第35話
持てるすべての技術を駆使して、現在進行形で王の服を作っているレイアです。
「誰でもいい…私と止めてくれ!!」
元々、王の服を作るという仕事があるから王宮に住まわせてもらっているのだから、仕事に対して全力を出している事は決して間違いではない。むしろ、賞賛されるべき行為でもある。だが、それが自分の意志ではなく、念の強制力によって無理強いされている事を除けばという一点に尽きるが…。
「やっぱり、腕をへし折るしかないニャ」
「それだけは、勘弁してください ピトー殿。仮にへし折ったとしても治してもらえるならまだしも…治してもらえます?」
ピトーの念能力は、治癒能力は抜群だが…その反面リスクも当然存在している。玩具修理者(ドクターブライス)は、一定範囲までしか行動出来なくなる…そして、他の念が総べて使えなくなるというリスクがるのだ。
王宮の守りの要でありピトーの円を解除してまで私の腕を治してもらえるなどという事はまずありえないだろう。それこそ、王からの勅命でもない限り不可能!!
「仮に、へし折って一時的に止めたとしてもピトー様に治してもらったら再発しませんか? ご主人様。あ、ピトー様 ミカンは一人三つまでですよ 」
「じゃあ、こっちの団子で我慢するニャ」
私が死ぬほど困っている最中、部屋では炬燵に入ったピトーとタマモが寛いでいる。美少女?二人が私の部屋で炬燵にはいりつつミカンを食べるたは、最高だ。私も同じ炬燵に入れればもっと最高なのだけどね!!
なぜ、ピトーが私の部屋にいるかと言うと、事の発端は三時間ほど前に遡る。
三時間前。
王の服製作にあたり、作業があまりに捗らないのでメルエム1/1フィギュアまで作ってしまったのだ。無論、衣服の寸法合わせに使う為に作ったんだがね!! あまりの出来の良さにシャウアプフが「こちらにおられましたか王」と言った感じで敬礼までしてしまった程だ。
寸法合わせが終わって必要なくなったら、必ず連絡するようにと念を押して言われた。一体何に使うのだろうね…知りたくないから、聞かないでおいたけどさ。
「こういう時こそネットの有志達に力を借りるべきだと思うのだよ…常識的に考えて」
「そんな見ず知らずの人達なんて当てになるんですか? ご主人様」
タマモの言う事も分からないでもないが…炬燵に入りつつミカンを食い散らかしている狐よりかは役に立つと思うよ。女性物のファッション誌まで読み始めてさ…お前はどこの主婦だよと言いたくなるほど寛いでいる。
ピトーの円でカバーされた王宮をわざわざ警戒して回る必要などないのだが…少しくらい他のキメラアントを見習って哨戒任務位やって欲しい物だ。
もはや、野生に帰る事が出来ないであろうタマモを見捨てて、私はネットの住人に助けを求めた。某巨大掲示板…世界中の様々な人達が匿名で情報交換や意見交換などを日々大量に行われている場所だ。
そして、私の手によって一つのスレが掛かれた。タイトルは、『彼女に似合う服を作らないといけないだけど、ムリゲー過ぎる』。無論、この場合の彼女とは男女の関係ではなくて純粋の女性といった意味を示しているつもりだ。当然、似合う服を考えて貰う以上 写真も一緒に着けて掲載した。
全身が写っている全裸の写真をな!!
「ネットの住人たちよ。どうか私を救ってくれ!!」
だが、この後知る事になるのだ。ネット住人など匿名希望の無責任な連中しかいないという事を…そして、それに頼ってしまった自分の不甲斐なさを。
それから、数十分後。
「見てくださいご主人様。これなんて王のイメージにドンピシャじゃありませんか!?」
タマモも一緒になって私が投稿したスレを参照していた。最初は、パソコンの使い方すらままならなかったのだが、今では引き籠りに恥じない流暢な操作をしている。キメラアントの学習能力の高さは分かっていたが、高過ぎる。
ちなみに、タマモが一番嵌っているのは通販らしく。最近では、国家元首のカードを使って無駄遣いしている。この炬燵も通販で買った物なのだがね!!
