ノリと勢いが大事だと思い…後悔はしていいない!!
第49話
ハンター協会にある、数えるのも億劫になる固定電話が一斉に鳴り響いており、凄まじい騒音となっていた。
オペレータが電話を平謝りで対応している。その内容が全て、現在ネット配信されているゴンさんの行為についての苦情だ。
全裸の巨漢の男が幼女二人全裸にひん剥いて暴行するだけに留まらず、それを止めに入ろうとした国家元首やメイド服を来たピトー、際どい和服をきているタマモ、軍用の強化外骨格に身を包んだミルキを相手に熾烈な戦いが生放送されているのだ。
正直、この映像を見た誰もがゴンさんが悪役と思っているだろう。事実、悪役なのだから仕方ない。しかし、ゴンさんを知る者達からすれば、この映像が全てゴンを陥れるための策謀にとられて考えただろう。特に、クラピカ、レオリオ当たりなどは必死で真偽を確認すべく行動をしているだろう。だが、現実は非常だ…いくら調べても映像が真実であることに行き着き絶望するだろう。
『ハンター協会、今世紀最大の失態!!』
大きな見出しの新聞に目が入った…ネットに情報がアップされて、ほとんど時間が立たないというのに、どうしてマスコミとはこっち方面では無駄に優秀なのだろうか。
「これは困りましたね。情報を隠蔽しようにも全世界に生放送…。ゾルディック家、世界のアニメ産業を支える独裁国家の国家元首まで居ては口封じもできないと。ゴン君の方も天空闘技場で名前が売れているせいか、始末するにも面倒…もっとも、そんな事をしようと思えば、こわーい親御さんのご登場」
全く、親子揃って碌でなしだな 本当に…。
いっそう、レイアというハンターに全ての責を押し付けて闇に葬ろうかと思ったが、ゾルディック家や国家元首、ハンター協会スポンサー達が擁護するだろうし不可能に近いだろう。
ならば、レイア達を抱え込む方がいいだろうか。むしろ、それが最善に思える。メリットとデメリットを考えれば当然の帰結である。
部屋の隅に飾られた、彫刻に目をやった。
「やはり、素晴らしいな。これほどの腕前を持つ者をみすみす逃すのもアレですね」
決して美術品マニアという訳ではないが、この『ミロのビーナス』や『サモトラケのニケ』と名付けられた歴史的な遺産といっても過言でない程の一品だと理解できる。それほどの美術品を生み出せる人物がどれほど希少かと言えば自ずとわかるだろう。脳筋のゴンさんとは比較にならない程である。脳筋の代替えなど探せば幾らでもいる。
レイアの才能がどれほどかと言うと…無駄に目の肥えたハンター協会のスポンサー達がキメラアントの巣から持ち帰った調度品を我さきにと奪っていったほどだ。お陰で、この二つの作品は隠し通すのに苦労しましたがね。
「これ以上、マスコミが変な事を言う前にハンター協会としても今回の一件…正式に立場を表明しないといけませんね。まぁ、上に聞くまでもなく、答えは決まっているでしょうが…」
こういう面倒事はやりたくなないですが、会長がいない以上、副会長のボクの仕事になるんでしょうね。
これより、数分後…全世界に向けて、ネット上で配信されている問題映像についてハンター協会は正式な立場で発表を行った。
『ハンター十か条の[その4]に犯したゴン・フリークスを捕縛する』との決定が正式に報道された。本来なら抹殺されてもおかしく無い程の大惨事だが…ゴンの父親であるジンが尽力したことにより、ぎりぎり捕縛で収まった。
そして、レイアにはキメラアント討伐の正当な報酬として一つ星が送られる事が非公式だが決定していた。無論、ハンター協会のスポンサーへ『ミロのビーナス』や『サモトラケのニケ』に比肩する調度品を作ることが前提だ。
ハンター協会のスポンサー達は、レイアが作る美術品を自分の物にして、知名度が上がった際に売りさばく事で金銭を稼ごうと考えたのだ。事実、レイアにはそれだけの腕がある。世界的に名前が売れるのも時間の問題であるのは明白であった。
そんな事実を知る由もないレイアであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
これほど胸躍る戦いは、何時ぶりだろうか…いや、初めてであっただろうか。長い人生の中でこれほど戦いが愛おしいと思ったことはない!!
「どうした、メルエム。儂の攻撃ばかりくらいおって…もしかして、ソッチの気があるのかの~」
ぺっ
メルエムが唾と一緒に口内に溜まった血を吐き捨てた。
メルエムはネテロ会長の念能力である千手観音を前に攻めきれずにいた。メルエムの予定では、そろそろ相手の手口が見えてきて手足の一本を奪えるはずだったのが…なぜか、ネテロ会長に近づくと動きが鈍っていた。
その正体にメルエムは気づけずにいたのだ。なぜなら、知らない感情だからだ。
生理的嫌悪感…それが、メルエムの動きが鈍っている正体である。女性として、当然の感情である。
ネテロ会長がメルエムを見る目は…まさに、獲物を見つめる眼である…もちろん、性的に。そんな相手に尻込みせずに戦えという方が難しい。
しかも、ネテロ会長の攻撃は場所が場所なら痴漢として検挙されかねないような攻撃を多数繰り出してきているのだ。お陰で、レイアが王のために作った衣装が綺麗に脱がされている。
王が来ている服は、神字で繊細な刺繍が施されておりオーラを込めることで防御力が上がる特性を持っている。故に、脱がすという行為は正しい手段だが…戦闘の最中にそのような繊細な芸当ができるあたり、腐っても念能力者最強といわれた漢だけはある。
事実、そうとう腐っているが。
「貴様のその余裕、へし折ってくれる」
生まれたままの姿のメルエムが再び会長へと襲いかかった。千手観音の行動パターンを読み切るためにメルエムは、体に溜まる鈍い痛みを抑えつつネテロ会長を追い込んでいった。それが全て会長の手の内だとも知らずに…。
………
……
…
戦闘の最中、想像以上に進化するメルエムに流石の儂も驚きを隠せない。百年近く掛けて積み上げた経験をこの短時間でここまで詰めてきよるとは…、流石はキメラアントの女王じゃわい。
人類を統べるという話も、冗談には思えなくなってくる。
「だが、その望みは叶わずに終わるがな…メルエムよ。儂のものになれ…さすれば、すべてを与えよう」
「断る!! 余は、誰にも屈しない。それに、倒されるのは貴様の方だ」
儂を一心に見つめるその目…実にそそられる。出来ることなら、永遠にその瞳を独占していたい。
そして、その生まれたままの姿で儂に味噌汁を作ってくれんかの…メルエムよ。あぁ…エプロン位の着用は認めよう!!
