第38話
キルアの一命を取り留めて、闇医者の場所まで届けてあげたレイアです。
無論、闇医者だけあって点滴一つでも法外なお値段が取られました。だけど、心優しい私は嫌な顔一つせず現金払いで一週間分のベッド代と治療費を置いてきた。キルアの驚異的な回復力を考えれば、2.3日で目を覚ますだろう。本来ならそれまで付き添ってあげてもいいのだが…こちらも時間的猶予が大分無くなってきているので後は放置プレイだ。
念の為、ビスケ師匠にキルアを見つけたので治療した上で闇医者の所にぶち込んでおいたとメールで報告だけはしてあげた。ビスケ師匠は、何気面倒見がよいから必ずキルアの容態を知れば本人が来るか討伐部隊の誰かに連絡をとりキルアの様子を確認するだろう。
そして、タマモと帰路を車で爆走中に閃いた事があったのだ。
すぐさま、マイベストフレンドに連絡をとり相手の電話番号を調べて貰った。プロハンターとはいえあの人の電話番号を調べるのは困難を極めるが、流石はゾルディック!! 太いパイプをお持ちで。
『知らん番号じゃな。だが、この番号を知っているという事は、ただ者じゃあるまい。何者だ?』
『お久しぶりですネテロ会長 レイアです。タマモの件は、見逃していただきありがとうございました』
ただ者じゃあるまいと言われてしまったけど…私は、間違いなくただ者です。知り合いに尋常な存在がいるくらいの普通の人です。
『ほっほっほ、よくこの番号を知っておったな少年。用事がそれだけなら切るぞ』
折角、のどから手が出るほど欲しい物をこちらから提供してあげようと言うのに酷いな。まぁ、命を懸けた大勝負に挑もうとしている最中、私の様な者からの連絡でも話を聞いてくれている辺り人間が実に出来ている。
さて、切られないうちに本題を話そう。
『もし、東ゴルドー共和国の王宮に張られているネフェルピトーの円を一時的に解除できると言えばいくら出せます?』
『実に、面白い事をいうな 少年。確かに、あの円が一時的にも消えるとなればこちらとしては非常にありがたい。もし、出来ると言うならいい値を出して構わん』
流石は、ハンター協会の最高権力者。いい値でいいとは太っ腹だね。
原作知識と言う未来情報があるから断言できる、『円』が雨の日に一時的に消える事は確定事項なのだ。現時点でコムギの生存は既に確認しているし、王が各ボードゲームのチャンピョンとお戯れなのも知っている。間違いなく原作の流れに沿っているのである。
そして、私はそれを使ってお小遣い稼ぎをさせていただきましょう。未来の事を考えればお金なんていくらでも欲しい。もうすぐ、私の知る原作知識は尽きてしまう。最後位お金を稼がせてもらっても罰はあたらんだろう。
『雨の日に一時間だけ、ネフェルピトーの円を止めましょう。料金は、一時間500億ジェニーでいかがですか? 無論、支払いは円が解けたのを確認してからで結構です。こちらが失敗してもそちらにリスクはないし、契約書も必要ありません。更にお金を払う払わないもそちらに一任致します』
『……よかろう。どのような手を使うかは知らぬが、思いつく限りこちらにリスクはなさそうじゃからな。どこにいるかは、あえて聞かぬが…我々の邪魔だけは、するでないぞ』
『勿論。私もハンター協会に目を付けられて討伐対象になるのはまっぴら御免ですからね』
