6話
魔法世界観光を済ませてから早8ヶ月、晴れて小学二年生になりました。
……省きすぎ? いえ、実際魔法世界では大した事件も無かったですから、えぇ、ディルムッドとの仮契約なんて泡沫の夢ですし、メディアさんと仮契約させられたなんて事実は存在しません。
手元に仮契約カードのマスターカードが一枚とコピーカードが一枚存在してるのも錯覚です。
アーティファクトで魔改造能力が強化されたなんて事実もありません。
「……こいつ、また現実逃避してやがんな」
「偶にあるよね、長谷川と話してて飛んでいくこと」
「私は悪くねぇ、こいつの病気が悪いんだ」
そう言えば、原作の上で再来年にはネギ君は4歳、村襲撃のタイミングです。村人全員が石化され、ネギ少年が英雄ナギと顔合わせする場面……あれ、確か犯人は魔法世界の政府みたいな処でしたね、介入すべきか否か……どうしましょう、本当にどうしましょう。
「そろそろ戻って来い」
ゴツンと、頭に鈍い衝撃を受けて夢想から現実に引き戻されます。今は昼休みの教室で千雨ちゃんに相談事をされているところでした。
えぇ、その相談の内容が少しばかり予想外だったので現実逃避に入りましたが。
「長谷川、そんなに変なこと聞いたかな」
「いえ、少しばかり有り得ない単語が出てきた気がしたものですから、もう一度お聞きします千雨ちゃん、何に入りたいって言われました?」
「……いい加減そろそろちゃん付けは止せって、ディルムッドファンクラブだよ。お前の保護者と同じ名前だから何か知らないかって思って」
はっはっは、えぇ知ってますとも、魔法世界でナギファンクラブ(主に女性層)やラカンファンクラブ(男女半々、拳闘士の絶対的な支持有り)に匹敵し、現役の拳闘士の中では圧倒的な人気を誇る魔法世界のアイドル(主に女性層)ですから。
……魔法世界のアイドルです、こっちの世界では知名度なんか無いはずですが。
「な、何でまたそんな(こっちの世界では)マイナーなファンクラブに?」
「知ってんのか? いや、通販でよく使うサイトがあるんだけど、そこが結構複雑な造りしててな、特別会員サイトみたいのが別に用意されてたみたいなんだよ。色々ハッ……調べて、そこでは通販の商品が二割引で買えることまで突き止めたんだけど、ディルムッドファンクラブ会員のみ限定とかあってな」
……身に覚えがありすぎます。間違いなく私が作ったサイトです。いえ、作らされたサイトです。
メディアさんがお金を稼ぐのに丁度良いとか言ってディルムッドが稼いだ賞金を出資させて起業させて……勿論起業の雑務全般は私が行いました……自分の趣味の品とディルムッドのプライベート映像を独占的に販売する通販サイトとして運営しています。
結果として複数あったファンクラブの殆どを駆逐し、公式ファンクラブとなりました。
……商業的には、ゴスロリ商品とかファンシー商品とか、主にメディアさんがデザインした衣服を原価無視して格安提供する、ある一定の趣味の方に神サイトと称えられるサイトです。
……無論、赤字分の補填は私の黄金律とディルムッドの稼ぎで賄ってますし、命君の身体の研究費を全て抜いた余剰分だけで運営していますが。
ディルムッドファンクラブは女性層が多いですし、ナギファンクラブやラカンファンクラブに比べると圧倒的に若年層の支持率が高いです。
えぇ、若い女の子が着飾るためなら利益はいらないと、ディルムッドファンクラブの方には二割引で販売しているんです。私とディルムッドの説得で何とか二割引に落ち着きました。
月に一回は(メディアさん主催で)握手会とか会談会を開催しています。メディアさん曰く、あの天然ジゴロから少女を護る活動らしいですが、絶対にメディアさんの獲物探しですよね。
「ファン云々はともかく、二割引ってのはかなりでかい。で、色々調べたんだが、変な都市伝説とかコアなのは見かけるんだが、ファンクラブの実態が掴めなくってな」
「都市伝説って言うと?」
「うん? どんな魔法も避けるとか、魔法世界のアイドルとか、ディルムッド主従カップリングスレとか」
「最後のはちょっと待ってくださいっ、勿論主は女性と言う前提のスレですよねっ!」
「いや、男らしい。なんかディルムッドとか言うのの発言の中に『仮契約の儀式はもう少しまともにならないものか、男女の中であればともかく。主への忠義の証とは言え無礼をしてしまった』とかボヤいたのがあるらしい」
ディルムッド、貴様何と言う失言をっ!
