8話
小学3年の春、命君の身体の作成に目処が立ったということで、蘇生儀式を行う事になりました。
今回の実験に参加するのはメディアさん……ローブを被ってキャスター姿……
と私です。一応、命君に自分の姿を見られると困るので【己が栄光の為でなく】を使って姿を偽装しました。逆立てた白髪に浅黒い肌、猛禽のような目つきをした20代の男性の姿……えぇ、エミヤですよ。
メディアさんの本名も口に出すとまずいので、変装時はキャスターと呼んでいます。
「ココまで漕ぎ着けるのに二年と少しといったところか、さすがは神代の魔術師。大したものだ」
成功したならば命君は施設に引き取ってもらい、私は命君の先輩と言う形になります。その為、この時点で顔を合わせていると色々と面倒な事になるための変装です。
口調も変えたので最初はメディアさんにも引かれましたが。
「……アーチャーと呼べばよかったのかしら」
「構わんよ、真名のエミヤでもいいが」
「そう、ならアーチャー……さっさと始めるわ、大人しく見てなさい」
メディアさんは以前に購入した別荘(安物)の中に工房を構えています。その一角に魔方陣が刻まれ、その中心に人の形をした【容れモノ】が置かれています。
そこに横たわるのは人形とは呼べるものではありません。
如何なる材料を用いたのか、如何なる秘術を用いたのか、此方の魔法技術では勿論、本来あるべき世界の魔術知識ですら解析困難な『人の形をした神秘』
「蒼崎と言う魔術師がどれほどのものかは知らないけど、これは貴方が私に希望した全てを兼ね揃える人形よ。人とまったく同じように成長し、病に冒され不慮の死に苛まれる……素体は私を召還した当時の貴方に酷似させ怪我の痕は消した……不備があるかしら」
「いいや、完璧だともキャスター、やはり君を選んだのは正解だった」
私の中に保存されていた魂魄と言うべき霊体をメディアさんが引き抜きます。不遇の死を迎えてしまった命君。
その霊体と人形との間にパスを繋ぎ。ゆっくりと人形の方へ押してゆく……染み込む様に人形へと重なっていく命君の霊体。
「……霊体との同期を確認。後は霊体が肉体から外れにくくするだけね」
「随分と簡単に済ませるものだな、もう少し荘厳な儀式だと思っていたのだが」
「霊体自体がとても安定していた上に憑依を前提に調整されていたもの、らしい【容れ物】さえあれば簡単に住み着くようにね……極端な話、霊的価値の高い人形になら簡単に取り憑くでしょうね」
そういえば、原作の相坂さよもわら人形とかアーティファクトで作ったロボットとかに簡単に憑依していましたね。
「時間がかかったのはあくまでも、要望通りの人形を作成することだけよ……頼まれてるもう一体も、今回ほどではないにせよ時間がかかるわよ」
片手間で構わないと言う前提で相坂さよの身体の製作もお願いしていたんです。まぁ、偽善の1つですね、少なくとも寂しさを紛らわせるくらいなら私にも出来るはずなのに接触をしていないんですから。
……アニメとかを考えると学園長の関係者臭くて、監視くらいはしてそうなんですよね……二次創作の定番ですし。
正直、今の段階で裏の関係者に関わりたくありません。
「無論、完璧な仕上がりを期待している。急かしはしないさ……しかし、言っては何だが思ったよりも早かった」
蒼崎橙子も幼い頃から英才教育を受けた上に、研究を重ねて人間とまったく変わらぬ人形を作り出した。
それを二年で再現するというのは、幾ら最高位の魔術師とはいえ、普段女の子を愛でてばかりいるメディアさんしか知らない私には少し信じられませんが。
「この世界は魔法の秘匿がとても緩く、また、自身の知識の公開を進んで行っているわ。私は魔法世界でそれらの知識も手に入れたのよ」
