41話
「ん〜……ほんの僅かだが魔力ガ、気のせいかネ」
明日から新学期、その朝早くに朝食代わりに肉まんをパクつきながら廊下を徘徊する。確かに感じた気がするのだが……気のせいだったろうか。
すると、神楽坂さんが慌てた様子で部屋から飛び出てきた。
「ん、どうしたネ、神楽坂さん」
高畑先生が保護者で、学園長が直系の近衛さんと同室させるほど気をかけている女生徒……無論、私はその正体を知っているが。
特に最近、朱雀さんから近況を聞かれることが多く、神楽坂さんとネギ先生の間で何らかの接触等があれば教えて欲しいとまで言われている。
故に、神楽坂さんが魔力ある何かを手にしているのを見かけてしまえば、気にせざるを得ず。
「ん〜、ネギの手紙がこっちに着いちゃったのよ、今、寮の前に呼んだから渡そうと思って」
……魔力ある手紙、魔法により映像も灯す仕組みくらいだろう。さして気にすることではないが。
……態々神楽坂さんの部屋に届いたのは学園長辺りが関与しているだろう、どうもネギ先生と神楽坂さんの接触を助長している節があるし。
まぁ、ネギ先生の両親の事を考えれば、仲良くさせたいと思うのも分からないでもないが。
その辺も超家家系図にははっきり書かれてるからね。
「それにしては慌ててるネ」
「あーんー、ちょっとね、そろそろ来ると思うから渡してくるわ」
手紙を隠しつつ、慌てた様子で寮の出口に向かう神楽坂さん……
……些細なことだが、メールの一つも入れておくか。
「久しぶりやし、ネギ君に挨拶してから行こかな」
身嗜みを整えた近衛さんが同じ方向へ向かっていったことも含めて。
バイトから帰ってきて、部屋のポストを確認すると見慣れない封筒が投函されていた。
初めて見たけど、外国からの手紙のようで、差出人の宛名には英語……ちょ、ちょっと綴りが難しいけど。
試験に向けて猛勉強したから多少は英語力も上がってるし、読めるはず……無理ならこのかに読んでもらうとして。
えっと、イギリスの……めるでひあな……魔法学校……って。
「これ、宛先もNEGIって、あぁ……あいつ暫くこの部屋に居たから間違えて届いちゃったんだ」
それにしても、魔法学校ってはっきり書くなんて、バレたらどうする気なのか無用心な。
先に見つけたのが私だから良かったけど、魔法のことを知らないこのかに見られたら。
「ネギ君宛ての手紙なんか?」
「わっ」
気付けば、出かける準備をしていた筈のこのかがすぐ傍に立っていた。
慌てて手紙を隠すけど……見られてないわよね。
「そ、そうみたい、間違えてこっちに来ちゃったみたいで」
「そっかぁ、うち、もう直ぐ出かけるし、職員寮まで持って行こか?」
「あーんー、寮の前まで取りに来させればいいでしょ、寮に入らなきゃ前みたいな騒ぎにはならないだろうし」
職員寮の部屋のポストに入れておくという手もあるけど、確か今はしずな先生と同室の筈で、私みたいに差出人を確認されると困る。
直接渡すのが一番確実で。
「そっか」
学園長に呼ばれていると言うこのかは着替えに戻り、私はネギの携帯に電話をすると寮の前まで呼びつける。
何か途中で、部屋まで取りに行きましょうかとか言ってたけど、前に騒ぎになったこと自覚してるんでしょうね。
ともあれ、このかが着替えてるうちに部屋を出て。
「ん、どうしたネ神楽坂さん」
いきなり肉まんくわえた超さんと遭遇した。
朝ご飯だろうけど、美味しそう……最近忙しそうだけど、移動しながら食事するくらいなんだ。
「ん〜、ネギの手紙がこっちに着いちゃったのよ、今、寮の前に呼んだから渡そうと思って」
「それにしては慌ててるネ」
咄嗟に手紙を隠したのに目敏く気付かれる。
超さんだと、一目見ただけで差出人のところも普通に読んじゃいそうなのよね。
「あーんー、ちょっとね、そろそろ来ると思うから渡してくるわ」
さして興味も無かったのか追求は無く、私はそのまま寮の外に出て。
「アスナさん」
とても楽しみに待っていた様子のネギがそこに居た。
杖を持ってるから、また飛んできたんだろうけど……前に私を乗せたときは調子悪かったけど、直ったのかな。
「随分早いわね」
「あ、はい、お姉ちゃんからかもしれないので」
イギリスからの手紙としか言ってないけど、ネギはとても嬉しそうで、私から受け取るとあっと言う間に開封して開く。
そして、英語で何事か記された手紙の上に、女性の姿が映し出された。
