第58話
キルアと和解もできて、実に順調です。これでいい、将来的に実にいいツッコミ要員になる事は間違いないでしょう。念能力を使った神速のツッコミ師キルアの誕生である。
能力の無駄遣いがここに極まる。
「で、これからどうするんだよ? 生け捕りにした連中、指定カード0枚だったじゃん」
キルアの言うとおり、本当に使えない連中でした。指定カードが0枚とかグリードアイランドになにをしに来たんだというレベルの存在だよ。
「問題ありません。そもそも、初心者狩りをしているようなクズに期待はしていません。アンドキバに着きましたら、指定カードが一気に増やせると確約しましょう」
二人によって生け捕りにされた者達は、私達は優しいから殺さなかったよ。手持ちのカードを全て取り上げた後に、ピトーに操り人形にして生きる屍にさせてもらったけどね。有事の際に、手駒として使う為にね。
「できなかったら?」
「ピトーとタマモが脱ぎます」
「「ブッーーー!!」」
「な、なんで私達が脱ぐ必要があるんですか!?」
「私が見たいからだけど、何か問題でも?」
「問題というか、ご主人様の頭が少し問題ニャ」
キルアがこいつ馬鹿だろうと言う目で見てくるぞ。おかしい…何がいけなかったんだ。こういう勝負事は普通脱衣が当然だろう。
「言っておきますが…キルア様が負けたらキルア様が脱ぐんですよ」
「……はぁ!? いやいや、完全におかしいだろう。既に会話が成り立ってないというレベルじゃないぞ」
「そんな事はありませんよ。それにキルア様から出来なかった場合にペナルティを設けようとしたのではありませんか。まさか、お逃げになるのですか…勝てない勝負には挑めないと」
ブチ
「乗ってやろうじゃんその勝負!! ただし、アンドキバで指定カード30枚以上を集めてみせろよ。期日は本日限りだからな」
「ならば、こちらの条件を一つだけ。キルア様が協力してくださいよ。なーに、キルア様が手を汚す事なんてありません。ただ、椅子に座っているだけでいいですよ。それで指定カード30枚以上を集めてみせましょう」
こうして、勝敗が決まりきった勝負が始まった。キルア自身…入手手段が分かっていても次の街限定で且つ一日でカードが集まるなど不可能であると信じていた。
アンドキバにて、数時間後。
『グリードアイランドクリア経験者によるカード情報提供!? 場所はアンドキバ大広間にて※一枚のカード情報につき、同じランク1枚の指定カードをいただきます。下位ランクの指定カードでも構いませんが。1ランク落ちるたびに倍の枚数をいただきます』
生け捕りにした野郎二人と街で見つけたプレイヤーを使って大々的に情報を流した。クリア経験者であるキルアはこのゲームでは有名人だ。今もゲームをしているプレイヤーなら知っている人も多い。
無論、偽物だと思う野郎もいるだろうが…それは、キルアを知る者がブックを使って調べれば一発で判明する。そして、キルアが本物だとグリードアイランドに生きるプレイヤー達に伝わった。
「すごい正攻法だな。アンタの事だから、一人ずつ個室に連れ込んでピトーの能力で力任せに洗脳すると思ってたよ」
「なにげ、私の扱いが酷くありませんか。まぁ、その方法も考えていたので否定はしませんが」
特設ステージには、二つの個室を用意している。情報を買うのを待つ者、情報を買った後の者が待つ部屋である。理由は簡単、情報を買った者達がそれを並んでいる者に漏らすのを防ぐ為だ。
『はいはい、皆さんちゃんと並んでくださいね。ちゃんと整理番号の順にお呼びしますので、ご安心ください。…えっ!? 今晩お茶でもどうかって? ダメですよ…私にはご主人様というお人がいるので』
『お茶を持ってきたニャ。注いで欲しい人は、コップをもって並ぶニャ。……この耳と尻尾が本物かだって? ご主人様以外には触らせないニャ』
その瞬間、待機室にいる一同の視線がキルアへと向かった。それも当然だ…なぜなら、私は整理券を配るだけの役割に徹しており、この場で私がふたりのご主人様だと考えるものは誰もいない。
全て順調だ。会場に集まったのは28人…オーラで判別する限り弱いものが多いが、数人ほど当たりもいる。それでも、以前にいたスペルカードで攻略を企むグループ員程度の力量だがね。
しかし…これだけいても、誰もピトーやタマモがオーラを周りの連中に合わせて、抑えているのに気づけないとはね。あの二人が本気でオーラを振りまいたら、誰も会場に近寄らないけどね。
数時間後。
「指定カード28種類ですが…ダブリも入れれば余裕で30枚超えましたね。キルア様は確かに、『指定カード30枚』と決して『30種類』とは仰っていませんでしたよね」
「ぬ、脱ぐのは人としてダメだろう。ほ、他の事にしようぜ。無理のない範囲で1回だけ言うこと聞いてあげる券とかそういう健全なのにしようぜ」
「脱ぐ事は無理な範囲と?」
「当然だろう!!」
仕方ない…ここは、大人の私が折れるのがいいでしょう。キルアとの関係を改善するためにも。
「では、それで手を打ちましょう。念のため、直筆で覚書をしてくださいね」
キルアは、自分が言い出したことなので渋々と覚書を書いてくれた。もっとも、その紙を私は売りさばくのだがね!! さて、キキョウ様やカルト様辺りにこの覚書にふさわしい値段を私の口座に振り込んでくださいとでも言うかな。