フェイトも人工的な何かでしたし、此方の魔法は結構規模の大きいものがありますからね。メディアさんなら魔法と魔術のハイブリッドで人形を作成してもおかしくないですか。
「待て、と言うことは君は此方の魔法を使えるのか」
「当然でしょう、魔法世界では『武装解除』と『魔法の射手』くらいは無詠唱で使えなければ足元を見られるもの、下手に魔術を使って目をつけられるのも嫌だし」
……そう言えば、魔法世界編では夕映は短期間で魔法を覚えてアリアドネー警備兵になれるだけの戦闘能力を得ていました。あの時の麻帆良学園の夏休みがどれだけ長かったのかは知りませんが、2ヶ月より長いことは無いでしょう。
2年と言う期間を研究に当てていたメディアさんが使えないほうがおかしいのかもしれません。
「ふむ、私も興味があるな、今度教えてはくれないか」
「構わないわ、私の研究書を周りからは学校の教科書に見えるように偽装してあげるから学校ででも読んでおきなさい、どうせ暇しているんでしょう」
えぇ、小学校の授業は正直退屈で溜まりません、ノートの片隅に延々とイラストを書いたりしてます。
「お心遣い痛み入るよ、さて……命君を施設に預けに行こうか」
「そうね、見たところ問題はなさそうだし……名前、どうするの」
本来の名前は朱雀命ですが、それは私の名前でもあります。同一同名は問題になるかもしれません、ゆえに。
「……母方の姓をもらうとするか、やれやれ、二度と見たくは無かったのだがな」
欝記憶を振り返ります、最悪の光景を見せ付けられるので、詳細は薄く、情報だけ抜き取ろうと努力して。
「青山……この子の名は青山命だ」
母親が、「こんなことなら青山の家を出るんじゃなかった」とか呟いてるのを聴いていた記憶がありました。
うん、何だか嫌なフラグが立った気がしますが、ちなみに母親のイントネーションは京風でした……嫌ですね、京都編が急に不安になりました。
「そう、施設の管理人には魔術で記憶を刷り込もうかしら」
「いや、私が直接赴くよ……彼女には散々世話になっている、不義理は出来ない」
全ての事情を明かすことは出来ませんが、お婆さんと先輩なら真摯に向き合えば分かり合えると信じます。
……無論、アーチャーの外見で顔を合わせる事になりますが。
こうして、私の後輩になる形で命君は生を受けました。
「最近、朱雀真面目だよね」
授業の合間にふと、アキラに声をかけられました。
メディアさんから周りからはその時限の教科書に見られる魔法書を読んでいたのですが、どうやら、周りから見ると急に真面目に授業に取り組むようになったと見えるようです。
……千雨ちゃんには気付かれるかもしれませんからブックカバーは欠かせませんが。
「長谷川は変わらないけど」
「分かりきってる内容を態々教えてもらう必要性を感じない、面倒くさい」
「でも、テストはあんまり良くない」
「平均点は取ってるから良いだろ別に」
千雨ちゃんは普通に頭がいいから教科書を一度読めば大体内容が理解できるようです。
ネットで様々な知識に触れる機会が多いから知識の方向性も多岐に渡りますしね。
むしろ、注目されたくないから平均点レベルで点数を絞ってる感じがします。
「私の場合は担任からメディアさんに苦言が行ったようでして、真面目に授業に取り組んで欲しいと」
と、言う事にしておきます。
一応現保護者はあの人と言う事になりますしね。住いは施設のままですが。
1人暮らししてもいいんですけどね、メディアさんと同居だけは勘弁ですが。カレンにこき使われる(幼)ギルを実感したくはありません。
出資している企業は知らぬ間に全国区で展開してますから資産は無駄にありますし。
……後々になって気付きましたが、千雨ちゃん対策でIT株を抱え込んだりとかネットショップ関連を統廃合して一手に抱え込んだわけですが。これらって伸びる時は一気に成長しますからね。えぇ、黄金律の恩恵でITバブルを既に発生させました。
