14話
麻帆良男子中等部に入学して入寮しました。
生活自体は施設の頃と殆ど変わらないと思いますけどね。ちなみにルームメイトは新田君と言う男の子です。
小学校で何度も同じクラスになった事があるので有り難いです。
ちなみに、新田先生のお子さんでもあります。
「パソコン、後で僕も使わせてもらっていいですか」
「構いませんよ、巡回ルートが終わったら好きに使ってもらって構いません」
新田先生の教育が行き届いていたせいか、温和で礼儀正しい子です……お陰で、男子中等部の1年の取り纏めはあっと言う間に私と新田君に任される事になりました。
……私の委員長ポジションは何処まで行っても消えないということです……
まぁ、私が居た小学校以外からも生徒は集まっていますので。そう言った生徒に『ルール』を分かり易く教えてあげるのに多少時間はかかりましたが。
私の小学校時代の噂が早目に流れたお陰で早期に取り纏めることが出来たので良かったです。
ちなみに、噂を聞いて態々顔を出してきたチャレンジャーのうち数人は。お礼参りを考えた辺りで魔法先生に鎮圧された模様です。
その辺りの危機意識はしっかりしてるんですが、それより前は放置する傾向が強いんですよね、この学園は。
まぁ、ともあれ『お気に入り』を巡回です。
「……少し意外ですね、朱雀さんはそういうサイトにはあまり興味が無いと思ってました」
「いえいえ、私はこういうサイトに興味津々なんですよ」
と言っても、大半は流し読みですけどね。
毎日、用語検索で捜す手もありますが、作ったばかりのサイトに一発検索で行き着いた場合不審に思われて調べられる可能性がありますからね。
何が厄介って、ハッカーの中でも群を抜いてレベルが高いですからね、彼女。
自分のサイトを護るためにどんな罠を仕込んでるか知れたものではありません。
故に、毎日ランキング新着のHPや最新気鋭のサイトと言った紹介文を重点的にチェックしてるんですが。
「……見つけました」
マウスを握る手が震えます。
まずは確認。PCは中等部に入学してから通販で購入したもので、個人情報のやり取りは絶対にしないよう気をつけてます。
新田君にもその点は十分に気をつけてもらってますし、マホネットを経由する事で外国のサーバーを経由するように見せかけ、麻帆良学園内部からのアクセスであることも隠せるようになっています。
ゆっくりと深呼吸。
LINKをクリックして、そのHPへ飛びます。
……『ちうのホームページ』
来た……来ました……ずっと楽しみにしていた世界が、今目の前に。
今更説明するまでも無いでしょうが、私の幼馴染でもある長谷川千雨ちゃんのネットアイドルデビューが始まったんです。
公開されて然程時間も経って無いようですが、コンテンツも整備されててGUIも考えられてます。
初心者が作ったサイトには見えませんが、きっと前々から準備をしていたんでしょう。
BBSやCHATもあるようですが、果たして書き込むべきか書き込まざるべきか……
一ファンとして応援するだけに留めるか、それとも。
「あれ、これって長谷川さんに似てるような」
迷わず新田君の肩を掴みます。有頂天になりすぎて大切な事を忘れてしまっていたようです。まぁ、ルームメイトが新田君で助かりました。
この子は頭の良い子なので、きっと分かってくれるでしょう。
「と言うことで、今の記憶を忘れるか。忘れる処置を受けるか好きなほうを選ばせて上げましょう」
記憶消去の魔法くらいは覚えてますよ。えぇ、大丈夫です、メディアさんにも協力してもらえば副作用なんて残りません。
「忘れました、まったく思い出せません。王の逆鱗に触れる度胸は僕にはありませんでした、失言でした」
「……なんですか、その逆鱗って」
王と言うのは私の渾名の1つです。
……ギルさんボディが悪いんですよ、きっと。
一時期は暴君でしたが。ある程度の発言権を得た後はきちんとした治世を行いましたから、評判は悪くないんですけどね、感じとしては征服の王様に近いと思います。
コレくらいの歳は殴り合って芽生えるものもあるんです。
「いえ、ある女の子に手を出すと、朱雀さんが簡単にブチ切れることから、その子にだけは手を出すなと言う噂が」
それで逆鱗ですか、まぁ納得だから良いんですが。
えぇ、ブチ切れますから、これもギルさん効果かもしれませんが、友人を傷つけられると沸点一瞬で突破します。今のところ、お婆さんと命君と千雨ちゃんが筆頭で、アキラと桜子ちゃんも身内ですが。
