お酒は二十歳になってから
11話
ちょっと外国に行って一暴れして帰ってきました。
正直、その程度の印象です。魔法世界で情報収集に勤めるディルムッドからは、あれ以降あの時期、あの地方を訪れていた魔法使いとその従者を捜す声が挙がっていると聞きます。
それと、1つの噂ですね。ナギ・スプリングフィールドが生きているかもしれないと言う噂が大きいそうです。
原作ではネギ1人ですが、この事件では多くの村人に目撃されましたからね。
自然と噂は広がったみたいです。
それとディルムッドからの報告では、特に魔法世界側の人間は石化解除を行ったアーティファクトを持つ従者の協力を求めているらしいです。
やはり、全ては捜しきれなかったのか数人の石化された状態の村人が発見されました。
それは『永久石化』に属する魔法によるもので現在の魔法技術では治療不可能なものらしいです。
ところが、あの日現れた魔法使いの従者は、そのアーティファクトで容易く呪いを打ち破った。
逆に言うならば、キャスターと名乗った魔法使いの従者が名乗り出てさえくれれば容易く彼らを救うことが出来るからだそうです……微妙ですね。解呪くらいは構わないんですが、この時点で魔法世界に目をつけられると厄介事しかありません。
申し訳ないですが、此方の事情が落ち着くまでは我慢していただきましょう。いえ、百人規模の犠牲が数人で済んでるんですから私なりに頑張りましたよ。
……後に知る事になりますが、この解呪に特化したアーティファクトを持つ従者の捜索に一番乗り気だったのは関東魔法協会だったそうです、何でも。『登校地獄』で学園に縛り付けられた少女の解呪に協力して欲しかったとか。
理論上解呪不可能な石化を容易く解いたアーティファクトなら同じく現存の魔法使いでは解呪できない呪いも何とかできるかもと思ったらしいです……
閑話休題、さて、皆さんそろそろお分かりですね。
長々と状況説明など。えぇ……えぇ……
「そろそろ戻ってきたか」
現実逃避中でした。
目の前にはトロンとした眼をした千雨ちゃん、折角着飾った着物が着崩れてますよ、ちょっとはだけてます。
て言うか、下着が見えてますよ……
「……朱雀、戻ってきた?」
アキラも頬がちょっと朱に染まってますね。何時もの真っ赤じゃないですし、潤んだ瞳が扇情的です。
ちなみにアキラも着物です、お婆さん着物の着付けできますからね。
「きゃはははははは」
桜子ちゃんは楽しそうですね、空いた一升瓶を片手に大笑いしてます。
えぇ、一升瓶……甘酒ですよ、甘酒ですからね。あくまでも甘酒で。
「で……朱雀はどんな子が好きなんだ」
「……うん、気になる……」
眼が据わった普段は控えめで内向的な女の子が2人。私に向かって言い切ります。
『きゃはは』と笑ってた子も急に興味深そうにこっちを見てるんですが、何故でしょう。
後、千雨ちゃん、着物着て、片足は膝立てて片足で胡坐かくと下着が丸見えです……ストライプの下着はとても可愛らしいので眼福ですが。
それと口に咥えたスルメは似合いすぎだからやめましょう。まだ中身がある甘酒の一升瓶を抱えてる辺り、スタイルは酒乱の工事現場のおっさんにしか見えません。
美少女だから可愛いんですが
後、ひょっとしてまだブラを着けてないんでしょうか。アキラはさっきチラッとブラ紐が見えたんですが……
……煩悩退散煩悩退散、相手は9歳児……
さて
……ナニガドウシテコウナッタ……
事の起こりは小学三年の年末。龍宮神社に初詣に行かないかと誰かが言い出して、最早仲良し幼馴染四人組となった私達は当然のように集まったんです。
ちなみに、私、千雨ちゃん、アキラ、桜子ちゃんの四人です。
……今回はメディアさんは何処かへ行きました、ちょっとおめかししてましたが。
それと、まったく別件の話ですが。新田先生には子供が1人居られますが、奥さんに先立たれて一人やもめだそうです。
ただ最近、弁当らしき物を持ってくるようになったとか……この件とメディアさんの料理勉強に散々つき合わされたのはまったく関わりの無い話ではありますが。