「確かに似合うだろう。むしろ、王の為にあるような服にも思えるが……殺す気?」
私が投稿したスレは、それなりにレスがあり非常に喜ばしい事だ。だが…大半は、私同様に不可能だろうとか、これが彼女とかお前終わってんなとか、まだ俺の嫁の方が美人だったわとか意見なのだがね。
だが、中には紳士な方もいて真面目に投稿してきてくれる。
モンハンのヤマツカミ男性装備を付けたようなメルエムとか最高なのだけどね!! 似合い過ぎだ。この投稿者は、絶対ジャポン出身だ。モチーフにしたのがジャポンの阿修羅像とかで間違いないだろう。
「えぇ〜、でもでもぉ〜……さっきから、いくつか投稿されている中じゃ、かなりいい部類じゃないですか。これ以上の高望みは出来ないと思いますよ。あ、ご主人様もミカン食べます?」
「ミカン食べる食べる。しぶまでちゃんと剥いてね。そうなんだけどね。男物は、流石にね……。この際、女性物の服限定で安価でも出してみようかな」
そして、女性物限定という件付きで安価を出してしまった。その安易な思いが私を滅亡へ導きなど考えなどもしなかったのだ。
その瞬間から待っていましたと言わんばかりにネタ服装が投稿されていった。
「これは酷い…ふふふ」
「いや〜、こんなの王に見せたら流石に激怒しちゃって間違いなく人間が滅ぼされちゃいますよ」
次々と投稿される画像をみてタマモと二人で爆笑していた。こんな画像を見られたら間違いなく、人間を殺しにかかるだろう。そして、それ見て笑っている私とタマモの命が尽きる事は確実だ。
だが、『乳首にハートマークのシールを張っただけ服装』や『紐に近いハイグレ水着』や『魔法少女』や『OL服』や『スケスケのネグリジェ』を来たメルエムの画像なんて見たら嗤わずにはいられないだろう。
「もうすぐ、安価ですがこの調子だとかなりまずい服装になりません。万が一、こんな服装がきたらシャレになりませんよ」
「ふっ…その時は、無視して次の安価を落とすまでだ」
スレを活性化させる為に落とした安価で守らなくてもどうという事は無い。それに、守ったかどうかなどスレ主の私にしか分からない。何も問題など無い。
「流石、ご主人様!私に出来ない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる!あこがれるゥ!」
パソコンを与えてからというもの日に日に野生とは程遠い位置に向かっていくタマモを憐れんだ。ネットは、人だけでなくキメラアントですらダメにする!!
……あれ?
もしかして、武力でキメラアントを討伐するのではなく。タマモの様にネットで駄目キメラアントにしてやった方が安全で確実ではないだろうか。いや、こんな手が通じるのはタマモだけだと信じたい。
「ご主人様 ご主人様。安価の人来ましたよ。しかも、画像のリンクも張ってありますよ」
そうこうしているうちにスレは進み、安価の番まで来た。どんなネタ画像かと思い楽しみ半分で画像を開いてみた。
「…やばいわ。まじ、こんな服を着た王が目の前に立っていたら、色々な意味で恐怖し絶望するわ」
「確かに…全く、勝てる気がしませんね」
紺色のスクール水着を着て「めるえむ」と平仮名の名札を付けた王の画像があった。コラ画像にしては良くできており、得体の知れない恐怖が良く伝わってくる。
見方を変えれば動きを阻害しないフィット感抜群の服装で大事な所をしっかりと隠しているので他のアイディアに比べれば幾分かマシだ。ただし、他があまりにも酷過ぎるので比べる対象として相応しいかと言われれば微妙である。
「さて、次の安価を出すかな。流石に、こんなのを持ってけないしね」
「ですよね。ミカンが剥けましたよ」
次の安価を落とそうとした瞬間、ディスプレイに不吉な文言が浮かんだ。
『発動条件を満たしました。【安価は絶対!!】』
………
……
…
