第41話
会長に春が訪れた事を知ることもなく、ピトーを我が物にする為にコムギがいる部屋へと訪れた。
既に引き金を引くだけで弾が出るように準備はできている。銃口をそっとピトーの前で自己紹介に加え、カイトがどうとか叫んでいるゴンへ向けた。
まったく、カイトが死んだのは自業自得だ。カイトほどの実力者がピトーの『円』に気付かず踏み込む時点でおかしいのだ。そもそも、皆殺しにする気でキメラアントの討伐に来た連中から生き残るために抵抗したキメラアントに罪があるかといえば…微妙だな。先に手を出したのは、キメラアントの方だしな。
ゴゴゴゴゴ
それにしても、すさまじいオーラだな。だが…オーラの量だけで勝負が決まるほど念能力同士の戦いは甘くはない。事実、旅団やゴレイヌやミルキなどを相手にしても、オーラ量でも実力でも遥かに下回る私でも十二分にやりあえるのだからね。相性抜群という事もあるけどさ。
「その人から離れろ!! そして…俺と勝負しろ!! 勝負してカイトを…」
ゴンさんへ覚醒前の今なら確実にゴンをやれる!! 意識は完全にピトーに向いている。この貫通力に特化した劣化ウラン弾で背後から頭に当たればオーラで全身を強化しているゴンとはいえ倒せる!! 万が一生き残ったとしても大ダメージは逃れられまい。
「頼む…待ってくれ。レイア達もそれ以上動かないでくれ」
「デイーゴによるバインドで拘束したのちに、キメラアントの固い外皮すら貫通する弾による一点照射…キルア様はタマモに抑えさせます。声を掛けなければ確実にやれましたよ…」
「そんな賭けはできない。それに、彼は気づいていた」
ザッザ
ゴンが一歩ずつピトーとの間を詰める。
「どうしますかご主人様」
「そりゃー、動かないで欲しいと頼まれたら待つしかないでしょう…将来の嫁の頼みを無下にするほど私は外道じゃないからね。で、……ピトーが治療しているのは討伐部隊の強襲時に致命傷を負った一般人の少女です。王の命令で治療をしていますが、果たして君達はどうするんですかね?」
無論、念能力が使えない好機にピトーを討伐して他のメンバーの助っ人に行くというのが大正解だ。損得計算ができる人間なら間違いなく、このチャンスを逃がさない!! だが、それができないからこそ、この世界の主人公たちでもあるのだがね。
ゴンは冷静さにかけており、私の言葉は耳にあまり入っていないようだ。しかし、キルアは別だ。状況を正しく把握している。
「ゴ…」
「何でも!? 何でも言うことを聞くから!?」
……メイド服を着たピトーに『何でも言うことを聞くから!?』とかマジ薄い本ネタだろう。当然、録画録音も完璧だ。
「では、明日から白スクール水着を着てもらおう」
「いい趣味しているなデイーゴ。個人的には能力と合わせてナース服を…」
「ご主人様もデイーゴもふざけないでください!! 早く、契約書を…」
はっ!!
そうだった。一瞬、ピトーの衝撃的な一言ですっかり用事を忘れてしまった。まじ、そんな目で何でもするからなんて言われたら、変態達がどんな要求するかわかりませんよ。発言には気を付けたほうがいいと思う。
「い、いや、なんでもするとは言ったけど…レイア達ではなく。彼になんだけど…それに、さすがにスクール水着はちょっと…」
ピトーのその一言で場の空気が凍った。
………
……
…
キルアがかわいそうな子をみるような憐みの目で我々を見てきた。まるで、我々が場違いな存在でもみるかのように。
だが、そんな冷たい視線など気にする私でもない。
ゴン達を沈黙もしくは排除させてからコムギを人質にとって交渉をする予定だったが…これは使えるな。本来ならば、デイーゴかタマモあたりに引き受けてもらおうと思ったが、原作組に悪役を引き受けてもらう事にしよう。
「ピトーがカイトの治療を行う事を確約させる方法が一つありますが、どうでしょう。私の案に乗ってみませんか?ゴン君、キルア様」
ニヤリ
「………」
「どんな案?」
ゴンも聞こえているはずだが…華麗に無視して、ピトーの前に座り込み監視中。キルアは、一応話の持ちかけた話を聞いてくれるようでありがたいわ。
「私の第二の能力『自己強制証文(ねこのおんがえし)』を使います。その能力の特性は、以下の通り…」
1:ネフェルピトーにしか効果が無い。
2:能力開発から二年以内に本能力を使用しなければ、能力者は絶命する。
3:契約書にネフェルピトーが自分の意志でサインしない限り、能力の効果は発生しない。
4:契約書にネフェルピトーがサインをしない場合は、能力者は絶命する。
5:契約を持ちかける際に、契約内容をネフェルピトーに一字一句間違わず伝えなければならない。その際に嘘偽りを言った場合は能力者は絶命する。
6:契約書にサインされた場合でもネフェルピトーが出した要求を全て完遂しない限り、能力は発生しない。要求を完遂できない場合は、能力者は絶命する。
7:能力発動時にこの能力に使用したメモリーごと失う
7個にも及ぶ条件をすべて説明した。無論、ピトーにも聞こえるようにだ。これで第一条件はクリアした。そして、私の最高傑作の契約書を見せた。禍々しいオーラを纏っており、悪魔契約書といった方がまだしっくりくるくらいである。
「この能力を発動させ、ピトーを私の物にすれば必ずやカイトを治療させることができる!! ピトー本人の意思に頼るより、私を使ったほうが確実性は高いだろう」
さぁ、ゴンよ…命令するのだ。無条件でこの契約書にサインをしろと…さもなければコムギの命は奪うと!!
