今回の話には多分に俺TUEEEEEEEが含まれます
苦手な方は避けてください。
基本的には葱村襲撃イベント 来た 見た 勝った のみです。
幕間一
ある村に火の手と、空を埋め尽くす魔の群が現れた、それを見上げるのは二柱の英霊と本来有り得ぬイレギュラー
赫き魔槍を手にした騎士は主の命を待ち。
「……放て」
命に応え、槍の力を解き放つ。
「突き穿つ死翔の槍っ(ゲイ・ボルク)!!」
放たれたのは赫き魔槍。それを手にするのは忠義の騎士にして、英霊の身に神の加護を受けし槍騎士ディルムッド。
槍騎士が放った投槍は、如何なる神秘か三条の光弾となって空を黒く汚す怪異へと奔り、その呪いを中空にて解き放った。
地に落ちた星の如きその輝きは多くの怪異を飲み干し散らしていく。
一撃にて一軍を吹き散らす対軍宝具は、その名を惜しまず三軍を吹き散らし、けれど残るのは空を舞う黒き汚れ。
「……思っていたより数が多いな、よほど本気と見える……行って貰えるか、“セイバー”」
「お任せください、我が主」
呟いて、槍騎士は“剣”を手に取った。見れば普段とは装いも異なる。
その身を纏うは暗色の軽装鎧ではなく、黒き全身鎧の騎士甲冑。手に握るのは月下に輝く湖水の如き美しき剣。
フルフェイスの兜でその表情は伺えぬが、その強き意思は掲げた剣に写される。
「まずは数を減らすため、私達はこの場よりの攻撃に徹する……先陣は任せる。何度も言うが、赤毛の魔法使いが姿を現したら迷わず退け。それは敵ではない」
「御意」
一礼をもって“剣士”は駆け出す。その俊敏さは普段に比べ僅かに劣るが、けれど与えられた【怪力】をすれば全身鎧程度の枷は妨げになりはしない。
まして、下錫された剣は史上においてすら際立つ英雄の一振り。
一踏みで普段との武器の差異……両手に握る槍と、今手にする剣の違和感を消し去る。
二踏みで防具の差異……疾く駆ける事を重点に置いた軽装鎧と、あらゆる刃戟を弾く全身鎧の違和感を消し去る。
三つ、脚を踏みしめ跳べば。それは軽快に雪空を駆ける黒き稲妻。
その上で、虚空瞬動を二歩打ち出す。
四歩目が虚空を掴み、視界が横にずれる中で五歩目がさらなる加速を身に与え。
視界に入った怪異は全て三条の剣戟に斬り裂かれる。槍を得手とし、両の手に其々武を備えることを得意とするが。その剣に重ねた研鑽も並成らぬ物がある。
まして振るわれるのは本来有りえぬ三条の剣筋、斬撃と払いと、もっとも得意とする突きを“同時”に放つ異常。
それは主の信を受け空を翔る。火を上げ始めた町並みに向かって突き進む。
雪空を駆ける黒き全身鎧の横一筋の突進は、さも世界を槍が貫くが如く……槍兵は空を翔る。
それを見送った二人は、こちらに気付いたであろう空の怪異の群を見渡しながら笑みを浮かべる、
「我々は、まずは数減らしだ……幸い的には事欠かない、ストレス発散にはちょうど良いだろう?」
片割れが話しかけたのはフードにその顔を隠した女性。
深く影を落としたその貌は見ることが出来ないが、口元から顎までの曲線だけでその整った容貌を髣髴とさせる、まず間違いなく美女であろう女性。
「アーチャー、貴方の物言いは少しばかり癇に障るのよ……ふん」
そして、その整った唇から漏れたのは……異音、違和感、不和にして絶対の調律。有り得ない筈の音の群が瞬間で1つの形となる。
「θжΠЧ……千の雷」
女が導き出したのは異端の秘儀。本来は従者に護られて詠々と謳い上げる詠唱を己が叡智をもって唱え上げる。高速神言と言う魔術師の叡智の証を“魔法使い”に適用したという絶技。
それは、空を埋め尽くす怪異を消し飛ばす雷風を一工程で紡ぎ上げ。
……そしてそれは。
「復唱二連……θθжжΠΠЧЧ 重複“千の雷”」
空を埋め尽くす。
この地に降り立って彼女が重ねた研鑽はそれを成し遂げる。それは単純な理由、彼女は、いや、かつての地にある魔術師は須く、その理由を持つ。
魔の探求に“命を捨てることを前提とする”その覚悟は、この世界においてある意味において異端、容易く神秘に近づけすぎる世界において……
かつて神秘を極め、魔法に至る事も可能だった魔女は薄い笑みを浮かべるだけだった。
「……キャスター、つくづく、君は敵にしたくないな。やれやれ、私は露払いが関の山らしい」
言って、キャスターを護るように僅かに前に出ていた白髪の青年は“鍵”を手に取った。黄金と宝石で飾られた豪奢な鍵を空間に向かって軽く捻る。
カチャリと、扉が開かれる音がした。
「くっ、何だ、贋作者の姿でこの扉を開くのはなかなか面白いな。我ながら趣味は悪いが」
