25話
「うぅぅぅ……失敗だったぁ、勉強の時間も睡眠時間も無駄にしたぁ、これで私達は小学生からやり直しぃ」
「さすがに眠いでござるな」
「すーぴー……すーぴー」
「まき絵は寝てるアルよ」
「あぁ、『図書館島探検部地下5Fエリア立ち入り許可証』……夢にも出てきた素晴らしい賞品でした、これさえあれば小学生に戻っても問題ありません」
「それは問題ある気がするえ」
……お嬢様は昨晩、ご友人と図書館島へ探索へ入られたらしい。
昨晩の警護は学園長が責任を持って行われると言われ、図書館島内部においては司書長による絶対の警護が行われることもあって、図書館島探検部の活動中は警護を行わない事になっている。
……そのため、昨晩は警護を離れ、学園の防衛と……恥ずかしながら、試験勉強に時間を当てる事になったのだが……
「眠ぃ……っとに、一晩くらいの完徹なら平気なのに、昨日は無駄に体力使ったからな」
「長谷川は基本毎日キーボード叩くだけだしね、今度原稿手伝ってよ、あれやると体力付くよ……あ、ポーズ取るのって体力要るんだっけ……」
「……フォトショップでトーン貼りとか背景合成、着色くらいならやってやってもいいぞ……変な噂流したら、お前のサークルのHP炎上すると思え」
「ごめん、本気で今度お願いっ!。次はメーカーがキャラ画ギリギリまで出してくれないから、本気で納期やばいのよ、基本肉筆がプライドだからカラー画の彩色してくれると凄い助かるんで……あ、後製本も」
「これまでの宮崎達の苦労が想像付くな、おい」
欠伸を噛み殺しておられる長谷川さん。
どうも、長谷川さんも昨晩の探索に参加されたらしい。
長谷川さんといえば、先立ってエヴァンジェリンさんに吸血行為で襲われ……麻帆良を震撼させる事態を引き起こす発端となった方だ。
彼女が襲われたことで、幼馴染の少年はエヴァンジェリンさん……【闇の福音】を瀕死に追いやった。
そして、魔法世界で武名を誇る赫翼の槍騎士ディルムッドは、幼馴染の少年の従者として召還され……私は為す術なく敗れ去った。
少年自身、気すら纏わぬその腕で私の斬撃を容易く受け止めたのだ。
規格外の従者を率いた、規格外の魔法生徒……
その背後にもかなり大きな組織があるらしく。詳細までは聞かされていないが、社会情勢まで鑑みて学園長は迂闊な手出しを禁じたという……ディルムッドさんとの繋がりでGF辺りが怪しいが。
ともかく、彼女への迂闊な接触は厳禁とされ……
「長谷川さんも眠そうやな」
「テスト前だが、明日は昼まで寝るぞ」
そんな長谷川さんに近付くお嬢様。暫し長谷川さんと話した後で……
「………………」
無言のまま、こちらに強い視線を向けてこられた。
……お嬢様は、今朝から何度もこのように視線を送ってこられた。
お嬢様に対し、申し訳ないとは思いつつも二年近く無視・不干渉を徹底してきた身の上だ。今更お嬢様の行動に口出しなど出来ないが。
今朝からお嬢様の行動に今までに無い兆候が見て取れた、最多は……長谷川さんへの急接近。
そして、長谷川さんもそれを当たり前のように受け入れている。
少なくとも、昨日の時点では無かった傾向だ。それこそ昨晩の探索行で何か有ったのでもなければ。
そして、入学当初のようにこちらに意味ありげな視線を送って来られるようにもなった。
ただ、今までは不安気だったはずのそれは……今は、決意の色を持って彩られている。
そして、話しかけてこられるような様子は無く、ただ黙って見つめてこられる。
今日になって急に長谷川さんの傍にあることを望み。
私に対し、決意を持って視線を向けられるお嬢様……
これまで、ご友人として仲良くしてこられた神楽坂さんや綾瀬さん、宮崎さん早乙女さんならば分かる。何故急に長谷川さんに……
「もう少ししっかりした顔で睨んどけ、最初が肝心だぞ」
「う、うん、わかった、うちはやるえ」
何故、そんな眼を向けられるのですか……
ちらちらと、こちらからもお嬢様と長谷川さんを観察していた私に長谷川さんは溜息を1つ付いて何事か呟いた、さも私に聞かせたいようにあからさまに。
