23話
「何だ、それ」
「命綱みたいなものです、これなら切れたりすることも無いでしょうし」
図書館島への侵入を果たした私達。
先頭は勿論、綾瀬さんが歩かれてます……その傍らには長瀬さん。どうも殺意を放ったのを気取られてしまったのか、ちょっと警戒されて距離を取られてしまいましたね。
その後をわらわらと続いて、私と千雨ちゃんは最後尾。
アキラも全体では後ろ寄りにいます。
その各々がリュックサックを背負ってますので、手荷物の無い千雨ちゃんとネギ先生はちょっと浮いてます。
私は、念のために小さ目ですがリュックサックを掴んできました。
おかげで、こんなのを取り出してもちょっと奇異に見られるくらいです。
「……布と鎖……お前、そこはロープにしろよ」
「色々使えて便利なんですよ、あっち方面で」
赤い布と、黄金色の鎖をそれぞれ右手と左手に絡ませている感じです。赤い布の銘は【マグダラの聖骸布】、黄金色の鎖は【天の鎖】と言いまして、片方は男性なら確実な束縛性、片方は神性を持つ対象を確実に無力化できますが……今は拘束礼装・宝具としての使い方が便利です。
放てば勝手に対象を捉えてくれますから。本棚から落ちそうになったら拾い上げられます。
むしろ、男性も少ないし神性もまさか無いでしょうから、この状況では都合が良いですね。
「ふーん、色々あるんだな……で、これってどれくらい危ないんだ? メディアさんとかディルムッドさんも呼んだほうがいいのか?」
「いえ、危険は皆無です。図書館探検部の先輩方による後輩へのイベントだそうですから、此処に来るまでに学園長に会って声をかけられましたよ、監督役だと」
「帰って良いか」
目元を押さえながら唸る千雨ちゃん。私も出来ればさっさと切り上げたいんですが。
クラスメイト想いのアキラは同行する気のようですし、ちょっとやそっとで満足する面々ではないでしょう。
「まぁ、此処は諦めて付き合いましょう、まったく危険の無いお化け屋敷だと思えばいいんですよ」
飛んできた矢を適当に掴み取りながら千雨ちゃんの相手をします。
先頭の方は綾瀬さんが長年の経験から罠を解除し、半ばは古さんと、多ければ長瀬さんが協力して打ち払う。此方に来た影響は全て私が打ち払うと……
「つか、うちのクラスは人外ばっかか」
先頭で罠を解除しながらルートに辿って歩む綾瀬さんはともかく、佐々木さんは本棚から落ちそうになったら、何処からとも無くリボンを取り出して自身を引き上げ、本棚が倒れてきたら古さんが蹴り返し、長瀬さんが流れ弾(本)を拾う。
……えぇ、毎度千雨ちゃんは目元を押さえて考え込みましたとも……
全員、あっちとは無関係と言ったら殊更に頭を抱えましたが。
「まぁ……否定できませんが」
苛々した様子の千雨ちゃん。
半ばのチームから私たちが言い合いを始めたのを見て心配した子が歩みのペースを遅れさせてるんで、危険なワードを口にしようとしたら口を塞がないといけませんね。
アキラは私と千雨ちゃんの口喧嘩程度は日常茶飯事なんで気にしてませんが。
「だいたい、私のクラスは何であんなバリエーション豊かなんだ、エヴァンジェリンと絡繰は既に別格だが、今回だけでも長瀬は人を抱えてぴょんぴょん屋根を跳ぶし」
「あぁ、千雨ちゃんを浚った時ですね。あれは思わず撃ち落しそうになりましたね、思い止まって良かったです」
「……何気に死亡フラグ越えてきたのかあの忍者」
えぇ、学園長が介入してきてなったら足の一本は射抜いてたでしょうね。無論、直後に両手も……遠距離でも無力化できる良い礼装か宝具ないですかねぇ。千雨ちゃんに血を見せるのは好ましくないんですが。