そして開帳するのは。魔剣、魔槍、魔弓、神剣、魔斧、呪槍……須くは、伝説に名を遺すに相応しき神秘の体現。
「さぁ、行くぞ元老院……魔族の貯蔵は十分か?……クク、コレは良いな」
「……ちょっと不気味よ、アーチャー」
「何、原典を知るからこその愉悦と言うものだ、まさか贋作者が真作の原典を、真作を汚すために惜しげもなくばら撒く事になるとは」
それを、微塵の節制も無く空へと撃ち出していく。ただ、すべきは財を見せ付けることのみ、それこそがこの宝具の唯一にして絶対の在り方。
「悉く、私の財に溺れるが良い……」
極めて強力な雷の魔法と宝具の蹂躙は容易く視界の汚れを消し飛ばす。
過剰戦力、過剰火力と言える、広域殲滅を得意とする英霊とイレギュラーの前に有象無象では時間稼ぎにもなりはしない。
「ふむ、戦場を移動したほうが良さそうだな、キャスター、魔法使いの従者として、君の身を護りつつ次の戦場へ案内しようか」
「馬鹿を言ってないでさっさと足を用意しなさい、私だけで飛んで行ってもいいのよ」
「くっ、では急ぐとしよう。アデアット」
白髪の英霊は肩を竦めて一枚のカードに手を添える、顕われるのは細やかな装飾の施された書物。
そのページをめくると、手を添え。すぐにカードに戻す。
代わりに手にしたのは一振りの短剣。
虚空に向かって振り下ろせば、そこから二頭の神牛とそれに牽かれる豪奢な戦車。
「では……ふむ、面倒なのであの汚れの中心に突入しよう。備えはいいかね、キャスター」
「一緒に貴方も巻き込んであげようかしら、さっさとしなさい」
巨牛に牽かれた戦車は雷を纏って空へと駆け上がる。怪異に包まれた空へと。
そして、その進撃は、蹂躙と言うべき代物。
「アアアアラララァッ!!」
その銘は『遥かなる蹂躙制覇』かの征服王イスカンダルが伝説に刻みし1つにして、それは蹂躙を是とした征服王の覇行制覇への前進。
【遥かなる蹂躙制覇】(ゴルディアスホイール)が空へと駆け上がる。
先に、槍騎士が雪空を黒き槍にて横断したが如く、その主は稲妻となりて雪空を縦断し空へと舞い上がる。
稲妻の失踪の後には何も残らず、悉くは神牛との激突と、その巨躯が誇る蹄に踏み潰されていく。
「やりたまえ、キャスター」
「復唱二連……θθжжΠΠЧЧ 重複“千の雷”」
空がの暗雲を雷が切り裂いて行く。雷を纏った神牛の猛進と、それに付随して放たれる最大規模の雷の大呪文。
魔法使いの従者は、より敵の多い箇所へ突進を指示し。防護フィールドに護られた御者台において魔法使いは高らかに詠唱を上げる。
唯……
「……尚増やすか、ふん、筋書き通りに物事が進まねば気に喰わんものがいるらしい」
消し飛ばしたのに等しく新たな魔族が召還されていく。
無論、終わりはいつか訪れる。それが何十分、何時間後かは分からないが……既に村に火の手が上がっている以上、誰かの筋書きは滞りなく進んでいるのだろう。
……けれど、空から離れるわけにはいかなり。辺り一帯から召還された悪魔は包み込むように村へと進撃している、此処からだからこそ、効率的に数を消費できるのだから。
そして村では剣士が剣を奮っていた。
その背に庇うのは数十人の村人、先んじて村へと突入して目に付いた悪魔の尽くを斬り捨て、目に付いた村人を一箇所に集めるよう指示したのだ。
襲い掛かる悪魔達と、フルフェイスの全身甲冑で姿を隠してはいても助けてくれた騎士、危機的状況下で頼るべきは騎士と信じて村人達は集う。
自衛のために杖を持ったものは騎士と協力して魔法を放つことでも抗戦していた。
「おおおおっ」
そして、騎士は疾風の如き神速で戦場を駆け抜ける。剣の間合いに悪魔が入れば一時も持たずして斬り伏せられ、空から舞い降りる悪魔には投槍が突き刺さる。
幾十人もの人々を護りながらの、終わり無い悪魔達への抗戦。
けれど、彼の眼に暗いものは無い。むしろ危機的状況下において任された使命の重さに力が漲る。
空を見上げれば、雷を振りまきながら駆ける雷の戦車。それが大群の悪魔共を消し飛ばし、自分が相手するのはあくまでも撃ち洩らしのみ。
「……無辜の民を背に背負い、主に任された戦場で勇を奮う、騎士として、これに優る任は無し」
不満は無かった、汚れ仕事であろうと、それが主の為となるならば不満は無かったが……だが、戦場において明確な敵と、護るべき民を持つこの戦程、心満たす事は無い。
「名乗り上げられぬ事は惜しむが」
けれど槍騎士も理解する、腐敗したあの国の政を司る者達に目をつけられれば力持つ主が利用されかねないことを。
この村の惨劇すら、その者達の何らかの意図に画策されたものなのだから。
