第37話
地底湖を眺めながらランチを食べ終え、一息ついているレイアです。
「ご主人様、お茶が入りましたよ」
「ありがとう」
タマモが持ってきた水筒から暖かいお茶を注いでくれた。
洞窟言うより鍾乳洞に近い作りをしたここは、外と比較しても温度が低い。その為、防寒具などがないとそれだけで体力が奪われてしまう。まぁ、忍者スーツを着込んでいる私には無縁の話ではあるけどね。
「ピトー様も一緒に来られたら良かったのに残念ですね。王宮にずっと引き籠っていてストレスなんて感じないんでしょうかね。私なんてストレスが溜まって大変です」
何が、王宮に籠っていたらストレスが溜まって大変ですだ!!
タマモの一日は、炬燵に入って日中ずっとネットサーフィンをやっているかデイーゴ達と対戦ゲームをしているだけだろう。一応、狐がベースと言う事もあるので外にでて走り回りたいという心があるのかもしれないが…タマモに限って言えばそんな事などあり得ないと断言できる。
だってさ…ここまで堕落した狐が野生に戻れると思う?
「( ´∀`)<ぬるぽ」
「ヽ( ゚∀゚)ノ┌┛)`Д゚)・;'ガッ!!」
………
……
…
そう…こんな反応をナチュラルに返してくるんだ。流石の私もドン引きだよ。生後一年も経たないキメラアントがここまで汚染されるんだぜ。電脳ネットは本当に怖いわ。
「さて…キルア様が落ちてきたようだが、どちらが勝つと思う?」
「ちょ、ちょっと!! 何か言ってくださいよ。それとも、新手の放置プレイですか!? スルーするなんて酷過ぎる。私をこんな体にしたのはご主人様だというのに…」
「人聞きの悪い事を言うね。まぁ、そうまで言うなら元に戻るまでパソコンは一日2時間までと言う制限でも作ろうかね。それが嫌ならしっかり働きなさい」
ネット環境が無くなるのは、ネット依存症の者にとっては死にも等しい。無論、タマモはネット依存症だからネットが二時間の制限など耐えられるわけもない。よって、先ほどまであったふざけた雰囲気から一遍した。
「ゴホン!! 間違いなく、キルアという少年でしょう。イカルゴの蚤弾を数発しか直撃を食らっていない様子ですからね、あの程度の出血では体力を削るより先に回復されてしまうでしょう。おまけに、水中に誘い込む作戦も見事に失敗していますしね」
本当にその通りだ。驚異的な弾速を誇るイカルゴの蚤弾をたった数発で回避できるようになるとはマジ恐ろしいわ。回避方法については、頭で分かっていても絶対に体が着いていかないと断言できる。これだからサラブレッドは困るよね。何もかもスペックが違い過ぎる。
「油断しなければ圧勝だろうね…。もし、キルア様とイカルゴが地面のある場所まで来た場合に私達が見つかる可能性は?」
「もう少し奥に行くのがいいかと。あの少年、先ほどからこちらの気配を伺っている様子があります。見つかっては居ないでしょうが、野生の勘でも働いているのでしょうかね」
完全に死角からかなり距離を取った位置にいるというのに、薄々気付いているのか。今は、見つかる予定もないのでもう少し奥に移動するとしよう。
「野生の勘ってすごいな」
「凄いんですよ 野生の勘って。私なんて、稲荷をどこに隠されても絶対に見つけられますし」
「……それ役に立つの?」
「主に、お腹が減った時に…」
ダメだこいつw早く何とかしないと…
と、そんな馬鹿をやっている内にキルアの方はイカルゴとの勝負に勝利した様子だ。そして、吸盤を上手に利用して地面のある場所まで移動してきた。
「な…にぃぃぃぃーー!!」
キルアが叫んだ。
無理もない事だ。突如、サンマの様な魚が手の甲に刺さっているのだ。誰だって驚く。遠くから見ている私ですら気づいた時には刺さっているように見える。
コンディションが最悪に近い状態で致命的になりかねない出血ダメージを伴うこのダメージはつらいだろう。キルアの様な超人でなければ間違いなく死んでいる。
「見た事ない能力ですね。突然で念魚が現れていますね。流石の私もあれには反応しきれませんね」
「あの能力は、『死亡遊戯』といってハギャの部下であるオソロ兄弟の力だよ。二人で一つの能力を作ったという珍しいタイプだ。ダーツというゲームを元にした作られた能力で詳細は面倒だから省くけど、敵の体に触れるまで念魚が現れないという特性を持っているからほぼ回避不能さ」
