18話
「行くぞ、ディルムッド」
「はっ」
既に朝も近く、夜半をとうに過ぎた刻限に二者は麻帆良への道を歩む。
先頭を歩む少年は無手だが、後に続く従者は背に二本の魔槍を背負う。
日が落ちて直ぐに襲撃を受けた少女、それを奪い返し、追撃を打ち払って逃げ去った少年。
何に一番時間を要したかと言えば、その後に続いた少女と魔女への事情説明と弁明であろう。
……実際、逃亡や戦闘に費やした時間よりも頭を下げていた時間の方が長かったりする……
「ま、待ってください」
その後に続くのは小さな影。小動物のようにおどおどと二人の後を追いかける。
数時間前の戦闘において、敗れた少女の1人を槍騎士が確保しておいたのだ。無論手荒な真似などはしていない。
追撃してきた剣士から、麻帆良学園側は自分達と交渉の機会を求めていることは伝わった。
ただ、その時点では幼馴染の少女を
……一応名目上は、連れ去ったのは吸血鬼化された少女の回復のためと言い張っておいた……
「うぅ……ディルムッド様とご一緒できるのは光栄ですが、色々と怖いです」
「警備に支障が出ないレベルで魔法先生と魔法生徒、出来るだけ揃えとけって言っただけなんですが」
目の前で携帯電話を借りて電話したのだから、少年が学園長にどのような要求をしたのか少女も聞いていた。
「それが問題なんですっ……捕虜みたいな形の私がどんな眼で見られるか」
「まぁ、直ぐに解放しますので……迎えも来られたようですし」
「愛衣っ……無事ですかっ!」
麻帆良学園の大門の前まで足を運べば、案内役であろう少女と男性が待ち構える。
「あぁ、良かった無事で。仮契約カードが消失してしまったときには貴方の身にもしやと……連絡を受けたときも信じられず」
先の戦闘で少女は吸血鬼化の解除の為にルールブレイカーをその身に受けたが、その際に仮契約の繋がりも断たれてしまっていたのだ。
桜咲刹那からは連れ去られたとの報告も受けており。よほど泣き腫らしたのか目元は赤く腫れ上がっている。
「……案内の方でよろしいですか」
唯、その眼は従者を連れ去った少年を眼にすれば険を眼に留めてしまう。
元凶が闇の福音に有るとしても、少年と従者が抗し、連れ去ったことは違いなく。
……そんな、悪意ある視線を遮るように、視界に赫き槍が差し込まれる……主への不敬な視線を遮った槍。それを見直った少女は。
「……ディ、ディルムッド様!? ……あ、あわわわ、え、と、あ、脱いで、違います、サインを」
生粋の魔法世界出身者である彼女にとって魔法世界で武名を誇るディルムッドは雲の上のような存在だ。
ファンクラブにも加入しており、持ち歩いている会員証を差し出して眼を回している。
「……主よ、如何に」
「……減るものじゃないし、書いて置きなさい……で、案内役は……貴方ですか、デスメガネさん」
「……一応、高畑と言うのが名前だよ。学園長と……君の要望通り、今回の件に関わった殆どの魔法関係者は学園長室に集められている」
愛衣と言う少女の携帯電話を使って学園長室へ直接に連絡を取り付けた少年。
要求として。追跡の取りやめと面会しての交渉を求め……内密にごく僅かな人員での面会を求めた学園長に対し、可能な限り多くの魔法関係者の出席を求めたのだ。
紆余曲折はあったものの、早期の事態の収束を望んだ学園長はそれを承諾。
……警備の者を除き、学園長室には多くの魔法関係者が集められている。
「案内しよう、此方に」
高畑が先を歩く形で歩き出し。その後を高音と愛衣が続く……それを追うようにして、朱雀とディルムッドもまた足を踏み入れる。
……女子中等部に足を運ぶのは始めてでないため道は分かるし、特に問題もなく5人は学園長室の前まで辿り着き。
その扉は直ぐに開かれる。