唇を読めば何を呟いたかは見て取れた。
“あれもしんせいか”と、呟いた。
申請、新生、新星、新政、なんだ、何と言いたかったんだ。真正、真性、神聖……はっ!これか、私に向かって『お嬢様も神聖か』と言いたかったのかあいつは。
当然だ、言うまでも無い。まさか、それを汚そうというのか。
いや、考えすぎか、お嬢様に手を出せば、斬って捨てる。それは私の覚悟で……
「おい」
そもそも、何故あのような。
「……」
ゴッと、頭頂部に激痛が走る。
殺意や敵意と言ったものが感じられなかったため、衝撃を受けるその瞬間まで悟れなかった、何と言う迂闊。
敵襲かと振り返って腕を振り上げ……
「……で、眼は覚めたか桜咲」
新田先生が何時もの威圧感と共に立っておられる……ええと、そういえば、次の授業は新田先生だったような。
私が考え込んでいたのは……時計を見ると10分くらいでしょうか……えぇ、休憩時間を終えて次の授業が始まるには十分な時間で……
龍宮……反省してるから心の底から溜息を付くのは勘弁してくれ……
「期末試験直前だというのに、随分気が緩んでいるようだな桜咲」
助けてくれと龍宮にアイコンタクト、黙ったまま自分の喉下を指差す龍宮。
喉元……刺せと? いや、喉元といえば。
「い、いえ……せ、先生もネクタイがちょっと緩んでますよ、可愛らしい柄ですけど」
「むっ、んっ、そ、それは関係ないだろう全く」
周りからヒューヒューと冷やかすような声が上がる。
新田先生に……言っては何だが、とても釣り合わないような若い恋人が居るらしいと言うのは結構有名な噂だ。
たぶん、あの可愛らしい柄はプレゼントなんだろう、少し離れて緩みを直してられる。
「と、とにかく、土日を挟んだら直ぐに期末テストだ……なんだ、最下位になった場合のネギ先生のことはもう聞いているんだろうお前等、少しは真剣にだな」
「……あれ、すいません新田先生、最下位になったら……私達小学生じゃ」
……神楽坂さん、委員長さんが朝方アレだけ騒いでられたのに気付いてなかったんですね。いえ、半分以上眠っておられたようですが。
新田先生からネギ先生の処遇の件を説明されて『頑張って損したー』と叫んで、委員長と新田先生に激怒されてます。
「とにかく、土日、明日明後日の二日間どれだけ頑張れるかだぞ、お前等、これでまだ最下位なら、ネギ先生の次の担任は私との内示もあるからな」
「そのときは高畑先生じゃないのーっ!?」
「バカモン、神楽坂ぁっーーっ!!!」
教室中が悲鳴に包まれた……いえ、実際私も避けたい気分ですが。
これは、ネギ先生を助ける云々よりも先駆けて、3年の時の担任が新田先生と言うのを避けるためにも死力を振り絞るでしょう皆さん。
後、神楽坂さん、何気に腹黒い期待してましたね。
「ともかくだ、テストは頑張るように、体調不良のマクダウェルは保健室で受ける事になるかも知れんとの事だが……」
結局、授業が終わるまでは徹底して厳しく試験範囲の復習を行い。新田先生の授業は終わりました。
後は、担任のネギ先生のHRを終えたら下校で……
龍宮に頼んで勉強を見てもらうかな……
新田先生に入れ替わるように直ぐにネギ先生は入ってきた、真剣な面持ちで教壇に立って。
「あの、皆さん、既にお聞きのこととは思いますが、歴代最下位の2-Aが最下位から浮上したら僕は皆さんの担任として来学期も頑張れる事になりました、どうかご協力をお願いします」
……正直聞けば、身勝手な意見だとも聞こえてしまうけれど。
「当然ですはネギ先生、皆さん、頑張ってネギ先生を正教員として迎え入れられるよう死力を尽くすのです」
「……うん、頑張ろう夕映」
「……のどかのためなら頑張るです」
「ネギ君のために頑張るぞーっ」
このクラスは乗せられやすい人が多いですからね。
それに、先立っての新田先生の忠言は至言だろう……ネギ先生で無ければ新田先生なのだから。このクラスには死活問題だ。
「新田先生とネギ先生……華の3年生、地獄か天国かになるネ」
「だろうな、新田先生の下で規則正しくか、ネギ先生の下で自由奔放か……このテストで決まるわけだ」
