第51話
超ゴンさんから3分間死なずにいれば、間違いなく勝利を収められるレイアである。しかし、その3分がどれだけ厳しい数字なのか、お分かりいただけるだろう。
ミルキを瞬殺し、シルバの念能力を気合だけで消し飛ばした化物だ。まじ、こんなの一般人に限りなく近いハンターである私には手に余る。
超ゴンさんの背後にあるカウントが進む最中、私は生き残るための術を必死で考えていた。
しかし、私が動くよりゼノとシルバの動きの方が早かった。オーラを一点に集中させて、心臓又は頭を破壊する気だろう。放出系の念では、超ゴンさんは倒せない…ならば、近接戦闘で始末するほかあるまい。
だが、肉体面や念能力面においても強化系である超ゴンさん相手にどれほど有効な物だろうか。超ゴンさんは、迫り来る二人の動き合わせて、両手の親指を弾いた。超ゴンさんの指弾である。威力も速度も機関銃並みに加えて、弾切れもない…旅団のフランクリンの能力を肉体のみで再現していると言っても過言ではない。
ドドドドドドドドドドドド
圧倒的な面制圧能力を前に、流石のゼノとシルバも防御に回るしか術はなかった。
「おぃおぃ、こりゃ洒落にならん」
超ゴンさんの指弾を防ぐ、ゼノとシルバの腕が青黒くなってきた。それは、間違いなくダメージが蓄積してきている証拠であった。
このまま行けば、二人は圧倒されて蜂の巣にされる可能性がある。もし、そうなったらミルキに顔向けできんな。私の依頼で両親が死んだとなれば、申し訳がないわ…それが暗殺者の一家だとしてもだ。
もはや、悠長な事は言っていられない…切り札を一つ切らさせてもらおう。
超ゴンさんが戦闘でこちらへの注意がそれている隙に懐より、一枚のメモリーカードを取り出した。これこそ、レイアの切り札の一つであるジョイステーションのメモリーカードである。これを用いて、この場からG・Iの世界へ逃げ出すという逃走手段。超ゴンさんであろうとも、別大陸まで瞬間移動ができるはずもない。仮に出来たとしても、受付で時間を潰す事で超ゴンさんの残り時間を消費させるには十二分に足りるのだ。
更に、このG・Iアーマーにはミルキに頼み込んで「貧者の薔薇」が搭載されている。それを時限爆弾として使う事で相手を完封する!! まぁ、この手段は、ゼノとシルバがいるから使えないがね。
では、コレにて前線より離脱させてもらうとしよう。
今度こそ、これでさようならだ!!
メキ!!
「………へぇ!?」
手に持っていたメモリーカードが粉砕された。何が起こったのか理解できなかったが、気がつけば超ゴンさんの視線が私を見つめていた。
「こんな事だと思った。お前…自分がいつでも逃げられるからといって常に高みの見物気分だっただろう。だから、危機感が足りないと言ったんだ」
超ゴンさんは、ゼノとシルバと戦いつつも決してレイアへの警戒を怠っていなかったのだ。むしろ、この状況になって未だに危機感を持っていないレイアを一番警戒していたのだ。
レイアにとって、超ゴンさんの言葉はその通りであった。逃走手段を確保していたからこそ、レイアは気楽に思うがまま行動していたのだ。しかも、瞬時に別大陸にまで逃げるという完璧な手段だ。
その方法が閉ざされた今、レイア心境は想像を絶する。
予備のメモリーカードなど持ってはいない…いや、恐らくミルキは自分と同じく逃走用にメモリーカードを持っているだろうが、本人遥か遠くに撤退中。
そんな絶望的な状況の中でレイアは、本気でブチギレた。
レイアが何年も掛けて計画し、それを実行する為に非才ながら血の滲むような努力をしてきた。それを、勝手に強敵に挑んで死んだハンターを生き返らせろとか無理難題を突き付けて…生き返らなかったから、お前も殺すとか理不尽な極まりない文句をいうキチガイに潰されそうとしているのだ。
「ぶち殺す!! クソガキ!!」
「面白い。やってみろ」
レイアと超ゴンさんの間に不穏な空気が流れる。
この状況を見ていたゼノとシルバは、数秒後にレイアが負けると思っていた。それ程までに実力差は歴然である。仮に、二人が全力で超ゴンさんに挑んだとしても残り時間約2分弱を凌ぎきるのは、不可能だろう。
レイアが動く…しかし、超ゴンさんの行動を前にはお粗末もいいところだ。レイアが超ゴンさんを一発殴る間に超ゴンさんは、レイアを10回殺せる程殴れるのだ。
超ゴンさんの凶悪な一撃がG・Iアーマーが破損した腹部へと向かった。間違いなく、一撃で殺す気満々の攻撃である。
パシン
しかし、その手がレイアへ届くことなく何者かによって止められた。
「よくぞ言った!! 理不尽な力へ屈服せず立ち向かう姿勢、流石は余の臣下である」
「待たせたの~、少年。それにしても、二人共随分と雰囲気が変わったの~」
セイバーリリーの格好をして、ナイスタイミングで登場したメルエムと片足を失った会長が颯爽登場した。メルエムの臣下になったつもりは、ないが…今は、そういう事にしておこう。
この時、ネット配信でメルエムの素晴らしい容姿を見た者達のSAN値が激減し泡を吹いて倒れるものが続出した。耐性が低い者の中には死者すら出る程であった。
メキメキ
超ゴンさんの豪腕を押さえ込みつつ、メルエムは当たりを見渡した。
「確か、レイアと言ったな…お主が手に入れたピトーは何処にいる?余の夫の足を治させたいのだが」
今、とんでもないセリフが出た気がしたが、華麗にスルーすることにした。
「私が王の護衛兵であるピトーを奪ったことは咎めないですか?」
「咎めぬ。むしろ、圧倒的な実力差がありながら、ピトーを手にしたその手腕を褒めてつかわす。そして、レイアがまだ余の臣下であるならば、この理不尽な事を言う愚か者を成敗する手助けをしてやろう」
もはや、断れる状況ではない。王の力なくして、この場を乗り切るのは不可能だ。それに、みる限り王は、ネテロが完全に掌握していると見て間違いない。
「王よ…お助けください。この場を乗り切れた暁には、最優先でネテロ会長の足をピトーに治療させます」
「良い返事だ。臣下を助けるのも王のつとめだ。安心するが良い」
王から後光が見える。これほど、私に安心感を与えてくれる言葉はない…ただし、その容姿がとんでもないがな!!
一昔前の私なら化物同士仲良く殺しあえと言うだろうが…今の私は、王に忠誠を誓っちゃいそうです。よく見れば…、あの王の姿も有りなのではと若干洗脳されてきたするくらいだ。
「微力ながら援護させていただきます。残り時間2分を凌げば我々の勝利です」
「ほほぅ、まだ手を隠していたか…流石は、ピトーを堕としただけのことはある」
流石の私もこれが最後の切り札!!
本来ならば、こんな場所で使う予定など無かったが…生き残るためには使うしかあるまい。
「ゲイン!!『支配者の祝福』……最初の命令だ。【死んでもゴンの足止めをしろ】」
グリードアイランドのクリア報酬である『支配者の祝福』…それを使う事で一瞬にして城下町が出現し、更に一万人の奴隷まで付いてくる。
一万人の奴隷とメルエム、ネテロ会長、ゼノ、シルバ…これを相手にして二分以内に私を殺す事ができるかね。
超ゴンさん、死亡まで後二分。
逃げ切ってみせる!!