自分の主が男性であり、仮契約で……
「■■■■■■—■■■■■■■——■■—■■■■■■■■———■■■■」
「あ、また逃避した、これのこと朱雀は狂化って言ってたよね」
「本人の前では言ってやるなよ、一応治そうと頑張ってるんだから……にしても、朱雀の保護者のディルムッドさんの主って言えばたぶんメディアさんだよな、この3人のヒエラルキーだと……だから気にしたのか?」
知りたくない、今魔法世界でどんな同人誌が主流とか絶対調べない。
千雨ちゃんが調べられたってことはマホネットじゃなくてインターネット上で話題に上ってるんだ。魔法世界でディルムッドのファンだった人が旧世界に来て、たぶん仲間内でこそっとネット上で討論してるんだろうけど。
販路を旧世界にまで広げた弊害がココに。だからやめようって言ったのに。
「まぁ、魔法とか出てきたからマイナーなゲームのキャラクターだとは思うんだけど、名前が合致したから聞くだけ聞いてみようかと思って……大丈夫か、朱雀。あぁ、なんだ……さっきのでステータスアップするんだろ?」
「忘れてください、お願いだから以前の私の失言は忘れてください」
「長谷川は酷に急所を突くよね」
「全部同意してやってたら本当に堕ちちゃうじゃねぇか。大丈夫だって、治そうと頑張ってるじゃないか……何度も言うけど、邪気眼だけは無しな」
「邪気眼?」
「……なんだ、怪我もしてないのに腕とか額に包帯巻いてて、突然降って湧いたように『俺から離れろ!』『アイツが目覚めちまう』『くっこんなタイミングで、駄目だ、表の人間を巻き込むわけには』とか言い出す悪性の病だ……コイツに目覚めちまったら、もう……戻ってこれないかもしれないからな」
遠い眼してる千雨ちゃん、可愛いけど酷だよね。
うん、大丈夫。ちょっと神様から型月の設定を自身に反映できて魔改造できるチート貰ったけど、私は……痛い、痛い。凄くいろいろな所が痛い。ごめんなさい、あの時の自分と神様の親切を少しだけ恨みます。
「……さっき、■■■って叫んでたのは邪気眼じゃないの?」
「よりによって下な部分を、それは余所で口に出すんじゃねえぞ。あれはどっちかと言うと……っ、朱雀。お前、まさか影羅とか居ないよな!?」
千雨ちゃんが慌てた様子で、えぇ、予想外な様子でこっちを向きますが。
「居ないよ!、アサシンじゃ有るまいし別人格なんているもんですかっ」
「……あぁ、そうだな、アサシンは100人に分裂したり、男の腹から出てきたりするんだっけ、そうだな、エイリアンはいい映画だったよな」
「その失言も忘れてくださいっ、後元ネタそれと思われるとグロすぎます」
蟲爺さんのことを考えるとグロさとしては正しいと思えてしまうじゃないですか。
「そっか、影羅って言うんだ、今度からは狂化じゃなくてそう呼ぶね」
「■■■■■■■■■■■——■■—■■■———■■■■」
「あ、影羅出てきたんだ、うん、かっこいいと思うよ」
「……てめぇも、大概酷だと思うぞ」
「そうかな」
「そうだよ」
「そうなんだ」
うぅ、厨二病の完治はまだまだ先かと呟く千雨ちゃん。私が厨っぽいことを口にするとざっくり斬りこんで来ます。
そして、最近は斬りこまれた傷に天然塩を刷り込む子が仲間入りしました。
二年生に進級してクラス替えが有ったわけですが。私と千雨ちゃんは同じクラス。某魔女の暗躍は態々調べたりしません、同じクラスになれたならいいじゃないですか。
それで、学級委員長みたいな諸々をしてたんですが、クラスに1人、目立ってしまう子がいたんです。良い子なんですけど、控えめといいますか、遠慮がちといいますか、もの静かなんですが、学年で一番背が高いと言いますか、大河内アキラと言いますか。
女子で背が高すぎるって言うのは幼少期コンプレックになりかねませんからね。基本、私の(千雨ちゃんのための)イジメ撲滅運動は続けてますので、自然とこちら寄りになりました。
もの静かですし、控えめで千雨ちゃんも苦にならないようなので良いんですが。
「アキラと千雨ちゃんの息がすごく合ってる点について」
「ちゃん止めろ、原因はお前だ」
「……そうだね、朱雀のおかげだね」
頭を撫でられました……まさか、攻略もとい原作キャラの頭を撫でるならともかく。撫でられた……撫でポするんじゃなくて、撫でポされました。
これはこれでいいものです。アキラの方が背が高いという一点は差し置いて。
「……真剣でメディアさんにハーレム願望だけは潰すよう相談しとくか」
「ハーレム好きなんだ、長谷川と私で2人だね、他にもいるの?」
「■■■■■■——■■—■■■———■■■■」
「私は違ぇぇぇっっ!!」
「あっ、影羅」
アキラはかなり天然です。これを狙ってやってるなら悪女の仲間入りですが。
ギルガメ通り成長すればアキラの175cmは越えられる、それまで我慢です。えぇ、それまでは撫でポも仕方なく受け入れましょう。