「……うぅ、高畑先生が良かったんだけど、まだネギの方がましか」
「て言うか比べられない、新田が担任はマジきつい、いい先生だろうけど、うち等には無理」
なまじ放任主義の高畑先生が長く担任をしてきた私達には、新田先生の管理は受け入れがたいでしょうね……いい先生なんですが。
「では……明日と明後日ですが。学園長から教室を借りることが出来ましたので、教室を開放したいと思います。高畑先生としずな先生も手伝ってくれるそうですので、えっと……朝の9時から夕方の5時までです。皆さん参加できますでしょうか」
「高畑先生がっ……よし、参加するわよこのか」
「……ごめんなぁ、アスナ。明日と明後日はうち用事があるんよ」
また、ちらりとお嬢様の視線がこちらに向けられ……その後で、長谷川さんに向けられた。
結局この一日、お嬢様は私に視線は向けられても話しかけてこられるような事は無く……
終礼の合図と共に、教室を出る。
胸に何かが詰まったような嫌な感じ。
……部屋に戻って勉強する前に、森で夕凪を振るおう。
一心不乱に剣を振るえば、この心の乱れも。
「せっちゃんっ」
背後からかけられたのは今日一日、待ち望んだ声。
そして、自分が突き放さないといけない声……今までと同じよう、中等部に入学してからずっとそうしてきたように。
そのまま歩み去り……
「お父様達と、うちに内緒の事があるってほんとなんか」
思わず振り向いた。
そこには、しっかりとした眼で此方を見つめるお嬢様の姿。
……何……で。
「……それは、うちには教えてくれへんのか」
お嬢様が……
「…………教えてくれへんのやな……せやったら、うちにも考えがある」
毅然とした様子で、私を見つめるお嬢様は……このちゃんは……
慌ててお嬢様を振り切る形で走り出す、この場には居られない。居るわけにはいかない。
何故……何故……なんで……
「内緒の事を知ってる……」
お嬢様の最後の言葉を聞き取ろうとする鋭敏な聴覚をふさぐようにして、私はその場から逃げ去った。
「……やり過ぎたやろか……せっちゃん、逃げてもうた」
「……けどなぁ、あのタイプは自虐で自分に浸ってる節があるから、あれくらいやらないと効果ないぞ」
「やる、うちは決めたんや、もう逃げへん。アグレッシブになるんや」
「……焚き付けすぎたかな……て言うかテスト終わってからでいいだろうに」
「早ければ早いほどいい言うたやんか……とにかく、今晩電話でお父様と決戦や」
「……まぁ、いいけど、ちゃんと全部言ったんだろうな」
「ちゃんと言うたよ、内緒の事を知ってる筈のお父様かじいちゃんから聞き出す、じいちゃんは良い言うてくれたって。せっちゃん耳がええからバッチリ聞こえたはずや」
「何だ、学園長は教えてくれるって言ったのか?」
「今朝、昨晩のことも含めて聞いてみたんよ、せっちゃんがびっくり人間てどういう事なんか聞いて、嘘ついたら家出する言うた、そしたら、お父様から教えられるなら仕方ない言うとった」
「バラす気満々じゃねぇか、て言うか暗に秘密があるって言ってんじゃねぇか」
「うん、やからうちも決心したんや。せっちゃんに正面から聞いてみようって……せやけどじいちゃん、何やお昼からは忙しいらしくて話とか出来へんかったな、何かあったんやろか」
「さぁねぇ、モンスターペアレントが生徒へのセクハラ行為に及んだ学園長をスッパ抜いたとか、その辺りじゃねぇの」
「……ん、まぁ……自業自得やな……もし家出する事になったらよろしくな」
「……乗りかかった船か、朱雀ん処のお婆さんに相談しよう、色々話分かる人だし……」
アドバイスは3点。
押して駄目なら引いてみろ
びっくり人間て偶然聞いた辺りで親御さんをつついてみろw
男親には家出してやるとかの文句が効果的(ぉ
結果……色々と誤解を孕んだ結果となっております(ぉぃ
ちなみに、ちょっと耳長なモンスターペアレントは同じクラスのうちの娘(?)も同じ被害に遭うかもしれないと言って某大企業動かしてプレッシャーまでかけてるらしいですよ。
学園長大忙しです。