37話
直感が嫌な予感を奏でる中……と言うか、本当に嫌な感じがするんですよね。
何と言いますか、背後にネ●ソードを掲げた戦闘力400の女性の圧力を感じると言いますか、不快な女の馬鹿げたプレッシャーを感じると言いますか。
「どうかされましたか、朱雀殿」
「うん……いや、何でも無い筈です」
まぁ、麻帆良の魔法教師の誰かが監視してきているのかもしれませんしね。
私は麻帆良的には要注意人物ですから。
ちなみに、今私達は麻帆良学園の中を見学中です。
少等部の校舎や街並み等……通常ありえない規模のマンモス学園の設備に子供達は目を輝かせ。
「……尊君?」
その中で、年長者の部類の尊君が少し疲れた様子です。
泣き黒子のお姉さんが心配したのか声をかけてますが……あ、また少し圧力が増しました。
ともあれ、尊君が不調と言うのは心配なので近付き。
「どうされましたか」
「この子、ちょっと調子が良くないみたいで」
お姉さんが熱を計ったりしています、実際私も少し心配で。
「尊君、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です、もう気分が良くなってきましたから」
すぅはぁと深呼吸をすると尊君は健在ぶりをアピールするためか、すくっと立ち上がって辺りを見渡します。
何かを探しているようにも見えますが……
「あっ……」
目当てのものを見つけたのか、小走りに離れていきます。
進む先には、特に何も無いように見えるんですが……一直線の先には女性の姿。たぶん教師ですね、知り合いでしょうか。立ち止まって何事か話しています。
「あの方、確か小学校の教師の方ですね」
ボランティアで参加してくれている、泣き黒子の美人のお姉さんが教えてくれます。
「そうなんですか、お詳しいですね」
「ボランティアで、よくご一緒しますので」
それなら、現在小学4年に通う尊君と関わりがあってもおかしくありません。
私が通っていたときには見かけた覚えはありませんが、最近赴任されたんですかね。
「……ところで、先程から敬語を使われてますが、普通に喋っていただいても構いませんよ」
「はっ……あ、いえいえ、元々こう言う喋り方でして、それに、目上の方には敬語を使うよう躾けられてますし」
その辺りはお婆さん、厳しいですからね。
ボランティアの方……そういえばまだ、名前を聞いてませんが……は、にっこりと微笑むと私を見上げ。
「失礼ですが、お幾つですか?」
「14歳です」
普段、年齢どおりには見られません、背がかなり高い方ですからね。英霊の身体能力と、アキラを撫でポしたいという私の望みが結集してここまで伸びました。
「……参考までに、私、幾つくらいだと思います?」
おや、何だか雲行きが怪しくなってきたような。
ディルムッド、何故臨戦態勢に入る、目の前に居る女性に泣き黒子があるからと言って、お前の敵と言うわけじゃ……
「幾つくらいに見えますか?」
なんでしょう、この圧力は。
まるで背後に歪な形の双剣を構えた英霊が迫るような、異常な危機感。
逃げろと、直感が叫ぶ。刺される前に逃げろと。この人には適わない、背を向ければ刺されるぞと!
「げっ、朱雀のヤツ……何で那波を発動させてやがる、まさかあいつに年m」
「長谷川さん、何か仰いました?」
はやいっ
そして、千雨ちゃんもはやいっ
「ほらほら、そこのチビ共、ちゃんと言う事聞けぇー……後、あそこのお姉ちゃんには近付くなぁ、特に風邪引きかけのヤツは絶対近付くなよー」
ディルムッドの虚すら突くように一瞬で千雨ちゃんに向き直る見た目大学生くら……もとい、年齢不詳の女の……子。
一瞬、歪な双剣の切っ先が千雨ちゃんを向いた気がしましたが、千雨ちゃんは周りに居た子供達を盾にして……何故か敢えて男の子の背中を向けながら……去っていきます。
「幾つくらいに見えますか?」
こちらを仰ぎ見る、錯覚かオーラか、歪な形の双剣を携えているようにも見える、きっと彼女はそれを振るうのではなく突き刺すのだろう。
まずい、ディルムッドと私の2人では捌ききれない、あれはきっと、『因果を逆転させて既に突き刺さっている事実を作ってから放たれる必中の魔ネ……魔剣』に違いない。直感がそう言っている。
答えを誤れば刺されるっ、そう頭を過ぎり。
「……見た感じ、14歳くらいですかね」
「あら、当たりです、同い年じゃありません?」
不気味なオーラはまるで風に吹かれたように消えてしまった。今までの全てが錯覚……何と言う『刺す気』。
「ええ、全くその通りのようで」
「そうみたいですね」
ふふふふと、慈母の笑みで微笑まれる推定那波千鶴さん、そうですか、この方が2-Aで最も豊かな母性を誇る、かの有名な葱双剣の使い手ですか。
うん、あの『刺す気』には逆らえない、吸血鬼の殺気なんてあの前ではそよ風に等しいです。正直ガクガク来ました。