そして電話を切った。
本来ならば罠とも疑いたくなるだろうが…円を解くリスクを考えればそれはあり得ないのであった。たとえ一瞬でも円を解けば必ず隙が生じる。王を守る近衛兵の観点でいえばそれは出来ない相談なのである。だからこそ、罠で有る可能性は限りなく低い。
これで、ゾルディックだけでなくハンター協会にも恩を売る事が出来た。今の討伐隊にとって、ピトーの『円』は一番の障害だろう。王と護衛兵を分断させる為にもノヴァの能力を使い王宮内にゲートを作りたいはず。そう考えれば、王討伐の成功率を上げる為に500億ジェニーなど安い物だ。むしろ破格!! しかも、支払いも成功後に任意で払ってくれればよいと言う事だから相手にとってリスクは無い。
「今の電話、以前にお会いしたお髭のおじいさんですか。あの人もとんでもなく強いけど王に勝てるとは到底思えないんですよね」
「王相手に真っ向から挑んで勝てる人なんていないだろうね。まぁ、手段を選ばないのであればいくらでも方法はある。それは、置いておいて…今は、将来の為にあちこちに恩を売っておかないといけないからね……あ、ちゃんと前見て運転してね」
走って帰ろうかと思ったけど、いい具合に軍用車があったので物理的な圧力をかけて強奪してきました。だって、私とタマモを見た瞬間に発砲してきたんだよ。血で染まった露出度が高い和服を着た妙齢な美女と軍用の強化外骨格を着ているだけの一般人にさ…全く酷いよね。
それにしても、いくらデイーゴが持っているレーシングゲームで運転慣れをしているからと言ってマニュアル車をこうも簡単に操作できる辺り、適用力が半端ないわ。私も運転は出来るが、タマモ程うまくは運転する事は出来ないだろう。
「はーい。でも、このまま真っ直ぐ帰っちゃって本当にいいですか?」
「なぜに?」
「だって、戻ったらあの服を王に持っていくんですよね。色々な意味で死んじゃいません?」
そりゃ、そういう約束で王宮に入れて貰っているし仕事で来ている以上、職務怠慢はいけないよ。
「色々な意味というのがどういう事かは、なんとなくわかるよ。私はね、自分が作る物に絶対的な自信を持っている。フィギュアしかり服しかりと…だからこそ!! 王に着てもらう服はアレしかない」
最高の材料に加えて、自分が持っている技術を全てつぎ込んで作り込んだのだ。一般市場には出回らないような軍事用の特殊繊維に神字を丁寧に書き込むだけでなく、人体の急所を守るためのプロテクタもミルキ特製の金属を使った逸品だ。劣化ウラン弾の直撃でも貫通する事が出来ないほどの強度を誇っている。だが、その反面、服の総重量は優に400キロ近いが…王の肉体的スペックを考えても楽に着こなせるだろう。
………ちなみに、下着は純白だ。
「そうだったんですか ご主人様。流石です………で、本心は?」
「テラ面白す!! 王があの服をきてマジバトルするかもしれないんだぞ。チラリズムの観点から考えても相手を悩殺する事間違いなし!! おまけに、戦っている間も常時SAN値を減らす特殊効果もあるとみて間違いない」
私の緻密な計算による作成された服は、少し大きく足を動かせばチラリズムが起こるように作られており見る者達の事もしっかりと考えた良心的な作りになっている。
大事な事だからもう一度言っておく…良心的な作りになっている!!
