33話
予想外の所で足止めを食らってしまったレイアです。
「まさか、三日間も拘束されるとは信じられん効力だったな」
「そうですね。初日イベント終了後に会場を出る事ができてホテルにチェックインできたまでは良かったのですがね。まさか、朝になって足が勝手に会場に向かうなんて思ってもみませんでした」
全く、トンデモナイ念能力だ。
対象者が私の他に何人いたかは分からないが、多人数をこれだけ長時間拘束するなんて恐ろしい。しかも、何時かかったか誰に掛けられたかもサッパリなのだから、もうお手上げだよ。
世の中、恐ろしい才能をもった者っているんだなと改めて思ったくらいだ。さっきまでいた会場の連中が真面目に鍛えたら、王にも勝てるのではないかと正直思うところがある。
「それで、今から私達は何処に行くんですか? ご主人様は、ピトー様達が何処にいるかご存知でしたっけ?」
「あぁ、その事なら心配ないよ。だって…」
『親愛なる我が国民たちよ…』
タマモと二人で街中を移動していると、街頭モニターに国家元首の演説が生放送された。その演説は、力強くどこか人を惹きつけるような演説であった。そして、今後の国家の繁栄の為に全国民に対して召集を掛けるものでもあった。
演説自体は問題ないとして…時期的になんか早いような気もした。もしかして、時期的に余裕があると思ったが、私が介入したことによるツケがここにきて出てきたのだろうか。だが・・・私にはそれよりももっと気にある事があった。
なぜ、あそこにアレがあるんだ。
「あれは、ピトー様の念ですね。もう、国家の中枢に入り込んで居たんですね」
「自立行動している…という事は、誰かの念能力か。キメラアントには、アレを動かすような能力をもった者はいなかったはずだ」
いくらピトーの念能力が群を抜いて凄いと言っても能力の仕様的に考えて、死体でもない物を操る事はできないはずだ。とすれば、テレビで映っている中でそんな事ができそうな人物と言えば…
「国家元首がロリコンって噂本当だったんだな…なんでも、後ろに移っている少女二人が妾らしいぜ」
「おぃおぃ、まじかよ。全く、うらやまけしからんな」
「というかさ、あの少女二人ってマジ狩るの主人公とヒロインにクリソツじゃね?」
イベント帰りのオタクどもがニュースをみてそんな事を呟いていた。
そのオタクどもの言う通り、国家元首の後に控えている少女二人は間違いなく私が手掛けた等身大の人形であった。まさか、こんなところで見る事になるとは思っても見なかった。
誰だかは分からないが、ミルキが願っても手にすることができなかった人形を動かす能力を持っているとはね。おまけに、並の使い手ではない。人形一体一体から見えるオーラの量が素晴らしい。そして、よく手入れされているのが画面越しでも分かる。
やはり、こういう人に貰われると作り手も嬉しいよね。
ジーーー
横からタマモの視線を感じる。
「さっきから、無視ですかご主人様。酷いです…」
「あぁ、悪い悪い。思わぬところで面白い物を見つけてしまってね。つい考え事をしてしまった。ピトーの居場所もわかったし、さっそく向かうとしましょうか」
「賛成です!! だけど、その前に腹ごしらえにしましょう。ちょうど、あそこに稲荷ずしが美味しいと評判のお店が…」
タマモが指差す方向を見てみるとジャポン料理の看板を出したお店があった。なぜ、そんな事を知っているかと疑問に思ったのだが…手に持った旅行ガイドをみて納得した。
フリフリ
いや…そんな尻尾を振りつつ上目づかいで言われたら断れるわけねーだろ。
「それじゃ食事をしてから移動しようか」
喜ぶタマモをみつつお店の中に入って行った。
数時間後、王宮が見渡せる丘の上にて。
それにしても、なぜこんな辺鄙なところに王宮があるんだろうね。車が無いとこられないし、途中にガソリンスタンドもないし、なにより人気が全くないよ。絶対、一般公開できないような研究とか実験をやっている雰囲気が満々だな。
「ピトー様の円の範囲は、相変わらず凄まじいですね。あの方々に挑もうとする人間の気持ちが理解できません。実力差が分からないわけではないでしょうに…」
本当にその通りだと思う。
念能力者同士の勝負は、実力差があっても勝敗が分からない事は多々ある。だが、王と護衛兵の実力を前にしてもその事を言い切れるかと言えば残念ながら殆どの念能力者はNOというだろう。
実際、討伐隊の眼鏡はオーラに当てられて廃人になったからね。
「人間は、勝てないと分かっていても挑まないといけない事だって多々あるさ。それにさ、王と護衛兵の三人が異常なだけであって他のキメラアント達は一流のハンターであれば問題なく倒せるから戦い様はあるだろね」
「確かに私と同じ師団長クラスは、かなりの数が討伐隊に狩られてしまいましたからね。討伐部隊の方々の実力は分かりますが…無理でしょうね。もっとも、同じ土俵で戦わないというならやり方はあるでしょうが」
なかなか、よくわかっているな。
タマモの言う通り、あんな化け物じみた実力者相手に1:1もしくは1:2のような少数で挑むなどナンセンスだ。確かに、捕食されて相手に力になる可能性もあるだろうが…それでも物量で押すべきだ。もしくは、対蟻に特化させた念を作り上げ挑むべきだと思う。
