9話
小学3年の冬、ネギ君の故郷の襲撃時期になりました、たぶんこの冬から春にかけてですね。
……正直、どうするかはずっと悩みましたけどね。
だから、ぶっちゃけました。
「……と言う感じに、未来予知で、英雄の息子の住む村が襲われると出ました。さて、どうしましょうか」
「ほっとけば良いんじゃないの。誰も死なないんでしょ」
「……朱雀殿が良しとされるが宜しいかと」
えぇ、まぁ想像通りの回答が返ってきました。
ひとまず、メリットとデメリットを分けて考えて見ましょう。
メリット
■ ネギ・スプリングフィールドの弱体化
■ MMの汚点の確保
■ 実戦経験の確保
■ ナギ・スプリングフィールドの視認
デメリット
■ 正体バレの危険
■ MMに要注意人物としてリストアップされる
……こうして見るとデメリットは少ないんですよね。ディルムッドは表に出さないか変装させて剣士として参戦させる、私が姿を偽装して矢面に立ってメディアさんに後衛を任せれば悪魔程度ならなんとでもなります。
万一ナギと交戦になったら最悪ですが。一回くらい殺される覚悟で即効退避を決め込みましょう。ディルムッドにはきちんと言い含めておく必要がありますが。
メリットとして一番大きいのは、原作主人公の力が削げること。ネギ・スプリングフィールドの源泉はあの村の壊滅だったはずです。それ故に魔法に傾倒し、父親に憧れ、闇の魔法の素養に恵まれた。
……正直、ネギ・スプリングフィールドの成長フラグは潰しておいた方が後々やりやすくなります。
条件さえ合えば魔法球を使っての短期特訓で容易く原作最強ランクまで駆け上がりますからね、あの主人公は。万一、バタフライエフェクトで魔法世界編の力を早期に手に入れるようなら私は【破戒すべき全ての符】(ルールブレイカー)と【破魔の紅薔薇】(ゲイ・ジャルグ)を手に【燕返し】の練習をするしかありません。
【王の財宝】にゴムゴムの実さえあれば一発で解決するんですが……さすがに無いですよねぇ……無いかな、ちょっと探してみたい気になります。
「あぁ、いえ、まずは逃避よりも現実を見直しましょう」
……ネギが弱体化したとしても、エヴァンジェリン戦では殺されることは無いでしょうし、京都編では手を貸してあげれば良い。私が困ることは無いし、ネギ先生が受け持つだろうクラスの生徒に害は及ばないはず。
……何よりも、ある男に対して接触と貸しを作る事が出来るかもしれません……名前、何でしたっけ。ク……クゲ……さすがにサブキャラの名前まで完全に思い出せませんが。
彼は、今後の役に立ちます。
「……介入します。こちらの情報を極力洩らさず、村を襲撃する悪魔を駆逐し、石化された人々を解呪して開放します。二人とも、協力していただけますか」
「偶にはサーヴァントらしい働きもいいかしら」
メディアさんはクスリと笑いながら頷いて。
「我が槍は既に朱雀殿に捧げております」
ディルムッドは迷わず頭を垂れます。
二柱の英霊はそれぞれの反応を返してくれますが、彼等との関係も既に3年。歪ながらも信頼関係は築けて来ていると思います。
「ディルムッドは暫く拳闘士と賞金稼ぎから身を引いてください。下手にあの事件の前後だけでは嫌な勘繰りを招きますので、今よりきっかり一年。自身を鍛え直すとでも銘打って完全に隠遁生活に入ってください……後は」
「裏で動いているであろう、メガロメセンブリア元老院を内偵いたします」
「……汚い仕事ばかり任せて申し訳ないですね」
私が命じようと思っていた事を己から口にして頭を垂れます。
……こうしていると、少しは主従としての関係も出来てきたかと思えます。
「任されたからには、主の信に応えましょう」
メガロメセンブリアが裏で糸を引いているというのは原作知識ですが、確か本屋が真意まで確認していたはずです。ク……デルなんとかが、余程の自意識過剰とか妄想過多でなければ確かな情報でしょう。
「……ならばディルムッド、汝のアーティファクトで私からの信を受け取れ」
何度か試しましたが、令呪で可能だったディルムッドのステータス変更は、以降は不可能でした。
隠密行動時にアサシンに、対魔法戦でセイバーにと言う使い分けが出来るのは自分自身だけと言う事です。
ですが、ディルムッドのアーティファクトは私の想像を飛び越えるチート性を果たしました。
本来なら単に『魔力供給』や『前衛後衛の交代』を効率的に行えると言ったところです。ですが、主従の『能力の総量』を偏って再分配するとするならば。それぞれがアーティファクトに提供した能力を任意に付与できるため、片方が弱体化するほどにもう1人は強化されます。
