12話
小学6年生の秋、転機は訪れました。
夏休みの終わり頃から、折に触れては確かめて居ました。
それがはっきりと、明確な形で現れたのですから、喜ぶべきでしょう。
「良かったな、朱雀」
昨年くらいからかけ始めた眼鏡の奥で千雨ちゃんが優しく微笑みます。
「えぇ……えぇ、ありがとうございます。千雨ちゃん」
ずっと、私がそれを待ち望んでいたと知る千雨ちゃんが肩を叩いて祝福してくれます。
「……良かったね」
アキラが目の前に立つと、少し恥ずかしそうにしながら、じっと此方を見てきます。さも、私からのアクションを待つように。
目の前には、アキラの双眸……ずっと待ち望んでいた光景があります。
「……ずっと、ずっと夢だったんです」
アキラの肩に手を置くと、そのまま……優しく髪に触れ。
「……アキラの背を追い抜いたら、アキラに撫でポするって……」
「……ポ? ……」
「……少しはクラスの目を気にしろよー」
何故か頬をヒクつかせた千雨ちゃんの突っ込みでアキラが周りを見渡します。
……クラスの身体測定なんですから、勿論クラスメイトの殆どが居ます。集まっている視線に気付いて真っ赤になりますが、漸く訪れた機会ですからもう少し堪能させていただきましょう。
『リア充が』等と妄言が聞こえますがスルーします。
漸く、学年で一番高身長と言うステータスを手に入れたんですから。
「……ポ……これで良い?」
撫でてたらアキラがポと呟きながら小首を傾げます……たぶん、合ってますよね。
「違ぇ……大筋では間違ってないんだが、それは微妙に違う気がするぞ」
撫でポって、正確にはどんなルールなんでしょうか。主人公属性持ちがヒロインを撫でて惚れさせたらOKなんでしょうか。だとすると、確かに違う気がしますが。
「……長谷川、知ってるなら見本を……」
「んな恥ずかしい真似、人前で出来るかぁぁっ!!」
「は、恥ずかしいんだ……コレ」
すっと、アキラが一歩引いて離れてしまいました。小学二年にアキラに撫でポされて以来かれこれ4年、待ち望んでいたんでもう少し続けたかったんですが。
「長谷川、後で撫でポされた時どうしたらいいか教え」
「られるかっ、忘れろアイツの妄言は、お前みたいなのは一生知らなくていい用語だ、て言うか……」
千雨ちゃんに引きずられる感じでアキラが離れていきます。
代わりにクラスの男子が何人か寄ってきて問答無用で殴られました。理不尽だと思いますが。反論しても『リア充にかける情けは無い』と言う訳の分からない理由で猛反発されるのでスルーする事にしました。
それにしても。
「……小学校のうちに身長を抜くことが出来たのは良かったですね」
この先は、少し会う機会が減ってしまうでしょうから。
「進学する以上、仕方ないですけどね」
麻帆良学園は広大な学園都市ですが、幾つか原則が存在します。その1つが小学校・初等部まで合った男女共学が中学・中等部以降は殆ど無くなるという事。
諸説ありますが、名目上は男女の不純異性交遊が望ましくないとされるかららしいです。
唯、学園の気風として恋愛関係の取締りなど無い上、部活動は男女共同の上、中学・高校すら共同とされるので、此処で恋愛関係に発展する例は非常に多いそうです。
そうなると、態々中学から男女を切り離すことは昔からの慣習が残っているだけなのか……それとも、男女の違いを早期から理解させて、交遊を助長……
「……原作を知る者としては、非常に有り得そうで嫌ですね、まぁ、実際のところは世界樹対策が大きいんでしょうが」
22年に一度、発光と共に力を発揮する世界樹ですが、その能力は『告白』と言う一点において絶大な効力を発揮します。
あくまでも22年に一度の発光期が最も効果を発揮しますが、例外が無いわけではないでしょうから、最も長い時間を共にする授業時間で男女を切り離すことで対策の1つとしていると言ったところですか。
以上、諸々理由は挙げましたが、結局のところ麻帆良では進学先としては男子中等部か女子中等部が殆どとされ。エスカレーター式で進学を繰り返していく事になります。
そして、中等部以降で、もう1つ大事なこととして。寮生活と言う点があります。
麻帆良学園内の寮でルームメイトと共に自立した生活を送ることで自立心を促すと言うことです。
結果、来春からは私達は揃って家(施設)を出て寮暮らしする事になりました。
今日は、その買出しとして街に繰り出したわけで。
「……ポ……こんな感じかな、千雨ちゃん」
「だから、私に聞くな……おーい、そろそろ戻って来い」
桜子ちゃんの髪はちょっとクセっ毛ですかねぇ。えぇ、何でこんな事になってるんでしょうか。
既に買出しは後半戦に突入して私は荷物持ちとしての役割を全うしていたんですが。アキラの身長を追い抜いたのを自慢した辺りから話がおかしくなって。
現在は公園のベンチで桜子ちゃんが撫でポの練習です……練習してどうこうなるものじゃないと思うんですが。
「奥が深いんだね、アキラはもうマスターしたの?」