……その部屋に在るのは数十の魔法関係者の姿。少年にすれば原作で見知ったような顔もちらほら散見されるし。数時間前に交戦した剣士や浅黒い肌でわきに拳銃を吊るす少女も目に止まる。
ただ、子供らしき姿はない。
「子供先生は不参加ですが」
「……子供はもう寝る時間だからね、ルームメイトの元に戻ってもらったよ」
無論、しずな先生はこれにも色々と反抗されたが、長く緊張感と不安を持続し続けた少年は夜半を過ぎた辺りで眠気に負けてしまったのだ。この辺りは子供らしいとも言えるが。
「さて……用件はお分かりかと思いますが……既に昨日になりますが、私の幼馴染が吸血鬼に襲われたので、私はそれに反撃し致命傷を負わせました、後は命の音が止まるのを待つだけですが、学園側はそれが不服なようですね」
魔法関係者の多くを集めたのは唯1つ、事を有耶無耶のまま終わらせることを避けるためだ。
現在も闇の福音の魔力封印が解除されていないということは学園側のスタンスとして闇の福音の死亡と言う形での処分は下されないという事になる。
……それが学園全体としての意思なのか、学園長の権力によるものなのかを確認することも目的のひとつだが。
吸血鬼と言う単語が出た瞬間に多くが顔を顰めたのを見れば、闇の福音の擁護は全体の流れではなく、一部の責任者の意思によるものだろうと見当はつく。
無論、15年間学園のために従事してきた警備員の1人としては心配もするだろうが、【闇の福音】の名は魔法世界では忌み名に近いものもあり。この機に排斥を声高に訴えるものも居る。
「正当防衛は認めるが……少々過剰防衛気味とは言えんかの。襲われた少女に命の危険は無い事じゃし」
「……逃亡中に吸血鬼の従者として私に攻撃を加えてきました、紅に染まった彼女の眼、首に突き立てられた牙、華奢な腕で首を締め上げ……完全に支配されていました。人の意思を踏みにじり、人としての生すら奪いかねなかったアレは命の危険ではないと?……それと、もう直ぐ夜明けですね」
「む、すまん。先の発言は撤回させてもらう」
万一吸血鬼化の解呪が出来ぬまま日光を浴びれば、その時点で命の危機に瀕する。
それを危惧する魔法関係者は多く、故に日が昇る前に交渉を落ち着けねば魔力封印の再開を決断する必要もある。
刹那と言う名の剣士から少年がアーティファクトで吸血鬼化を解呪したように見えたと報告を受けているが、実際のところは不明。
敵対姿勢の少年から情報を引き出すのも困難だろう。
「……ともあれ、このまま此処で交渉と言うわけにも行くまい、奥に部屋を用意しておる」
「では、帰らせていただきましょう」
「ちょっ、待ちなさい、愛衣の無事が確認できたわけじゃないのよ」
逡巡も無く踵を返す、慌てて高畑と高音が行く手を遮ったため、歩を止めるが……
学園長に眼を向ける少年の目はどこまでも冷たく。
「別に構わないのですよ私は……出席日数は足りてますし、闇の福音の命の音が尽きるまで後数週間、この地に近付かなければいいだけです……ここまで足を運んだのは、魔法関係者を一室に集める私からの条件を汲んだ貴方への譲歩でしたが……まさか、意味を取り違えていましたか」
この男1人を相手にすれば証跡を残さぬまま有耶無耶にされる。
だが、関西に比べれば遥かに真っ当とは言えても、関東にも派閥は存在する。闇の福音排斥派も存在する筈、実際、エヴァンジェリンに噛まれて吸血鬼かした従者を持つ高音にすれば気が気でないだろう。
この交渉しだいでは夜明けと共に愛衣が灰になる可能性もあるのだから。
「……既に、私は闇の福音と刃を切り結んでいるのですよ、貴方方とは戦いを取りやめる事にしましたが……闇の福音との戦闘は未だ継続中です。それとも、このまま一網打尽にする腹積もりでしたか」