「どうしても、儂のものにならぬか…ならば、無理矢理にでも手込めにさせてもらおう。百式観音!!」
「誰が貴様なんぞに!!」
ネテロ会長の百式観音がメルエムの猛攻を阻む。今まで同様に完璧なまでにメルエムの猛攻を防いでいるように見えるが…メルエムは確実にネテロ会長へ一歩ずつ近づいていた。
ニヤリ
あまりに予定通りで思わずネテロ会長が不気味に微笑んだ。
世界最強とまで言われたネテロ会長の念能力が…『百式観音』だけであるはずがない。百年単位で童貞を死守している大賢者様だ。将来出会うであろう嫁の専用に念能力を開発していたとしても不思議ではあるまい。
現に、将来会う嫁の為に能力を開発していたバカタレのレイアという頭のネジがぶっ飛んだ少年がいるのだ。お仲間がいても不思議ではあるまい。
「(例え、能力の代償で百式観音を失おうとも構わぬ。本来ならば、この依頼は儂の命を使って締める予定だったのだ。故に!! 百式観音を失うことでメルエムが手に入り、儂も死なずに済むなら僥倖!!)」
今こそ、儂のもう一つの念能力を見せてやろう。この能力を見るのは、メルエム…お主が最初で最後だ!!
なぜなら、ネテロ会長がその能力につけている制約がこの通りだからだ。
1:本気で惚れた相手にしか使えない。
2:清い体で居なければいけない。(※童貞的意味で)
3:対象も清い体でなければいけない。(※性的な意味で)
4:対象とABCのBまで肉体関係が進んでいないといけない。(※Aは飛ばしても問題ない。7の条件が関与するため)
5:この能力を使う前に、清い体を失うと死ぬ。
6:百式観音を失う。
7:対象のファーストキスを奪うことで本能力が無条件で発動する。
8:この能力は、生涯で一度しか使えない。
ネテロ会長が若い頃に作った能力であるとは言え…笑い飛ばせない程重い制約だ。しかも、それが百年単位で塩漬けにされていればその効力も絶大!!
さぁ…メルエムよ!! そのまま儂の防御を押し崩してくると良い!! お主の程の感が良い者を騙して接近させる事など叶わぬだろう…だからこそ、こちらも全力で攻防に挑んでいる。
お主が成長し自らこの守りを破り近づいてきた時が最後だ!!
数十手後。
むっ!!
メルエムが、千手観音の防御を突破来てきた。こちらが無意識に苦手とする型を把握されたのだろう。
そして、メルエムの凶手がネテロ会長の右足を奪った!!
「この時を待っておった!!」
ネテロ会長は、両手でメルエムの顔を掴みあげ、目線の位置を合わせた。その動作、まさに神速!! 感謝突きの世界が無駄に発揮されたのだ。メルエムですら捉える事ができない速度であった。
そして、ネテロ会長の唇がメルエムの唇と重なった。
ズキューーーーーン!!
「………」
「………」
流石のメルエムの理解が追いつかず、お互いが見つめたままの状態で停止した。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」
両手で頭を押さえ込み、絶叫をあげるメルエム。
「ほっほっほ、無駄じゃわい。儂の念能力『まだ見ぬ嫁の為に』が発動した以上、お主の全ては、髪の毛一本から血の一滴まで儂の物じゃ」
「余の!! 余の心に入ってくるなぁぁぁぁぁぁ…………」
メルエムが苦しむ姿すら愛おしいと思うネテロ会長…これが人間の恐ろしさだとメルエムは、初めて実感した。
数分後。
「片足では歩きにくいだろう。余の背中に乗るといい」
「すまんの…では、お言葉に甘えて」
メルエムの完全洗脳が完了し、ネテロ会長を気遣うメルエムがそこにはいた。そして、会長の片足を大事そうに持ち、会長を背負った。
「余では、ソナタの足を治療することはできぬ。だが、余の臣下であるピトーなら可能であろう。必ず、元通りにしてみせよう」
ピトー…レイア少年が狙っていたキメラアントの子じゃの。あの少年からは、ワシと同じ匂いがする。だからこそ言える、あの手の輩は目的のためなら手段は選ばない人種だ。故に、ピトーを間違いなく手に入れているだろう。
よって向かう先は王宮ではなく、レイア少年がいる場所だ。
「頼もしいわい。では、向かうとしよう…レイア少年がいる場所へ」
レイアの元へ、また一人…いや、二人の視覚的にも物理的にも念能力者が向かったのであった。
レイア…人生で築き上げた人脈が生きてくる!!
さて、レイア視点に戻るとしよう。