「ば、バカな!! ネット越しで念能力を発動だと!! しかも、誰だよ。こんなくだらない念能力を開発した奴!!」
だが、いかに叫ぼうが条件を満たして発動された念能力を前にしては無意味であった。意識と反して、すぐさまメルエムの服作りに専念し始めた。
「安価は絶対ですよ。スク水を着た王様か…死んじゃいますねご主人様。短い間でしたが、お世話になりました」
自分は関係ありませんと言った態度は、絶対に許さない。ご主人様のピンチは、タマモのピンチでもあるという事を思い知らせてやろう。
「私を助けろ!! もし、失敗したら王に服を着させる役目を命じてやる。忘れているようだが…私は、タマモに対しては王の次に強い命令権を持っているんだぞ!! 絶対に道ずれにしてやる!!」
タマモには、女王に依頼して王の次に強い忠誠心を埋め込ませてもらったのだ。いかにタマモが強かろうと逆らう事は叶わない。
「自業自得なのに酷い。人権団体に訴えてやる〜」
「何とでも罵るがいい。さぁ、早く私を止めるんだ!! 強化系であるタマモならこの鎧の上からでも抑え込めるだろう」
この時ほど、自分の手先が器用だったことを後悔した事はなかった。念の力によって普段以上の力を発揮している私は、王が着る為のスクール水着を凄まじい速度で作り上げているのだ。
「はいはい、止めればいいんでしょうご主人様。折角、面白い物が見られると思ったのに…むっむむむむむ。………無理ですねご主人様」
タマモが私の腕をつかみ動きを止めようと力を込めている。多少、速度は低下したものの動きを抑え込むには至らなかった。タマモの全力で止められないとなれば他の師団長クラスでも止める事は叶わないだろう。
ど、どうすればいいんだ!!
「そ、そうだピトー殿を呼んで来てくれ!! 師団長クラスの力で止められないならば更に上の力を借りる必要がある!!」
「構いませんけど…なぜ、ピトー様なんですか? 力でいえば断然、ユピー様じゃありませんか?」
確かに力だけでいえば間違いなくユピーだろう。それなのに、ピトーを呼ぶ理由は一つ!!
「ピトー殿が好きだからに決まっているだろう!! 」
相談するにしても好きな相手に話す方がいいに決まっている。それに、脳筋のユピーよりまともな意見も出そうだからね。
そして、今現在に至る。
無論、ネットで王の服装を公募した事やスクール水着を作っている事については、濁した。いくらピトーとはいえ、真実を知ったら王に報告しかねない。
「別に有害な念能力じゃないし、服を作り終われば解除されるようだから放置でいいと思うニャ」
ピトーが言っている事はあまりにも当たり前で正論であった。ただ、その作っている服がスクール水着という一点を除けば全く持って問題はない。
「もし、この念能力を解除してくれたら秘蔵のマタタビ酒を三本進呈致しましょう」
ピクピク
ピトーの動きが止まり、耳だけが動いた。
猫にとってマタタビとは、麻薬に近い物だ。一度その味を占めてしまえば早々抜け出せるものではない。しかも、私からの供給が無ければピトーはマタタビ酒を手に入れるすべはないだろう。なんせ、私お手製だからね!!
心なしかピトーの尻尾がパタパタと左右に振れている。
それにしても癒されるわ…リアル猫耳でメイド服を着たピトーが炬燵に入ってそんな行動をしているのだ。男じゃなくても癒される事間違いなしだ。
「そして、今ならこれもお付けしましょう」
私の取り分であったミカン三個をピトーの前に置いた。
「あぁ!! そういえば、除念が使えるのが一人居るニャ」
「タマモ!! 初任務だ!! 今すぐ、除念師を拉致って来い!!」
「私ですかぁ…」
炬燵の住人と化したタマモは、しぶしぶと炬燵からはい出して除念が使えるキメラアントを拉致しに行った。
しばらくして無事に念が解除され、今後安価は決して投げないと心に誓うレイアであった。
王宮の日常は、こんな雰囲気です。