28話
蔦が絡んだ鉄の柵と、白い門。
目の前には、転生した後の故郷となった施設。
何度かの改築の後に、大きく広がった施設の印には何時からか不死鳥が飾られた……
真剣に勘弁してくれ。
削ってくれと言おう、朱雀と命なら不死鳥だろうとか言い出したの誰だ。ただ、それを採用したのは
「お帰りなさい、朱雀」
……この人だった。
門をくぐれば、何時もの言葉。
髪は昔よりもさらに白く、自分の背が伸びたせいか背も縮んだ気もする、背も曲がり始めた。
何時からか、向かい合っても、見下ろすようになってしまった。
……この人に頭を撫でられるのは、恥ずかしながら好きだったんですが。
けれど、何時も当たり前のように、玄関先で迎え入れてくれるお婆さんの笑顔は変わらない。
まるで計ったかのように、特に、経営に余裕が出来てきてからは……必ず最初に言葉をくれる。
何時も待っていてくれるから、何時も楽しみにしていてくれるから。
……子供達が、この施設へ帰ってきてくれる、それを、とても楽しみにしているから……
「お帰りなさい」と、とても幸せそうに口にする。
「ただいま」
だから、何時も同じ言葉を返し、その言葉にとても喜んでくれる。
此処は私が帰る場所、帰って来れば受け入れてもらえる場所だから。
「おはようございます、遊びに来ました」
「……おはようございます……何か着替えは有りませんか……」
「おはよーございますー、何か嫌な感じがしたから遊びにきちゃいました」
「は、はじめまして……えと、おはようございます、うちは家出してきました」
とりあえず、千雨ちゃんは切実だ。まぁ、それなりの年代の子もいるから借りて何とかなるでしょう。お古とかも有るでしょうし。
と言うか眼福で……すいませんでした、横目でチラッと見ただけです。足を踏みにじるのをやめてください、千雨ちゃんの足のほうを痛めますので。
「まぁまぁ、また増やしたのね、朱雀は、はじめまして、みんなは『お婆さん』って呼んでくれるの、良かったら貴女もそう呼んでね」
「増やしたって何ですか、と言うか、あのちょっと」
近衛さんの手をとって笑いかけるお婆さん。
ああやって手を握られて微笑まれると、少なくとも私と……幼馴染達はとても落ち着く。
あの包容力は真似できない。
と言うか、弱ってる子を見つける勘の良さは桜子ちゃんに匹敵する……むしろ、桜子ちゃんが歳を経て最終進化を遂げたら……いや、うん、怖いから考えるのはやめます。
「私は、もう歳だから、物忘れが激しいの……本当に困ってしまうんだけど……もし良かったらあなたの事を色々教えてくれないかしら。暇な老人はね、若い子の事がいろいろ知りたいの」
「……えと」
少しだけこちらを見る近衛さん。
「私が、一番尊敬している人です。いろいろ話を聞いてもらうといいと思いますよ」
「吐き出せるだけ吐き出すと良いぞ……その人は何言っても大丈夫だ」
「……その、少し、お婆さんのお話に付き合って、あげて……くれないかな、大丈夫、きっと、うん、その方が良いよ」
「ん〜、メディアさんの気配がするような」
ピクピクとツインテールを揺らす桜子ちゃんに自分と千雨ちゃんがビクッとする。この状況で事件の元締めと言うか、発端と言うか、自分の身内がどうこうよりも、自分の娘(ハテナが入る筈……明言すると危険なためあくまで仮定)が『図書館島探索に参加させられる可能性が高かった』と言う理由で動き出すような人だ。
……私なりの仮定だと、
千雨ちゃんとアキラの二人が参加させられて、運良く桜子ちゃんは避難していた。
逆に言うと、桜子ちゃんは避難しなければ参加させられていた可能性が高い……あの学園の、最高責任者の意図の下で……メディアさんが許容するはずも無いですね。
はっは、あの人はモンスターペアレントですよ? 可能性の時点でアウトにしてますから。
千雨ちゃんとアキラと言う縁者2人が巻き込まれたことも怒ってますが、たぶん、そっちの方がより怒れてるんでしょうね。
「あぁ、朱雀、お客さん達、見えられてるから」
……えぇ、そんな彼女がこの状況を見逃すはずがありませんよね。
ゆっくりとした足取りで近衛さんを自室へ招いていくお婆さん。
「おぉ、思ったより早かったな。助かる」
そして歩み寄ってくる先輩。
今日は先輩まで居られるんですね、忙しいはずなのに。えぇ、さぞかし派手にやってるようですね麻帆良叩き。
態々、スーツにネクタイして歩み寄ってくるの先輩ですよ、既にGFの重鎮ですよ。