「流石、ご主人様!私に出来ない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる!あこがれるゥ!」
「もっと、褒めたたえて構わんのだよ」
ごめんねネテロ会長。
私は、プロハンターの前にプロの造型師なのだ…だから、妥協なんて出来ない。私の服が原因で死ぬ事になっても恨まないでくれよ。
「きゃー素敵ですご主人様。愛してる〜」
王宮…メルエムの御前にて。
空気が重い…自分の体重が10倍以上にも思えるほど重い。王が私と面会する為に、貴重な時間を取ってくれたのだ。本来ならばコムギとボードゲームを楽しんでいるのだが…ピトーとプフの計らいもあってこのような場を設けて貰えたのだ。おかげで、私への期待と言うハードルは青天井。
「話は聞いている。余に服を作ったそうだな。見せてみよ」
「ただいま」
手を軽く上げて後ろで控えていたタマモに合図を送った。
その瞬間、1/1王フィギュアとレイア特性の服がお披露目された。純白の衣を纏った凛々しい姿の王がお披露目されたのだ。
本来ならば、服だけを持ってくるつもりだったのだが…服の重量があまりに重く。支えきる事が出来るマネキンが存在しなかったのだ。なので、サイズを測る為に使っていた王1/1フィギュアに着せて持ってきた。
「うつくしい…」
最初に声を上げたのは、プフであった。
流石見る目のあるキメラアントだ。私が作った、某ゲームに登場するセイバーリリーが着ていた服を見て美しさに感動を覚えてくれた。防御力だけでなく、着る物の魅力を100%以上引き立てるこの服の良さを理解するなんて…なんて出来るキメラアントだ。護衛兵の名は伊達じゃなかった。
だが、プフとは反対にピトーの顔には脂汗が浮かんでいる。それどころか顔面蒼白だった。
ここは、ピトーを安心させる為に多少なりとも服の説明をする必要がありそうだ。
「この服は、神字を刻み込んでおりオーラを通す事で防御力を飛躍的に向上させられるだけでなく。王のいかなる戦闘スタイルにも対応できるように設計を行って作り上げました。着心地や通気性も抜群で一日中着ていただいても何ら負担にならない自信があります」
「……」
無言の王…。
私に対して特に圧力がかかっている様子も無く、このまま説明を続けていいと判断した。
「そして何より、王が女性である事を考慮し白を基調にし、美しさを引き立たせるようにしとります」
「なっ「にゃん…だと!?」……」
今、一瞬だが王が口を開いたような気がしたが気のせいか。
そして、プフは首を上下に振ってウンウンと言っている。どうやら、プフは王が女性である事に気づいていた様子だ。流石、忠誠心が一番熱い男は違うね。
「もしかして…ピトー殿は、王が女性である事をご存知なかったのですか?」
「そ、そそんな訳あるはずないにゃ。処女をかけてもいいにゃ」
ピトーの酷いテンパり具合がなぜか、うちのタマモにとても良く似ている気がしたが問題あるまい。
「ですよね。キメラアントの生態的に考えても、私の生物学上雄にしか通じない念能力を考えても間違いなく王は女性である事は明白」
「実に!! 実にすばらしいです!! 流石は、私が見込んだだけの事はあります。万が一、この場で王に対して男性が着るような服をだしたら、どのように処理してくれようかと内心ヒヤヒヤとしておりましたが安心しました」
「当然です。王が男性なんて勘違いをしているような人なんているはずないじゃないですかプフ殿」
「全くその通り。それにしても実にすばらしい服…機能性だけでなく、王の事をここまで考えて服を作れるのは世界広しと言えども貴方だけでしょう。そう思いませんか、王?」
流石の王も困惑のご様子。だが、王と言うだけあって空気を読む力も素晴らしい物だった。
「大義であった」
まさか、ここまでベタ褒めしてくれるとはね…予想外だった。なにより、予想外だったのは、プフが王の性別に築いていた事だ。もしかしたら、あり得るかもしれない程度の認識だったが、有難い誤算。
「その服、一人で着るには少しコツがいりまして……」
私は、プフに目線で合図した。
貴方ほどの人ならこれだけですべてを読み取れるはずだ。
「ご安心を!! このプフ、責任を持ってお手伝いさせていただきます!! 王が、服をお召しになるのです…ピトー達は早々に退出なさい」
そして、私達は部屋から追い出された。
ピトーとタマモと私がそれぞれ安どのため息をついた。
「「「助かった」」」
その後、王がセイバーリリーのコスプレをして歩く姿を見たキメラアント達はSAN値が削られると同時に、笑いを堪える為に自ら脇腹を刺す者まで現れた。
迷った末…王にはセイバーリリのコスプレをしてもらいました。一応、王だしいいよね!!