第34話
絶望の淵にいるレイアです。
シャウアプフの粋な計らいのおかげで無事に王宮に住まう事が出来る事になった。そして、今現在私は約束通りお仕事に従事しておりそれが大きな問題なのだ。今となっては王宮に入ってピトーと同じ職場に勤めるより遥かに難しい難題にぶち当たっている。
「無理だ…不可能だ…。いくら、裁縫が得意だからと言ってもこれはそれ以前の問題だぞ」
王に似合う服を作るなど、どうしろというのだ。
何通りかシュミレーションしてみたが…どのパターンでもシャレにならん。王にフリフリのドレスを作った場合、間違いなく王に食い殺される気がする。
逆に、某英雄王風の金属製のフルアーマーを作った場合は……シャウアプフに殺されそうだ。王に男性物の服を着せるのですか…死にたいのですか、そんな感じの展開になる事が目に浮かぶ。
すなわち…どんな服を作っても待っているのは死…
ムシャムシャムシャモシャモシャ
「って、横で食べてばかりいないでアイディア位一つや二つだしてくれよ」
「そんな…ムシャムシャ…事モグモグ・・・ゴクン!! そんな事言われても私は肉体労働担当ですからね〜。それに、あの話は本当なんですか? いくらご主人様がいう事でもにわかに信じがたいですね」
そりゃ、私自身だって信じたくはないさ…王が雌なんてね。だけど、キメラアントの生物学的特性や私の目をもってしても確認したのだ。あれは、間違いなく雌なのだよ。
「何度も言っているように事実だ。生物学的の特性上を鑑みても間違いない。……というか、同じキメラアントとしてその位分からないの?」
「普通に考えて無理だと思いますよ ご主人様。私達キメラアントは、それぞれで最早別種といっても過言でないほど体の造りが異なりますから…。王に失礼だとは思いますが、あのお姿で誰が雌だと思いますか?」
・・・
・・
・
うむ、100人中100人が絶対に雄と思うだろう。
「じゃぁ、今現在は護衛兵を含めたキメラアントの全員が王を雄だと思っているという事か…それなら、やりようは……ダメだな」
いかに周りの奴らが王を雄だと思っていても、本人は自分が雌だと知っているはずだ。周りをなんとかできても本人が納得しかければ意味が無い。
そうか!!
何を今まで迷っていたのだ。服を着る本人が雌ならば雌の服を作ればいいに決まっているじゃないか。いざとなれば、王が女性だったので女性ものを作りましたといえばいいだけの事だ。王だって、その言い訳を無下にするような人物ではない。
「ご主人様、考えるものいいですがそろそろ時間ですよ」
タマモに言われて時計を見てみると11時を指していた。
昼時より少し早い時間ではあるが、私にとってはこれが結構大事な事だったりもする。私のもう一つのお仕事が大きく関係しているのだからね。これを怠ったら確実に殺されてしまう。
「もう、そんな時間か。私は、コムギ様にお食事を作ってくる。コムギ様達の食事が終わるまで待つならタマモの分も作るが、どうする?」
そう、私のもう一つの大事な世話はコムギの世話なのだ。王に一分野とはいえ勝つほどの才能を秘めた人物だ。丁重に扱わねば、王からどんな仕打ちが来るか分かった物ではない。その為、健康管理などには人一倍気を使っている。
後、おまけで私が世話する事になっているのは国家元首のマサルドルデイーゴ、ビゼブ長官を合わせて三名だ。原作とは異なり国家元首が生存している辺りが謎だが…、今日の昼飯を持っていく際に会えば分るだろう。
「待ちます〜。だって、ここの連中、だれもまともな料理が作れませんし。おまけに、他のキメラアントに混ざって食事となると人間を食べる事になっちゃいますからね」
それは、大いにまずいな。人間の味を知ってしまったら、これからの食生活が大きく変化してしまうかもしれない。おまけに、今後の事を考えると人間を食事する習慣を覚えさせるのはマイナスでしかないだろう。この国にいる内はなんとかなるが外ではそうはいかない。
