4話
突然ですが、転校しました。
少等部から小学校への編入です、お婆さんや先輩には随分心配されましたが「男は、女の子を涙から守らないと駄目なんです」と言い切って断行しました。
……20分ほどの問答の後で、私の決心が固いと悟ると直ぐに手続きを進めてくれましたけどね。
転校の理由は勿論、ただ1つ。ガキ大将になることです!!
……まぁ、そんなのは副次的産物であって、主目的は腕っぷしにおいて少なくとも同学年の誰も文句を言えない力を見せ付けることと、その意味を知らしめることですね。
えぇ、千雨ちゃんをイジめると問答無用で叩きのめされるというのを骨の髄で分かりやすく理解させてあげるだけですから。
あの後、担任の先生と相談して、ある小学校のクラスの担任と連絡をつけることが出来ましたが……私は二度目の沸騰を経験して、気付けばその担任は原因不明の発熱で長期休養とあいなりました。魔力任せにすればいいんでガンドは結構得意です。
クラスのいじめを放置する事無かれ教師など百害あって一利なし。反省も後悔も微塵もありません。
……この時点で。私は基本的には冷静なほうですが、一線を越えると危険だと言う自己判断に至りました。私も所謂キレやすい子供だったんですね、新発見です。
……普通にギルさんボディの影響の気もしないでも無いです……まぁ、沸点が低いのは悪影響ですが、沸騰の原因が『友のため』であれば、ギルさんの影響であっても納得して受け入れましょう。
ともあれ、さっさと転校して千雨ちゃんと同じクラスになりました……私は何もしてませんよ、ただメディアさんにこんなことがあったんですと愚痴っただけですから。
千雨ちゃんも最初は凄く驚いてましたが「個人的事情で引っ越してきました」と自己紹介して積極的に関わっていったら呆れながらも安心してもらえたようです。
それから出来る限り千雨ちゃんと行動を共にして嘘つき呼ばわりされてたら即鎮圧です……実際、最近は千雨ちゃんは不自然な現象や事柄でもスルーするようにしてるんですから、昔のことを態々蒸し返す輩には容赦しません。
私が転校して来てからは千雨ちゃんと周りの常識が大きくずれたことは無いんですから、転校生と言う私の立場的には千雨ちゃんを嘘つき呼ばわりする方がおかしいんですし。
「そいつの事好きなんだろーっ」
「そうですが、何か?」
「……」
攻撃対象が私に移ってしまえば話は簡単です。小学生低学年ならむやみに女の子に構えば好きだ嫌いだ告白だと囃し立てるのも居るものです。
過剰に反応するから周りも騒ぎ出すので適当に流します。千雨ちゃんもクールですからスルーしてますしね……ちょっと頬が赤く? まぁ、気のせいですね。
基本的に、こちらの狼狽を前提の喧伝は淡白に受け流せば意味も無く、効果が無ければ相手も怯みます。
最初こそ千雨ちゃんも味方が無く、魔帆良の環境から自身の常識を全否定されて弱ってましたが、私と言う味方を得た千雨ちゃんはあっという間に復帰し……ちょっと荒みましたが、元気を取り戻しました。
いえ、素養があるのは知ってたので仕方ないんですが……既に原作の口調です。
……まぁ、好きなキャラなんで良いんですが、何処までが私のイメージの影響かはきっと私の生涯の宿業です……桜子ちゃんと足して2で割りた……何でもありません。
ともあれ、私は新たな力関係を小学校で築くこと優先です。
「あぁ、今日の二時限目は新田先生か……宿題が多かったから大変でしたね」
「まぁな」
千雨ちゃんと2人で宿題の内容など話してると、わらわらとクラスメイトが集まってきます。この麻帆良東小学校では宿題を制するものはクラスを制するんです。
確実な正答率を誇るのはクラスで私と千雨ちゃんだけ。最早焦土戦地における懐柔戦略に近いですね。女子は女子同士で仲良く出来ても、男子が女子に聞きに良くは難く、私は敵性認証した相手には容赦しません。
「はい……皆さんは、写しておいたほうがいいですよ、分からないところがあったら言ってくださいね」
後は、学校での私の発言力を増していけば千雨ちゃんに妙なちょっかいをかける馬鹿も居なくなるでしょう。
カリスマ使えば楽なんですが……千雨ちゃんも頑張ってる姿を見てしまうと、私も頑張りたくなってしまいました。主に拳と謀略で。