「年上だなんて、そう見えたんですか?」
「いえ、まさか、ちょっとした冗談ですよ」
「あらあら、お茶目さんですね」
はっはと笑い合いますが、背筋を流れた冷たい汗はなかなか引く事はありませんでした。
麻帆良見学中、ずっとし……背中が気になりましたよ。
ボランティアでの、施設の子達の麻帆良案内、無事に終わって帰り道をゆっくりと歩きます。
みんなで市営バスを使う事で外の世界に触れさせる、これも教育の一環ですね。
ここの子達は色々なことを知る機会に多く触れることが出来るようです。
保育園で何度も顔を合わせた子達がいたので参加させていただきましたが、有意義な時間だったと思います。
言っては何ですが、辛い境遇を押し付けられた子達ばかりです、少しでも助けになればと思っていましたが。みんな良い子で、最近来たばかりと言う子達もきっと元気になれるでしょう。
「それにしても、あれが『朱雀のお兄ちゃん』ですか」
保育園で保母のボランティアをしていますが、施設の子達も何人も居ます。
その子達が良く口に出す、彼等彼女等の人気者、朱雀のお兄ちゃんみたいになると言うのは幼い彼らのよくある夢で。
今日はそれの実物に会えました、ちょっと驚かしちゃったのは申し訳ないですが、ちょっとだけですしね。
「……強い人ですね、それに善い人」
今も、何人かの児童等を面倒見ながら歩いてられる。
確認したわけではないけれど、彼も同じ施設出身者と言うのは児童等と話していれば分かる。
それを感じさせない明るい方で……それをクラスメイト達が支えているように見えるのは、きっと間違いではないでしょう。
クラスメイトの長谷川さんに椎名さん、大河内さん……みんな慣れた様子で子供達に接している。きっとよくある光景で。
皆さん、朱雀さんと一緒に笑ってられる。
「早乙女さんのラブ臭情報は良く当たるそうですが、本当にそうですね」
図書館島探索に現われたという長谷川さんたちの幼馴染で三股をかける豪傑、最近超さんもポされたらしいとか。
……そう言えば、ポってなんでしょう。
「あら……」
考え事をしていたら、最後尾になってしまいましたが先程の子、尊君……でしたか、その子も後の方に居ますが。
ふらふらと、何かを探すように辺りを見渡しています。
不思議な感じ、何か違和感のようなものを感じる……少しだけ不自然な感じ。
何を探しているのか、何を捜しているのか、“誰を”捜しているのか。
施設の時にはそんな素振りはなかったですし、麻帆良学園の見学中も、最初こそ調子が良くなさそうでしたが、快復した様子でした。
……来るときは施設から直通バスを使っていたので、車酔いでもしたのかと思ってましたが。
そう言えば、麻帆良学園を出た辺りでも、少しふらついていたような……
嫌な予感がするので、声をかけようとして……
喜色を浮かべ、何かを見つけた尊君は……迷わず車道へ飛び出した。
「尊君っ」
それなりに車通りもある車道。
幼い児童達にはみんな気をかけていたけれど、年長者の尊君にはそこまで注意はされていなかった。
いえ、この場合は私が気付くべきだったのでしょう。
慌てて私もそれを追い……大きなクラクションと共に迫るのは車体。
視界に入る、目の前には尊君の背中と……迫る車体。
咄嗟に私に出来るのは、尊君を突き飛ばす。ただそれだけで……
大きなブレーキ音と共に、私の身体を衝撃が襲った。
ゴウンッゴッズリュリュリュッツッ
「……ご無事、ですか……」
強い衝撃、けれど……痛みは然程無かった。
痛みすら感じられないくらい、強く身体を打ちつけたのかとも思いましたが、感じるのはとても力強い感触と、耳朶を打つ声。
眼を開けば、視界一杯に男の人……そう、確かディルムッドさん。
辺りを見渡せば、尊君を抱えた朱雀さんも傍にいて、周りは目を疑うように此方を見ていて、私に当たるはずだった車体は……それこそ、トラックと正面衝突でもしたかのように前面を凹ませ。
……ディルムッドさんの右腕が腫れ上がっています。
……ちょっと、凄いです。
あら、何だか慌てた様子で千雨さんが掲げた石が眼に入っただけですが、ちょっと変な感じです。
いえ、高畑先生が以前の社会見学でロボティラノを一人で支えていたので、コレくらいは出来ても……良いんでしょうが。
「あ、はい、私より尊君が」
ふと、朱雀さんの腕の中に居る尊君に眼をやり。
尊君も今の状況に驚いている様子ですが、慌てた素振りで辺り(・・)を見渡し……一人の女性と眼が合うと喜色を浮かべ。
「違った……」
直ぐに俯いてしまいます。
いきなり車道に飛び出した尊君は、ちょっと様子がおかしかった気がします、あの女性を……いえ、誰かを捜していたんでしょうか。
「ディルムッドさん大丈夫? 手が……少しだけ腫れてる」
「……那波さん抱えながら走ってる車にカウンターしてそれって……うん、まぁ、ノーダメージのやつもいるし……と言うか、認識阻害ってヤツはどこまで」