この人が最前線(メディアさんの傍)から離れないってよっぽどですよ。
「椎名ちゃん、悪いんだけど、先にメディアさんの処に行ってもらえないかな……ちょっと、うん、俺達だとねぇ……ホントお願い、機嫌とってきて」
わかりましたーと声を上げて走っていく桜子ちゃん。
えぇ……どんだけ怒り狂ってますか、メディアさん。
麻帆良叩きうまくいってるんですから、機嫌がいいはずじゃないんですか……何か想定外なトラブルでも起きましたかね。
「……今、帰ってきたことをちょっと後悔してます」
「……つか、メディアの姐さんの逆鱗踏んだ馬鹿が居たのは確かだろうが、一応金ぴかの最高権力者ってお前じゃなかったけか」
まぁ、事実として。一応、何だかんだで、法律上は、滅多に顔なんて見せませんし放任ですし、実質的にだけですが……私がTOPですよ、えぇ。
……で、その中で、メディアさんに逆らえる理由を探せと。無茶を言わないでください。
「メディアさんの逆鱗に触るくらいなら、迷わず全部献上します」
「奇遇だな、同意見だ」
あの人は、本当に身内に対して向けるエネルギーがとんでもなく、非身内に対しての容赦の無さはさらに惨いですから。
先に明言しておきますと、身内は 娘1人と 縁者2人 旦那候補1人 他3人くらい のみです。
私は自力で何とか出来てしまうので放置されてますが。
「でだ、椎名ちゃんの無事が確保できた時点でもう、俺の仕事は終わったようなもんだが……お前の仕事がまだ残ってる、さっさと部屋に行け」
「すいません、もうお腹いっぱいなんですが」
この状況で何か有りますか? 千雨ちゃんとアキラも横で首を傾げてますよ。お婆さんとメディアさんと先輩が集まってる時点でおなか一杯ですよ。
これで待ってるのがディルムッドだったら泣いて喜びます。
「半々だろうな……まぁ……何だ、男としてちゃんと責任は取っておけ」
「……すいません、身に覚えの無いことには責任取れません」
ひとまず、急かされるので部屋……何気に私の部屋、まだ残されてます、まぁ、実家みたいな感じですが……へ向かいます。
アキラと千雨ちゃんもついてきます……昔の服とか有りますから、千雨ちゃんはそれに着替えたいでしょうしね。
ひとまず、施設での自室の扉を開き……鍵は開いていました……足を踏み入れ。
「お帰りなさいネ、ご飯にするカ? お風呂にするカ? それとも、ア・キ・ラ?」
「食べられるの私?」
「順番は守るネ、チ・サ・メ、の方が先だったカ?」
「ふざけんな、後その格好もふざけんな」
「いやぁ、今のチウにそれを言われたくは」
「それ以上は言うんじゃねぇぇぇっつ!!!」
扉を開けた先に居たのは麻帆良の最高頭脳でした。
すいません、その最高頭脳がなんて頭の悪い格好してますか。
扉を開けた直ぐ前に立ってるのは、手にお玉を持って見た目裸エプロンの最高頭脳……何考えてるんでしょうか、この人は。
「心配しなくてもちゃんと水着は着けてるネ、まずはインパクトで度肝を抜こうと思ったネ」
「度肝は抜かれましたが、何で此処に居るんですか」
「お婆さんに、朱雀の妾になる予定と言ったら、もう直ぐ来るから部屋で待ってると良いと言われたネ、いや、話の分かる人ネ」
お婆さん……あなたは何と言う妄言を吹き込まれてますか。
いや、それよりも。
「もう一度聞きます……何で、此処に居るんですか?」
今まで、この施設と超さんには接点は無かった。
私自身とも、吸血鬼事件の会談で立ち会ってもらっただけだ、突然訪れる理由があるはずで。
「朱雀さんに貸しを返してもらいに来たネ、と言うか、ぶっちゃけお願いがある」
エプロンを脱ぎ捨てて、傍に置いてあったワンピースタイプの上着を羽織る超さん、本当に一発ギャグのためだけにあんな格好してたのか。
後その服、出来れば千雨ちゃんに貸してあげて欲しかった。
「お願いとは? この間は厄介ごとに巻き込んだ自覚がありますし、貸し二つ分、問題なく返しますが……」
こんなタイミングでそれを言い出すということは……
「今回の件の首謀者を紹介してもらいたい、ついでに、私の味方をして欲しいネ」
ラスボスの処まで連れてって一緒に戦えと言われました。
「……さすがに、幼馴染のクラスメイトを死地へ追い込むのは気が引けるんですが……と言うか、超さんて学園側でしたっけ」
「いや、私はどちらかと言うと学園の敵みたいなものだガ……今このタイミングで学園側の体制を大きく変えられるのと、マスコミの不用意な介入は困るネ。だから、一定以上は手控えて欲しいとお願いしたい」