少年は何処からとも無く二本の剣を取り出し、従者も背に背負った槍に手を添える。
「まった、待っとくれ、そんな気は無いんじゃ、唯……多くには聞かされない話も混じっておってじゃな」
此方のブラフに慌てて止めに入る学園長。
ブラフであることは気付いているだろうが、此処で去られれば、再度事を構えない限り闇の福音の命に関わることは明白。噛まれてしまった魔法関係者がいて、それを強制的に使役するような真似をしてしまっている以上、夜明け前にエヴァンジェリンの魔力封印をすることは内側からこそ求められるのだ。
夜が明ける前に、呪いの除去だけは何としても引き出さねばならず。
「……では、そこの眼鏡の方と教授の明石さんと……硝子の外で観察されてる学生の4人でならば、話も聞きましょう。それ以外は受け付けません」
ばっと、一瞬で視線が一点に向かう。
外から内部を覗える唯一の接点の奥では「深入りしすぎたネ」と後悔する中国系の少女の姿があり。
「……超君か……」
2人にばかり気を払い、他への警戒を疎かにしていた高畑が苦々しげに名を呟く。
「うぅ、長谷川が誘拐されたって話を聞いて、犯人を追いかけたヨ……もしかして、うちの学校、裏組織だったりするのかね」
殺気立つ雰囲気で一室に数十人も集った魔法関係者に、あくまでも、目的はクラスメイトの捜索だと主張する。
事実、闇の福音の封印解除と茶々丸の半壊と言う急報を聞き、麻帆良に招き入れられた怪しげな2人を追ってきていたのだから、間違いではない……興味深い話になりそうなので聞き耳を立ててしまったのも間違いではないのだが。
「……絡繰君の事情で知ってるだろが、全員魔法関係者だよ……それと、長谷川君は無事だ、連絡がまだ伝わってなかったようだね、君は直ぐに……」
「彼女にも同席していただきましょう、最高責任者と、見た限りで一番の闇の福音排斥者、中立的で闇の福音がクラスメイトの娘の保護者……そして、闇の福音のクラスメイト……意見者としては妥当だと思いますが」
眼鏡の方とはガンドルフィーニと言う名前を持つ魔法先生だが、彼女の部下に当たる愛衣が吸血鬼化、命の危機なのだ、当然のように魔力封印の再開を求めているので、排斥派と言う判断は間違いではない。
「あいや、何だか凄い大事に巻き込まれてないカ?」
実際、ディルムッドが追跡に気付いたが故に少年は彼女の存在に気付くことができ。
巻き込めた形だ……彼女を巻き込めば要らぬ疑いを彼女にもかけてくれるだろうという目論見がある。
「学園側の痛い尾を踏める機会と思うと良いでしょう、色々面白い話も聞けるかもしれませんよ……それと、貸し1で如何でしょう」
「正体不明な実力者の貸し1カ……魅力的ネ……と言うか、既に逃げ道は無い気がするね」
事実であろう、この場から無事に脱するのに1人では難しく。
「話し合いが終わったら安全な場所まではエスコートしますよ」
言っては何だが、この時点で既にブラックリストに名前が載っているだろう超を巻き込めたのは少年的には有難い。
「学園長……人数を減らすまでは許容しますが、これが最低条件です。ガンドルフィーニ先生、明石教授、超さん立会いの下か、全ての魔法関係者の前でのみ話し合いには応じましょう……無論、闇の福音の不治の傷を癒す事が此方の賭け札です」
……最終的に、学園長側は首を縦に振ることとなる。
追加で飲まされた条件は高畑先生の参加のみ。別段人数が増える分には支障がないため放置したが、結果として学園長室で、私と学園長はテーブルを挟んで座りあい。
私の背後にはディルムッドと超さんが。学園長の背後にはガンドルフィーニさんと明石教授、高畑先生が立つ形になる。
「私はやっぱりこっち側かネ」