「確かに、人間を食われると困るね。下手したらハンターの討伐対象になりかねないから、緊急時以外は人間を食するのを禁ずるよ。代わりに、出来るだけタマモが好きな油揚げを食べさせてあげよう」
「それがいいです!! むしろ、油揚げだけでも大歓迎です〜」
そういって、自室をでて厨房へと向かった。
コムギ私室にて。
王の計らいにより、コムギにも私室が与えられている。もちろん、王の慈悲などではない。常に万全の体調で我との勝負に挑むようにとの事でそうなったのだ。そして、その世話役に私と言った感じ有る。
「本日の昼食は、みょうがと鶏肉のお粥です。お体にも良くて、体も暖まりますよ」
「あ、ありがどうございまず。ワダすなんかの為に、すみません」
みるからに田舎者といった風貌の少女が私にそんなお礼を言ってきた。
似合い過ぎだろう…その三つ編みのおさげと言い、言葉使いといい。キング・オブ・田舎者といって過言ではあるまい。
「いえいえ、お気になさらずに。王と護衛兵の方から、貴方様のお世話をするように仰せつかっておりますので何か不自由がありましたら何でもおっしゃってくださいね。失礼ですが…お食事のお手伝い致しましょうか?」
「大丈夫です。一人で食べられます」
そういい、私が用意した食事に手を付け始めた。蓮華を使いまるで目が見えているかのように食べている。
なぜ、目が見えていないはずなのに蓮華の位置や食器の位置を正確に把握できるのだ。円が使える念能力者ならともかく、一般人のはずだよね…コムギって。実は、目が見えていて盲目のふりをしているとかじゃないかと本気で疑うレベルだよ。
「では、何かありましたらいつでもおよびください。お食事が終わる事に食器を下げに参ります」
「ありがとうございます」
部屋を出るついでにベッドのシーツを取り換えて、洗濯物を持って退出した。
人の洗濯物を物色する趣味は無いのだが…一体何着同じ服を持っているんだよ!! コムギから受け取った洗濯物は三日分ほどの量だが、そのすべてが同じデザインなのだ。
いくら目が見えないからって年頃の女性が同じデザインの服を毎日着るってどうなのよ…これは、私が用意してあげるしかないのではないかと思ってしまう。
一着作るのも二着作るのも大差ないしね。この際、王とペアルッ……いえ、ごめんなさい。嘘です。いくらネタに走るのが好きな私でも命の方が大事です。
気が向いたらコムギの服でも作ってあげるとしよう。王の服を作る際に片手間で出来そうだからね。
ビゼブ長官の私室にて。
机の上に山積みにされるだけでは飽き足らず、床にまで書類が散らばっている。本来であれば、国家の運営にかかわる重要な書類であるはずが、こんな杜撰な管理をされているのは理由がある。
人がいないのだ。
キメラアント達によって綺麗に処理されてしまい、今やまともに事務処理ができる人物がビゼブしかいない。本来なら、ビゼブも殺されるはずだったのだが、国家という機能を最低限維持する為に事務処理に特化している者も必要だという事で生かされている。ピトーの念によって操作された死体ではこういう細かい仕事はできないから、仕方ない事なのである。
「というわけで、食事を持ってきましたよビゼブ長官」
ノックなしで部屋に飛び込んでみた。
「……だれだね 君は? その強化外骨格を見る限りどっかの軍属かね?」
一瞬、驚いた表情をしたがすぐに仕事スタイルになった。流石は国家を裏で操っていたと評判がある男だ。キメラアント襲撃という前例もあるし、私の様は全身を鎧に身を包んだ不審者程度では動じない。
「もっと、驚くと思っていたのですが残念です。今日からコムギ様を筆頭にあなた方人間の方々の世話役を仰せつかったプロハンターのレイアといいます。以後良しなに」