おかげでお金に不自由は無いです。無駄遣いはメディアさんくらいしかしませんし……
「あぁ、メディアさんが関わってるなら納得だ。あの人は逆らっちゃ駄目な人だからな」
見事な人間観察です。まさしく、あの人には逆らっちゃ駄目です。二度目の人生を満喫するために手段を選びませんから。
ただ、最近は女の子を追い掛け回す頻度も減りました……ちょっと気になるのはこの間、新田先生と2人で歩いてたのは何だったんでしょう……えぇ、怖いから詮索はしませんが。
「そっか、仕方ないね」
アキラはメディアさんと面識が少ないですが、学園祭で顔を合わせてますので……えぇ、上下関係を正確に理解してもらえたようです。
「勉強は嫌いじゃないですしね、先達の知識の簒奪に悦を得るのは人のみに許された特権である……どっかの偉人がそんなことを言ってましたよ」
「随分とエゴイストな偉人がいたもんだな、まぁ、分からないでもないが」
「……? たぶん、何か良いこと言ってるんだよね」
「本来生物は生きるために経験を蓄積し、後継に生き方を示します。ですが人は知識が無くとも生きるに易い社会環境を構築してしまった。今では金銭的裕福を得るために知識が必要であって、生きるために絶対に知識が必要ではなくなってしまっている」
「けれど、人は学ぶことを推奨する。私達の前を生きた人達の知識を以ってより高度な技術を成し遂げ、より『生きるだけ』以上を求めようとする、何だ、哲学の話か」
「難しい境界線ですね、ですが偉人が求めたのは1つ。人が知識の積み重ねを悦とするなら、それを以って逆の限界、そもそもの始まり、『根源』には至れないかと」
「それは大層な夢物語を掲げるな、知識を集ってビッグバンを解析しようってのか、ヒトの原初は何処であったかを。今現存する全てを理解して『始まりの1』を知識の1つにしろと、夢物語だ」
「根源を求めるものは過去に向かって走る者。そのためだけの知識の集積ですよ」
「……あぁ、これが厨臭いって言うんだ、二人とも、厨二な感じだよ」
「違ぇっっ!!」「違いますよっ!」
アキラに厨認定されました。あ、絶望していいですか。
糸色望で絶望です。
「朱雀君、下の子が来てるよ」
ふと、救いの神が現れます、同じクラスの女の子が下級生を連れてきたみたいですが。
話を聞いてみると、施設の後輩で偶にあることです。
えぇ、私達の施設出身者の両親が居ない事を態々持ち出して嗤う馬鹿が居るそうです。
……そんな馬鹿どもは下級上級纏めて、人が感じられて痕がけして残らない痛みを色々と教えて上げた筈なんですが。
「少し前に来た転校生が居て。青山君も転校してきたばっかりで」
……あ、沸点吹っ切りました……
よりによって、あの子ですか、あの子は私が責任もつと決めてるんです。えぇ……一応、建前としてはお婆さんと先輩が頑張ってる施設を馬鹿にしてるんですよねと言うことで。
「ちょっと掃除してきます」
「って、少し落ち着け……聞いてねぇ。メディアさん呼んだ方が良いな、あいつ、身内が関わるとキレやすい」
「凄いね。あんなに怖い朱雀……止めなくていいの? 」
「無理、私の時にも何度かああなって、私が言っても止まらなかった。止めれたのはメディアさんか、あそこのお婆さんくらいの筈だ」
「……そっか、長谷川は身内なんだね」
「う……今はいいだろ、とにかく、メディアさんか……あそこのお婆さんぐらい出ないと止められないから」
えぇ、既に100mは離れてますが私の耳には届きますが。
……私は決めてますから、敵には容赦しないと。そして、身内に手を出すものはす全て敵だと。
かなり短い上に内容が薄い。申し訳ないです。
その分、次の更新も直ぐ出来そうですが。