死刑囚などを使い、命と引き換えに王の骨をランダムで一か所骨折させるとかそういう能力を作り上げ数百人単位でそれを実行させるとかね。後は、原作通り核兵器並の戦術兵器で薙ぎ払うという作戦が一番だろう。
だが、王を殺せるかもしれない手段についてキメラアントに教える気はサラサラないけどね。
「ここで王宮の様子を見ていても特に意味もないし、正面から堂々と踏み込みますか」
本当なら王宮にいるキメラアントの誰かに連絡を付けた上で入りたかったのだが、生憎と連絡先がわからない。王宮に直接電話をかけてみたが、当然取り合えってもらえず今の状況に陥っていたのだ。
「えぇ!! 本気ですか、ご主人様。いくらこちらに敵意が無いとはいえ、相手の出方が分からないから危険ですよ。万が一、問答無用で攻撃されたらどうするですか!?」
タマモが言う事ももっともである。
タマモと違い私は人間だからね…そりゃ、疑われもするだろう。おまけに、討伐部隊の人間と一度は合流しているという事実もある。念の特性上、本人にも気づかれずに何かしらの能力が付加されている事なんてざらにある。
だけどね…疑われようと攻撃されようと、私はあそこに行かねばならんのだよ。既に命というチップを掛けているんだ。こんなところで、躓いていられんのだよ。
「大丈夫だ、問題ない」
「じゃぁ、じゃぁ…先にご主人様が先行して安全を確認してから私が行くというのはどうでしょう!!」
タマモが必死にそんな提案を私に出してきた。
「ほぅほぅ、それでもし安全で無かった場合、タマモはどうするんだ?」
「人生という名の旅に出ます」
人生という名の旅か…生後一年にも満たないタマモにとっては世界を見て回りたいという欲求があるのだろう。
だが、そんな事を許してあげるほど私の心は広く無ないのだ。
「却下だ。それに、私が先行して死んだとしてそのまま自分だけ逃げられるとでも思っているの? 相手は、護衛兵達だよ。一瞬で補足されるのが関の山だ」
「あぅ〜、短い人生でした。来世では、楽しい人生が待っていますように…」
タマモの中では、私達が踏み込んだから100%迎撃される未来が待っているようだ。まぁ、タマモは、護衛兵の性格などをよく知らないだろうから無理もない。あのオーラだけをみたら誰だってそう思う。
「なるようになるさ、それにタマモはキメラアントだから私より生き残る可能性は高いよ…って聞いている? さっきから、私の方を指差して口をパクパクしているけど…」
よく見てみるとタマモの顔が青ざめており、その顔は絶望の色といって相応しい。
・・・
・・
・
段々と、タマモが何を見て何を指差しているかが理解できた。
タマモは、これでも師団長クラスであり並のキメラアント如きでここまで動揺する事はない。となれば、残るは王と護衛兵の誰かという事になる。しかし、王が自らこの場に来ることはあり得ないから除外して問題ない。円が健在な為、ピトーがこの場にいる事はありえない。残るは、シャウアプフかモントゥトゥユピーのどちらかになるだろう。だが、忍者スーツの熱源センサーに反応する事なくこの距離まで近づかれるとなると答えは一つしかない。体を分散させてセンサーに掛からないほどのサイズになって近づいてきたのだろう。
というか、円の範囲外に居るはずなのになぜ見つかったのだ!!
ピトーの円の及ばない所で、侵入者がきそうなポイントの各所には監視カメラが設置されている事をレイアは知らなかったのである。
「お、お久りぶりです。シャウアプフ様」
「随分と面白い所で会いますね。王の慈悲と私の気まぐれで見逃してあげたというのに。何をしにここまで来たのですか?」
振り向いてみれば、そこには別れた時と変わらずの姿のシャウアプフが立っていた。
普通に考えれば絶望的状況だが、私にとっては好機でもあった。護衛兵の中でも話の分かる存在で、私ともそれなりに親交がある存在だからだ。しかも、シャウアプフの念能力をもってすれば私の言っている事の真偽も判定できる為、実にありがたい状況である。
「ピトー殿と同じ職場に勤める為に来ました。出来る事は、料理・洗濯・裁縫・修繕・マッサージなど戦闘面以外のことなら大体できます。あ、戦闘面ならタマモが働きますのでどうでしょうか?」
「え!! 私が肉体労働担当ですか!? こんなかよわい乙女になんて酷な事を…」
タマモの見た目は、乙女かもしれないが中身はガチガチの脳筋だ。身体能力など私と比べるまでもない位に高い。最後に生まれた師団長クラスだけあって、師団長クラスの中では最強だろう。おまけに、何気強化系だったからね。
「知らない仲でもないし、いいでしょう。あなた方を雇いましょう。ちょうど、貴方に任せたい仕事もありましたね」
「やった!! お任せくださいどんな仕事でも完璧にこなして見せます。それで一体どんなお仕事でしょうか?」
「人間の世話と王の服を作ってもらいましょう」
・・・
・・
・
いくら裁縫が自称マエストロ級な腕前を持つ私でも王の服を作れと言われた瞬間、何を作ればいいか迷い絶望した。
王は王でも…キメラアントの王は女王なのだ。一般的に言わせてもらえば…フリフリのドレス一択なのだが、果たしてそんな凶悪な物を作っても良いのかと迷うレイアであった。
なのはAsの劇場版BD買ってしまった。これを見てモチベーションを高めよう