社交辞令を済ませて、持ってきた食事をテーブルに置いた。そして、散らかっている書類を整理し一か所にまとめた。最後に、食い散らかしてあるカップ麺のごみやその他もろもろをごみ袋に詰めて部屋の掃除までしてあげた。
部屋を片付けてから再度ビゼブ長官を見てみると…食事に手を付けずこちらをずーーと見てきている。
「何か聞きたい事でもあるんですか? ビゼブ長官」
「できれば、苦しまずに死にたいのだが…この食事の毒は致死性かい?」
人が手間をかけて作った食事に対してあまりにも酷い一言を貰ってしまった。
「疑う気持ちはわかりますが、毒なんて入ってないですよ。それに、ハンターといっても仕事でここに潜入しているわけでもないし、貴方の暗殺を依頼されたわけでもありませんよ。第一、そんな人物がこの王宮に入れるはずないでしょう」
王と護衛兵がいるこの場にそんな侵入者など入り込める余地など基本的に無いのだ。あり得るとすれば、中にいる誰かが手引きでもしない限り不可能。
「なら、なぜここにいる? ハンターならあの恐ろしさが分からないはずはないだろう。プロハンターにも劣らない私の護衛を瞬く間に殺されていったのだぞ」
怖い怖くないかでいえば、マジで怖い。特に王なんて存在自体も怖いが性的な意味でもマジで怖い。
「惚れた相手がキメラアントだった。だから、私はここにいる!!」
それなりに格好いいと思うセリフで絞めてみたが…ビゼブがなぜか私を憐れんだ目で見てくる。
「精神に異常が出るくらい大変だったんだな。もういい休め…」
「ちょ、おまw」
「大丈夫だ。全部わかっている。キメラアントは生物学上、雄しか生まれない。それに惚れているという事は……悪いが早くこの部屋を出て行ってくれないか。貞操の危険を感じるんだ」
そしてビゼブによって部屋を押し出された。
その後、誤解を解こうにも部屋は固く閉ざされ…次から食事は扉の所に置いておいてくれと言われた。
国家元首のマサルドルデイーゴの部屋にて。
気を取り直して、最後の部屋である国家元首の部屋に着てみた。部屋の扉は予想外に普通で…まるで一般家庭の子供部屋のドアような作りをしている。だが、部屋の広さはかなりも物で30畳くらいはある。
部屋の扉をノックしてみても返事が無かったので、勝手に扉を開けて中に入ってみると…誰かの部屋を思い出すつくりをしていた。
「ミルキ様の部屋と空気がそっくりだ…」
壁一面の棚には、大小さまざまなフィギュアが飾られている。お気に入りだと思われるフィギュアには専用のガラスケースが用意されその中に入っている。ただ…その数が異常だった。ミルキの部屋にある量の軽く数倍はある。
他にも、漫画などが山のように置かれており綺麗に整頓されている。しかも…同じ巻が全て三冊あり、使用用途が全く意味不明だ。
そんな中、オーラが籠っている作品に目が留まった。
「あぁ…、懐かしいな。こんなところで目にする事になるなんて…」
手を伸ばした先には、私が子供の頃に値札競売市でベンズナイフと交換した『某白い悪魔の人形の白スク水ver』がそこには置いてあったのだ。子供の頃に作った作品…しかも、どこの誰に渡ったか分からないような物に会えるなんてちょっとうれしい。
だが、その瞬間、私の手足にピンクと黄色の輪っか状の何かによって拘束された。見た目は、アニメにでてくるバインドの魔法そのものなんだけどね。
『危なかったの、もう少しでご主人様の大事なコレクションに手垢を付けられるところだったの』
『ねぇなのは、侵入者を捕えたんだしきっとご褒美もらえるよね』
私の背後でとても面白い声が聞こえた。
この部屋の持ち主が二人のご主人様という事か…やはり、国家元首は念能力者!! しかも、相当な操作系の使い手と見て間違いないだろう。人形操作だけでなく、人形を通じて放出系と思われる念能力すら使っている。おまけに、いくら人間を模して作った特殊フィギュアだからといってこうもアニメ声を再生できるほど声帯はだせないはずだから…更に別能力もあるとみて間違いないだろう。