「あちらに立っても構いませんよ、ただ、万一交戦になった時は、此方側にいれば誓って逃がして差し上げましょう」
「……貸し、もう1つで良いカ?」
「そこはせめて、合計で1.5くらいになりませんか」
「長谷川とアキラの学園での恥ずかしい写真とか興味ないカ?」
「2で良いですよ、茶々丸さん経由ですか、楽しみですねぇ……真っ二つにしたのは申し訳ないです」
「着替えとかは無しヨ、けど、期待には応えられるはずネ……エヴァンジェリンの従者として努めた結果ネ」
多分、千雨ちゃんが自爆った写真とかアキラが猫に囲まれてほのぼのしてる写真なんだろうけど。寧ろ望ましいので頷いておく。
弾んだ声で会話する私達に比べ、ディルムッドと高畑先生、学園長は殺気立っているので妙な感じですね。
ガンドルフィーニ先生と明石教授は心象的には此方側といった感じですが。
「……うほん、では宜しいかね」
「面倒なんで此方の条件をさっさと出しておきますよ。1つ、闇の福音への我々からのギアスの許可、2つ、我々への不干渉、3つ、我々への詮索をしないこと、4つ、闇の福音の転校、5つ、再度吸血行為を行った場合の抹殺……以上を呑むなら闇の福音の傷を治癒し、学園側への敵対姿勢を解きましょう」
基本的には要求は、事件以前の状態に戻ることが望ましい。
ならば、闇の福音へのギアスと不干渉、詮索しない事を勝ち取れれば此方側としては問題ないですが……
実際、千雨ちゃん的には死なせるのは気まずいと言う話だったので、死んでもらうのも困りますし。
「……ギアスとは?」
「私の身内へ害意を発した際の魔力運用の停止ですね、仮に登校地獄が解除された場合にも効果を発揮する極めて強力な呪いです……致死にしても構いませんが」
「むぅ……闇の福音回復後は、我々関東魔法協会が確実に彼女の行動を抑制する、そこまでする必要はあるまい。これは関東魔法協会の長として確約する」
「却下です、幼馴染の長谷川千雨は軽くトラウマを負いかけていましてね、ギアスをかけることで確実に“私が”闇の福音から護ることで安心してもらってるんですよ……残念ながら、事態を引き起こし、追撃され、攻撃を加えた“学園側”では納得してもらえないでしょう」
「そこは問題ない、彼女の記憶はきちんと」
「条件を聞いてたか爺ぃっ!。 我々への不干渉……彼女に僅かでも魔法的に干渉してみなさい、闘技場不敗の騎士が学園長室に特攻しますよ……ちなみにディルムッド、その場合は」
「我が身を惜しむことはございません、尽力をもって首級をあげましょう」
「おーっ、カッコいいネ」
優雅に一礼をもって応える従者。
無論、ガンドルフィーニや明石教授にもその武名は伝わっているだろう、忠義を示す騎士に彼らは眼を剥き。
「……本物かね、彼は……」
「さて、唯、私の従者は常に二槍を振るい、未だ敗れる様を見たことはありませんがね……ちなみに、調べればすぐに分かりますが。ディルムッドファンクラブも運営する複合企業『GOLD FLASH』の創設者はMEI SUZAKU と言いますがね」
GFは色々やってるうちに面倒になって一纏めにした私が出資した企業の複合体です。その際に一応代表者と言う形になったんで、名前の読み方だけ『みこと』から『めい』に変えて登録しました。
何だかんだで金さえ積めば多少の無茶は効きます。
GFの語源? わざわざ言うまでも無いでしょう。
ちなみに、企業としての会合などで表舞台に立つのはメディアさん。不承不承ながら会長職は現在メディアさんです。
唯、パーティーなどになれば、子供を持つ方は可能な限り子供をパーティーに引っ張り出すようになったんで結構楽しんでるようです。
新会長は子供好きと言う噂のおかげでしょうが……