「古もそうだが、長瀬と古、佐々木はお前からしたらどんなもんなんだ?」
「古さんは一般人の最強格でしょう。長瀬さんは中忍と聞いた覚えがありますね……佐々木さんは桜子ちゃんの同類です」
「あぁ、佐々木も理不尽の部類か、つか……あぁ、今一気に佐々木が私の中の常識外レベルのトップクラスに躍り出たぞ」
何だかんだで運はいいですからね、敢えて言うなら桜子ちゃんは危険は避けて通りますが、佐々木さんは危険承知で突っ込むみたいですが、と言うか、どんなに事件に巻き込まれても五体満足無事で済んでるから凄いんですが。
ちなみに、龍宮さんが半魔だとかザジさんは純魔とか相坂さんが元幽霊とか教えると常識外レベルは上がるんでしょうか。
「……一応言っておく、既に腹いっぱいだぞ」
「そうですか、では何も言いません」
侵攻の先で罠を駆逐して進行する綾瀬さんと長瀬さん。後方は完全に任されてしまった形です。こうなると原作よりも進行速度は速そうですね。
半ばは、混乱しながらも古さんと佐々木さん、それと偶にアキラが体力を駆使して何とかしてます。
……さっきから、神楽坂さんがネギ先生を庇ってるので、多分魔法封印は知りましたね。
そのせいで、さらに後方への期待の目が強いです……どうしましょう。
後、そろそろ半ばの彼女が後方の私達のグループ寄りになって。
「……そういえば、クラスの連中だと桜咲もあっち側なんだろ? あれ強いのか? 何か、朱雀に一蹴されてたけど」
ぴたっと、半ばグループと後方グループの間で興味ありげに近付こうとしていた少女の足が止まる。はっきりと後方グループに追いつかれるくらいに。
「っと、近衛、どうしたんだ? 急に」
「う、うん、ちょとな、幼馴染の2人に、仲が良いコツとか聞きたくて……けど、何や、クラスの子の名前も聞こえたんで気になってもうたんや」
近衛さんが後方グループに混じってきました。
幼馴染 桜咲さん。確かにどちらも近衛さんの気を引くには十分な内容でしょうね。
「……目の前の光景を見てて、うちのクラスはどんなびっくり人間クラスだって話をしていただけですよ。大したことじゃないんですが」
千雨ちゃんが相手をしますが、まぁ、近衛さんは見た目はまともな部類のクラスメイトですからね、魔力を察知する身にすれば、よく今まで無事で居られたと不安になるほどの逸材ですが。
……この子、魔力の貯蔵量はメディアさんクラスです……
「違うんよ、せっ……桜咲さんの名前が出たのが気になって」
「……もし期待してたのなら悪いですが。あれは私の中ではびっくり人間に入ってしまうカテゴリーだ……です。最近までは違いますが、ごく最近びっくり人間の1人に格上げされました」
……千雨ちゃん的にはそれまでは、桜咲さんの印象は実直真面目な剣道少女だったんだろうなぁ。
魔法の世界に足を踏み入れたとき襲い掛かってこなければ。
現在は千雨ちゃんの印象としては学園の魔法使いの命令で真剣振り上げ襲い掛かってくる通り魔的な印象のようです。
「そうなんか、せっちゃん……ううん、桜咲さんはびっくり人間なんか?」
「……近衛って、桜咲と仲良かったか……ですか? 」
私が傍に居るせいで気が抜けて口調がかなりこんがらがってるようですね。
さて、この時期の桜咲さんは近衛さんを敢えて突き放してるはずだから、クラスメイト的には仲が良いとは思えないでしょうね。
それを交えてしまうと。魔法に関わって最初に襲ってきたのはエヴァンジェリン。次は桜咲さんで……良い印象があるはずも無く。
「……うち等は、幼馴染なんよ……」
寂しげに、近衛さんは呟いた。
「せっちゃん……刹那ちゃんとは幼馴染で、昔仲が良かったんよ、けど、今……避けられてて……どしたら……今も幼馴染と仲良く付き合えるんかなって、それを長谷川さんに相談したかったんよ」