「侵入者でもなんでもないからこの拘束を解いてもらいたい。私は、王の命令で貴方たちの世話役を仰せつかった者だ。疑うなら確認してきてもらえればいい」
そういうと、バインドが消えた。
振り返ると、そこには私が作ったフィギュアの【なのは】【フェイト】と国家元首が立っていた。わざわざ、念で止めないで声をかけろと激しく抗議したい。だが、そんな気持ちをぐっとこらえた。
『そうなんだ…お名前なんていうの? 私、なのは よろしくね』
『フェイト』
果たして、人形相手に自己紹介しないといけないのだろうか…しかも、自分が作った人形で自分が提供した原作にでてくるこの子らに。だけど、挨拶しないと二人の後で仁王立ちしている国家元首が怖い。
「プロハンターをやっているレイア。ちなみに、ここで働いている理由は、惚れた人がいるからだ」
『そうなんだ。……あれ? もしかして、以前ネットで漆塗りの木造フィギュア販売とかアニメの原作とかキャラデザインとかそういったお仕事してなかった?』
この人形、何かおかしい…念で操作されているからといって記憶を辿って思い出すような言動をするのは不可解だ。
「えぇ、あの人形しかり。今、目の前にある等身大人形しかり…すべて私のお手製で『なんだと!! まさか、貴方が巨匠レイア!!』」
あれ?
今、なのはの人形から野太い男の声がしたぞ。そして、背後にいた国家元首は驚いて口をパクパクさせている。
まさか、腹話術!!
「巨匠レイアとは知らずに、大変失礼な事を!! 申し訳ありません」
ズサァーーー
国家元首となのはとフェイトが綺麗に土下座をしてきた。
一国のTOPに土下座されるなんて当然経験もなくどうすればいいか、対応に困る。と、とりあえずは、頭を上げて貰おう。
「何事もありませんでしたのでお気にせず、どうか顔を上げてください。というか、お願いだからあげてください」
そういうと、何とか顔を立ち上ってくれた。
『よかったね。なのは、私達の創造主は心が広いみたいだよ』
『当たり前じゃん。ご主人様が崇拝する数少ない人だもん』
「最初は、念能力で声帯を操作しているのかなと思いましたが…自前で声出していますよね?」
「老若男女すべての声域を出せねば、国家元首など務まらぬ。流石の我でも二人同時に喋らす事だけは出来ないがな」
むしろ、それができたら本気で人間を辞めていると思う。すでに、若干人間の域を超えた事をやっている気もするんだけどね。この容姿からさ…誰とは言わないが原作声優とほぼ同じ声が出ているんだぜ。
「まぁまぁ、こうして出会えたもの何かの縁。是非、部屋でアニメやフィギュアについて熱く語ろうではないか」
「別件お仕事もあるので少しならいいですよ。後、そのついでにどうやって生き残ったか教えてください。あの王相手に、生き残れるなんて正直信じられない」
「我も信じられん!! というか、絶対死んだと思ったからな。正面から向かって勝てると思ったあの時の自分を殴ってやりたい」
ネテロ会長同様に真っ向勝負を挑んだと…そして生き残って国家元首って世界最強クラスの存在か!!
その後、国家元首の部屋で軽く酒を交わしつつ今まで作った作品や過去にオークションで熱戦した話や最近のアニメ事情などで盛り上がった。きっと、この場にミルキもいたら更に盛り上がっただろうなと思った。
ちなみに、なぜ生き残れたか聞いてみたところ王にかすり傷を負わす事が出来た事と王が国家元首に対して光る物を感じたようで生きる事を許された様だ。無論、絶対服従を条件としてだが…。
スローペースで申し訳ありません。
次話あたりから原作組が動き出すところ当たりを書こうと思っています。