第44話
ピトーを手中に収め、気分は有頂天のレイアです。
ゴンとの約束を守るため律儀に、ゴンを先頭にしてデイーゴとピトーと一緒に移動中です。だが、ここで一つ問題が発生した。
「ゴツゴツして重いニャ」
「私だって、鎧を脱ぎして抱きつきたいよ。もう、マジで」
そう…私は、今現在ピトーに背負われて移動中なのである。
理由は簡単、こいつら全員の移動速度が早すぎて置いてきぼりになったんだよ。短距離ならまだいいよ。長距離とかマジで肉体スペック的に無理だって。だから、恥を忍んでピトーにおんぶしてもらっているのだ。
羨ましかろう?
だが、この時ほどG・Iアーマーが邪魔だと思ったことは無い。万が一にも、脱ぎ捨てるわけにもいかない。身の安全を考えればヘルメットも取れない…匂いすら嗅げないのだ。生殺しもいいところだ。
言いそびれたが…デイーゴは、何気に身体能力が高く、人形2体を背負ってピトーと並走しているのだ。本気でこの世界のオタクという人種が怖いと思った。キメラアントより、オタク討伐した方がいいんじゃないかと思うほどに。
と、思っている間に目的地に到着した。森の中だというのにご立派な屋敷がそこには立っていた。
「着いてこい」
いくら約束をしたとは言え、完全にボランティアに近い我々に対してさも当然に命令してくるゴンに内心イラってきた。長距離走ってきた我々に対して感謝の言葉やお茶の一つの出そうという心意気が全くといっていい程見受けられない。
親の教育が云々より、人としてどこか欠如しているのではないかと不安である。
「はいはい、どこへでも行きますよゴン君」
ゴンに続き我々は屋敷の扉をくぐり、しばらく歩くとカイトが居るであろう部屋まで案内された。
まさに、原作通り!!
ゴンが扉を開くと部屋の中には、キメラアントの巣でよく見たカイトがそこに居た。
「さあ約束通り、カイトを治せ。そうすれば、お前らにはもう用はない。どこへでも好きな場所へ行け」
今更だが…人間では技術的に不可能な事すら再現可能な念能力とは言え、死者蘇生なんておとぎ話のような事は不可能である。カイトが既に死亡している事など誰が見ても明白であったのにそれをゴンに誰も教えていないし伝えていないのは如何のものなのだろうね。
討伐部隊の連中は、説明が億劫 又は 説明をしてゴンが壊れる事を恐れたとしたか思えない。
そのおかげで我々はスムーズに事が進むので問題ないけどね。
「ピトー、治療してやれ」
その瞬間、ピトーの念能力『玩具修理者』が出現した。そして、カイトの治療を始めて直ぐに手が止まった。
「……ご主人様」
「問題ない、治療を続けろ」
ゴンの目すら欺いたというのに、流石はピトー。超一流の念能力者が作ったゲーム報酬を使い偽装に気づくとはね。性別は同じだとは言え、肉体的特徴が明らかに違うからね。目に見える容姿と実際治療する際に違和感を辿れば自ずと答えは出るか。
そう…いま、ピトーが治療を行っているのは、『影武者切符』を使ってカイトに成りすましたタマモである。
「いつ終わる」
「10分で終わるニャ」
ピトーの能力を使っても10分も掛かるとはね…すまないねタマモ。カイトの怪我を真似する為に自ら重症を負わせることになって。こりゃ、無事に仕事がおわったら、タマモの好物を山ほど用意してやらねばなるまい。
「では、ピトーの治療が終わるまでの間に今後のことを考えるよしようか。身の安全を考えて親友を頼るつもりだけど、デイーゴも一緒にどう?きっと…いや、間違いなく仲良くなれると思うよ。類友として」
「良いですな…是非、お供させてもらいましょう。道中の旅費などはお任せを…」
流石は、国家元首。裏金などが沢山あるのだろう。実に心強いわ…まぁ、私も一応、ハンターなので公共施設のほとんどを無料で利用できるし、身元不明の数人程度、ゴリ押しで国境を越えさせるなど容易い。
さて、ゴンと別れたら早々にミルキに連絡をして匿ってもらおう。なーに、色々と手土産もあるし、お金儲けのアイディアもあるので快く迎えてくれるだろう。
10分後。
私とデイーゴが今後の話で盛り上がる最中、ついにカイト(笑)の治療が完了した。
「治療が終わったよ」
「カイトォーー!!」
治療が終わり、横たわっているカイト(笑)に飛びついたゴンを見ていると思わず笑いそうになってしまった。ヘルメットを被っていなければ間違いなく、ニヤけた顔をお披露目していただろう。
