2話
「では、令呪で英霊を召還しましょう、実験的なものですから失敗していただいても文句はありません」
「私を随分低く見るのね、朱雀」
草木も眠る丑三つ時、施設の裏手で新たな英霊の召還に挑みます。召還はメディアさんの手の甲に有る令呪を用います。
あ、メディアさんは英霊モードのときでも私に素顔を見せてくれるようになって、名前でも呼んでくれます。対等な協力者と認められたようです。
……英霊モードでないメディアさんと言うのは若奥様モードといいますか、Hollowのメディアさんです。施設の女の子達の世話を焼いたり桜子ちゃんのお母さんと子育て井戸端会議をしたりしてます。
……えぇ、世話をかけないいい子らしいですよ『うちの朱雀』は……まぁ、私をだしにして桜子ちゃんを構うのが楽しいみたいですけどね。
ちなみに、私は名前である『命』よりも『朱雀』と呼ばれるのを好みます。命君から名前まで奪うのは心苦しいですからね。
「結果的に1つの令呪で2柱の英霊を召還しようと言うんですから、無謀と言うものでしょう」
「……まともな聖杯戦争のシステムなら、そうでしょうね」
睨まれます。この状態がどれだけイレギュラーな事態か調べてたみたいですから、まぁ、神様がくれたチート能力には私の主観が反映されてるみたいですから、私が出来そうだと思ってる以上、出来るんじゃないかと思いますが。
「まぁいいわ、英霊縁の品を揃えなさい」
了解と応えながら投影品と原典を並べ始めます。一瞬呆れた様子を見せたメディアさんは、最早何も言うまいと黙ったままです。
「……ふ……ん、何を召還したいかは見えたわ、けど良いのかしら? 裏切られても知らないわよ」
クスクスと面白そうに笑うメディアさん、メディアさん的には嫌いじゃない英霊なんでしょう。
かの英雄の伝承に曰く、その逃避行こそ伝説に相応しく。まさしくそれは不忠でもあり、それを許された身であると。
なればそれは、己が主から伴侶を奪いとった逃避行、己の意思で愛してくれた女性の望みに従った存在は、キャスターさんにすれば羨むほどだろう……うん、睨まれたからこれ以上は考えるのやめるけど。
「彼は第4次に召還されました、その人間性は観測しています……この聖杯戦争による英霊の召還と言う状況において、聖杯の存在無くて協力関係や主従の関係を構築するのは難しいのですよ……第3次においてはアベンジャー、第4次においてはランサーとライダー、キャスター、第5次においてはランサーと侍アサシン……そしてキャスターさんくらいですか」
ただ、第3次のアベンジャーは病原菌のようなものですし世界樹が罹患しかねません、第4次のライダーは征服大好き、キャスターはきっとエヴァンジェリン辺りを聖女とか言い出して暴走するでしょう。
他に有り得るなら5次のランサーと侍アサシンです、好戦的ではありますが、正直英霊の中でも群を抜いてまともな感性の持ち主です。
……悩み所ですが。侍アサシン佐々木小次郎は魔法使い相手には正直火力不足。兄貴のほうのランサーは、正直、本当に迷うんですよね。
「……ですがまぁ、彼は第5次においては、ともかく……泡沫の夢の中では、その槍を振るうべき機会に恵まれましたからね」
それが彼の望みに適ったかはわからない。けれど……私は、夢の中で笑っているクーフーリンを知っている。
そして、一度として主の信を得られず、絶望の淵で叫んだ彼を知っている。
「……あれは哀れすぎます……」
黄色の槍と赤色の槍を交互に刺し、投影と原典をもって四角を為す。名前しか知らないけれど、原典の中には二振りの剣もあったため、翼を広げるようにして突き刺す。
「召還をお願いします、主はメディアさんで構いません、彼は己の忠義を貫くことのみを望んでいます……言い方は悪いですが、けして裏切らない。都合の良い存在ですよ」
クスリと、快く微笑んで召還陣に身を向けるメディアさん。
そして声高く、施設の裏手で二度目の大魔術の詠唱が高らかに謳う。
「閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)
繰り返すつどに五度、ただ満たされる時を破却する
告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ
我に従え、ならばこの命運、汝が剣に預けましょう」
それは、荘厳で神聖な儀式だった。
自分がしでかしたままごとではなく、まさしく魔法に匹敵する大魔術の姿です。
そこに存在する魔力が旋律のように音を奏で、座から零れ落ちる栄達がこの世界に舞い落ちていく。
「至れ、我が主の槍よ!」
メディアさんの宣言と時を同じくして、この地に二人目の英霊が舞い降りた。
二槍を持って、広げながら頭を垂れる。けして自身を見せ付けるでなく。己が主を前にして不忠は許されぬと、頤を地面に押し付ける。
「サーヴァント ランサー。召還に応じましてございます」
顔は見えない、むしろ見せない。ただ忠義を示さんと頭を垂れる。
「召還に応じたならば従いなさい、この方こそ、我らが主なる」
そしてメディアさんは何だかとんでもないことを言い出しましたよ?