「出来てないと思うけど……長谷川が恥ずかしいことって言ったから」
「人前ではするなって言っただけだ、変な勘違いするな」
ひとまず、逃げるように……と言うか、逃げ出したいので……公園でクレープを売ってる屋台に向かいます。
プレーンを3つと……変り種でゴーヤ抹茶を買っておけば文句は無いでしょう。
喧々囂々と撫でられるのの何が恥ずかしいのか、何を持って『ポ』とするのかを遠回しに演説している千雨ちゃんに呆れながら変り種を桜子ちゃんに、残りを二人に渡します。
「あぁ、悪いな朱雀」
「ありがと」
「お……おぉぉっ、見たこと無い種類だハムッ……苦っ、苦いよこのクレープ」
飲み物は各自適当にペットボトルを持ってるから良いでしょう。
「これで、買い残しはありませんかね」
「調理用具は……どんな子と一緒の部屋になるか分からないしね」
「アキラか千雨ちゃん、美砂か円と一緒の部屋だと良いなぁ」
3人は同じ麻帆良中等部に進学予定ですからね、唯、確か女子中等部はX組まで有って24クラス、各クラス30人前後としても720人……普通に考えれば、ルームメイトになれる確率は低そうです。
……あくまでも、普通にクラス割が行われれば。
そう言えば釘宮さん、あの渾名は無くなったんですね。普通にまどかと呼んでいました。
「……私とルームメイトは多分無理だろうけどな」
ぽそっと、呟く千雨ちゃん……そう言えば、女子中等部への進学が決まった頃、結構時間をかけて学園にハッキング仕掛けてたみたいですが……普通に考えれば、寮で1人部屋を勝ち取るのは難しいでしょうからね。
実力で引き……インドア生活が満喫できる環境を勝ち取ったということですか。
「でも、アキラと千雨ちゃんと一緒の学校に行けるのはちょっと嬉しいな、朱雀君も同じ学校にすればよかったのに」
「残念ながら、私は男ですから女子中学校に通える資格は持っていません」
「えぇ〜……なら、教員とか」
「教員資格は大卒くらいして居ないと無理ですよ、私、中学にも行っていないんですから」
「ん〜 何となく、私達と歳の近い担任が出来るような気がするから大丈」
……この子は本当にセブン・センシズにでも目覚めてないですかね。
「ストップだ椎名っ、その非常識な勘は間違いだ。忘れろ、消し去れ、捨ててしまえ」
桜子ちゃんの呟きに慌てて千雨ちゃんが肩を掴んで言葉を遮ります。
「え、でも本当にそんな感じが、千雨ちゃんともアキラとも同じクラスになって、歳の近い面白い担任に出会える気が」
「お前の勘はヤバイ位に当たるから洒落にならないんだよっ、マジで朱雀が担任になったらどうするんだ」
「そうなったら楽しそうだよね」
クスクスと楽しそうにアキラが桜子ちゃんと笑います。
「ふざけんなぁっ!!」
……安心してください千雨ちゃん、担任になるのは私ではないですから……より、非常識な存在ですが。
「でも、3人で同じクラスになるところは、当たって欲しいよね」
アキラが笑いながら言う中で、千雨ちゃんだけが少し不安そうに此方を見てきます。
……小学校時代は、結局千雨ちゃんと6年間、アキラとも5年間同じクラスでした。その間、千雨ちゃんが傷つきそうなときは必ず傍に居てあげようとして来ました。
お陰で、千雨ちゃんは麻帆良の常識にも合わせた生活が出来るようになったと思います。
……ですが、これからは四六時中傍に居てあげることはできません。
それでも。
「大丈夫ですよ、千雨ちゃん。私は何時でも無条件で千雨ちゃんの味方ですから、困っていたら必ず助けに行きますよ」
何時かのように抱きしめることは、さすがに出来ませんが。代わりに千雨ちゃんの髪に手を置いて軽く梳いてみます。
アキラと桜子ちゃんの髪とどんな違いがあるかも知りたかったので撫でてみますが。
「あうっ……」
突然撫でられて驚いたのか頬を紅くする千雨ちゃん。そのまま、少し俯いてしまいました。
「……はっ、これが撫でポされるって事なんだ。うん、私やアキラとはレベルが違う気がするよ」
「そっか、長谷川は撫でポされるのをマスターしてたんだ、だから違うって言ったんだね」
「って、誰が『撫でポ』されただぁっ、今更コレくらいで惚れ直s……って、違ぇっ、違うからな朱雀。て言うか聞くなぁっ!!!」
何故か千雨ちゃんに襟首掴まれて思い切り振り回されました。
……学校が変わった位で、私達の関係が変わることはない。少しだけそんな気がしました。
私達は、中等部へ進学します。
……ちょっと短めかな、その分次の更新も早めに出来そうです
ちょっとイベントを早めてみました。
今週中はモチベーション高いんで平気ですが、今週末の結果如何でモチベーションが下がる可能性があるので書き辛いところまで書いておこうかと。
原作介入まで後1.2話と言ったところです。日常編は落ち着いたら番外編とかでも書こうかと。
バレンタインとかは何時か書く気ですが、こんなイベントも見てみたいとかあったら感想でお願いします。