第60話
ピトーの念能力をもってしても4時間もかかる大手術を無事に終え、生還を果たしたレイアです。
ピトー曰く、『危なかったニャ。脳内の血管がズタボロであと一歩処置が遅かったら死んでいた』と言われた。一応、『大天使の息吹』を手に入れた際には、念の為に自分に使おうと思う。流石に誰も文句は言わないだろう。もし、ケチを付ける奴がいたら、この本を無理矢理読ませてやるわ。
そして、今は大広間でメンバー全員が揃って晩飯を食べ終えたところだ。正直、メルエムと同じ場で飯を食っていたせいで、どんな味をしていたかさっぱり覚えていない。それほど、精神に負荷がかかっていたのだ。
そんな我々の気持ちも知らず、王とネテロは『あーーん』なんて、やっているんだから困るよね。
「では食事も終わりましたし、後はみんなで温泉にでも入りましょう。幸い、我々以外に客はいないそうなので本日は貸切ですよ」
「待っていたニャ。お酒の準備も万全だニャ」
最も、我々以外に客がいないのはピトーの『円』が凶悪過ぎて誰も近づいてこないという方が正解だ。しかし、本日に限りはこの宿にこない連中は、幸運ともいえよう。このメンバーと一緒に宿に泊まるなど、胃に穴が空くレベルじゃ済まない。
………
……
…
20分後、温泉の入口にて。
大広間で別れたメンバー全員が、部屋からタオルなどの入浴に必要な物を一式持って集合した。ちなみに、この宿での部屋割りだが、ネテロとメルエム、ミルキとキルア、デイーゴと鹿角、私とピトーとタマモという風になっている。
この部屋割りにキルアは、一人部屋でもいいというが『兄弟は、仲良く同じ部屋がいいだろう』とメルエムの鶴の一声でこの組み合わせが実現した。まぁ、ほかの部屋に混ぜられるよりマシだと思いキルアもすぐに承諾したのだがね。
「メルエムは、温泉は初めてじゃろう。ゆっくり浸かってくるといい」
「そうさせてもらおう。では、温泉に浸かった後は定番と言われる卓球をするので全員ここで待っておれ」
……えっ!?
王が打つ卓球の剛速球の直撃で死ぬ未来しか見えない。私を除いたメンバーならスポーツという厳格なルールに縛られた条件下なら王と互角に戦える可能性を秘めた者達だろうが、これは私に対するイジメでしょうか。
私が沈む気持ちでいるにも関わらず、全員がそれぞれ温泉へと向かった。
だが、その瞬間、叫びをあげるものがいた。
「待て待て待て待て!!」
全員が、立ち止まり声を張り上げたキルアの方を見た。
「どうしましたキルア様? そんな、慌てて」
「おかしいだろう!! 右が男湯だろう。左が女湯だろう。明らかに男湯に行くメンツが異常だろう」
男湯組は、ネテロ、ミルキ、デイーゴ、レイア、ピトー、タマモ、鹿角。
女湯組は、メルエム。
間違いなく性別通りの組み分けであるが、それに疑問を挟むキルアに全員が首を傾げていた。
『Jud.もしも、私の事を仰っているのであればお気にせずに。デイーゴ様の人形である私に欲情する様な変態はこの中にはいないと思っております』
「に、人形!?」