『ひさしぶりネギ、元気にしてる?』
「わっ、何コレ、スゴッ、さすが魔法使いね」
浮かび上がった立体映像がネギを心配するように声をかけてる。
コレは良いわね、何とか高畑先生で同じのを作れないかしら……今度ネギに聞いてみよう。
そのまま、手紙の話題はパートナーの事に触れる。
前にも聞いたけど、何だかお姉さんが言ってるのはネギから聞いたのと、微妙にニュアンスが違う気がする。
ネギの話だと、魔法使いの従者は、魔法使いをサポートする相棒の筈で。
「ねぇ、ネギ、お姉さんの言い方だと、パートナーって女の子みたいな言い方じゃない?」
「あ、はい、やっぱり男の魔法使いだとキレイな女の人、女の魔法使いだと格好いい男の人が多いです……で、今だと大体そのパートナーと結婚しちゃう人が多いんですけど」
「恋人みたいなもんじゃない……あぁ、そう言えば長谷川さんのパートナーもそうだったっけ。あんたが魔法使いの従者に興味津々なのって恋人が欲しいだけじゃないの」
「ち、違いますよー」
図書館島で初対面した男の人、少し怖い雰囲気だったけど、長谷川さんや大河内さんをしっかりフォローしていた。
この間も、展望台で長谷川さんと一緒に居たし。
「んー、ネギ君もパートナーを探しとるん? うちのクラスの女の子だけでも31人やから、よりどりみどりやな」
「い、いえ、だから違うんですって……わーっ、このかさん!?」
「このか、いっ、いつから聞いて……!?」
何時の間にか制服姿のこのかがすぐ傍まで近付いてきていた。
と言うか、何処まで聞かれてたんだろう。
「途中からやけど、何の手紙なん、それ?」
「何でもないです、何でもないですよぅ」
「みんなーネギくん、恋人探しに日本来たらしいえー」
ネギが必死に隠そうとするけど、面白がって大声を上げたりするこのか。
クスクス笑ってるから冗談だとは思うんだけど。
「違いますよー」
「スマンスマン、冗談やよ、けどパートナー探しか、頑張らなあかんで、ネギ君……あぁ、それと、さっき31人言うたけど、うちはもうパートナー決めとるからあかんよ。ほな、うちは行くわ」
確か、この後学園長に仕組まれたお見合いに行くはずだけど……何気に爆弾発言してない、このか……パートナーを決めてるって。
……知らない間に、進んでるのね。
「だからね、ネギ先生が王子様って話しになったの」
街中を歩いて居たら偶然桜子ちゃんに会いました。
まぁ、桜子ちゃんの場合、偶然=必然の節があるので、何か私に用があったのかもしれませんが。
話を聞いてみると、ネギ王子を追いかけて街へ繰り出したら見失ったのだとか。
確か原作にそんなのがありましたね。
「桜子ちゃんもネギ先生のパートナーになりたくて?」
「ううん、パートナーのなり方だけ聞こうかなぁって」
ニコニコと微笑む桜子ちゃん、クレープの屋台が出てましたのでゴーヤ風味を買ってあげましたが、何だかこうして落ち着いて話すのは久しぶりな気がします。
「なり方って……特別何かがあるんですかね」
この場合は、子供先生の意図としては仮契約のパートナーを探しているという意味なので仮契約でしょうが。
「特別な何かがあるって、私の第六感が囁くんだよね〜♪」
えぇ、その第六感は非常に正しいです。と言うか、その第六感だけで真実に辿り着くんじゃないかと冷や冷やします。
「朱雀はパートナーは欲しい?」
「……微妙な質問ですね」
従者と言う意味での立ち位置にはディルムッドが居ますが、桜子ちゃんが言っているのは恋愛感情含めてのパートナーでしょう。
男としては、ディルムッド等よりも美少女がパートナーの方が嬉しいのですが、私が仮契約を行った美少女と言えば。
「んー、朱雀、顔赤いよー、どうかしたー?」
によによと、口元を猫のように歪めながら笑ってる桜子ちゃん。
吸血鬼騒動のときに、寝惚けた桜子ちゃんとは仮契約しちゃってるんですよね……あの後有耶無耶になって千雨ちゃんとの仮契約の話が流れたのは……ほっとしたと言うか、勿体無いことをしたと言いますか。
「そっか、千雨ちゃんはまだかー」
「……心読んでます?」
「何となく、コレは直感かな。んーこっち」
ふと、手を引かれて脇道に逸れます。何だか自然に手を繋がれましたが。
先日の千雨ちゃんと言い、スキンシップの機会が多いですね……これは、転生オリ主としての才能が開花……何だか微妙な目で桜子ちゃんに見つめられます。
