怠けていてすみません。
気を取り直して、再度連載頑張っていきたいと思います。
32話
東ゴルドー共和国の変わり具合に驚いているレイアです。
東ゴルドー共和国は、近年では珍しい典型的な独裁国家であった。しかし、国家元首が変わる事で一変した。閉鎖的で且つ軍治力に金を注ぎ込んでいたのだが、新国家元首が自他ともに認めるオタクという事もあり、ジャポンのアニメ文化取り込み力を入れている。そのおかげもあってジャポンのアニメ産業を縁の下で支える力持ちという存在にまでなったのだ。今では、ジャポンで放送されるアニメの5割から6割近くに何かしらの形で関わっている程である。
そして、今日…東ゴルドー主催のアニメ感謝祭が大々的に開かれる事となった。国家が誘致して行うだけの事はあってその規模は周辺国家からも足を運ぶオタクが続々と集結していた。
その集団の中に、レイアとタマモの二人も混ざっていたのだ。
「東ゴルドーってド田舎の独裁国家じゃありませんでしたっけ?ご主人様」
「いや、そのはずなのだけど一体何の列なんだコレ…駅から続いていたから並んでは居るが…人ばかりで列の先端が見えないぞ。アレの時期にはまだ早いはず…だとすればこの列は一体」
レイアが知る情報は、典型的な独裁国家であるという事だけである。ただ、その情報は誤っていない…それが、前国家主席の時代である事を除けば。昨今、修行や旅団とかで多忙でキメラアントが蔓延る予定の東ゴルドーについての情報収集を怠っていたのだ。
だが、独裁国がアニメ国家モドキになるとは誰しも考えるはずがないので仕方ない事である。
『そこのコスプレイヤーのお二人、レイヤーの入場口はあっちですので移動してください』
スピーカーを持った女性スタッフらしき人がこちらに向かってしゃべってきた。
というか、この場にコスプレイヤーなんていないと思っている私は華麗にスルーをしようと思う。だって、辺りはリュックを背負いった者やタウンページ並の厚さがある本を片手にマジックで目印を書き込んで居たり、付箋を貼りつけたりしている者達しかいないのだ。きっと、前者は旅行狩りの者で後者は受験生だろう…多分。
前世で非常に似たような場所と空気を知っているが、この世界ではそこまでオタク文化が発達していないと信じている…いや、信じたい。
「ご主人様、やっぱり私達の事じゃありませんかね」
………
……
…
「やっぱり、そう思う?」
信じたくはなかったが、十中八九私達の事であろう。
軍用の強化外骨格を着込んだ男と露出度の高い際どい和服を着た女性型キメラアントだ。一般人の中に混ざれば浮くのは当然である。
これ以上、周囲の注目を集めたくはないので係りの者の指示通り素直に列から離れた。
『そちらは一般の方の入場口ですので、コスプレイヤーの方の入り口は反対側になります』
「ぶひぃー、気合の入ったコスプレイヤーでござる。これは、拙者達が激写するしかないでござる」
「この日の為に買った、一眼カメラが火を噴き時だ」
カメラ小僧たちの熱い視線が集まっている。
ゾワ!!
念能力者で且つ忍者スーツに身を包んだ私ともあろう者がたかが一般人に対して悪寒を覚えた。
嫌な予感がする。
「タマモ…、ここに居るのは無駄だ。急いでこの場を離れるぞ!!」
「えぇー、行っちゃうんですか。なんか楽しそうじゃありませんか」
きっと、写真とか取られるのが好きそうだから楽しい思いも出来るだろうけど、生憎と私は御免である。名残惜しそうなタマモを連れて、会場を抜けるべく走り出した。
・・・
・・
・
十分後。
「バカな…」
「既に術中に嵌められていますね。このタイプの能力は、条件を満たさないと抜けられませんよ」
あれから十分間走り続けても同じ場所に戻ってきてしまう。確実に、誰かの念能力である事は分かっているのだが…そもそも、なぜ私達が対象なのかが理解できない。
だが、能力の概要位は大体分かった。会場を広範囲で抜けられない迷宮化させているのではなく、対象者の五感に直接作用し迷わせるといった感じだろう。この広い会場を迷宮化するような念能力者など考えただけで恐ろしい。
「能力者見つけて、始末します?」
タマモが両手を頬に当てて楽しそうに言ってきた。ベースが狐だけあって狩とかが好きなのだろうか…まぁ、可愛いから何でもいいけどね。
「やめておこう。ここを抜けられないという事以外に不調が無いという事は、それだけに特化した能力だろう。万が一、能力者が死んだ場合でもすぐにここから出られる保証はない。まずは、術者を探して平和的に話し合いをしようじゃないか…そう、平和的に」
「平和的にですか……針の汚れを取りながら言っても説得力ありませんよ」
殺さないのだから平和的だよ…ただし、生きたまま脳に直接尋問させてもらうけどね。
更に十分後。
私達に念能力を掛けた者を探して周囲をじっくり観察するとトンデモナイ事実に気が付いた。
「ご、ご主人様。あの、等身大の抱き枕と持って寝ている男性って…」
「あぁ、念能力者だ。しかも、枕を具現化して寝ているね。周りの視線を意図もしないその精神力に脱帽だよ」
路上に抱き枕をもったまま、熟睡する猛者がそこには居た。しかも、アニメの絵が描いた抱き枕を堂々と抱いて寝ている…辺りの者達は特に気にした様子もない。
「また、凄いのが居ましたご主人様!! あの人達、ゲームから飛び出してきた女の子に変な事をして…」