あ、召還の文言も最後の一言は何だかおかしかったような……
腕を引っ張られてメディアさんがいた場所に無理矢理連れ出されます……あ、ランサーと目が合った。
「主は魔術が未熟故、召還の儀は従者たる私が行った、されど吾等が忠義を捧げるべきは幼きなれど吾らを従え支えし只1人。槍兵の英霊よ、我が主の傘下に加わる栄達を望むか否か」
あの、メディアさん……?貴女は何を仰ってられるんでしょうか。
『この騎士が望むのは主への忠義なのでしょう? 正直面倒だわ……貴方が相手してあげなさい』
うわっ、念話で凄い本音を洩らされた。
目の前でランサーは子供である私に膝をつき、僅かな躊躇いも見せずに目を伏せる。
「我が槍は主の為にあり。主に我が槍を捧げましょう」
「……ええと、一応説明させてもらうと、この召還は聖杯戦争とは無関係なもので、この地において願望機たる聖杯は手に入らないんですが」
つらつらと、メディアさんにしたのと同じ説明をランサーにも行う。
メディアさんと違うのは警戒心と敵意の有無くらいだけど……
「聖杯など求めはしません、私は騎士としての面目を果たせればそれで十分。どうぞ我が槍を剣を主のために振るうことを命じていただきたい」
愚直といいますか、健気といいますか……
第4次聖杯戦争においてはマスターとの不和こそが彼の不遇の最大の要因でした。ならば私がすべきことは只1つ。
「その槍を受け取ろうランサー……いや、我が騎士ディルムッドよ。私が君に望むのはその忠節。伝説に謳われし武勇を我が元に預けてくれ」
一瞬、それまで微塵の躊躇も動揺も見せなかったディルムッドの身が震えた。
それは歓喜だろう、それは高揚だろう。嘗て1人の女性のために君主を裏切り、騎士道を外れてしまったその身に。二度目の人生が訪れた。
静かに、ディルムッドが視線を合わせてきた。私はそれに全幅の信頼を預けて頷く。
メディアさんには《利》を、ディルムッドには《信》を、それらを与え続ける限り、彼らは私を裏切らない。
(全部分かってるからとはいえ、悪辣ですね私は)
「ディルムッドよ、先程の話にもあったと思うが、私がこの世界に降り立った際に、この身の本来の持ち主の居場所を奪う形になった。故に私は彼に新たなる生を与えたいと思う、君の槍を剣を振るってもらえるか」
「御意に、是非もございません」
メディアさんと目を合わせると、少し呆れたように肩を竦めている……最初に言ったじゃありませんか都合の良い存在だって……
「彼女は私の協力者で英霊……真名はメディアだ、目的のために協力してもらっている」
僅かに不審の目がメディアさんに向けられるが……すぐにそれが取り消される。
裏切りの魔女の名に、主の身を案じたが、協力者と言うことで控えたということですかね……心の底で警戒くらいはしてるかもしれませんが。
「……メディアさん、最後の令呪……何か有意義な使い道とかあります?」
メディアさんの手元に令呪を残しておくと要らぬ気苦労をしそうですし。こういうのはさっさと使ってしまうに限ります。
……まともな聖杯戦争のマスターの考え方じゃありませんがね。
「特に無いわね、と言うか……よりによって貴方がそれを言うの? 過去、あれだけ令呪を無駄に使ったのは恐らく貴方くらいよ」
いえ、世の中には『言うこと聞きなさい』とか『あのマスターには手を出すな』とかで二画使った人も居るんですよ……二度に渡って『偽臣の書』を作った人とかも居ますし。
「彼に命じてもらえませんか、『朱雀の魔改造を受け入れろ』と」
「……凄く不審な単語があるように聞こえたのは気のせいかしら」
「私の魔法ですよ、かっこいいじゃないですか第6魔法『魔改造』とか」
私達の会話を膝をついたままで聞いているディルムッドに目を向けます。
「ディルムッドよ、我が意を信じ、その身に我が魔法の秘奥を受け入れよ……否があれば聞き入れる」
「ございません。我が身は既に主の槍。秘奥たる魔法の恩恵を受けられるとは至極の栄誉なれば」
……本当、どこぞの竜騎将ばりの忠誠心ですね。『死ねと言われれば笑って死に、戦えと言われれば神々にも立ち向かう』……でしたっけ。まさしくそんな感じです。
「まぁいいわ、令呪を以って槍の騎士に命ず、朱雀の『魔改造』を受け入れなさい」
