくっております!!
情報を売らないとハンターライセンスの取り上げだけでなく、タマモも取り上げるというんだもん。酷いよね…これが同じハンターのやる事かよと言いたくなる。
まぁ、でも情報を売れば今回の件は見なかったことにしてくれるようだからそれだけは嬉しい。
モフモフ
話をしつつタマモの尻尾のお手入れをしております。
いつまでも触っていたいと思わせるよう手触りで困ってしまうよ。
「もっと、もふもふしていいんですよご主人様。でも、それ以上先はダメですよ〜。ピトー殿に私が殺されちゃいますから」
タマモのお言葉に乗って尻尾をモフりまくる!!
「頭が痛い……こんなのが、私達と同じハンターだとは。今後の試験は、受験者の精神チェックも必須にすべきと進言しておきましょう」
「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!! 世の中、人体収集家とかもっと悪趣味な連中が蔓延っているんだから、私の趣味なんてそいつらに比べたら至ってノーマルですよ」
ノヴがいくら優秀なハンターでも一人の意見でハンター試験に精神チェックなんて導入できるはずもない。もっとも、ノヴが試験官を務めるハンター試験ならばそういうチェックを行うかもしれないがね。
「そんな連中と比べたら誰だってノーマルになるわい。まぁ、趣味嗜好なんぞ人それぞれじゃから儂は気にせんよ」
「流石、ネテロ会長!! 伊達に長く生きているだけの事はあります。……ところで、私達はそろそろ帰りたいのですが、良いですか?」
提供できるギリギリまで情報を渡した今、会長達にとっても私達は用済みのはず。
おまけに、他のキメラアント同様にタマモも人間を食わないと誓いをたてさせられた。だけど、モラウも甘いよね…ビーストハンターだか何だか知らないけど、他のキメラアント同様に口約束で信頼しちゃうんだからね。普通なら、念能力の誓約書なり書かせるべきだと思うよ。
「構わんよ。後は、我々が引き受けよう」
「私としては、まだ何か隠してそうで聞き出したいところですが、会長がそう仰るのでしたら仕方ありません」
「約束忘れるなよ」
会長、ノヴ、モラウからお言葉を貰いようやく解放される事になった。
「あぁ、そうじゃ少年」
「なんですかネテロ会長。というか、私は既に少年と呼べるような歳ではないのですが…なんでしょうか?」
「細かい事はいいんじゃよ。私から見たらみんな少年じゃよ。なーに、そんなに気構えんさんな。女王が居った部屋にあった美術品の数々はお主が作ったのじゃの? 以前に貰ったフィギュアと雰囲気と留まっているオーラが酷似しておったからな」
「お気づきになりましたか。よく出来ていたでしょう。自分でいうのも何ですが…なかなか会心の出来でしたよ」
「あぁ、よく出来ておった。一流のハンターと言えども、真贋と贋作を見違う程の出来じゃったわい」
予想以上に会長からの大絶賛を受け恥ずかしながらも非常にうれしい。
やはり、自分の作品をそこまで褒めてくれるのは作者として非常にうれしい事である。
「ありがとうございます。それで、作品がどうかしたのですか?」
「作者の確認と作品の扱いについて報告しておこうと思ってな。あれ等は、ハンター協会で管理する事になった。贋作とはいえ、あのレベルになると欲しがる輩が多くての…」
普段なら持ち主又は作者に返すのが通りである。
ハンター協会相手にその事を捻じ曲げてまで圧力を掛けられる存在は…キメラアント討伐の命じた連中とみて間違いないな。
というか、作者の確認とか雲行きが怪しいぞ…。これは、本格的に将来の安住の地を考えなければならないな。
「大事にしていただける方に貰われるのでしたら別に構いませんよ。ただ、その欲しがっている方々には作者はキメラアントに食われて死んだとか言っていただけると非常に助かります」
あるかないか分からないが…拉致監禁されて死ぬまで美術品の贋作を作らされるのは御免こうむる。
「はぁ〜、うまく誤魔化しておいてやるわい」
会長も私の身を案じてくれたのだろうか…溜め息交じりで承諾してくれた。
お世話になった会長が死んだ暁には、会長の銅像をハンター協会に提供しようと心に決めた。
「それじゃ、キメラアントの王討伐頑張ってください!!」
「言われんでも倒してやるわい」
長い尋問タイムを終えて、ようやく解放された。
タマモと一緒に東ゴルトー共和国…今やジャポンに引き続きオタク文化の最先端を行こうとしている国へと向かった。
会長達と分かれ最寄りの都市にて。
周囲からとてつもない視線を感じる。
1人は、ヘルメットは外しているが軍用の強化外骨格を着込んだアルビノの男性。1人は、露出度の高い和服を着た狐耳と尻尾が生えている妖艶の女性(実は雄)。これで注目を集めない方がおかしい。
だが、そんな周囲の事を気にもしない二人であった。
「カイトという人間について、ピトー殿でも治せないって教えてあげないでも良かったのですか?ご主人様」
「王と護衛兵の念能力情報を提供しているんだし、会長達だってその位の事分かっているはずだよ」
ここが七つの玉を集めて龍が出てくるような漫画なら可能性はあったけどさ。カイトは、首と胴体が分かれた死んだ人間だ。そんな人間をつなぎ合わせて念で動かしているだけの存在なのだ。もし、カイトが首と胴が別々になっても死なない存在であれば治せたかもしれないが…いくらカイトでも人間の範疇内の存在だろう。よって、ピトーの念ではソセイできるはずも無い…そして、ピトーが死亡して念を失えば元の躯に戻るのは当然だ。
会長達には、カイトがピトー殿によって倒された後に蟻の訓練用として活用されていると教えている。そして、ナックルとシュートによって捕獲された。
「そうなんですか、なら問題ないですね。それとこれから何処に行くんですか?」
「あれ? 説明していなかったけ?」
「えぇ、孵化してからすぐにご主人様と一緒に討伐隊の方に捕まって尋問を受けていたじゃありませんか」
確かにその通りだ。孵化してからすぐに私の元に来てくれてから会長達によって尋問を受けていたのだ。そんな暇なんてなかった。
………
……
…
「そういえば、私の見立てでは不可まで後二日位かかる予定だと思っていたけど少し産まれてくるのが、少し早くない?」
毎日、卵の様子を逐一チェックしていたのだ。
そんな私が孵化する日を読み違えるとは思えない…王と同じく、私を助ける為に無理やり孵化したのかな。
「流石、ご主人様。確かに後二日位かかる予定だったんですが、プフ殿が巣を去る際に少しだけ力を貸してくれたんです。ご主人様に何かあってはいけないからと…」
プフが予想外に内面的にもイケメンだった。
まさか、残った私の事を気にしてタマモの孵化に力添えをしてくれたとは…これは、マジでお礼をしなきゃいけないだろう 常識的に考えて。
もう、マジでキメラアントになっても…いや、それは不味いな。内緒で王の1/10フィギュアでもあげよう。
「ならば、ちょうどいい。東ゴルドー共和国まで借りた恩を返しに行くだろう。常識的に考えて」
「どこまでもお供いたしますご主人様〜」
王と護衛兵を追って、東ゴルドー共和国へと向かった二人であった。
次話で王と護衛兵に対面と行こうかな。
※東ゴルドー共和国の王は、○貞 且つ 妄想歴も非常に長いまさに非リア充。この世界の都市伝説では…(ry