かなり真剣にこっちを見てくる近衛さん。
何時かは分からないけれど、中等部に入る前に距離を離してしまった彼女と桜咲さん。
中等部に入学した時点で、それなりに距離を離してしまった私と千雨ちゃん。
「……一応、私等は月に最低でも2.3回は顔を合わせてるんだが……近衛は?」
「……小学校のときにせっちゃんは剣の稽古で忙しくなってあんまり……少等部のときに、うちはこっちに引っ越して来て離れ離れや、手紙は書いてたんやけど……あんまり返事は来んかった……中等部で再会出来たんやけど……」
しょんぼり顔の近衛さん。
「……仲良く出来ないと」
「何でかな……うちを避けるんや」
それなりに深い溝を作ってしまった二人。
いえ、原作を知る以上、桜咲さん側さえ説得すればどうにかなる溝ですが。
「……おい」
ぐっと首を引かれて千雨ちゃんが顔を寄せます。
後、近衛さんをぺっぺっと手で追い払うのはどうかと思いますよ。何でか近衛さん嬉しそうですが。
……それで、人払いまでして何を聞かれるんでしょうか。
「桜咲は裏側の人間で、裏に関わらせたくないから近衛を避けてる。間違いはあるか?」
「無いです、一応二つ三つ要素はありますが、概ねそんな感じです」
このモード……私的に、姉御モードもしくはキャス子モードに入っている女性に逆らう蛮勇などございません。
手札を全て曝してこの札を出しなさいと言われるのを待つ状態です。
「ありがちな設定だな……二つ三つってのは?」
認識阻害結界を貼り、念のためルーン魔術でも結界を敷きます。学園長に監督されてますしね。
「……言わなきゃ駄目ですか?」
「メディアさんに聞いても良いんだが……て言うか……やっぱそっち関係でなんかあるんだな」
「……何で首を突っ込むんです? 近衛さんと、そこまで仲が良いようには感じませんでしたし、普段の千雨ちゃんなら人の関係性に態々首を突っ込まないでしょうに」
実際、千雨ちゃんは人の物事に首を突っ込むのは忌避する類の人のはずです。
桜咲さんと近衛さんの関係がぎくしゃくしてると聞いても、関係改善のために態々動くことは無いと思うんですが。
「……幼馴染の仲が悪いのは気が悪いし。あっちのが関わってるのも気に喰わない」
……千雨ちゃん自身としては、幼馴染である私やアキラ、桜子ちゃんと仲が良いですから、幼馴染でも仲が悪い例はあんまり見たくないようです。
それと、この間、魔法関係に関わって嫌な目を見てますからね、それが理由で近衛さんが苦しむのは見たくないようです。
「……ぶっちゃけると、桜咲さんは片親にちょっと問題があって、地元では辟視される身の上でそれを隠しています。近衛さんは祖父もお父さんもあっちの重鎮、周りが桜咲さんに距離を置くことを強いて、桜咲さんは受け入れざるを得なかった……と言ったのが実情の筈です。私の知る限りなんで誤りはあるかもしれませんが」
千雨ちゃんはその情報を得たあと暫し考え込んで。少し頭を抱えそうになってます。
まぁ、魔法関係の大家の家庭問題ですからね、首を突っ込むのは色々と面倒です。
当然のように雰囲気を察した近衛さんはこっちに寄ってきて。
「……何か良い方法あるん?」
「む、難しくてだな……」
「そうなん……そやったら、せっちゃんがびっくり人間てのはどう言う意味何やろ、剣道頑張っとるのは知っとるけど、びっくり言う程なんか? 大会とかは出てへんから分からへんけど……武道四天王て呼ばれてるのは知ってるんよ、やからびっくり何か?」
「……む、それは……ちょっと待て、もう少し朱雀と相談させろ」