さて、楽しい楽しい魔改造のお時間です。メディアさんにやるとさすがに怒られるか殺されるかされそうなので我慢しましたが。自分だけでなくて他人……サーヴァントも改造可能かどうかは気になったんですよね。
幸いにして、ディルムッドのステータスの横にカタログ(設定資料集)が現れました。
何度でも出来るか、これ一回限りかまでは分かりませんから、長期的に有利になるように考えてと。
CLASS ランサー
筋力 B 耐久 C
敏捷 A+ 魔力 D
幸運 E 宝具 B
クラス別能力 【対魔力】:B
保有スキル 【心眼(真)】:B
【愛の黒子】:C
宝具 【破魔の紅薔薇】
【必滅の黄薔薇】
///////////////////////////////////<魔改造>///////////////////////////////////
CLASS ランサー
筋力 A 耐久 C
敏捷 A+ 魔力 D
幸運 E 宝具 A
クラス別能力 【対魔力】:B
保有スキル 【心眼(真)】:B
【怪力】:B
【矢よけの加護】:B
【燕返し】
【透過】:B+
宝具 【破魔の紅薔薇】
【必滅の黄薔薇】
【突き穿つ死翔の槍】
とりあえず、諸悪の根源ともいえる【愛の黒子】は取っ払います。
代わりにクーフーリンと佐々木小次郎から良さそうなスキルと宝具を見繕いました。
ライダーから怪力も貰いましたが、副作用でゴルゴン化が進むのは神様(ご都合主義)パワーでスルーできます……『負担無し、身体への悪影響も無し』ですからね。
実際にはランスロットの【無窮の武錬】とか【無毀なる湖光】の方が強いのかもしれませんが……特に【無毀なる湖光】は抜いてればパラメーターが1ランクアップと言うチート仕様ですし。
一応ランサーであることに敬意を払って自重しました。【燕返し】? 悪ノリですが何か。
多重次元屈折現象による、同時にまったく別の軌跡を描く斬撃を与えるという【スキル】です……6本の槍が同時に振るわれたらと思いついたら止まれませんでした。
【突き穿つ死翔の槍】はディルムッドに飛び道具が無いのと、所有する宝具が対人宝具ばかりなので持たせました。ランサーの兄貴がよく使ってた方じゃなくて、最大補足50人くらいの対軍宝具のほうのゲイ・ボルクです……これと【燕返し】ってコンボ出来るんでしょうか……
さて、後は後々の変更が可能かどうかの確認と……後は
「……坊や」
考え込んでいるとメディアさんが話しかけてきます。最近は名前で呼んでくれていたのに坊やに戻ってしまったのは少し残念ですが。
と言うか、久しぶりに口元と目元が引きつってる気がします。しわが増え……指鉄砲の先から今にもガンドが飛んできそうなので自重します。
「アレは何かしら」
指差す先は、呆然と手に顕われた朱槍を握るディルムッド、既に黒子は存在しません。
【怪力】による筋力強化と【透過】で精神的攻撃の無効化とか気配遮断の真似事も出来るはずです。
「所謂、魔改造ランサーです」
「……ふぅ」
溜息を漏らして何処からともなく鏡を取り出すとディルムッドのほうに向けます。突然手に顕われた、ケルト神話において先の時代に武勇を誇った槍に目を奪われていたディルムッドは突然差し出された鏡に自身の貌を写し出し。
「なっ……私の、黒子が」
「え、もしかして愛着があったりしました? 今なら戻せるかもしれませんが」
呆然とした様子のディルムッドだが、暫し時を待って立ち上がると。手にした朱槍を数度振るい。何もない空間へ振り払った朱槍が本来有り得ぬ三条の軌跡を描く。
「おおっ、これが燕返し……生で見るとやはり凄いですね」
「……坊や……?」
「多重次元屈折現象を積み重ねた技術のみで再現するという離れ業で、とある英霊の得意技です、あ、振るってる槍はクーフーリンのゲイ・ボルクです
後、黒の黒子を取っ払って怪力による筋力UPと矢よけの加護、精神防壁と気配遮断も組み込んでみました」
そのまま、何もいわずにメディアさんが遠くを見つめます、頑張ったんですから少しは感心して欲しかったんですが。
ディルムッドさんは暫し自在に槍を振るった後で「失礼いたしました」と膝をつきます。うずうずと身体を動かしたがってますから気に入ってくれたと思うんですが。