現状、メディアさんの攻撃はネギ先生を中心に学園長にまで波及している。
ひょっとしたら、学園長の挿げ替えも可能性としてはありえる……その場合、超さんの計画は大幅な、それこそ二年間の準備が無駄になるような事にもなりかねないだろう。
……彼女の計画はあくまで来学期の学園祭の世界樹を利用するというものなのだから。
「……むぅ、なるほど、気持ちは分かりますが……モンスターペアレントモードのメディアさんに自重してもらうのは一苦労なんですが」
「貸しの二つは使い切って構わないし、交渉材料も別に用意してきたネ……まずは聞いてくれないカ」
ひとまず、扉を挟んで立ち話も変なので部屋の中にはいる。
超さんは壁にかけてあったジャケットを千雨ちゃんに渡している……まぁ、いいんですが、普通それは私の役目……
「妾として、本妻は立てるネ」
「誰が本妻だっ! 誰が妾だっ!」
まぁ落ち着くネと千雨ちゃんを宥める超さん。いえ、着火したのもあなたなんですが。
「まず第一に、今回の件に私が何処まで踏み込んでるかから説明するネ……ぶっちゃけ、夜中のGFのインターネット上の情報攻撃に思いっきり横槍入れて、情報操作に介入したネ、お陰でネット上の世論は私の掌の上、GFが思ってたようにはいかなかったネ」
「思いっきり邪魔してるじゃないですか」
「うむ、GFと学園側がやり合ってるところに横槍突っ込んだから漁夫の利を得たネ。首謀者のスケジューリングを二つ三つ壊してしまったガ」
今、この瞬間にメディアさんの機嫌が悪い理由が判明しました。
判明……して欲しくなかったですが。
「この件だけでも首謀者と対面するには十分と思うガ?」
「そして最初の挨拶が弾幕ですね。メディアさん、敵には容赦ないですよ」
「だから旦那様の力を貸してほしいネ」
「誰が旦那様ですかまぁ……超さん的には、ネット上だけでも火消しに必死だったんでしょうが」
メディアさんに喧嘩ふっかけたと超さんが明言したことで千雨ちゃんとアキラが一歩分離れます。
と言うか、桜子ちゃん……やはりあなたの傍が一番安全な気がします。
「もちろん、他にも交渉材料は用意してきたね……GFは【闇の
【闇の
「……協力したら教えてもらえると?」
「いや、先に教えるネ、情報の価値に応じて協力してもらいたい」
最悪は聞くだけ聞いて、妨害者としてメディアさんの前に引きずり出す事も出来るのですが……さすがに寝覚めが悪いですしね。
貸しも二つありますので、多少の協力は仕方ないですが。
「……【闇の
先の吸血鬼事件で、【闇の
学園長は入院の理由で封印を誤魔化したと言っていたが……原作知識でも、事実は科学的な封印。
「ふむ、やはり気づいていたか……此処からが貴重な情報ネ、茶々丸の製作に私と葉加瀬が関わっているのも知っているネ?」
「え、製作……あ、え、絡繰さんって……あ、思い返してみるとロボっぽい」
麻帆良学園外で絡繰さんの事を思い返すのは初めてだったろう、アキラが誤った常識の壁を突き崩している。
「うむ、動力部分は秘密だが、駆動系・フレーム・量子コンピュータ・人工知能を兼ね揃えた科学の産物ネ、今は駆動実験としてエヴァンジェリンの世話をしているネ」
「うわぁ、うわぁ、ロボットって居るんだ」
千雨ちゃんも少し頭を抱えている。まぁ、夢を見るような形で真っ二つにされるところも見ていたはずですが、麻帆良最高頭脳から直々に説明されると、別の意味で説得力があるんでしょう。
「無論、危険行動が無いよう、幾つものプロテクトとコマンドプログラムで行動が制限されているネ。開発者への攻撃不可などが分かりやすいかナ」
超さんや葉加瀬さんには攻撃できないとか、そういうプロテクトなんでしょうね。
まぁ、学園祭の辺りからは分かりませんが。
「そして、そのコマンドプログラムの中に……【闇の福音】の制限が電力によるものと“気付けない”プロテクトがあるネ、学園内のあらゆる情報にアクセスできる茶々丸だが、それ等の情報に触れても【闇の福音】と結び付けられないようになっている」
……そう言えば、絡繰さんは一年の頃から学園に通っているはず。
ずっとエヴァンジェリンの元に居たのなら、もっと早くから科学的な結界の存在に気付けてもおかしくは無い筈。
「……そして、その解除は学園側の意図によって行われる事になっている……【闇の福音】は機械操作に疎いからネ、学園側は任意のタイミングで【闇の福音】に自主的に制限の解除方法を気付かせることができるわけネ」
