——唐突だが、運命というものを信じるだろうか。
いつか将来を約束するであろう人との運命的な出会いだとか、ヒーロー物で、主人公がピンチになった時に出る次回への繋ぎの「はたして主人公の運命は!?」とかそういう運命もある。
因みに俺は、そういう運命は信じない質だ。
でも俺が言っているのはそういうのではない。
俺が言いたいのは——
「それを渡してください」
俺の目の前には、黄色い宝石が埋め込んである自分の身の丈くらいの漆黒の戦斧。
それを携えるのはその戦斧を持つには相応しくない程の金髪で、先程の漆黒の戦斧と同じ位真っ黒なマントを着た美少女がいた。
しかも彼女の傍らにはオレンジの髪に獣耳、尻尾。しかも美女というオプション付き。しかも彼女は既にファイティングポーズをとってらっしゃる。うん、戦う気満々やん。
そして、俺が持っているのは蒼く、とても綺麗な宝石。
彼女達はどうも、この宝石を狙っているようだった。
——そう、実は俺、荻原 ユウトが言っているのはこういう運命。
とてつもなく面倒な事に巻き込まれる運命だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
と、とととととととりあえず落ち着くんだ俺!
3話目にしてやっと俺の名前が出たんだ!落ち着け!
ひぃひぃふぅ。とメタ発言をしながら呼吸をして落ち着かせる。
てかこれラマーズ法やん。
まぁとりあえず落ち着いたしよしとしよう。
落ち着いた所で一度、状況整理。
回想開始!
転生して二日目、家の中には家具、キッチンには食器などはあったものの、冷蔵庫にはこれといっていいほど食材が無かった。
あったのはいつもエストが食べていたお菓子。
それからアイス。これもエストが食後、風呂上りに食べていたアイスである。ちなみにガ〇ガリ君。
……エストのお菓子の量を決めて減らそう……。
それはさて置き、食材がないのはこれからの生活にも影響するので、3人でスーパーに行く事に。
スーパーに着くとエストは早々にお菓子コーナーへと走って行ってしまい、レスティアと二人で買い物をする事になった。
エストが戻ってくるときにはきっと両腕にお菓子をたんまりとのせてくるであろうという事が容易に想像できる。
だがここは保護者?責任を全うして、エストの一日のお菓子量を決めなければならん。例えエストが涙目で懇願してきてもだ。
いや、エストは四六時中無表情だしそんな事はありえないが。
「ね、ねぇユウト」
レスティアが服の裾を掴んで顔を真っ赤にして見上げてくる。
「な、何だレスティア」
彼女は基本的にクールなのでこんな表情は珍しい、と思う。
まだ二日目だしわからない事が多い。
しかし、この真っ赤なレスティアは可愛い。写真撮りたい。
「あ、アイスを買ってきてもいいかしら」
お前もかブルータス。
どうやら、規制しなければならないのはエストだけではないようだ。
俺は嘆息を吐き、アイスコーナーに向かうのだった。
「アイスは一日一個な?」
「ありがとうユウト!」
まるで子供のような……いや、子供か。俺もだけど。
レスティアは満面の笑みで感謝の言葉を述べるのであった。
やっぱ写真撮りてぇ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
スーパーから帰った後、この街——海鳴市の地理把握の為に俺は一人で街探検をしていた。
いやぁ、なんというか……体が小さくなると色々大きく感じる者なんだな。
レスティアによると、この体は9歳の体で神が原作に絡みやすいようにいらないお節介をしたのだとか。だから原作知らないんだって。別に俺の能力で知
・
る
・
事もできるがあれは代償が面倒だ。使いすぎたら倒れる事は確実だし。
「む?」
何だ?この鼻孔を刺激する様な良い匂いは……
俺はこの匂いの元を探ることにした。
結果、喫茶店に行きついた。喫茶店の名前は『喫茶翠屋』
この喫茶店の客によればここのケーキやらコーヒーやらはかなりおいしいらしい。軽食もあり、そちらも中々の美味さだとか。
というわけで早速コーヒーとケーキを頼んでみる事に。
甘いもの関係は俺の能力に必要な物だし、このケーキの味を盗めば役に立つかも知れない。
「はい、お待ちどうさま」
にこっ、と営業スマイルよりもスマイル……スーパースマイルを繰り出してきた店員さん。
「それにしても、君はこんな小さいのにコーヒーの味がわかるのかい?感心だねぇ」
ぽわぁ、と柔らかい笑顔。
「君、何歳なんだい?」
「9歳……です」
「ふむ、私の娘と同じ歳なのか。うちの娘はまだ紅茶もストレートで飲めないんだけどね」
「おっと、自己紹介をしておこうか。私は高町士郎。この翠屋の店長をしている」
「あ、店長でしたか。かなりお若く見えたので一般店員かと……」
「何歳に見えるかな?」
「……25……くらいですかね」
「37だよ」
ブフォッ!
思わずコーヒーを噴き出してしまった。
「ちょ、えぇ!?37!?え、えぇええ!?」
ちょ!マジっすか。めっちゃ若く見えるんやけど。
若づくりしすぎやろ!
「はっはっはっは、最初見る人は絶対そう言うんだよ。ちなみにうちの妻もすごく若くてねぇ……」
いつの間にか惚け話を始めてしまう高町店長、仕事せぇや。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翠屋でエストとレスティア用にケーキを買った後、海鳴商店街へと来ていた。
俺は、海鳴商店街に来た事を一生後悔する事になる。俺は逢ってしまった。
そう、運命と——
「ん?何だこれは……」
俺は見つけた『それ』を拾い上げる。
「宝石か……?」
蒼く——透き通った宝石。この石にはなにか力があるのか……吸い寄せられるというか、何かそんな感じがする。
「……ッ!?」
ぶわっ
瞬間、周りにいた人が全員、いなくなった。先程まで青く透き通っていた青空は灰色へと移り変わる。
「(な、なんだこれ!?人がいなくなって……そ、空も灰色だし)」
ザッ
「(ッ!?)」
後ろを振り向くと……漆黒の戦斧を携える少女がいた。
「それを……渡してください」
それは……とっても運命だなって、思ってしまうのでした。
……あれ?アニメ違う?
ちなみに主人公がときどき関西弁?になるのは仕様です。
これゾンの歩と同じ仕様です。原作読んでないとわからないと思いますが……