「……事実、ですね」
明石教授がモバイルを使って事実を確認します。実際、先輩の企業もとんでもなく成長してますし、私自身、会社の大きさなんて把握できないレベルです。
……桜子ちゃんが、此処良さそうって言った会社を全て吸収合併しただけで翌年には数倍にまで膨れ上がる成長を“続けて”来ましたから。
ちなみに、桜子ちゃんのお父さんは大出世の連続でちょっと肩身が狭いらしいです。会長ともツーカー(うちの娘は可愛いなぁ)の仲ですしね、出資者ともシンパシーを(女性陣の強さに怯える意味で)感じる仲ですし。
「……尚、麻帆良学園に対する経済戦争と、魔法世界間の物資の流入停止に関して準備を整えておくようにとは既に通達済みです」
慌てて隠しもせずにモバイルを叩き始める明石教授。
段々顔が青くなっていくのが眼に見えて分かります。
「やぁ、あの企業の代表だったか、凄いネ……時に、うちとも取引しないか」
「超包子相手ならば喜んで……名刺を渡しておきます。本社の受付に出せば最上級の待遇で迎え入れますので」
私の名刺と言うのはプレミアがつくくらい稀有なものらしいです。まぁ、基本下に丸投げですから、先輩とか最初期の数人しかもってないはずですしね。
ちなみに、幼馴染3人は当然持ってます、冗談が過ぎるって笑われましたが……売りようによっては数億つく紙切れなんですけどね。
ディルムッドファンクラブの会員証一桁も同じくらい価値がありますが……そう考えると、あの3人の財布って狙われる要素ありますね、返してもらったほうが良いかもしれません。
「……干上がりたいなら、構いませんがね」
「……何者なんじゃ、君は」
「関係ないでしょう、副業でそれなりに稼いでるだけですよ。麻帆良の校則では副業は禁止されていません」
そろそろ老獪な昼行灯が麻帆良最強の魔法使いになってきました。
……此方も、調べられれば分かってしまう手札は切ったので、此処からは腹の探りあいになりますが。
「……一つ目、ギアスの許可は? 内容は私と私の身内へ害意を持つ行動への魔力完全封印と激痛。良ければ麻帆良関係者全てにでもいいですが」
これは絶対条件、呑まなければ交渉は決裂になる。
……その時は、最悪麻帆良と事を構えても仕方がないでしょうね。
「…………呑もう、あぁ、君の身内だけで良い」
「学園長、何を……この際、麻帆良の生徒全てをギアスの影響下にすべきでしょう。彼女は生徒に吸血行為を行ったのですよっ」
慌てるのは、学園長側のガンドルフィーニ。
闇の福音が復活を求めて吸血行為を行う、それは魔法世界出身にすれば恐るべきおぞましき行いだ。
轟々と学園長に捲くし立て。
「……宜しいので?」
激昂するガンドルフィーニを指して尋ねるが、学園長は縦に振るだけ。
「二つ目、我々への不干渉……正体を隠していたのは申し訳ないですが、私としても自衛以外で魔法を使う気など無かったのですよ……唯、幼馴染が吸血鬼に襲われては、我慢などできるはずがないでしょう」
「……魔法犯罪を犯していない以上、それを咎めることは出来まい。今後もその力を無闇に振るわぬ限りは、黙認するし、此方から干渉はすまい」
これも、魔法犯罪上は問題の無い行為。魔法生徒として入学したならともかく、普通に入学したので警備などのボランティア行為への義務もありませんし。
「あぁ、私の魔法関係での後ろ盾は従者のディルムッドです……色々と伝手も有りますので……もしものときは魔法世界側でも問題になります、ご注意ください」
多少、此方の後ろ盾も強調しておけば馬鹿な介入も無いでしょう。
実際、権力者の娘とか妻とか未亡人とか諸々。従者の人脈はある一定法において極めて強い。