……包容力があって生真面目で無闇に女性に対して関心を見せない……結構ストライクゾーンじゃないでしょうか。後、魔法とか魔術に関わってないのも大きいでしょうね。
基本的にメディアさんは外面などどうでも良くて内面を気に入ると一途になりますからね……
いえ、断定するつもりはありませんよ。怖いですから。単純にメディアさんが趣味(美少女を着飾ること)より大切な何かを見つけたなら良いなぁと言う願望ですが。
……唯。
思春期の男の子に急に母親が出来たときの気持ちを分かりやすく教えなさいと聞いてくるのは勘弁してください。
むしろいきなり美人な義母が出来るかもしれないとクラスメイトの新田君に相談された私の方が腰が抜けかけたんですから。
委員長ポジションもなかなか大変です。
「ちっ、また飛びやがったか」
や、別に薬はやってないですよ。飛んでないですよ、ちょっと逃避してるだけで。
「……もう一本空ける?」
「空けろ空けろ、すぐに空になるって」
「わぁーい」
後、目の前の虎たちは、もうそろそろ自制してください。
ええと、状況説明の途中でしたね。初詣には行きました、褐色ガンマンな巫女さんは居ませんでしたが結構盛況でした。
おみくじも引きました、小吉でした……金運は言わずもがなでしたが、恋愛運で『出逢い多し』と『女難の卦あり』は意味深でちょっと怖いです。
その後、解散とならずに態々施設まで足を運びました。初日の出を見ることが目的だったはずですが……桜子ちゃんが懸賞で当てたらしい甘酒セットを持参していた辺りからおかしくなり始めました。
ちなみに、現在地は施設の私の部屋です。
3人のご両親は私の施設の一部屋だと聞くと即座に安心してくれます。むしろ桜子ちゃんと千雨ちゃんのご両親は嬉々として送り出してくれます。
桜子ちゃんのご両親の意図は知れませんが、千雨ちゃんのご両親は引き……インドア派な娘が外で友達と遊んでるのが嬉しいみたいです。
部屋自体は改築とか繰り返して結構大きくなって、私の部屋も結構な大部屋です。
けど、1人部屋です。それなら別に此処まで大部屋じゃなくても良いと言ったんですが。
『お友達がたくさん来そうだからね、朱雀はね、したい事をしなさい。それで救われる子はきっと多いの、だからこの広さは朱雀への期待も含んでるのよ……きっと、貴方が救える子は多い。その手を遠くまで届けて欲しいの、後は私が何とかしてあげるから』
お婆さんに言われたんじゃぁ断れるかぁっ!!
この人と先輩には本当に恩ばっかりで頭が上がらない立場なんですよっ……普通に頭下げたら拳骨喰らいましたけど。
今生で一番お世話になった方ですよ、私がケンカばっかりしても理由を聞いて『じゃぁ、しょうがない、大人の話は私が全部するから安心しなさい』とか一度目の学校の呼び出しで言い切ってくれた人ですよ。
二年でガキ大将の地位に立って、少し優位を考えたら鼻摘まれて社会での『力の使い方』を説教してくれた人ですよ。
「ほら逃げるな……なんだ、胸とかはアキラくらいあるほうがいいのか」
だから、なんでそっちの話になるんですか。
アキラなんて真っ赤になって俯いてますよ、桜子ちゃん、男の前で自分の胸を揉むのはやめましょう、そんな簡単に大きくはなりません。
「……πの大きさに貴賤はないと言います、大いなる乳の元に集えと誰かが名言言いました」
こっそり甘酒を王の財宝の美酒と交換します、もう呑まなきゃやってられません。明日お婆さんに叱られると思いますが、覚悟の上です。
「……私くらいの大きさでも良いのか」
「え、千雨ちゃんは普通に可愛いじゃないですか」
と言うか、未だにネットアイドルデビューをしてない事が少し不思議なんですよね。まぁ、タイミング的には中学入学してから立ち上げるんだとは思いますが。
後、何だか雰囲気が怖くなってませんか。アキラが寄せてあげてて桜子ちゃんがモミモミしてる前で千雨ちゃんは真っ赤になってます。
「そっかそっか……」
赤ら顔で満足そうに甘酒を煽ります。
と言うか、麻帆良の甘酒にアルコールを飛ばすという作り方はないんでしょうか、3人とも結構出来上がってるんですが。
「……背とかは気にするのかな……朱雀、今身長何センチだっけ」