「凄いよねぇ」
辺りは騒然となりますが、ひとまずは子供達を静めるのが優先で。
「……すいません、那波さん、少しお願いできますか」
朱雀さんは尊君を私に預け、突然半壊された車の運転手さんに話しかけています、頭も下げてるみたいです。
そうですね、あそこまで壊れるとさすがに……いえ、実際車の方の方が被害が大きそうで。
「お母さんじゃ、無かった……」
ふと、私の腕に預けられた尊君が呟きます。
ただ……その眼は、何と言うか……切り替わります、次の“誰か”捜すように。
「っ! そう言う事かっ……青山はっ……それが狙いか、朱雀殿は魔改造済みだが、尊殿は可能な限りの再現、メディアのことだ、完全な再現……回路らしきものがあれば、むしろそれは引き継がせる……神殿に護られていたため気付くのが……」
ディルムッドさんが口元を抑え、小声で暫し呟いて、朱雀さんのほうを向きます。
懸命に謝って、交通の妨げにならないように自力で車を引きずって路肩に寄せようとする朱雀さん……凄い力。
そんな朱雀さんを確認したディルムッドさんは、尊君の首筋に手刀を落し、私の口を塞ぎました。
「んっむっ」
「申し訳ありません、朱雀殿に気取られるわけにはいかないもので……長谷川様、少し手伝ってもらえますか、それと椎名さ」
「朱雀、凄いね、力持ち、きゃはーっ」
むぐぐっと呻きますが、視界の中では朱雀さんに椎名さんが纏わりつくだけで。
ふっと、苦笑いを浮かべるディルムッドさんですが、目の前で少年から意識を奪ったのはやりすぎで。
「……何だ、何かあったか」
少し嫌そうだけど、ディルムッドさんには言葉遣いの荒い長谷川さん。
ディルムッドさんはそれを受け入れ。
「メディアに確認を……青山尊殿に奇妙な行動が見られたと“まるで母を捜すように、神殿と学園から離れた途端に……特に、学園を出てからは時間が長い分酷い”と……加えて、メディアの処置前に何らかの……そう、ま……刻印のようなモノが有った場合……それすら再現したかと、朱雀殿にけして気取られぬよう」
「……ハードル高すぎっぞ、あいつ勘は」
「椎名様が気を引かれています……なれば、恐らく、朱雀殿は知れば止まりません、動かれます、尊殿は身内なのです、動かれます……椎名様は長くは抑えられません」
「……やばいか、それもとんでもなく」
「最悪、手は私が汚します」
「……あいよ、那波……聞かなかった事にしたほうがいいと思うぞ、厄介事になりそうだ」
……尊君は、母親を求めている。
なのに、何で、そんな話になるんですか。
『あー……追加注文カ? 正直面倒』
「妹とやらの特徴……いえ、分かってると思うけど、今のそれの役割を実直見た感じで教えなさい」
『ん? 分かりやすいと思うガ、アンテナよネ? 外部からの魔力カ呪力を受け取って、内部に浸透させる……まぁ、メディアさんの結界で無力化されたのを受けとって、意味の無いのを発信してるガ……内容は、規定術式の起動だけの筈で、術士側はうまく言ってると思い込んでるはずデ……いや、だから放置したガ、まずかったカ? いや、気付いてると思った私のミスカ』
「……いいえ、あなたのそれは正しいわ、私も気付いてたもの、規定術式の起動のみ……えぇ、贈り物が多いから、その内のどれかを期待していると。不覚を取ったわね……そうね、何年も前に仕掛けておいてもおかしなことじゃないものね」
『……いや、ここ数ヶ月で一気に名を挙げた貴方たちに何年越しかのトラップカ……普通は』
「……ここから追加注文よ。今から私、私の恩人に……そう、恩人に、とても心憎い贈り物をくれた方に、お返しを贈るつもりなの。精一杯の
『……いえす・まむ』
「突然その“出来た妹”さんが動かなくなろうが血を吐こうが四散しようが、祖父母と叔母さんは逃がさないで貰えるかしら、あぁ、
『そ、そうカ……ベクトルの方向が明後日どころでなく違う気もするガ、うん、先に言っておくが私はマゴコロは遠慮するヨ』
「えぇ……大丈夫よ、簡単には死なないようにするから……こんな醜態、朱雀にどの面見せろと、っ、あぁ……そうよ、あれだけ胸張ってっ……召還当時の完全再現っ……くっ何て裏目、そうよ、血縁の人間の呪詛なんて簡単で、楽をするために仕組みを整えておけばもっと簡単。虐待なんて“忘れさせて”“改竄”を日常的に行えば理想の両親ね、えぇ、"必要になったら戻って来る”なんてしておけば、盾にもできるわよね……久しぶりに…………いえ、朱雀に気づかせないことが最優先ね」
『リカバーヨ。ちょっ、怖い、逃げたい、ヤバいヨ本気デ』
「……とりあえず……逃がさないように……」
『いえす・まむ』
いやぁ、葱双剣は最強の剣じゃ無いかと(ぇ
しかし、那波嬢はさすがと言いますか(ぉぃ
はっはっは、両親の屑レベルは結構凄いという話で(ぉ