「ちなみに、その逆鱗。メディアさんにも適用されますが」
「絶対に口外致しません。いえ、むしろ記憶を失う処置があれば、それをお願いします」
深々と頭を下げてきます。
最近、慣れてきたのか私と同じような目を見ることもある新田君。
えぇ、どれだけ成長しようと私達のヒエラルキーは、あの女性陣の中では底辺なんですよ。
色々と共感できてしまうのが物悲しいです。
「私が言いたいのは、あのネットアイドルは別人です、以上です」
「はい、分かりました……可愛いくらいの感想はいいですよね」
「当然じゃないですか……無闇に広めたらアウトです」
「……ノロけられてる気がして来ました」
何を言ってるんですかね、この子は。
まぁ、頭の良い子ですから、これで無闇に言い触らしたりはしないでしょう。
と言うわけで、新田君と2人、とあるネットアイドルのホームページをチェックしますが。
学校の愚痴も結構ありますね。担任の先生が出張で居なくなることが多いとか、変わったクラスメイトが多くて大変だとか。
「これ、ちょっと気になるんで見ていいですか」
新田君にマウスを奪われてあるコンテンツをクリックされます。まぁ、ありがちな項目ですけどね。
好きな男性のタイプ……普通にお茶を濁して妥当な項目です。
「……ヒーローみたいな人、ですか。長s……このネットアイドルらしいですよね」
「……×印1つです。5個溜まったら……」
「このネットアイドル、ヒーローみたいな人が好きらしいですよっ!」
「日曜午前の特撮とか見るんでしょうかね」
一息ついた後、クスクスと新田君に笑われます。×増やしてやりましょうか。
チャットとかを覗いてみても、クラスメイトへの愚痴が多いですね。まぁ、大半がネタとして処理されてますし、彼女もそれを分かった上で話題に挙げてるんでしょうが。
……クラスは2-Aになって、異様に留学生が多いことや非常に変わった子も……たぶんロボ……居るとは聞いてます。
アキラや桜子ちゃんが気にしてないから、2人との間にもちょっと壁が出来始めてるみたいです。
……こればかりはどうすることも出来ない現状です。今度休みにでも会って愚痴を聞いてあげましょう。
まぁ、実際高畑先生はまだマシな方ですしね。きっとこの先、愚痴を聞く機会も……
増えました、現在進行形で愚痴られてます。
新田君は早々に逃げました、いえ、昔からの癖で私の部屋に押し掛けるのは構いませんが。一応男子寮なんですけどね。
一年の一学期で桜子ちゃんが友達を伴って現れ始めた時点で釘を刺して、施設の私の部屋をそのままにしてもらう事にしました。
……さすがに男子寮に女生徒が大挙して現われたら委員長ポストの立場がありません。
結果して、休日は施設の部屋で集まって遊びに行くのが慣例だったんですが。
「10歳だ10歳……数えで9歳……幾らなんでも有り得ないだろ」
中学二年の3学期始まって少しして、千雨ちゃんが部屋に押し掛けてきました。
突然の訪問ですが、既に男子寮を統括する立場にある私の逆鱗と知られている彼女は当たり前のように丁重に部屋まで案内されたようです。
で、来て早々の愚痴とは。これまでの担任の代わりに10歳の少年が2-Aの担任になったとの事。
結構我慢したっぽいですけどね、子供先生の噂が流れてきてましたし。
「……当たりましたね、桜子ちゃんの勘」
「まったく嬉しくない。あの勘だけは外れて欲しかった……」
前に、歳の近い担任が出来るかもしれないと言う直感をしてましたからね。修行とか色々して30歳は越えているだろう高畑先生に対し、僅か5歳差の担任です。
……一応、頭は良い筈なんですけどね。
「で、私のところに愚痴りに来たと言うことは……」
「……椎名や大河内とは……休みの日はともかく、学校ではちょっとな」
桜子ちゃんとアキラは10歳の担任を受け入れてしまったため、愚痴れるのは私だけになってしまったようです。
いえ、ネット上では結構愚痴ってますけどね、さすがに10歳云々と愚痴ると個人が特定できてしまうため控えてるみたいです。
「まぁ、学園長先生の決定でしょうし、諦めるしかないんじゃないですか。よっぽど教師として無能でしたら、さすがに進学のこともある3年の担任は出来ないでしょうし」
「……あぁ、一応3学期だけって話だが……椎名の勘がな」
さすがですね桜子ちゃん。3年の担任も任されることを既に勘付いてますか。