さぁ、タマモよ…あとは、私が用意したカンペ通りにやるのだ。おまけに、ゴンとの出会いからキメラアント討伐に至るまでゴンと関連するイベントについて纏めた物を暗記させており、不測な事態が起きても大丈夫なように備えている。
「ゴンか…俺は…くっぁぁぁ!!」
「大丈夫カイト!! 早く治療を!!」
「治療はもう終わっているニャ。安静していれば問題ないニャ」
ピトーも私の考えを読んでいるようで、実に良い回答をしてくれる。というか、ゴンも重症から復帰したばかりのカイト(笑)を早く休ませてやれよ。そして、早々にこの場を立ち去り、モラウ達と合流して残りの護衛兵を倒してこい。
「だ、大丈夫だゴン。それより、なぜソイツがいる!?」
ピトーを指差し鬼気迫る顔をしており、実に良い感じである。
「酷いですねカイト(笑)さん。我々はあなたの治療をすべく、ここまで来たというのに…まぁ、ピトーの事が嫌いなのは分かりますがね。では、ゴン君…約束を果たしので我々はコレにて帰らせていただきますよ」
「もう危険はないから、カイトは休んでて、全部片付けたら一緒に帰ろう」
「あぁ、悪いがそうさせてもらおう。手伝ってやりたいが、生憎と出来そうにない」
カイトが自然に横になりそのまま目を閉じた。ゴンもカイトの回復を祈るかのように見つめており、私を笑い殺すきかと本気で言いたくなったぞ。
こ、堪えるんだ!! 笑いを堪えるのがこれほど辛いとは思わなかったぞ。
「ゴン君…キルア様達はまだ、戦っている。早く行きたまえ、カイトの事はビスケ師匠に連絡を入れておこう」
キルアの事は心配だが、カイトを残していけないという不安を解消するために私が名案を出してあげた。ゴンと私の双方の知り合いであり、ゴンにとって信頼の厚い人物である。故に、ビスケの名を出せばゴンは間違いなく安心するだろう。
「わかった!! キルアの元へ行ってくる。カイトの事をよろしくね」
先程までとは、180度変わって、無邪気な子供のような笑顔で私にお願いしてきた。全く、現金なやつだわ。だから、ガキは嫌いなんだ。
「あぁ、任せておけ。カイトの事は、しっかりとビスケ師匠にお願いしておこう。だから、頑張ってこい」
そう…カイト(笑)ではなく、この屋敷のどこかで放置されているカイトについてはビスケ師匠にしっかりと回収して貰うようにお願いするよ。
ピトーとデイーゴと一緒に元気いっぱいで飛び出していったゴンを見送った。
………
……
…
「ピトー、円を」
「了解ニャ。……円の範囲内には我々以外誰もいないニャ」
ガバ
横たわっていたカイト(笑)が勢いよく起き上がった。
「あんな大怪我しているなんて初耳ですよご主人様。私がどれだけ痛い思いして、真似したと思っているんですか」
「大丈夫だ…タマモならやってくれると信じていた。報酬と言ってはあれだが…今夜はお揚げ食べ放題だ!!」
おあげ状態!! タマモからオーラが溢れるのがよく分かる。
「ご主人様、大好きです!!」
タマモが、カイト(笑)の容姿で抱きついてきそうだったので、華麗に回避した。そして、そのまま床へダイブ…。その様子をみて、周りの皆がなぜか私を白い目で見てきた。
「最低ニャ。そこは、受け止めるべきだと思うニャ」
「流石にフォロー出来ませんねレイア殿」
はいはい!! 私が悪かったです。だから、そんな目で私を見ないで。でもさ、これって私じゃなくても避ける奴多いだろう…常識的に考えて。
数十分後、国境の外に向かう街道にて。
あれから、ビスケ師匠に電話をかけてカイトの死体を回収してもらうように依頼をした。
まぁ、ゴンがその死体を見た瞬間、間違いなくブチ切れるだろうが問題ない。怒りに任せてその場でゴンさんへ覚醒しても、怒りをぶつける対象がいないので自滅するのは間違いない。ピトーを追って来て、出会い頭にゴンさんへ覚醒する可能性も引くと見ている。時間が経つにつれて現実を受け入れるだろうし…カイトの死体が目の前にない状況で覚醒できるとも思っていない。
「さて、とりあえず街道を走っているあの車を奪取して国外逃亡と行きますか。では、自由に向かってレッツゴー」
誰が乗っているかは知らないが…ピトーとタマモとデイーゴに加えて私もいるのだ。これだけの戦力がいれば、車どころか軍隊すら相手にできると思う。
先行したピトーが車へ飛びつく瞬間、車の中より長髪の身に覚えのある顔が現れた。しかも、私と同じようなG・Iに身に纏っており…これはマズイ!!と思った。
というか、なんでここにいるんですか!!