「……ありがとな」
偶にデレる辺りが高評価です。と言うか、この時点で原作の性格がほぼ再現できてる辺り、ある意味凄いですよね……桜子ちゃんはさすがに原作より天真爛漫なんだと思いたいです。
「いえいえ、好きでやってることですから」
実際、入学式で気付けなかった上に修行に夢中で気にも留めなかったことはかなり自己嫌悪入りましたし。
「う……そ、そう言えば、今日の放課後何か予定あるか?」
「いえ、特に無いですね」
まっすぐ施設に戻って修行くらいしか予定はありませんからね。千雨ちゃんの誘いなら大歓迎です。
「図書館に行きたいんだけど、一緒に行かないか」
「図書館島ですか、いいですね、まだ行ったこと無いんですよ」
「……私は、図書館に、行きたいって言ったんだが」
少し口元を引きつらせながら呟く千雨ちゃんにゆっくりと首を振ることで答えます。
「この学園で図書館といえば、島ひとつとその数倍の敷地面積を有する地下に大量の蔵書を管理する図書館島のことですよ。あぁ、地上部は安全らしいですから大丈夫ですよ」
「……地下は危険なのかよ」
「地下6F以下は命の危険もあるらしいですね」
ありえねぇと呟く千雨ちゃん、大丈夫です、あなたもいつか悟りを開きます……具体的には中学3年の学園祭辺りで。
さっさと魔法バレしてあげた方がいいかもしれませんが、まぁ、自分で気付くまでは避けましょう……と言うか、千雨ちゃんに魔法はあるんですとか語ったら普通に引かれかねませんし。バラすにしても、もう少し魔帆良(麻帆良)の異常性が身に染みてからにしましょう。
少なくとも、共感者件相談役・守護者としては役に立つと決めていますし。
「何か本でも借りられるんですか」
「あぁ、ちょっと調べ物をしたくてな」
それにしても、図書館島ですか、この時代に既にクウネルは居るんでしょうか。
……時期的にはネギが1歳かそこかで、ナギは既に行方不明ですから。居てもおかしくは無いですね。
「構いませんよ、一緒に行きましょうか」
「ああ」
そしてやって来た図書館島、広い、広すぎる……まぁ、広いだけなら千雨ちゃんも打ちひしがれたりしないんですが。
「あれが、北端大絶壁らしいですね」
図書館島のパンフレットを眺めながら目の前を落ちる“滝”を説明します。
千雨ちゃんは目の前の光景に絶望したらしく打ちひしがれて俯いています……まだ、図書館島は千雨ちゃんにはレベルが高かったですか。
図書館島が初めてなので、一番平坦なコースを一周してみる事にしたんですが……まさか、地上部の普通に目立つ位置にすら本棚を利用した滝があるとは思いませんでした。
ありえねぇありえねぇと呟いてる千雨ちゃんの手を引いて、その場から立ち去ります。
「それで、どんな本を探したいんですか」
「……パソコン関連だよ、インターネットとかの、ちょっと興味があってな」
滝から眼を背ける千雨ちゃんを引っ張って雑誌がある辺りまで向かいますが……敢えて深くは触れない事にしましょう。下手に口を出さないで放置したほうが『あのHP』の作成率が高まる気がします。
「へぇ、私はパソコンはまったく分からないんですが」
「……朱雀でも苦手なことなんてあるのか?」
「機械関連はどうも」
高鳴る期待を封じ込めて無関心な振りをします。メディアさんと一緒にパソコンを買わないといけませんね。インターネット環境さえ用意できればいいので。
「ふーん……」
ちらちらとこっちを見ながら少し笑う千雨ちゃん。少しずつ情報を聞き出しますが、どうやら……まぁ、私が気付けなかった数ヶ月間の間に両親のPCを使ってインターネットにのめりこんで。色々と新しい世界を知ったらしいです。
「ま、まぁちょっと気になることがあってな」
PC関連は情報の移り変わりが激しいので雑誌の方が参考になるでしょう。
パンフレットを眺めながら雑誌の並んでるコーナーに案内して、非常識な光景の少ないフロアのテーブルに荷物を置きます。
「私も本を探してきますね」
同じ雑誌に目を通しても良いのですが、下手にパソコンの知識があるとバレてしまうと千雨ちゃんが今後の行動を自粛したり、隠蔽が緻密になる可能性がありますからね。
やっぱりネギま!世界に来たからには見てみたいじゃないですか『ちうのホームページ』!!