最近は、一般人的に考えれば信じられないくらいのお金を持っているが…リアルフィギュア作りも莫大な金が掛かっているからね。自分の趣味で使うお金位は稼がないといけないでしょう。大人として。
「ほらよ…じゃ、とりあえず飯にしようぜ」
「大賛成です!! 実は、この街にお稲荷様が食べられるお寿司屋があるんですよ。いや~、親切なプレイヤーの人もいらっしゃいますね」
「魚があるなら、そこで構わないニャ」
「そうですね。とりあえず、飯を食べてから我々もカード集めに行きましょう。そして、明日もこれやりますから頑張ってくださいキルア様」
「マジかよ。いい稼ぎだったけどさ…これ以上、同じカードはいらないぜ」
当然だ。初回はサービスみたいなものだ。次回からは、こちらが所持していないカードという条件付きで情報を売るさ。
そして、情報を買って豚共が肥えたら我々全員で回収に向かわせてもらおう。そして、私達にカードが集まった頃合を狙い、仕掛けてくる馬鹿共もいるだろうし、まさに一粒で二度おいしい作戦だ。
頑張って働いてくれよ プレイヤー諸君。
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葬式を遥かに超える重い空気がその場を制していた。息苦しいとかそんな物ではない。重石をつけられて極寒の海に沈められているというに相応しい空気である。
オーディション会場だというのに、たった一人のアイドル候補生の為に華やかな空気は消し飛んでいた。既に、この圧倒的な重圧に耐え切れず倒れ出すものが続出している。流石は、アイドル候補生だけあって一般人と比較してもプレッシャーに対して少なからず免疫があるようだ…まぁ、それも世界最強のアイドル候補生を前には対して意味もない。むしろ、苦しみが長引く分、気を失ったほうがマシに思える。
「この程度のプレッシャーにも耐えられんとは、余が真のアイドルをみせてやろう」
メルエム自身もアイドル候補生であるにも関わらず、真のアイドルとは大胆は発言だが…間違いなく頂点に立てる逸材ではある。だが、若干一般人と思考が異なっているのが玉に傷だ。
倒れている候補生は、オーディションのプレッシャーで倒れているのではなくメルエムの狂気によって倒れているのだ。それに気づけないのは、少し残念であるが…王でも完璧ではないという証明でもあるだろう。
「候補生が減るという事は、それだけオーディションに受かる可能性があるって事だ。全力で行ってくるといいメルエム」
「うむ、では行ってまいるぞネテロ」
オーディション会場にて。
こやつら…本当に人間か!? 内に秘める悪意が底知れぬ。余が全力で挑んでも刹那の時間すらも持たせられぬ気がする。
「どうされましたか。どうぞ、お座りください」
「余の臣下に、審査官と非常によく似た者がいたもので少し驚いておりました」
「レイアさんに、ソックリさんですか会ってみたいですね」
容姿は、同一人物ではないかと思える程似ているが、こっちの方のレイアは本気でヤバイとメルエムは感じ取っていた。メルエム自身が世界最強だからこそ分かる…審査員全員が化物だと。そんな中、平然を装うメルエムは、まさにアイドルの鏡だろう。
審査員の名前を確認してみたところ…レイア、ティファニア、沙耶、シックスとプレートに書かれていた。これほどの者達ならば、メルエム自身も名前程度なら聞いたことがあると思ったが、残念ながら誰も聞いたことがない。
どちらにせよ…井戸の中の蛙とは、余のことであったかとメルエムは実感するのであった。
「妻が失礼を…では、いくつか質問をよろしいですか?メルエムさん」
「無論だ。その為に来たのだから」
「はーい、じゃあ沙耶からの質問~。なんで、アイドルになろうと思ったの?」
「余の存在を世界に知らしめるためだ。平和的でない方法も一時期は考えたが、夫との出会いが余を変えたのだ。夫であるネテロ曰く…人妻アイドルというのもありじゃろうとの事でチャレンジしてみる事にした」
「素晴らしい心意気だ。それに、その真っ赤なドレスもよく似合っている。よろしい…履歴書を確認する限り実年齢に若干の問題はあるが、許容範囲だろう。今度、新人グラビアアイドルの写真集を出す予定なのだが、うちのアイドルとして出てみる気はないかい?」
シックス審査員と名乗る人が殺せるような凶悪な笑みをする恐ろしい人物が思わぬ話を投げかけてきた。今すぐにでもネテロの元に逃げ帰りたいと思うが、このチャンスを逃すわけにもいかずメルエムは、快諾した。
「是非、受けさせてもらおう。ところで、余からも一つ質問をさせてもらってもよいか?」
「答えられる事ならば、なんでも…」
「審査員の方々は、何者だ? 失礼を承知でいうが、ただの人間ではあるまい」
「はっはっは、面白ことをいいますね。我々は、社会勉強を兼ねて家族旅行中の一般市民ですよ」
こうして、メルエムはアイドルとして…ネテロはプロデュサーとしてヴェーグルプロという色々と頭のおかしい事務所に所属した。これが、グラビアアイドルデビューへと踏み出した。ゆくゆくは、アリーナでコンサートへと向かう為の最初の一歩であった。
メルエムなんて化物を雇う事務所なんて化物がやる事務所しかないでしょうw
こいつら出していいのかと思ったが…問題ないと判断して登場させてみました。
次話は、温泉ネタで行こうと思いますが 今週の投稿はない予定です。
流石の作者も連続投稿で疲れたのでちょっと休養予定。
ごめんなさいです。