「いろんな意味で残念な能力だが…一回くらい試してみたい能力だろ」
念能力者で私にははっきりと見えているが…画面から飛び出てきた女の子にイヤらしい行為をしている男性がいる。己の欲望を具現化させる連中が多すぎだろう。
他にも、このイベント中は便所に行く必要がなくなる能力やイベント中に限り不眠不休で動ける能力や幼女にしか掛からない携帯電話を具現化しているような変態達が蔓延っているのである。
ほぼ全員が、無自覚な念能力者とみて間違いないだろうが…あまりにも出会う比率が可笑しい。
ハンター試験に合格しないと教えて貰えない念が、こんな会場で蔓延っているのかが謎だ。だが、この目で見た真実である以上うけいれるしかないな。
・・・
・・
・
「まさかと思うが、長年の妄想から目覚めた者達か…」
以前ネットの都市伝説で聞いたことがあるがまさか真実だったというのか。魔法使いになったら女の子が現れたとか、まさか実現させている者達がここに集まってきているのか。いや、間違いなくそうだろう。
なぜそう断言が出来るかというと…どうみても、女性に縁があるような連中にはみえない。
「まぁ、念能力者も見つかりませんし楽しみましょうよ〜。ホラホラ、あっちにさっきの人が言っていたコスプレ会場の入り口がありますよ」
「はぁ…、まぁ抜けられないし時間つぶし程度にはなるか」
素の恰好がコスプレと思われている事が少しショックであるが、タマモの後に続いてコスプレ会場へと足を運んだ。
コスプレ会場にて。
はっきり言おう…この世界のコスプレを甘く見ていた。
前世で世界的に見ても倫理概念が高い日本と人殺しの稼業が蔓延るハンターの世界では雲泥の差という事を忘れていた。
「全体的に見ても露出度が半端ないだろう…」
この会場の平均を見てみればタマモの際どいと思っていた服装なんて全然普通に思える位だ。5人に1人が体面積の一割程度の布しかつけていない。
一体、何のコスプレなのかと本当に疑問だ。そんな全裸にも等しいキャラがでてくるアニメとか絶対放送できないだろうと思う。
そんな意味不明な環境の中、私のすぐ横で耐える事のないカメラのシャッター音が鳴り響いている。
「こんな感じですか〜」
着物の裾を持ち上げて実に際どいポーズをとるタマモがそこには居た。そして、辺りを囲むカメラ小僧から激写されている。
「最高でござる!! まさに、生きる神秘でござる」
「自前の耳と尻尾を持っているとは、最近はコスプレのレベルもあがってござるな」
…いや、それコスプレじゃないぞ。というか、自前のって言っている時点でコスプレじゃないのに気づかないのかよ。それに、この世界にタマモをモチーフにしたゲームやアニメは存在しないはずだからコスプレじゃないだろうと言ってやりたい。
「それにしても何のコスプレなのでござろうか」
「可愛ければ何でも構わないでござるよ。それに、こんな可愛い男の娘がいるなんて世の中捨てたもんじゃないでござるな」
カメラ小僧の中から聞こえてくる会話で引っかかる言葉があった。
…男の娘だと!!
今のタマモの容姿は、完全に女だ。生物学上、雄だと知っているのはこの世界でも数少ない。となれば、考えられるのは…念能力か。
「くっそ!! 一体、何人まぎれこんでやがるんだよ。しっかり、管理しておけよハンター協会!!」
カメラ小僧の中に、具現化したカメラを持っている奴が居たのでさっきの発言は恐らくこいつで間違いないだろう。くだらない能力の予感はヒシヒシとしているが、念能力が絡んでいる以上、能力者を締め上げておくか。
「ちょっと、締め上げてくる。しばらく、ここで自由行動だ」
「は〜い、いってらっしゃいませ ご主人様」
タマモのご主人様という一言で、周囲の連中から殺人的な視線を感じた。
憎しみで人が殺せるなら間違いなく私は死んでいただろう…オタクこぇえーーー。
・・・
・・
・
しばらくして。
実に…実に…ロマンが詰まった能力でした。
話を聞いてみたら対象の全裸が取れるカメラという事で…マジであほらしいが、ある意味すごい。ちなみに、忍者スーツを着た私ですら全裸でとられてしまう程の性能だった。
「お話終わりました?ご主人様」
「あぁ…あまりに、くだらない能力で怒る気も失せたよ。それに、思った以上に相手が紳士的だったよ。念能力を使ったカメラでとった物は、自分の趣味の範囲でしか楽しめないし、人に見せると消えてしまうという制約もあったようで見逃したよ」
「てっきり亡き者にされていると思いました。まぁ、ご主人様が見逃したなら私も見逃します」
まぁ、普通のカメラでとった画像をネットにアップしてもいいかと言われて当然の如くOKを出したがね。可愛い子は、いろんな人に見てもらってこそ価値がある。
「それにしても、何時になったらここを抜けられるんだろうね」
「さっき、カメラを持った人が本日の営業時間は18時までと言っていましたからソレまでじゃないかと…。そうでないと、私達ここで野宿ですよ」
タマモから野宿と聞いて思わず顔が引きつってしまった。
一応とはいえ、近代化している町にきて野宿とするとか御免だと思うレイアであった。
別件だが、ビスケ程の指導者でないと気付けないが、会場を迷宮化した能力者、枕を具現化していた能力者、ゲームから女の子を具現化した能力者、カメラを具現化した能力者のどれもがゴンやキルアに匹敵する潜在的能力を持ってのは、別の話である。