適当に目ぼしい書籍を手に取ると、千雨ちゃんの真向かいに座って本を積み上げます。
ハッキングにも興味が有るのか、千雨ちゃんはかなり専門的な本を見ているようです……ですが、間に挟まれた服飾系の専門書を見逃す私ではありません!
これは、期待できます。
「何の本を持ってきたんだ?」
「神話関係ですね、ケルト神話とかです、興味が有るのは出てくる伝説上の武具ですが」
メディアさんとの接触はある程度時間を取ってからですね、自主的に活動を始めてからです。
「ふーん、そういうのに興味があるんだ」
「色々勉強しておくと先々役立つかもしれませんからね、マイナーな神話には一点特化した効果を持つ武具もありますし、使い勝手のいい宝具を覚えるには図書館島はいい環境です、この先何が起こるかわかりませんしね」
コス関係に興味を持たせるには……いえ、敢えて誘導しなくても、原作の方向に進んでくれると思うんですが。
「……あぁ……なんだ、将来的にそう言うのを使うかもしれないからか」
「えぇ、備えあれば憂い無しと言うことです」
シニカルな笑みを浮かべる千雨ちゃんもHPでは満面の笑顔を見せてくれます。どうしても私はそれが見たい。
「……そ、そうか」
ガタっと、千雨ちゃんが椅子をわずかに引きます。
ふと、心の声が漏れたのか不安になりますが、そこまでうっかりではありません。
『ちうのホームページ』が楽しみで多少、上の空でしたが。そんなに変なこと言ったでしょうか。
「……厨二病か……朱雀みたいな奴でも罹るんだな」
ぽそっと、英霊の聴覚で漸く聞き取れるくらいの声で千雨ちゃんが呟きました。
「って、待ってください、その断言は厳しいものがあります、そりゃぁ確かに【魔改造】はそれっぽい感じですが」
精神年齢三十路間近の身としても肉体年齢6歳の身としても、千雨ちゃんに厨二病と断言されるのは今まで敢えて目を背けてきた現実に眼を向ける事に……もとい、断じて厨二病などでない私には厳しいものがあります。
「うん、まぁ、麻疹みたいなもんだ、何処かで一回は罹るもんだから大丈夫だって、小一はちょっと早いほうだけど、その分卒業も早いって」
「理解があるような発言はかえって傷つきます、温かい目で見るのはやめてください」
よりによって千雨ちゃんに『私は味方だから』みたいな眼で見られるとダメージが果てしないです。
「ま、まぁそのうち黒歴史になるから……私だってこの間ネットで…………ぬがぁぁぁっぁあぁぁっ」
何を思い出したのか頭を抑えて頭を振る千雨ちゃん、原作でもこんなのありましたね、確か魔法世界編でラカン相手に。
……あぁ、この時期に何かやらかしたんですね。
「千雨ちゃんも闇の素質があるんでしたね」
あまりに原作通りなので少し笑えて
ぴたっと、苦悩をやめてガタッともう少し椅子を引く千雨ちゃん。ゆっくりと、慈母のごとき笑みで此方を見て。
「大丈夫だ、朱雀、私は味方だからな」
「って、引き方がパワーアップしてますよっ!」
やばい、思わず口から漏れたのは最悪の一言だったようです。
千雨ちゃんの中では私は友達にまで厨二設定を適用する痛いヤツに格下げされた模様。
「ただ、友人としてのお願いだ……邪気眼に目覚めるのだけは勘弁してくれ」