「……その、千雨ちゃんのような眼は何ですか」
「前に千雨ちゃんが言ってたよね、厨二病は治る病だって……大丈夫だよ、朱雀」
いや、桜子ちゃんとかアキラに言われると素で凹むんで勘弁してくれませんか。
確かに、変な想像してたのは確かですが。
「あ、居た」
ふと、桜子ちゃんの視線の先を見れば……猫がたむろしてる路地で、アキラが缶詰を空けてます。
桜子ちゃんが声をかけたので、此方に気づいて振り返り。
「……デート?」
「うん、デート」
「デートだったんですか? コレ」
小首を傾げるアキラに、当然のように頷く桜子ちゃん。
手を繋いでクレープを買って歩く……確かにデートといえばデートかもしれませんが。
「だからね、アキラも誘いに来たの」
男一人に美少女2人の変則デートですか……立場的には、この前の千雨ちゃんの逆バージョンですが。
「……長谷川は良いの?」
「最近独り占めしてたから、私達もしようかなって」
「何時独り占めされました……」
少なくともこの前は、途中まで桜子ちゃんも一緒で。
「あれ、ハルナは千雨ちゃんが逆ハーでウハウハで酒池肉林のホストプレイしてたって言ってたけど」
「あう……言ってたね」
今度遭ったら、ちぎろう、あの触覚。
アキラが真っ赤になってるって事はかなり際どいデマまで吹聴していそうで……何だか、最近、魔法世界に新進気鋭のディルムッド系作品の作家の噂が飛び交ってるとも聞きますし。
とりあえず、主従カップル推奨だったので公式からは完全に追い出しましたが、アングラで凄い人気になってるとか……熱湯かけたら何とかなりませんかね、あの触覚。
「だから、久しぶりに私達も独占しようと」
「そっか……えっと、どっか行くの?」
空けたばかりの缶詰を見ながら困った顔のアキラ、そして、周りの猫も困った様子で。
「猫デート」
「良いね」
クスリと微笑むアキラ、桜子ちゃんも傍に寄ってきた猫を撫でて満悦な様子です。
家でも猫を飼っているので、猫の扱いは慣れたものですし。アキラも小動物全般が好きだから得意ですしね。
「しかし、人に慣れてる猫ですね」
私も桜子ちゃんがお腹を撫でてる猫の喉を撫でます……猫撫で初心者の私には尻尾の付け根やお腹は難易度が高いんです。
「超さんに教えてもらったの、絡繰さんがよく餌をあげてる場所なんだって……」
原作で、絡繰さんが猫に餌をあげてるところがありましたが、此処なんですかね。
「よく手入れもされてるしね……いい子いい子ぉ」
「この子、大人しいから朱雀が撫でても嫌がらないと思う」
猫撫でマイスターのアキラから、気性の柔らかい猫を紹介してもらって撫でます。
明日は始業式……闇の福音が活動を再開する日。
少しばかり緊張していましたが。
「朱雀ー、ほら子猫子猫、可愛いにゃー」
「この子がお母さんみたい」
猫に囲まれてのんびりモードに突入。
こう言うのはいいですね、ささくれてた心がほぐされるみたいです。
「赤ちゃんが可愛い」
「そうだね、朱雀の赤ちゃん可愛いね」
正確には、桜子ちゃんから無理矢理渡された、私の手の中に居る猫の赤ちゃんが、ですが……触覚やパイナップルに聞かれたらまた面倒な噂が立ちそうで。
「……赤ちゃん」
「……どっちの」
背後から聞こえてきたのは、ネタを求めて麻帆良を徘徊していただろう、私的遭いたくないランクTOP5に食い込む2人の声。
いえ、千雨ちゃんで無いだけマシかもしれませんが、放置すれば直ぐに千雨ちゃんの耳に拡大曲解されて伝わるはず。
と言うか、何故に居ます、そして何故に桜子ちゃんは満足そう。
「千雨ちゃんが噂になってて、ちょっと良いなって」
心を読むのはやめてください。
ちなみに、ディルムッドは超さんとかが通い妻してる噂も早めに流れたため、私との噂が流れてるわけですが。
こうして、手の中の猫の赤ちゃんの扱いに困ってるうちに、ネタを入手した触覚とパイナップルは走り去っていきました。
……どんな噂が流れるやら、今から不安です。
とりあえず、今後は熱湯と除草剤は持ち歩くようにしましょうか。
闇の福音編に突入です
まぁ、さっさと終わって修学旅行に行くかと思いますが……
アスナの仮契約どうしようかな……
ちなみに、遭いたくないランクのランカーは
血縁者
合法ロリ
薬味
触覚
茄子
パイナッポー
の辺りです