実際、武錬だけで魔法の域に達するという【離れ業】(技術)なので、兵法者にとっては垂涎の技でしょう。
「さて、改めてこれからの活動方針です……メディアさん、ディルムッド、貴方達にはこれから魔法世界へと向かってもらいます。目的は命君の【容れモノ】を作るための材料集め……幸い、あちらの世界は文明レベルが中世程度で停滞しています。身分証明の精度も低く、拳闘士が職業として成り立つ社会制度です……ディルムッド、騎士として汚点となるかもしれませんが、一時期その身を拳闘士に貶めていただけませんか」
「お心遣い痛み入ります、されどお気になされず。この身は武勇を振るうことしか出来ず識を持たぬ非才の身、ただ一言……命じていただければと」
「ならばディルムッド、協力者メディアが材料を取り揃えるまで、その槍をもって勇を振るい資金を稼げ、拳闘士や賞金稼ぎ等、騎士の身に恥じる行いをさせてしまうが、それが我が誉れとなると理解し戦い続けよ」
「御意に、この身砕けるその日まで、主がために槍を振るいましょう」
『……め、メディアさん、何だか心苦しくなってきました』
何だか騙してるような気がするといいますか、さすがに申し訳なくなってきますが、当のディルムッドさんはもの凄く誇らしげです。
おかげで私は態々偉そうな態度でディルムッドに命じる必要があります。たぶんこう言う扱いをされたいと思うんですよね。
『だから言ったでしょう、面倒だって』
溜息が漏れそうになるのを我慢してメディアさんに向き直る。
「まずはイギリスはウェールズに向かってください、そこに魔法世界への扉があります……勿論、密航と言う形になって今いますが……」
「そのあたりは任せなさい、手段は選ばないでいいのでしょう?」
「……殺傷は避けてください、無論、絶対ではなく2人の判断に任せます」
クスリと微笑むメディアさんと、頭を垂れて御意と告げるディルムッド。
「それとディルムッド、戦闘においては突き穿つ死翔の
「はっ……」
「……ちなみに朱雀、何故かしら」
態々手にしたばかりの宝具を使用して黄薔薇の使用を禁じる形にした私の命にディルムッドは多少の躊躇いを見せますが、直ぐに気を取り直して承服します。
それを察したかメディアさんが問いかけてきます……まぁ、たいした理由ではないんですが。
「魔法世界には近年、英雄が名を挙げました……名は『紅き翼』……魔法世界での大戦の立役者にして現在最強の武勇を誇る勇名です。魔法世界で最強の名と言って良いでしょう。
我が騎士が二槍を振るう姿はまるで翼を拡げる様……ならば赫き二槍をもって赫翼の槍兵を名乗れば、それを『紅き翼』への挑戦と取る者も現われるでしょう。最強の英雄への不敬、挑戦だと」
ディルムッドの眼に光が宿る。メディアさんは少し呆れましたが、男はこういうものに憧れる生き物なんですよ。
「拳闘士として赫翼の槍兵を名乗れば身の程知らずと、英雄を軽んじる愚か者と思われよう。そしてそれを戒めようと強者がこぞって挑んで来よう。それらを倒し。我が元に最強の栄誉を届けよ、ディルムッド
魔法世界に、真の英霊の姿を刻み込め!」
「御意に、我が魔槍、その力、魔法世界に知らしめましょう」
『と言うわけで、目立つ役目はディルムッドに任せるので、メディアさんは精々暗躍してください。あ、早目に仮契約が出来るオコジョ妖精も取り付けてください。それがあると色々便利ですので』
『……構わないけど、朱雀がいない処では私の言うことも聞くように言っておいてもらえるかしら』
『はいはい、お任せあれ』
朱槍と紅槍を翼のように構え、多重次元屈折現象かそれが一瞬六本に映り、鷲が羽打つように紅き閃光を疾らせています。
……うん、本当に扱いやすいなこの人。
こうして私はまずは第一歩を、稀代の大魔術士と、忠義の従者を両脇に侍らせながら踏み出しました。
原作までは二人は魔法世界での活動の方が多いかもしれません。
その間に主人公はせっせとフラグの建築です……既に最低一人は決めてます。
……桜子は我ながら予想外だった、本当に何故ああなった……
では、執筆を頑張らせていただきますので応援頂ければ幸いです。
……幼児時代にフラグを立てて欲しいキャラとかのリクエストがあれば感想でお願いします、割と簡単に気変わりするかもしれません