まずは自身のステータスを更新します。
CLASS アサシン
筋力 B 耐久 B
敏捷 B 魔力 A
幸運 A 宝具 EX+++
クラス別能力 【気配遮断】:A+
保有スキル 【黄金律】:A
【直感】:A
【仕切り直し】:C
【精霊の加護】:A
【直感】:A
宝具 【十二の試練】
【己が栄光の為でなく】
【己が栄光の為でなく】
アーティファクト 【ボウケンノショ】
「アデアット」
ディルムッドに目で命じてアーティファクトを顕在化させます。見た目は天秤ですね。
確か名称は『偏った天秤』とか言ったはずです。その天秤の片方に手を乗せて宣言します。
「ディルムッド、私から 筋力・耐久・敏捷を1ランク。魔力と幸運を2ランク。続けてスキル【気配遮断】【直感】【仕切り直し】【精霊の加護】、そして宝具【己が栄光の為でなく】を天秤に預けます。受け取りなさい」
「はっ!?、そ、そのような過剰な」
「私がこの地にあって戦闘に巻き込まれたことは無く、念のため【直感】は残しておきます。必要に応じれば私のアーティファクトを顕在化するだけで私は本来の力を取り戻します……無論、貴方は得た力を失いますが。私の技量では数秒の時間を稼ぐことは無理と言いますか、ディルムッド」
実際、私のアーティファクトは原作のネギのそれに似ている手帳なんですが。仮契約カードを握ってアデアットと唱えて何でもいいからページを掴むだけで、ディルムッドに預けていた全ては霧散します、既に実験済みです。
「し、しかし」
「私の存在は裏の世界には未だ秘匿されている……微かな懸念さえ誰にも抱かれるわけにはいきません。ディルムッド……現状では魔法世界で行動する貴方だけが全ての矢面に立つのです。貴方の失態は貴方のみならず、むしろ私達にこそ害を為します……受け取りなさい、ディルムッド」
「っ……ありがたく、拝領いたします」
……正直【精霊の加護】は武勲を立てうる戦場のみ限定だったと気付いて、何でディルムッドに付けなかったんだって心の底から後悔した代物ですしね。私が武勲……主がどうやって立てろと、メディアさん相手になら立てれるかもしれませんがね(自棄
ちゃんと設定資料集読み込まないと駄目な典型ですね。
私のステータス画面は前のままですが、メディアさんが【己が栄光の為ではなく】無くて見るとこうなってるはずです。
朱雀
CLASS アサシン
筋力 C 耐久 C
敏捷 C 魔力 C
幸運 C 宝具 EX+++
クラス別能力
保有スキル 【黄金律】:A
【直感】:A
宝具 【十二の試練】
【己が栄光の為でなく】
アーティファクト 【ボウケンノショ】
十二の試練だけは何があっても手放すもんですか。不意打ちでしょうが毒殺でしょうが、とりあえず、これがあれば安心です。
正直、無茶苦茶弱体化しましたが。十一回殺されきる前にアーティファクトさえ出せれば何とかなりますしね。
今までに、此方の世界で戦力を必要としたことも無いですし……メディアさんが私を洗脳するような事は、さすがにもう無いだろうと思います。
……こっちの世界の魔法使いがいきなりAランクの洗脳魔法は無い筈……まぁ、その時はメディアさんかディルムッドが一回殺してくれるでしょう。
一回じゃ死なないくらいは言ってありますから。
あ、魔改造悪化・LANCERはこんな感じのはずです。
CLASS ランサー
筋力 A+ 耐久 B
敏捷 A++ 魔力 B
幸運 C 宝具 A++
クラス別能力 【対魔力】:B
【気配遮断】:A+
保有スキル 【心眼(真)】:B
【怪力】:B
【矢よけの加護】:B
【燕返し】
【透過】:B+
【直感】:A
【仕切り直し】:C
【精霊の加護】:A
宝具 【破魔の紅薔薇】
【必滅の黄薔薇】
【突き穿つ死翔の槍】
【己が栄光の為でなく】
アーティファクト 【偏った天秤】
すいません、普通に勝てる気がしません。相変わらず近距離限定ですが。【気配遮断】からA++の敏捷で飛び込んでくる一撃を気付ける人の方がおかしいと思います。『+』1つで一時的にステータスが1ランクUPする筈ですから。Aから2ランクUPですか。
……魔界造ですかね。
【直感】は未来予知で【仕切り直し】は逃亡補助、【精霊の加護】は武勲を立て得る戦場での危機局面での幸運UP……えぇ、幸運UPで、ディルムッドは基本常に武功を稼ごうと頑張ってます……私のスキル1つ潰して常時譲渡決定です。
私達主従に足らないのは幸運なんです!