10人中10人が間違いなく美女と答える容姿をしている鹿角は、傍から見れば間違いなく人間に見える。心音や体温もある肌の質量感もまさに最高である。そして、女性特有の甘い香りも漂わせており間違うのも無理はない。むしろ、初見で見破れるのは相当のHENTAIだ。
キルアは、レイア謹製のリアルフィギュアの存在を知らなかったのだ。正確には、ゴンさんにより破壊された者達を見たことはあるが、本物の死体と勘違いしていたのだ。
『Jud.何でしたら確かめてみますか』
そういい、スカートの裾を持ち上げ始めた。
「純情なキルア様で遊んじゃダメですよ。キルア様もお年頃なんですから」
若干顔を赤くしているキルアは、そっちのケがあるのではないかと思ったが大丈夫だろうか。
ガンガンガンガン
キルアがなぜか壁に向かってヘッドバッドをしている。額から血が滲む程に繰り返しており、気が狂ったのではないかと若干心配した。私以外の者達も同じようにキルアが突如、壁相手にヘッドバッドする様子に唖然としていた。
「だ、大丈夫だ問題ない。だが、とりあえず…その人形は風呂に入れないか女風呂に行かせろ」
「それは、できぬ相談だ。鹿角と余の視界はリンクしておる。余に女風呂を犯罪的な手段で覗けと? それに、鹿角が女風呂にいったら誰が余の体を洗うのだ?」
風呂に入れないと選択しなど、デイーゴには存在しない。フィギュアの手洗いは、デイーゴにとって日課であり、それを妨げるならば命をかける所存である。
「なら、女風呂で問題ねーだろ!! 王は、男風呂だろ!!」
………
……
…
「それは、どういう意味だ?キルアよ。まさか、余を愚弄する気か?」
ゾワ
この時、全員が理解した‥キルアは、王が女性だとは理解していなかったのだ。王が女装癖のあるHENTAIか何かだと信じきっていたのだ。誠に持って失礼な話である…王のどこをどう見れば女性に見えるのだろうか。原作でだって…ムスコが描写されていなかったのだ。女性と考えるのは至極当然である。
故に、今の発言をしてしまったのだ。
これは、回答を誤れば死ぬ!!
だが、機転の利く私はキルア様を助けるべく助太刀することにした。まったく、写真集の件といい…今回の件といい、役に立つようで役に立たないなと思ってしまった。
「メルエム様…5歳児以下は、どちらにでもご入浴可能です。恐らく、キルア様はメルエム様の美しい裸体をご覧になりたいが為にその様に申したのかと…」
「キルア少年もなかなかのスケベじゃの~。まぁ、気持ちはわからんでもないが…儂がそんな堂々とした覗きを許すとでも?」
一同がキルアに軽蔑の視線を送った。無論、キルアが王の性別について理解していない事を承知した上で、いじり倒しているのだ。
「ちょ、おまw」
「我が弟でゾルディックともあろう者が…嘆かわしい。そんなに女性の裸体が見たいならば、いつでも言えばいいのに。子供が出来たら問題なんで、レイアにお前好みの奴を造らせよう。それで我慢しろ」
ミルキがなにげ弟を変態への道へ引き込もうとしている。万が一、デイーゴと同じ道を辿る事になったら大問題だよ。ゾルディックの長い血筋が途絶える事になりかねん。
「違う違う!! そうじゃないだろう。お前ら、分かっていてからかっているだろう!!」
だが、その悪ノリにのるのは当然だろう!!