「あいな」
とりあえず、学園長が余計な手出しできないように結界は維持しておきますか。
「で、確認だ朱雀……桜咲の、まぁ、近衛への好感度は?」
「このちゃんLOVE MAXです、本来は私と千雨ちゃんくらい……ひょっとしたらもっと仲の良い幼馴染です」
取り敢えず、近衛さんと仮契約するためにブルブル震えてた桜咲さんとか、無心で鉄球を切り裂いた桜咲さんを思い描きますが。どう考えても既に好感度カンストでしょう。
「っ!!!それは言い過ぎ……てないのか? ……うん、まぁ、そういう仲があってもおかしくはないが……そうか、そうだったのかあいつ……ちょっと気をつけよう」
桜咲さんの親愛と言うか、偏愛ぶりはある意味凄い印象がありますからねぇ。
あれはもうあれですね、崇拝に近いと同じレベルなんでしょうね。裏切ったら1クールくらい稼げそうです。
「……何だ、桜咲に隠し事があるのと、上からの圧力か……それだけか?」
「……だと、思いますが、あと、上の圧力はそこまででもないかも……純粋に隠し事が大きいだけで」
「片親がってヤツか……ちなみに……」
……少し迷いますが、何だかんだで千雨ちゃんは肝が据わっています。釘は刺したとは言え、襲いかかってきた吸血鬼や辻斬りと同じ教室で授業を受けても構わないと言えるほどに。
「……背中に翼があります。天使みたいです、これが黒ければまだ良かったんですが。純白です」
「……また、ファンタジーな……漆黒の堕天……じゃないよな」
「違いますよ、失礼な……本当に天使みたいらしいですよ」
「ん、分かったよ……あぁ、何で私がこんな真似しなくちゃならないんだか」
ぶつぶつ言いながら千雨ちゃんは近衛さんに近付いていきます。
それを嬉々として迎える近衛さん……あれ、何だか要らないフラグ踏んでませんか?
ぼそぼそと何か話しかける千雨ちゃんと。
わかったと、深く頷く近衛さん……
決意を秘めた眼をしてますね。千雨ちゃんは何を吹き込んだんだか……
「っと」
前方で子供先生が本棚から落ちかけたので、
鎖で拾い上げます。念のため、それを助けようとした神楽坂さんも布でフォローしますが……弾かれましたね、まぁ反動で持ち直しましたけど。
「しっかりお願いしますね」
「あ、はい」
「ありがとうございます」
普段、魔力で身体能力を向上させているツケ、みたいなものですか。
魔力を封印してしまった現状は、普通の10歳児程度の能力で。
「私も手を貸すよ」
「ごめんなさいね、大河内さん」
アキラが神楽坂さんをフォローするようにして子供先生の手伝いをしてあげています。
先頭のほうでは休憩できる場所を見つけたようで、みんな思い思いに座り込んでいます。
「朱雀、ごめんね、こんな事に巻き込んじゃって……」
申し訳なさそうに頭を下げるアキラ。水臭い気がしましたので少し髪をかき混ぜるように頭を撫でてやります。
「クラスメイトが危なそうだから見てられなかったんでしょう、仕方ないですよ」
「うん、ありがとう朱雀」
何時かのように軽く笑うアキラ。
そう言えば、アキラの頭を撫でるのは久しぶりかもしれません。
「……ポ?」
「まだ続いてたんですか、そのネタ」
「後、前にも言ったが、撫でポの使い方としては間違ってるからな」
「仲ええんやなぁ、3人は」
クスクスと笑う近衛さんと一緒に休憩できそうな広場へと向かいます。
……千雨ちゃんが近衛さんに何を吹き込んだかはちょっと気になりますが……どうせ修学旅行で関係修復は出来るでしょうから。多少早まっても悪いことではないでしょう。
……たぶん。
結局のところ、火種を仕込むだけのイベント。
さっさと終わると思う、と言うか日常編が書きたい。