急にアキラから言葉のボディブローを喰らいました。気にしてるんだからやめて欲しいんですが。
「後5センチです……もうすぐアキラを追い抜きますからね」
まだアキラより身長が低いのはコンプレックスの1つです、最終的には追い抜くことが分かってますし、女子の方が最初は成長が早いので仕方ないんですが。
「……そっか、頑張って」
言いながら頭を撫でられました……私、アキラより背が高くなったらアキラを撫でポするんです……
「アキラに背のことで応援されるのは変な気分です」
学年で一番背が高いことをアキラも気にしてるのは知ってるんですが。
態々応援されるほどのことですかね。
「……やっぱり、背が高すぎる子は嫌だよね?」
さっさと酔っ払って寝ましょう。下手に踏み込むと色々危険なフラグを立てそうです。
「ほら、他にもあるだろ、メディアさんみたいなタイプとか」
「アレは寧ろ天敵のタイプです、千雨ちゃんこそどうなんですか、好きな男の子のタイプとかあるんですか」
「わ、私は別に………特には」
私の反撃にしどろもどろになる千雨ちゃん。アキラと桜子ちゃんがニコニコ笑ってます。
「長谷川は分かりやすいよね」
「っ、大河内だって十分分かりやすいだろうが」
分かりやすいタイプなんですか、私はまったく分からないんですが。
「あぁ、椎名は何か聞いて置くことないのか?」
「ん〜……お母さんが朱雀君に教えてもらいなさいって言ってた事ならあるけど」
「聞いとけ聞いとけ、コイツ色々知ってるから」
あそこのお母さんは結構奔放な方ですからね。放任主義とも言いますが、かなりフリーダムな育て方をされてます。
「前に気になってお母さんに聞いたら朱雀君に聞けば教えてくれるって言われたんだけどね……キスってどんな味?」
ぶひゅっと、私と千雨ちゃんとアキラが甘酒を噴出しました。
……ニコニコと、爛漫な笑みを浮かべる桜子ちゃんに変な意図は無いと思うんですが。
少なくとも今生ではそんな経験は無いので教えられませんが、この場合どういう教え方をして貰えと言われたんでしょうか。
「……何だ、朱雀は経験あるのか」
「そこを掘り下げないでください、(今生では)無いですよ」
「……微妙に嘘をついてるときの顔だな」
「何か、隠してるよね」
「朱雀君、キスしたことあるんだ……」
何でこう言う時だけ勘が良くなるんでしょうか、この3人は。
さて、媒体の杖は何処に置きましたっけ。目立たないように鉛筆の形をした『魔法の杖』を用意したんですが。
「そっか、じゃぁ教えられるね、キスの味」
ニコニコと無邪気な顔で近付いてくる桜子ちゃんですが、今の段階で妙な教え方をすると酒臭い味だとしか教えられませんよ。
それと、千雨ちゃんとアキラは何を賭けてじゃんけんしてるんでしょうか。空けたばかりの甘酒ですか? それとも順番ですか?
「θжla……眠りの霧」
「んにゃ」「……ん……」
こそっと小声で魔法を呟いて眠らせます。無理です、もう実力行使しかないわけですが。
「ん、何だ2人とも寝たのか」
……相変わらず魔法抵抗力がハンパ無いですね千雨ちゃん。初心者とは言え一応魔法使えるようになったんですが。
一瞬眠そうにしたからまったく効いてない訳じゃないんでしょうが。
「はぁ……ええと、千雨ちゃんまで教えろとか言いませんよね?」
「……なんだ、教えたいのか?」
ニヤニヤ笑いながら近付いてきます。二人が寝たら急に余裕が出来たみたいですね。
「……魅力的な提案ですが、やめておきます。初日の出はもう無理そうですから布団敷きますね」
「……おう、頼んだ」
四人分の布団を敷いて、一応私の布団だけ少し離します。
施設の女の子の部屋でも良いんでしょうが、もう結構な時間ですし……当たり前のようにお婆さんは4人分の布団をこの部屋に用意しましたし。
翌朝、離してあった布団は一塊になって4人で毛布被った状態で眼が覚めました……
ついでに、4人とも正座でお婆さんに説教されました。お酒は二十歳になってから。気をつけましょう。
説明会と年越し
残りは日常で冬と秋をやって原作突入ですかね。番外編で突然日常やるかもしれませんが