成程、結局最初から最後までネギ先生とエヴァンジェリンの戦いは学園側にコントロールされるらしい。
……今までは。
「無論、製作者である私と葉加瀬はそのプロテクトを『解除』も『解除できないようにする』事ができる……次の定期メンテナンスで、この優先順位を学園側から朱雀さんに移す事にするネ」
【闇の福音】と学園との関係を完全に壊すことも可能な手札。それを超さんは此方側に差し出すと言う。
確かに学園長の思惑を外すには良い手札になりそうです。
「……貸し二つと、この情報……どうカ、別に攻撃をやめろとは言わないネ。ただ、学園側の体制が崩壊したり、裏の事情を必要以上に曝そうとして欲しくないだけネ」
「……まぁ、紹介もしますし味方もしましょう……最悪は、一応GFのTOPとしても動きますが……気が重たいですね」
「むっ、これでもまだ乗り気にならないか……
よかろう……私の最後の切札を出そう、この超鈴音最強最大の一撃ネ。これを使えば確実に交渉成立したろうが、あまりに危険過ぎて、あえて封印していた程ヨ」
ゴゴゴゴと効果音を背負いながら立ち上がる超さん。
何となーくオチは見えていますが、と言うか、私は今度もそれで転んでしまいそうですが。
「見るが良いネ、朱雀さんハーレムのちょっと恥ずかしい写真集Ver2 今度は椎名さんも居るヨ」
「話は聞かせてもらったわ」「あれ、何で朱雀の部屋?」「うん、あれ、急に部屋が変わってもうた」
「恥ずかしいって何だおぃ」「えっと……うん、近衛さん可愛いよ」
何処から湧いて出ましたかメディアさんに桜子ちゃんに近衛さん。
いえ、転移してきたんでしょうが……
後、桜子ちゃんが可愛らしいゴスドレス着てるのは分かりますが。何故近衛さんまで和ゴス?
お婆さんと話してたんじゃなかったんですか。
「ん、おぉ、可愛らしいネ近衛さん」
「……気に入られてしまいましたか」
「今日は誉めてあげるわよ朱雀、とても良い子を連れてきてくれたわね」
メディアさんは可愛らしい女の子が大好きです……いえ、性的な意味ではなく……近衛さんは外見は可愛らしいですし、中身も純真無垢……メディアさんが気に入らないわけ無いですよね。
「和風の衣裳がよく似合うわ」
「実家では着物着とったからなぁ」
ニコニコと元気になった様子の近衛さん。お婆さんに色々吐き出した後、気分転換にメディアさんの着せ替えに付き合わされたと言ったところですか。
「ところで、あなたが今回の件の首謀者で間違いないカ? ネットでは迷惑をかけたネ」
「…………」
一瞬、メディアさんの目が細まります。何処まで聞いていたかは知りませんが、自分のやり口に横槍を入れられたことは理解しているようで……
「……こ、近衛さんの写真とかも有るガ」
「あれくらい、全然気にしてないから、気にしなくて良いわよ。今回の件を程々で抑えれば良かったのかしら」
変わり身が早いこと早いこと……
まぁ、近衛さんとの接点は今まで無かったので、そう言うのは超さんしか用意できないでしょうしね。
「うむ、まぁ、落し所は色々相談して決めたいと思うガ……よろしく頼めるカ」
ぐっと手を握り合うメディアさんと超さん……
「……なんか、もの凄く厄介な同盟が出来上がった気がするんだが」
「……諦めましょう、それと……何か」
すっと、音も無く背に寄ってきたのは、魔法使いの従者ディルムッド。
盛り上がっているメディアさんと超さんから離れると。
「施設に不審な気配が近付いております、ご差配を」
基本、麻帆良の外でGFと施設の魔法的な護衛を努める彼だ、私やメディアさんや桜子ちゃん、千雨ちゃん、アキラ等の重要人物が揃っているこの状況では警戒を強め。
「……私も向かう、この部屋に居るよりは気が晴れそうだ」
久方ぶりに、規格外の主従は槍を取る。
誰も書いてくれないから自分で書いた
それがこの作品の原点です
色々な方から感想を頂いて、再認識しました。
今回はこの騒動を、原作の展開が辛うじて進行できるよう、抑えるための安全弁を取り付ける作業です。
メディアさんは止まらない、は決定事項でしたので。今の時点で麻帆良が混乱すると困る第三機関に横槍に入ってもらいました。
学園側とは同調しない、けど、計画上学園祭までは今の体制が有り難い。
……超さんの乱入ですw
作者的にはこの子がいるから踏み出せた感もありますね
お婆さんと先輩は初登場。
お婆さんはニコニコ笑う方で先輩は気風のいい方ですw
いえ、メディアさんがoba…ま大統領くらい権力がありそうとか言われたせいではないんですが。ご愁傷様です