ニヤリ
「まさか、新手の念能力者により精神攻撃!? そう考えればキルア様の理解不能な発言や行動にも納得が…」
「そんな訳あるはずないだろう!! このメンツ相手に喧嘩売る相手なんてこのゲーム内に居るはずないだろう!! 理解不能も何もお前等は疑問に…うぅぅぅぅーー!!」
『話が平行線で進まないと思い。無理矢理黙らせてみました』
キルアの顔が綺麗に鹿角の胸に押さえ込まれて口を塞いでいる。キルアも抜け出そうとしているが、デイーゴが操作する人形だ…オーラで強化されている為に破壊せずに脱出は困難。
「よかったなキルア。美しい女性の胸に顔を埋められて、役得だぞ。さて、そのまま風呂場に連れて行こう。温泉を前にこれ以上の時間の浪費は、馬鹿らしい」
「うぅーーーー!!」
ジタバタ暴れるキルアだが…暴れれば暴れるほど、鹿角に強く抱きしめられるのであった。
露天風呂にて。
「おかしいだろう…お前ら絶対頭おかしいだろう!!」
露天風呂に浸かりながらも、未だに狂言を繰り返すキルアがここにいる。
まったく、何がおかしいというのだ。美しい景色、温泉、美少女、美女…これだけ揃っていて何がおかしいというのだ。キルアは、男湯だというのに華があるとは最高だとは思わんのかな。
「一体何がおかしいですか?キルア様」
「言わねーとわからねーのかよ!! ピトーとタマモがこっちにいることだよ!!」
胸までタオルで隠し温泉につかる二人を指差した。その様子は、まるでピトーとタマモが女湯にいるべきだと言っているようにも聞こえる。
まさかね。
「キルア…今日のお前はおかしいぞ。男なんだから男湯にいるのは当たり前だろう?」
「その通りですぞキルア殿。王に対してのあの発言といい。性別を間違うのは、人としてどうかと思いますぞ」
………
……
…
再び沈黙が訪れた。
キルアは、口をパクパクさせて私と二人を見比べた。
「あんたさ、あの二人を嫁とか言ってたよな?」
「その通りですが、どうかしましたかキルア様」
「嫁って単語さ…俺が知らないうちに意味変わったりしてねーよな」
「変わっていないかと思いますよ」
………
……
…
「へ、変態だ!! 俺に近寄るんじゃね!! 」
キルアが、一瞬にして露天風呂の端から端まで移動した。
「キルアよ…またか。お前は、落ち着きが足りん。人の性癖など人の数だけあるんだ」
「その通りですよキルア様。それに…『可愛ければ性別などどうでもいい』のですよ」
「どうでもよくねーよ。そこ重要だからな!! 」
私の持論を完全否定するキルアだが…内心、外見が重要である事は理解していた。事実、先ほど王の性別を間違えて危うく死にかけたのだ。
「ふむ…口で言っても分からぬようですね。ならば、それを証明してもらいましょうか。デイーゴ、悪いけど手伝ってもらえる?」
「承知した。キルア殿には少々お灸を据えねばなるまい」
「や、やめろ。一体俺に何をするつもりだ!!」
風呂場から逃走しようにも全裸…更衣室への入口は既にミルキによって封鎖済み。女湯ににげるという活路もあるが、それは自殺行為。
「ピトー、タマモ、鹿角…タオルを取ってキルア様の体を洗ってあげなさい。男同士、裸の付き合いが大事でしょうからね」
「面白そうですね!!」
「ご主人様への侮辱はちょっと許せないニャ」
『Jud.体のすみずみまで丁寧に洗って差し上げます』
その日の夜。
「違う!! 俺は兄貴達のようなHENTAIじゃない!! 俺は普通の女性が好きなノーマルなんだ!!」
と叫びながら、人知れず大木にヘッドバットするキルアがいた。
だが、普通の女性とはどのような者かキルアは理解しているか疑問はある。
ピトーやタマモのような美少女の性別が男性であろうとも、可愛ければ問題ないという男性は世の中多いだろう…事実、4割近い男性は問題ないというに違いない。
そしてレイア謹製の人形は、美を追求した究極に近い理想形である。その為、人形であると知っていても、人間より人形を選ぶ人も多いだろう。
そんな存在の胸に顔をうずめるだけでなく、不可抗力とは言え背中まで流されたのだ…キルアの心は激しく揺さぶられていた。理性と欲望の一騎打ちである。
朱に染まれば赤くなる…HENTAI達に囲まれて、常識とはなんだったのか…、普通とはなんなのか…徐々にキルアの思考を侵食していった。
キルアの新しい道がw
さて、本作品もそろそろ終わりを迎えようとしております。
作者的には後5.6話で完結かと考えております。
執筆開始から二年近く経ち、終わりも見えひと段落している作者がここにおります。
次回作等は、作者のリアルの都合もあるのでどうなるかは見通りがたっておりません。
作品候補程度は決まっているくらいです。
では、最後まで頑張りますのでどうぞよろしくおねがいいたします。
次話の投稿は、来週位の予定です。