「ストーーープ!!」
一声かけるのが遅く…ミルキの能力によりピトーの攻撃は、見事に逸れて地面に激突。
………
……
…
リアル犬神家をしているピトーを華麗にスルーしてミルキがこちらに話しかけてきた。
「久しいなレイア。そっちも帰りか…乗っていくか?」
「是非!! 乗せていってくださいミルキ様」
ミルキの粋な計らいでご同行できることになった。完全に討伐部隊を上回る戦力になったのではないかと思うのだが…まぁ、気にする必要もあるまい。
「ミルキ…もしや、ゾルディック家の?」
「よく知っているねデイーゴ。かなり隠匿されているはずなんだけど」
「一時期オークションのライバルがどのような人物が気になって調べてみのだが…情報が一切出てこなくてな。最終的に、運送業者のアルバイトをしたのだよ。そして、フィギュアのお届け物をした際にゾルディック家にぶち当たったという訳だ」
確かにネットークションで売っていたけどさ…そういう手段で相手を特定するのはどうかと思うよ。というか、国家元首がアルバイトなんてするなよ。
「こちらもよく知っている。国家元首のデイーゴであろう? うちの会社を含めて、この国には色々とお世話になっていたからな」
………
……
…
ガシ!!
謎の握手が交わされた。
謎の友情に私を含めた者たちが呆然としている。まぁ、いっか。
「では、早速帰りま…『最初はぐぅ!!じゃん、けん…』……えぇ!!」
まるでこの世の全ての呪うかのような声が響いいた。
しかも、これだけのメンツが居て誰も気付けなかった。ありえないと思うが、今はそれどころではない。振り返ってみれば、ゴンさんがマジ全力で私を殴る直前だった。ピトーやタマモが私を守るべくゴンさんとの合間に割り込もうとするが遅い!!
次の瞬間、ゴンさんの全力のワンパンが私の腹に直撃した。
メキメキメキズゴォォォーー
吹っ飛ばされるさなか、一瞬だがメレオロンの姿が確認できた。完全に油断していたせいでG・Iアーマーのセンサー反応に気づくのが遅れた。
原作とは異なり…ピトー抹殺ではなく、レイア抹殺のためのキリングマシーンが登場したのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……やっぱり、おかしい」
王宮へあと少しという距離まで来て、先程までのやりとりに疑問を感じ始めた。
あの時、先行させていたタマモというキメラアントが何処にもいなかった。それに、治療の時は疑問に思わなかったが…そもそも、どこへ先行させたんだ。
言うまでもなく、アジトであったと思うが…なぜ場所を知っていた。それに、アジトに先行したとしたらなぜあの場に居なかった。
そして、カイトの怪我に違和感があった。なんといのだろか…まるで鏡をみているようなそんな感じであった。
「カイトの怪我の位置…逆転してた!!」
そう…タマモは、カイトの怪我を再現するにあたり対面向かって再現をしていたので必然的に怪我の向きは反転するのだ。
「くっそたれぇぇぇぇぇ!!」
来た道を再度全力で引き返した。カイトの安否を確認する為…そして、真実を確認するために。
十数分後。
屋敷には、誰もいなかった…正確には、生きた人間は誰一人居なかった。居たのは、偽物のカイトを治療した横の部屋で糸の切れた人形の様に床に倒れているカイトただ一人…。
『嘘を付いたんだ…カイトを治療してくれると約束したのに…アイツ等を…アイツを殺せるならもう、何もいらない!!』
この場にレイアが居たら間違いなく「言いがかりは止してくれ。間違いなく、カイトを治療しただろう。それに、治療対象を指でさして指示したのはそちらじゃないか」といっただろう。
ゴォォォォォォォ!!
レイアを殺すだけなら、現状のゴンでも事足りる…だが、レイアの周りにはそれを阻害してくる連中が数多くいるのだ。しかも、一流または超一流と呼んでも過言ではない念能力者達が…。それ障害をクリアすべく、ゴンはすべてを捨てたのだ。
ゴンさん…レイア抹殺のために覚醒。
G・Iアーマーがなければ間違いなく即死でした。
さて…、本作品も終わりが見えてきました。…だというのに、更新速度が落ちてきており申し訳ありません。頑張って更新していきます。