そして、桜子ちゃんの勘の良さを知る千雨ちゃんにすれば気が気でないでしょう。
「勉強面では意外に上手いんだよ、学があるのは確かだ」
「指導面では?」
「三流、無気力教師より質が悪いぞ」
千雨ちゃん曰く、贔屓ありの感情的で考え無しらしいです。まぁ、情操面は期待してませんでしたが。
それと、1つ安心できました……主人公憑依は無さそうですね。
一応、自分以外の転生者が居ないかと言うのは懸念でしたが、この時点で出てこないなら大丈夫でしょう……漆黒の聖天使とか警戒したんですけどね。
「女子寮に普通に住み着くし……」
「千雨ちゃん、1人部屋なんだし気にならないんじゃ」
「風呂……うちの寮の風呂は大浴場なんだよ」
ギリギリと歯軋りしておられる千雨さん、これは既に一回くらいは鉢合わせしてるんでしょうね。
とりあえず、メモ帳に×印を1つ書き加えます。
……10個くらい溜まったら闇討ちしていいですかね。
「朱雀の方は特に問題なさそうで良いよな」
「まぁ、いきなり美幼女が教師になるなんてイベントは無かったですね。むしろ、2-Aのイベントの豊富さには呆れますけど」
「勘弁してくれ……て言うか、代わってくれ」
「その場合、千雨ちゃんが男子中に通う事になりますが」
「……撤回する、お前も女子中に来い」
「ちょっ、桜子ちゃんみたいなことを、無理に決まってるんじゃないですか」
「10歳のガキが担任になったなんて事に比べればまだ全然マシだ、お前の方が良識が有る分我慢できるし……こういう話で話が噛み合うのは、朱雀くらいだ」
軽く溜息を漏らす千雨ちゃん。
仕方ないと言う点はあるけれど。ずっと共に遊んできたアキラや桜子ちゃんが。ある意味2-Aに毒されていき、自分は取り残されていく。
理解できるとは言わないけれど。気持ちは少しは分からなくも無いです。
「……困ってると、この学園では魔法使いが助けてくれるらしいですよ」
「……魔法少女とか、魔法オヤジとかか。殴っていいか、朱雀」
「千雨ちゃん専用のパンチングマシンですか、踏み付けてくれた方が私的には嬉しいです」
「この変態が」
ぐりぐりと拳でこめかみを挟みつけられます。
少しは元気が出てきたみたいですね。くっくって笑ってる声が聞こえます。
「大丈夫ですよ、千雨ちゃんに何かあったら変な少女とか変なオヤジより早く、私が助けに行きますから」
「そうだな、変な子供先生に襲われそうになっても助けてくれよ」
「その時は、色々な方に申し訳ないですが子供先生の色んなものを潰します」
「あぁ、お手柔らかにな」
「子供には優しいですよね、千雨ちゃんは」
「……子供に優しいヒーローを知っててな、私も少し真似したくなったときが有ったんだ」
「そうですか、かっこいいヒーローでしたか」
「……私にとっては最高のヒーローだったよ、一番苦しかったときに来て、あっと言う間に助けてくれた」
「そうですか」
クスクスと、何故か笑いたくなってきました。
ヒーローと言う点で少し気になる点は有りますが。思い出せませんね、えぇ。
それにしてもヒーローですか……けど、ヒーローでも悪を見逃すことがあるんですよ。
「あぁ、そう言えば。最近噂のあれは聞いてますか? ……満月の夜」
「うん? あぁ、吸血鬼ってヤツか。夏くらいから噂になってる」
「……満月の夜に現われるらしいですから、満月の前後は絶対に夜中、外出しないでください」
「お前、前にもメールしたよな。噂が出始めた頃、私と大河内と椎名に……そこまで心配することかね」
……敢えてそれを見過ごしてる身としては、心配もしますね。
闇の福音が、英雄の息子を襲撃するための準備期間を。
「大事な幼馴染ですから、変質者に襲われたら一生悔やみます」
「……けど、その時は助けに来てくれるんだろ?」
「それはもう、ただ……その時、相手の命の保障が出来ないものですから」
「……分かった、気をつけておくよ」
クスリと笑顔を交し合います。少しは元気が出たようです。
……夏くらいから噂が出始めた桜通りの吸血鬼……恐らくは闇の福音エヴァンジェリン……見逃してあげますから。ちゃんと原作どおり進めてくださいね……
……少し時間を経て想う。あぁ、この時の自分は馬鹿だと……
何故、それまでに見つけ出し殺さなかったと。
闇の福音とイレギュラーは。この少し後に相対し。殺し合う。
前が短かった分早目に投稿
……チウタンがこれから暫くチウタンが足りなくなる……
感想と評価をもらえたら幸いです