「目覚めません……確かにキュベレイとか、直死の魔眼がありますが……『俺の中のアイツが目覚める前に逃げろ』とか絶対言いませんよ!」
ガタッ
「……そ、そうか……すぐに固有名詞が出てくるくらいに設定をちゃんと作ってるんだな、うん、ノートに書き留めておくと……将来役に立つかもしれないぞ、原作とかライトノベルとかに関わると……まぁ、黒歴史を書面に残す羽目になるかもしれないが」
はわ、刃窪窪窪窪
もの凄い勢いで千雨ちゃんの中で朱雀=重度の厨二患者フラグが乱立してそうです、私のことも信じてくれたんだから、私も朱雀を理解してあげないととか呟いてます。
「す、少し頭を冷やしてきます」
これは問題です。少しばかり時間を置いて話し合いましょう。
大丈夫、私は……仮に厨二病としても軽度なはず、俺TUEEEしたいし、『何だと』の後に逆転したいし、魔法の射手は108式でエターナル(ry を再現できる宝具を神話の中で捜そうかと思ってますが。
「私は軽度、私は大丈夫」
ゆっくり息を吐く、そうです、えぇ、『赫翼の槍騎士』の主として『神話の再現者』と名乗ろうかとか考え……てません。
くっ、まさか、あの時点で私は重度の、いや、大丈夫だ……主人公願望なんて無い、千雨ちゃんのために尽力したのだって人として当然のこと。私は大丈夫、私は普通、そう、困ってる子を見かけたら迷わず助けようと思うような普通の男の子。
……気付いたら、本棚に隠れるようにして困っていた前髪長めの女の子が貸し出しカードを作るのを手伝ってあげて『髪型変えると可愛いと思いますよ』とか言っちゃった辺りで素に戻ったけど……あれ、ネギフラグクラッシュしてませんか。
いや、気のせい気のせい。確かに似てるかもしれませんが、そうそう原作キャラに遭遇するはずも無いでしょう。
真っ赤な顔して、借りた本と貸し出しカードを大事そうに抱えて走っていく女の子を見送りながら。
「……入部届けフラグ、まさか消失フラグじゃないですよね……」
『貸し出しカード』の辺りが危うい。前世では映画を見に行くくらい好きなエピソードでしたが、まさか反映されてませんよね、消失フラグ……
「……現実にはフラグなんて無いよ……大丈夫、まだ大丈夫だ、朱雀が私を助けてくれたみたいに、今度は私が朱雀を助けるから、所詮、一過性の病だから」
……すいません、涙が溢れて(主に自虐と神様への殺意)後ろを振り向けません。すいません、何を呟いたのを誰に聞かれましたか。私の直感は何処に逝きましたか。
「大丈夫だって、朱雀……うん、少しずつ治していこう……とりあえず、その、男子とももう少し仲良くしような、いや、考えてみると朱雀って女子とは仲いいけど男友達とか居ないし、早熟なのは知ってるけど……別に、悪いと言ってるんじゃないけどな、ハーレムとかは……本当に難しいんだぞ」
「……最早、涙で前が見えません」
……この誤解を解くのは時間がかかりそうです……
本屋フラグが立ちました
入部届けフラグが立ちました?
消失フラグが立ちました??
主人公更生フラグが(千雨の中で)立ちました
千雨は優しい子、その優しさで……大惨事。
毎回。感想・評価は楽しみにしてます