「お前を信用しろと」
「その通りだ、ゴン君。兄弟子である私を信じてもらいたい」
………
……
…
正直に言って、悪い話ではないはずだ。これほどの制約を課している念能力であれば最低限一時でもピトーを我が物にできるのは明白。
「ゴン、悪い取引じゃない。少なくとも、こいつは嘘を言っていない。今のうちに契約書にサインをさせておいた方がいい」
ナイス援護射撃だキルア。君の命を救った貸しは、今のでチャラにしてあげよう。
「お互いwinwinな関係でいこうじゃありませんか。私は、ピトーを手に入れる。君たちはカイトの治療ができる。その上、ピトーとの戦闘も避けられるというオマケつきだ」
流石のピトーも今の状況下で我々の裏切りは想定外らしく、顔に焦りが見える。しかし、どうする事も出来ないのであった。コムギの治療の為、念能力は使えず行動範囲にも制限が掛かっている。その上、ゴンがピトーの動きを完全に抑えており、下手に動く事すらままならない。
また、『自己強制証文(ねこのおんがえし)』を利用して私にゴンの排除を命令しようにも不可能である。契約をする前にゴンがコムギを殺してしまう可能性があるからだ。状況は完全にピトーの詰みである。
「……カイトを治療しなかった場合は、お前を必ずぶっ飛ばす。『彼女の治療を手伝う。そして、生命の重大な危機を回避させる』それで契約しろ。それ以外条件を追加することは認めない」
サラサラサラ
今の条件を契約書に書き加え、血判をした。
「ふふふふふ、さぁピトー。ここにサインを…それですべては万事解決です。長かったでよ〜、あなたを手に入れるまで」
「くっ…、レイアの事は気に入っていたのに……まさか、この時を狙って裏切るなんて」
何を言いますか…そもそも、私を気に入っている勘定すらG・Iのクリア景品であるレインボーダイヤの効果であるのにね。そして、その効果通り二人は永遠に一緒になるのだ。
「安心してほしい。コムギは必ず救おう。だから、安心して私の物になれピトー。それが生き残る唯一の道だ」
ピトーは契約書を見て……指先を噛みきり血判した。
その瞬間、契約が成立した。お互いが納得の元になされた契約である。これを破棄することなど人間の念能力者では不可能に近い。重すぎる契約なのだ。
契約した瞬間、ピトーの顔が真っ青になり倒れそうになったが何とか自力で持ちこたえていた。私には何が起こったかよくわからないが…多分、契約書からピトーに対して何かしらの事が行われたのであろう。
「では、全力でコムギの治療に移りましょう。私が手伝えば2.3割は早く治療が終わるでしょう」
そして、私の嫁になれピトー。
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コムギと出会い、人間にも生かすべき存在がいることを少なからず理解した。そして、一芸に特化した者もそれに含まれる。
現に、余の服などを作ったレイアという人間もその一人である。聞くところによれば、余が生まれた部屋にあった数々の美術品も全てあの者が作ったと聞く。少なからず、その方面については余がおよびつくものではないであろう。
コムギの件もあるにせよ、余は一度、この者と話す必要があると思っている。それが理不尽のない世界を作るための一歩になると確信している。
「貴様とは戦わぬ。場所の移動に異をはさまなかったのは忌憚なく論を交わす為に過ぎぬ。近う寄れ」
一歩ずつネテロが王との距離を縮めていった。何やら、とてもうれしそうに見える…まるで、思春期の高校生のようだ。そして、ネテロは王の隣に座った。
………王との距離わずか5cm!!
「この位でいいじゃろう」
「………なぜ、余の横に座る」
「その方がお互いを知るのに良いじゃろう」
ネテロのとても良い笑顔に加えて、瞳の色が単色になっていた。それを見た瞬間、王は一瞬で距離を取った。王自身も何が起こったか理解できず、本能で距離を取ったのだ。あれは何か良くない物だ。話し合う必要があると理解しているにも関わらず本能が拒否するという初めての経験に王は迷っていた。
「どうした。お互いをよく知るために話し合うんじゃなかったのか。そんなに離れていては話し合いができないであろう」
「よくわからぬが…貴様は危険だ。話し合うには、適任ではない…悪いが排除させてもらおう」
「どちらにも倒れる可能性はあるか。お主こそ危険じゃの…、やはり儂が面倒を見ねばなるまい。王よ…儂が勝ったら、大人しく儂の物になってもらおう」
「余に勝てると…いいだろう。余に勝てれば、お主の者になってやろう。だが、負ければ死んでもらおう」
人類最強とキメラアント最強の頂上決戦がここに始まった。
次回…カイト復活!?
他の護衛兵の戦闘を執筆するか…それとも、会長の愛の物語がいいかな…まような。