それら誘惑を悉く払いのけるストイックさも人気の1つに繋がってますが……そのせいで主従カップリング疑惑が根強い人気なんだよ、それだけは何とかしろといいたい……無論、本人はその気はなく、あくまでも忠義を果たす事に執心してるだけなんですが。
「三つ目、我々のことを詮索しないこと……まぁ、不干渉とほぼ同義なんですがね」
「……桜咲君から、君のアーティファクトの話を聞いている……我々が捜していたものに酷似した形状と聞いたのじゃが」
ルールブレイカーを目撃されましたからね。あの状況で千雨ちゃんの吸血鬼化を解かないわけにはいきませんでしたから仕方ありませんが。
あれは魔法世界側でもかなり注目されているはずで……
「……詮索無用です」
交渉の刻限はゆっくりと迫っている。こちらが態々引く必要は無く。
「……心得た」
「四つ目、闇の福音の転校」
「それは、何とかならんか……あれには卒業まで二度と君等に害を事を為さぬよう徹底させる」
ふと、学園長は此処で食い込んできた。
千雨ちゃんの許可を得ている以上、実際、どうでもいい話ではある。ギアスと不干渉さえ得られれば、多くを望むことは無いので固辞するつもりは無いんですが……
実際、闇の福音が仮に転校したとして、不都合はそんなに無いでしょう……敢えて言えばネギが将来の師を無くすくらいで。
……ふと、原作知識と嫌な重なり合いを見せた。
一つ目の要求。麻帆良関係者全域ではなく私の身内だけのギアスを望んだ。逆に言えば、今後も多くの麻帆良関係者に魔力を振るうことを良しとした。
吸血鬼事件が起きたから主人公と闇の福音は邂逅し、最終的に師弟関係に落ち着いた。
……魔法世界編でネギは闇の福音の
……そして原作では誰も、闇の福音に師事する事に注意しなかった……
これは予定調和ではないだろうか。
6年間も面倒を見ていたならネギに闇の素質がある事に気付いた者がいてもおかしくない。
……英雄の息子の修行の地に日本が選ばれたのは、この地に闇の福音が居るからでは無いだろうか。短期間で急成長を遂げるのには【闇の魔法】程効率の良いものは無い。
10年、20年後の英雄よりも、短期的に英雄まで上り詰めてもらったほうが都合の良い連合にすれば、最終的に英雄の息子が壊れてもほんの1.2年で効果が表れる【闇の魔法】は魅力的だろう。
……魔法世界の崩壊は遠くないのだから……
とすれば、ネギは闇の福音に師事することを目的として日本に送り出された。教職なら年代が違っても交流の機会ができる、故に教師……
……そうすれば闇の福音が未だ生き延びさせられている理由も納得できる。彼女は、次代の英雄に全てを伝えてからでなければ、死んでもらうわけにはいかないのだから。
「……良いでしょう、長谷川千雨はギアスさえ為せれば同じクラスで構わないと言っています。4つ目は撤回します。5つ目も……良いでしょう、学園長の狙いは見えましたので。“身内に手を出されない限りにおいて”見逃しましょう」
ピクリと学園長の眉が動くが
恐らく、今生でもネギと闇の福音の激突は起きる……以前と同じく、多くの保護者に見守られる形で。
「む……身内とは、どれ程かね」
「同じ施設出身者と、千雨ちゃん、アキラ、桜子ちゃんと……それ以外は見逃しましょう……不服で?」
「私は身内じゃないのネ」
「準に含めますから勘弁してください」
「では、妾で我慢するネ」
「すいません、千雨ちゃんにマジ殴られるんで勘弁してください」
「……」
渋面ながらも、将来の英雄の師匠候補をこのまま死なせるわけにいかず。学園長は要求を呑んだ。
無論、学園側に多くの亀裂を残す形で……
随分長くなった、二話に分けるべきだったか……
けど、早くチウタンが補給したかったんだ……
さて、後はネギに色々誤解してもらうだけだ