第45話
ゴンさんの超一流の念能力者すら一撃で再起不能に一撃を受けて、五体満足でいられる事はまさに奇跡に近い。
無論、代償は大きかった。ゴンさんに殴られた箇所の装甲が剥げ落ちて、生身が丸見えなのだ。
G・Iアーマーの元になった軍事用外骨格は、一般兵であっても外来種へ一定以上の成果を上げることを目的として開発された物である。その為、極めて強度の高い素材が使われている。念でスペック以上に強化されている強化外骨格をゴンさんは素手で破壊したのだ。笑えない冗談である。
『腹部破損による影響で一部装甲をパージしました。また、バイタルに異常が見つけられます。至急、医師の診断を受けてください』
G・Iアーマーから機械的な音声で冷静に状況を伝えてきた。だが、今のレイアはそれどころではない。
「オオオォォォォエェェェェ!! あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ」
G・Iアーマーが犠牲になったとは言え、レイアにも相当のダメージがあったのだ。骨が数本と内蔵に致命的なダメージをもらっていた。おかげで、胃の中のものをぶちまけたのだ…ヘルメットで密閉された空間で。
「あのクソガキめがぁぁぁぁ!! こちらが下手になっていたら、付け上がりやがって!!」
完全にこちらの予想を裏切られた事と理不尽な八つ当たりに完全に私もブチギレである。今の一撃…間違いなく、頭部に直撃していたら死んでいた。首の骨がありえない方向に曲がっていただろう。
そもそも、なぜ、私がゴンさんに殴られなければならない。
キメラアント討伐に当たるレイアの成果は、間違いなく王を討伐したであろう会長に次ぐ成果である事は明白である。
1:ピトーの排除(嫁化という意味で)
2:プフの物理的排除
3:ピトーの円が切れる情報提供
4:王と護衛兵の念能力の情報提供
5:キルアの命を助けた
6:討伐部隊の不手際で致命傷を負った一般人の女性の治療を行った
7:女王健在の時に、食料となる人間を少なくなるように念を開花させて餌の質を高めた
8:ゴンさんになって死なないようにカイトの変わり身まで用意して嘘をつく努力をした
※討伐部隊の連中がカイトの死を隠蔽していたツケをレイアが支払った
それに比べて討伐部隊の連中が何をしたかといえば…精々、ユピーを排除した位だと思っている。いや、下手したらユピーすら倒していない可能性もある…原作通り会長の自爆の巻き添えで排除された可能性もある。
………
……
…
実績を纏めてみると、いかに私が貢献したかがよく分かる。その功労者に対して、何もしていないガキが意味不明な理由で私を殺しに来ているのだ。これを理不尽と言わずになんという…いくら、温厚な私でもブチギレて当然である。
ゴンさんの一撃で吹き飛ばされた距離は約500m…一撃目から数秒経って追撃がないことからミルキ、ピトー、タマモ、デイーゴ当たりが奮戦してくれているのだろう。
「………殺すか」
キルアに恨まれるかもしれないが…ゴンと違いキルアは話が通じる。事の顛末を話せば、仕方なかったと納得してくれると信じている。
「実力の差は、天地ほどある…だが、念能力者の戦いにおいて力だけが全てないことを見せてやろう。弱者には弱者の戦い方があるんだよ」
あの時は、一般人である私に使う機会が来るはずないと思っていたが…貰っておいてよかったよ。切り札の一つを切らさせてもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
G・Iセンサーに反応はあったが、レイアの仲間だと思ったせいで反応が遅れたのだ。決して、円による警戒は、怠っていた訳ではない。
だが、問題はそこではない。
レイアがどこの誰か知らない巨漢の男に殴り飛ばされるまで誰も動かなかった…いや、動けなかった事なのだ。間違いなく、カメレオンタイプのキメラアントの能力と見て間違いない。
今のやり取りの中で能力の詳細については大体把握できた…間違いなく、完全ステルスに類する物だろう。故に、最優先で排除すべき対象である。
そして、もう一つ分かっていることは…「レイアを殺すつもりでいる」という事実だ。
「本来、職業殺し屋として無料奉仕という事はしないのだが…友として親友の為に、一肌脱ぐ分には何ら問題あるまい」
「全く同感ですなミルキ殿。首相としての立場で一個人に加担するには問題だが…親友の為に一肌脱ぐ分には誰も文句は言いますまい。最も、既に我が国家は崩壊しておりますがね」
この男…かなり出来るな。
一部の隙もない構えに加え、二体の人形を完全に手足のごとく扱っているあたり相当の修練を積んだ念能力者と見える…まぁ、ただの変態の延長線の可能性もあるがな。
心強い戦力であることには変わりはない。
「で、二人はレイアの元へ行かなくていいのか?ここは我らで引き受けるが…」
「生存は確認しているし問題ないニャ。こういう場合は、戦力を分散させるより全員でアレを始末したほうが得策ニャ」
「そうです。そうです。私たちのご主人様を殺そうとしたこと…死んで償わせます。魅せてやりましょう…戦争は数だということを」
単体の武力で言えば間違いなく、ゴンさんに分がある…しかし、総力で言えば間違いなくレイアsideの圧勝である。ミルキとタマモを前衛として、後衛にデイーゴ、回復にピトーというエグい陣形ができるからである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ピピピピピ
『知らぬ番号じゃの、誰じゃ?』
『先程ぶりです。ミルキ様に大変お世話になっておりますレイアです。実は、殺しの依頼をお願い致します。報酬額は、500億ジェニーで一人殺していただきたい』
一人殺すには十分な額である。
間違いなく、それほどの相手だという事なのだろう。まぁ、4割引で引き受けてやるといっている事もあるし、ミルキだけでなくキルアの命まで救った恩人であるが故に断るという選択肢はないがな。
『よかろう。誰を始末すればいい?』
『ゴン・フリークス。キルア様の親友でありますが、今現在私を殺す為に相当重い制約まで掛けて殺しに来ています。ミルキ様含む私の親友と嫁が迎撃に当たっていますが、決定打に至っておりません。ご助力を…』
あ、頭が痛くなるような事態じゃな。
王宮で会った時は、若干病んでいる雰囲気ではあったが…なぜ、そのような事態になったか想像すらつかん。人生経験はそれなりにあるつもりなのだが、ネテロが王に惚れ込んだ件といい時代について行けなくなっている感がいなめん。
『わかった。今から向かおう…場所は?』
『ありがとうございます!! 場所は………』
………
……
…
「仕事の依頼か?オヤジ」
「あぁ、また厄介な仕事じゃわい」
レイアが長い人生で積み上げてきた人脈こそ、最強の武器である。
こうして、人類最高峰の念能力者が二人…ゴンさん抹殺に加わった。
だんだん時系列がごっちゃになってきた…大丈夫だよね。
問題ないと信じて連続投稿します。