「で、居るの?」
コクンと首を傾げるアキラ、うん可愛いけどね。ちょっと怖いのは気のせいだよね。
「後は椎名くらいか、私が知ってるのは。図書館島で声かけてたのは攻略失敗したみたいだし」
桜子ちゃんはお母さんのバックアップが強いです、なまじメディアさんと仲が良いから、普通に家族旅行に一緒に誘われたりしました。勿論受けました、メディアさんが。
楽しかったからいいですが……外堀を埋められるってこういう事を言うんでしょうね。
後、本屋ちゃんか……まぁ、ヤンデレは無しにしましょう、無いったら無いです。
「……普通に攻略とか口に出す辺り、千雨ちゃんも罹ってない?」
「……残念だが朱雀、私は学園内で強力な魔力を感じ取ったり、メディアさんの魔眼の開放に気付けるような選ばれた戦士だけの能力は持ってないんだよ」
……本当なんです、本当に侵入者と戦う魔法先生の魔力を感じたりメディアさんが不能の魔眼を使おうとしていたんです……口にしたら優しくされるから言わないけど。
「……あれ、ねぇ長谷川、最初は影羅とか病気の話じゃなかったよね」
「ファンクラブの話だったな、朱雀が現実逃避して影羅が出てきた辺りから脱線したが」
「やめましょう、もうそっち方面の話はやめてください、私のLPはとっくにゼロなんです」
はぁはぁと軽く深呼吸。にしてもディルムッドファンクラブですか、結局のところ公式ファンクラブの取り纏めは私が行っていますので、特別会員証でも会員番号一桁台でも幾らでも用意できるわけですが。
問題になるのは、あくまでも魔法世界でのディルムッドのファンクラブであって、普通に戦闘の映像とかを販売してるんですよね……まぁ、千雨ちゃんならライブで見ない限りは編集映像だって割り切ってくれるでしょうし。マホネットに繋げないと魔法世界側の商品の入手は出来ないから大丈夫ですかね。
……逆に、マホネットでないと会員証のデータ入力画面が無いわけですか……
「……ファンクラブの会員証なら伝手で手に入ると思いますよ、何日かはかかるでしょうが」
インターネット側のHPでもマホネット同様に会員証のデータの入力画面を作る必要がありますから、私が出資している運営会社に突貫デスマーチをこなしてもらう事になるでしょうが。
会員証自体は……魔法世界まで行って作ってくるのは面倒なので。手元にあるのを渡しましょう。
「そっか、それは凄い助かる」
「よかったね……そのサイトってどんなのを買えるの?」
ピシッと、僅かに空気が凍ります。
えぇ、のほほんと落ち着いた笑顔のアキラはともかく私と千雨ちゃんは思わず冷たい汗を流します。
「な、何で急に」
「二割引で買えるのは良いなって、小さいぬいぐるみとか有ったら欲しいかなって」
基本的にはゴスロリ、ウェディングドレス、アリス風等のキャス子さんの趣味前回の商品群です……答えるのは容易い、けれど、千雨ちゃんはそう言うのに興味があるのはひた隠しにしています。
私が知っているのも隠し通しているんです。
「色々あったと思いますよ、私が知ってるのはスポーツ関連のサイトとファンシーグッズのサイト、PCパーツを扱ってるサイトもありますから、千雨ちゃんが使ってるのは多分そこですよね」
ならば、その嘘を無理矢理押し通すまでです。
「あ、あぁ、そうそう、PCパーツは移り変わりが速いからな」
「スポーツ……スイムキャップとかも買えるのかな」
「か、買えたと思うよ、ぬいぐるみも有ったはずだよ……」
スポーツ用品通販とファンシーショップの通販を取り扱ってる企業を即刻買収。会員システムを導入して……
「そんなに有ったのか……何で検索に引っかかんなかったんだ」
……誤魔化し、きれるか……
最終的に、色々誤魔化して長引かせて2週間後に、他言無用の約束つきで千雨ちゃんとアキラに会員番号4番と5番の会員証を手渡しました。
……その間に幾つもの通販サイトが即時統合されて大社会現象を巻き起こしたとかニュースにもなりましたが、気のせいです。
……千雨ちゃんがそれに気付けないように色々引っ張りまわすのが一番疲れました。毎放課後、門限ギリギリまでアキラと3人で遊び倒しました。たまに桜子ちゃんも来ましたが、カメラ片手にフード姿の不振人物も居た気がしますが。とにかくニュースを見たりネットに繋ぐ気力など無くなる位に遊び倒しました。
「っとに、何で急にこんな」
「急に千雨ちゃんと遊びたくなったんです、さぁ行きましょう、やれ、行きましょう」
「はいはい、分かったよ……仕方ないから付き合ってやるよ」
ぶちぶちと文句は言われましたが、きっぱり断られることは無かったです。
……嫌がっては無かったと思うんですけどね……
「……ま、朱雀とならアウトドアも珠には良いか……」
たぶん、大丈夫ですよね。
こうして主人公が出資した会社は著しい勢いで成長していく事になりました。と