タマモもあの速度に対抗しようとしている辺りが凄いがね。まぁ、タマモの能力にとっては相性の良い相手だろうね。あの程度の次の攻撃までに癒えてしまうだろうしね。
「なんだか反則くさい能力ですね…」
「まぁ、ダーツゲームのラストで失敗すればすべてのダメージが跳ね返るというリスクは負っているさ。外すような腕前の連中がこんな能力を作るとも思えんがね」
コンディションが悪くなければ、念の発動条件にあたるバッチなんて取り付けられなかっただろうにね。無理をし過ぎは良くないですよ キルア様。
「ご主人様、流石にあのキルア少年が不味いですよ。出血多量に加えて、あの傷じゃ虫の息もいいところですよ。…助けますか?」
私がここに来た理由をよく理解しているようだ。しかし、この場でキルアと助けるという選択肢は、間違いなくキメラアントを裏切る結果につながる。それがどういう意味を示しているか良く理解した上での質問だろう。
「助ける?何を言っているんだ。私がここに来たのは裏切り者を排除する為だよ。もっとも、その過程で敵を助ける事に繋がるなんてアクシデントが無いとも言い切れないけどね」
「えぇ〜、でも不味くないですか。プフ殿の念能力でばれちゃわないですか?」
「なーに、問題ないさ。我々の任務は、選別を妨害している者の調査という任務だけさ。その任務さえ完璧に遂行して報告すれば何ら嘘偽りはない。その過程の説明が求められるような事など、私とプフ殿の仲ではあり得んのだよ」
原作通りならば、キルアの選別の妨害はここまでのはずだ。後は、王討伐の為の準備に入るはず。モラウやノヴァ達が首都で妨害活動をしていたような気もするが、ここはハギャ達に任せよう。
「本当ですか? こんなつまらない所で私は死にたくないですよ」
人差し指を口元にあてて何とも魅惑的なポーズで死にたくないですよとか言われたら普通の男ならイチコロだ。
「タマモ、私を信じろ!! キルア様を助ける事は間違いなく私達の将来を明るくする」
「ふふふ、冗談ですよ。最初から信じてしますよ ご主人様〜」
タマモがいい子だから頭をナデナデしてあげた。
いやー、良く性別を忘れてしまうが…可愛いなこの野郎。
キルアが自分の命を懸けた大勝負をしている最中、何とも穏やかな雰囲気を醸し出すアホがここに居た。
「イェーイイェーー・・・・イ」
オセロ兄弟の首が飛んだ。
「ご、ご主人様。我々が何もしないうちに終わっちゃいましたよ!? あの状態から負ける押せる兄弟って雑魚過ぎですよ。これじゃ助けて恩が売れないですよ」
やべ、タマモを撫でていて気づけばキルアの大勝負が終わっていたとか…ここ一番の大勝負のシーンをこんな間近にいて見逃すってあり得ない。本当に、この世界で何やっているのだろうなと改めて思ってしまった。
「だ、大丈夫だ。問題ない」
そう、問題ないはずだ。キルアは間違いなく虫の息…既に纏すら保てていない程だ。もうすぐ地面に倒れ込み、そこにイカルゴが手を差し伸べるはず。
その時こそ、好機!!
「あ、イカルゴが止めを刺しに…って、あれ!? タコがキルア少年を抱えてこっちに走ってきますよ。というか、タコって陸上を走る生物でしたっけ!?」
ガシャ
毎日欠かさず手入れを行っているミルキより頂いた我が愛銃。最近は、弾丸を素でよけるような常識はずれの連中ばかりだったので使う機会もめっきりなかったが…こういう時位は、使ってあげないとね。
私達の居る場所は、イカルゴからは見えない死角に位置している。
「タコがベースのキメラアントでもタコ焼きになるのかな?あ、キルア様はキャッチしてね」
「美味しくなさそうですね。了解〜」
ババババン
「がぁがぐぁ…」
イカルゴが私とタマモの横を通り過ぎる瞬間、大口径の銃が火を噴いた。放たれた弾丸は全てイカルゴの大きな頭へと直撃し、見事に弾け飛んだ。
そして、宙に放り出されたキルアをタマモが上手に受け止めた。
喜べキルア。性別はどうであれ、露出狂っぽい見た目美少女にお姫様抱っこして貰えたんだ。人生、そんな甘美な瞬間は早々来ないぞ。
「きゃーーー。ご主人様に頂いたお洋服が血で汚れたぁぁぁ!? うぅぅぅぅ」
血まみれのキルアを抱きかかえればそりゃそうなるよね。
「……後で新しい服を作ってあげるね。そんな落ち込まないで」
血は落ちにくいから洗っても落ちないしね。まぁ、王の為に作った服の試作品が色々余っているのでそれほど時間が掛からず作ってあげられるだろう。