「武名は惜しむが主の信に応える誉れはある、来るが良い悪魔よ、我が剣にて民を護ろう」
剣を奮い力を示し民を護る。彼等を救うために自ら足を運んだ主の慈悲深きに応えるためにも。
そして、戦場に新たな変化が現れる
村から見える小高い丘、そこに主の戦車からではない雷が迸ったのだ。
「む……クーデレなる者の援軍が間に合ったか?」
この事態が起こることを事前に把握していたため、ギリギリ間に合うか間に合わぬかのタイミングで未だ若輩の議員にそれとなく情報を掴ませた。
その議員は愛した女性の遺児の危機に私兵を集いこちらに向かっているというところまで確認し……
けれど、槍騎士の眼に写ったのは私兵の軍勢ではなく。赤毛の青年が悪魔をなぎ払う姿だった。
「あれが、主が言われた『紅き翼』の英雄か」
戦場の変化は如実に現れた、無尽蔵に湧いていた悪魔の軍勢が一挙に数を減らしたのだ。まるで……役割を終えたように。
故に村人達もそれを眼にする余裕を手に入れた。
「あれは、まさかナギか」
村人達の口から英雄の名が漏れ、それは波紋のように拡がった。
槍騎士もそれを見る、丘の上、幼い子供に杖を渡す魔法使いの姿を。
『原作のイベントは場所を僅かにずらして行われたか……つくづく作為的なものを感じるな』
主からの念話が槍騎士に届く。
空でも余裕が出来たらしく、残党を消し飛ばしながら此方に向かっているのだ。
『キャスターの結界に引っかかった、私兵の援軍が此方に向かっているらしい、彼らが辿りつく前に失礼させてもらおう。石化された村人を可能な限り集めてくれ』
神牛に牽かれた戦車が空から広場へと舞い降りる、村人達は怯えるが、全身甲冑の騎士が騎士の礼を持って迎え入れるのを見て安堵の息を洩らす。
「セイバー、これだけの村だ、まだ人が居るはず。ここは私に任せて至急救援に向かえ」
「はっ」
戦車に立つのは白髪を逆立てた褐色の肌の男。赤い皮鎧を纏って神牛の手綱を握る。
同じく御者台には目深に紫紺のローブを纏った女性が立つ。
……丘では話を終えたのか、杖を残して英雄はいずこかへと消えていった。
(……英雄本人かはともかく、あの少年の成長には効果的だろうな)
ふと、村人の中から代表格らしき老人が歩み出てくる。此方を警戒した様子はあるが。
「先程、お助けいただいた騎士殿は、あなたの従者ですかな」
「その通りだ、偶然近くを通りかかったが、空を埋め尽くす悪魔の群と火を上げる村。見捨てるのは忍びなくてね」
ドンッと、話の腰を折るように槍騎士が3体ほどの石像を広場へと運び入れる、当初は戸惑っていた村人達もそれが見知った隣人の姿をしているのが分かると騒ぎ始める。
「石化魔法を使う悪魔が含まれていたようだな」
俊敏に村の中を駆け回る槍騎士は次々と石像をかき集めていく。
……やはり、死者や怪我人は殆ど居ないようだが。
「キャスター、君のアーティファクトを」
無言のまま紫紺のローブの魔女は手元からカードを手にし、僅かな呟きの後に手には鋭角に二度も折れ曲がり凡そ刃物としての機能は果たさないだろう七色に輝く短剣を手にし、無言のままにそれを石像に突き刺した。
「何を……お、おおぉっ」
石像の表皮が砕けるように、中から石化されていた村人が現れる。
槍兵が集めてきた石像に次々と短剣の効果を顕すと多くの村人が無事を確認しあっているようだ。
「何と、強力なアーティファクトを」
……無論、紫紺の魔女が手にしていたカードも発光も魔術で一瞬だけ見せた幻影だが、態々説明することではないだろう。
「アーチャー、そろそろ来るわ。セイバーを呼び戻して」
「そうか……ご老人、申し訳ないが我々は至急に此処を辞させていただく……どうも、魔法世界の人間とは反りが合わないものでね」
仮契約カードで槍騎士を呼び戻すと、引き止める村人達を無視するように神牛に牽かせた戦車を浮かび上がらせる。
その御者台には、褐色の肌の主と、全身甲冑の騎士に紫紺のローブの魔女。
突然の襲撃から果敢に自分達を守ってくれた魔法使いとその従者達は、まともに名を名乗ることすらなく突然に立ち去り。
魔法世界から急遽訪れた若輩の政治家クルト・ゲーデルはこの先長く、彼らについて心悩ますこととなる。
……そして、村は惨劇に見舞われたが偶然近くに居た『偉大なる魔法使い』とその従者に救われ、英雄の嬰児ネギ・スプリングフィールドはこれを期に住いをウェールズへと移り住むこととなる。
……父たる英雄と、村を救った魔法使いとその従者達を目に焼き付けて。
不足で体調崩しました、ぽんぽん痛いです。
後、感想とか評価とかいただけると執筆の励みになります。
……昨日何食ったっけ