「……過分な期待をしてしまいますが、私は……預けた力に応えてくれると信じます」
ディルムッドは嘗てのようにゆっくりと頭を垂れます。
「……深追いは間違ってもしないでください、徹底すべきは自身の情報の秘匿を最優先に。その為に【己が栄光の為でなく】の宝具を預けました……このように、姿を偽装する宝具だ。期間中は常にこの宝具を使い続けるように、間違っても私達の尾を見せるようなことの無いようにな」
逆立てた白髪に褐色の肌。アーチャーの姿に成り代わります。
一瞬眼を剥きますが、すぐに元に戻るディルムッド、メディアさんは既に見たことがあるので無反応です。
「姿は任せるが……どのような姿になるかはあらかじめ見せて置いてください」
アーチャーから姿を戻してディルムッドに命じます。
「メディアさんはウェールズの、英雄の息子が住まう村の近郊に陣地の作成を……襲撃のタイミングで私を召還してもらいます」
ディルムッドがメガロメセンブリア元老院を内偵した結果。襲撃の時期が分かれば良し。分からなくても近郊にメディアさんが控えていれば仮契約カードの召還で対応できます。
無論、限界距離は確認しておく必要がありますが。
「……そして、ディルムッド。事前に襲撃のタイミングが判明した場合は情報をリークして欲しい相手がいます。襲撃が未遂になれば次のタイミングが見えなくなるため、あくまで襲撃の寸前にリークして欲しいんですが……」
……だいたいのキャラクターが頭に浮かびますが、名前が出てきません。
既に原作を読んでいた前世は3年も前、主要キャラやイベントはともかくサブキャラの名前までは思い出せません、まさか、魔法世界まで関わると思わなかったのでメモもしなかったですし。
「特徴としては、メガロメセンブリアで政治家をしているはずですが……現時点では断言できません。笑い方に特徴のある人で、眼鏡をかけていて……名前は確か……ク……デル……確か、クーデレ?」
さすがに思い出せません。そんな感じの名前だったと思うんですが。悪役としても中途半端で大物っぽく出てきた割にはあっという間にフェイドアウトしてしまいましたからね。
ただ、赤松世界で原作者が、男にクーデレ等と名付けるとは思えないんですが……まさか、男装フラグが何処かで……無かったですよね、きっと。
「かしこまりました、特徴的な笑い方をする眼鏡のクーデレですね。探し出して見せます」
……どこぞの雪風とか宇宙人を見つけ出さないことを祈ります。ユニークと言って笑う眼鏡のクーデレを見つけましたとか言われたら思わず自分で接触したくなってしまいます。
「過去に紅き翼と行動を共にしていた青年です。先の話になりますが、その男に協力してもらう必要があります……協力関係が築ければそれに越したことはありません。ディルムッド、貴方は魔法世界では既に名の売れた存在です……最悪、それを利用してでも取り入り……いえ、取り込みます」
「かしこまりました」
さて、始めましょう、私の為だけの戦争を。
……原作知識を利用して、チートな能力を振りかざし、相手が弱いうちからじわじわ真綿で首を絞めるように追い詰める。
あぁ……
「……実にチートらしからぬ戦い方ですが、まぁ、私らしいやり方ですね」
衛宮切嗣っぽくてかっこいいかも知れません。
ちなみに、メディアさんとディルムッドさんはツッコミを入れてくれませんでした
一日の活動に必要不可欠な栄養素、チウタンが足りない……
次話は村襲撃な予定だったけど……急に、海に行きたくなってきたよ……