「はぁはぁ…てめーら、何者だ」
そういえば、この姿でキルアの前に出たのって初めてだっけ?キメラアントの巣では、ゴンとキルア以外の討伐部隊の連中にはあったがそれ以外には、よくよく思えば会っていなかった。
「そんな事より、早くここ…っ!!」
ズブリ
キルアの手がタマモの体を突き抜けていた。反対側が見えるほど綺麗に穴が開いてしまっていた。
イカルゴの死をそんな事扱いをした事が気に障ったのだろうか。それとも、私達が味方でないと悟り戦闘力の高いと思われるタマモを始末したのか。どちらにせよ、あまりに唐突な攻撃に私もタマモも反応できなかった。仮に、タマモが気づいていたとしてもゼロ距離からの念能力を用いた超速度の攻撃は反応する事はできないだろう。
しかし、私はタマモの事を全然心配などしていなかった。
「今のコンディションでタマモに致命傷を与えるとは凄いですねキルア様」
「……!? まさか、お前兄貴の…」
キルアを様づけで呼ぶ奴は執事を除けば、片手で十分足りる位だ。その中で推測すればおおよそ検討はつく。
「とりあえず、治療を施すのでしばしお休みください……」
「ちょ、ちょっと!! 傷物にされた私の事を少しは心配してくださいよ。良かったですねキルア少年。ご主人様の命令が無かったら、今この場で確実に殺していましたよ」
キルアと話しているうちに、タマモも傷は完全に塞がりいつもの調子に戻っていた。その様子に流石のキルアも驚いている。
タマモの念能力『常に完璧な私(リジェネレーター)』。某紳士並の自己治癒能力である。強化系とも相性も最高で実に戦闘向けの能力なのだ。タダですら人間を圧倒するスペックのキメラアントが更に強化系でガチガチになるだけでなく、化け物並の治癒能力を持っているのだ。戦う方にしてみれば冗談でない。
「治療が終わるまで、お休みを…」
タマモがキルアの意識を刈り取った。治療中にまた暴れられると大変だからね。
「キルア様も命の恩人である私達の事にもう少し感謝して欲しいよね」
「全くです。服は血で汚れるわ。体に大穴開けられるわ。踏んだり蹴ったりです」
こりゃ、帰ったらタマモに色々とサービスしてあげないとダメそうだ。
それにしても、イカルゴもキルアを殺す気かと言いたくなる程無謀な事をしてくれる。今のキルアの状態で川下りするのは、無謀すぎる。やるべき事は応急措置だ。傷の縫合と血液の補給。そして体温が下がらないように暖かい場所に移動するといった事だ。
だが、その前に。
ピピピピピピ
我がベストフレンドにお電話を…
『まだ、死んでいないようだな。とりあえず、無事で何よりだ レイア』
『ご無沙汰しておりますミルキ様。実は、今 目の前に虫の息状態のキルア様がいらっしゃるのですが…どうしましょう?』
キルア発見の報告をしないとね。後、治療するにしても恩を売る意味を込めて一応報告もいりますよね。
『……本当にそういう場面に縁があるなお前。それで、キルアをそこまでやった野郎は?』
『NGL内に巣を作っているキメラアントという種です。キルア様が首を跳ねましたが、生命力が強くまだ死んでおりません』
まだ、向こうで言い争っているのが聞こえる。首を跳ねて死なないとかマジキメラアントの生命力が半端ない。それともベースになった生き物が多少関係しているのだろうか。
『はぁ…、まったく。そのキメラアントは始末しろ。後、キルアを治療してやれ…親父達には俺から報告しておく』
『了解。最後に、キルア様の血液型って私と同じでしたっけ?』
『その通りだが……も、もしかしてお前の血液を輸血する気か!?』
『え、だってそれ以外に輸血する手段無いですよ。というか、そこまで驚かなくてもいいんじゃありませんか』
『いや、何か変な趣味に目覚めそうじゃん』
『酷過ぎるミルキ様。私を一体なんだと思っているんですか』
『HENTAIと言う名の紳士だろ』
『ですよね〜』
ミルキ様も同類でしょうと言いたかったが、ぐっと堪えた。そして、電話を終えてキルアの治療に取り掛かった。レイアの治療により、キルアは一命を取り留める。
イカルゴが完全死亡しました。
ふぅ、やっとここまで来た。王を始末して早くハッピーエンドを迎えたいです。
すごくどうでもいい作者の話ですが、
最近中型二輪免許を取得する為教習所に通っており間もなく免許GET!!
HONDAのバイクを購入する予定で今からwktkが止まりません。