43話
始業式の翌日、子供先生は姿を見せない。
……その日……うちの副担任は登校しませんでした……と。
HRの時間になっても子供先生が現われない。新田先生も、初日はともかく二日目以降なら大丈夫だろうとHRに姿を現さず。
職場に来ないのも登校拒否と言うべきかどうかはさておき、本当に正式な着任二日目から職務放棄しやがった……いや、教師としてどうだ、それは。
朱雀から、吸血鬼との大まかなスケジュールと予想は聞いておいたが、今のところ予定通り……なのか?
HRの時間になっても現われない子供先生に教室は不安そうで……慌てて神楽坂が教室から飛び出していった。
一応、他に、魔法関係に関わりがあるはずの面子だと近衛は心配そうで、桜咲は怪訝な様子、絡繰は平然としてて、吸血鬼はエスケープ(サボリ)、春日は頭抱えて『私の苦労が水の泡っすか』とか呻いてて、超も余裕がありそうだな……
まぁ、事情は知ってるし、うち等に被害が来なきゃどうでも良いんだが。
一応、早朝に私と朱雀、ディルムッドさん宛てに
絡繰から情報を得ているらしい。
ネギ先生は吸血鬼に襲われて敗北、少し血を吸われた辺りで神楽坂に助けられたらしい。
……魔法使いといえば朱雀かメディアさん、後吸血鬼と言う私にすれば酷いショックなんだが。
いや、魔法使いって、私の認識だと……かなりチートな人間で……
神楽坂……超曰く、ちょっとだけ凄い
確かにあの吸血鬼も迫力はあったが……それを一蹴した朱雀や、桜咲を軽くあしらったディルムッドさんには劣るだろうし。
それにあの吸血鬼、私を襲ったとき本気で殺す気は無かった気がする。
あの時はその直後に、吸血鬼に向けられた朱雀の本気の殺意やら、吸血鬼本人から流れ込んできた朱雀への殺意を思い知らされた。
あれに比べれば、私の血を吸った吸血鬼は、稚気を感じた。遊んでたんだ……それはそれで気に入らないが。
ともかく、それで、いきなり登校拒否ってどうなんだ、同じ状況に出交わした私は翌日に頑張って出席したんだぞっ……まぁ、一撃で殺せるとか言う宝石幾つか持たせられたし、ディルムッドさんが隠密してたし、朱雀も学校サボって近くに居たおかげだが。
で、絡繰から得た
それで、今回と次の満月の夜にネギとの戦闘を見逃すように許容したと……まぁ、朱雀の話じゃ来週の大停電が決戦だろうって話だが。
大停電の日は全員で施設に避難だな、椎名も賛成してたし。
後は……猫の餌やりは危険だから禁止とか言われた……コレはよく分からないが。
教師不在のまま、教室は小さなどよめきに包まれ。結局、二十分位してから新田が顔を出した。
「っ、本当に来ていないのかっ……あぁ、ともかく、HRを始めるっ」
騒ぎと言うか、何時まで経っても現れない子供先生の話を聞いたのか、汗をかきながら走り込んで来る。
急ぎながらも簡潔に、今日の内容を説明するのは立派なんだけど。
「あの、ネギ先生は」
「……連絡は無い、この後連絡を取ってみるつもりだが」
「新田先生、すいません、ネギ先生は」
ふと、突然に、高畑先生が顔を出す。
まぁ、騒ぎを知って子供先生が心配で見に来たんだろうけど……子供先生の姿が無い事に少し困ったような顔をして。
「おや、高畑先生、出張では」
……
相談したりする相手をなくして、独力で何とかさせるつもりらしい。
「少し時間がずれまして、それで……ちょっと様子を見にきて」
ちらっと、高畑がクラスの全員を見渡す。
春日が首を振る、絡繰がゆっくり首を振る、桜咲と近衛が首を傾げて、私は睨み返した。
……あれには関わんねぇからな……
そこに。
「お待たせー、ネギ一丁お持ちー」
「わー、ま、まだ心の準備がー」
涙目の子供先生を担ぎ上げた神楽坂が教室に飛び込んできた……態々職員寮まで迎えに行ったのかよ。
と言うか、子供先生は新田が青筋浮かべてるのに気付いてるのかね。
「ふむ、ネギ先生、出欠だけ先に伝えるガ、エヴァンジェリンがお休みなだけで他はみんな居るヨ」
超が暗に職務放棄の原因であろう、エヴァンジェリンの不在を伝えると眼に見えて落ち着きを取り戻す子供先生。
神楽坂の肩から下りると、ほっとした様子で。
「……では、ネギ先生、後はお願いしてもよろしいですか」
「え、あ、新田先生、えっと、ハイ」
分かってねぇだろ絶対あれ。
「……それと、遅刻の理由について、後ほどゆっくりお話を伺いますので」
「は、はい……」
どう説明する気やら。子供先生は頷き。
「アスナ君、君がネギ先生を迎えに」
「えぇまぁ、昨日の様子だとこんな事……って、高畑先生」
「……そうか……アスナ君、後で少し話があるんだ、何とか調整するから……そうだな、昼休みに時間を作れないか」
「はっ、はいっ」
……新田先生の苦々しい顔に同情する。
あぁ、あんたも私も嫌いな、裏の世界の談合が……現在進行形で進められてるよ。
……尚、その日の授業は子供先生のパートナー探しで大いに盛り上がり。
再度の新田召還と相成った……もうクビで良いんじゃねぇかあの駄目教師。
ハッハッハッハッハ
俺っちは駆けるぜ、今や風すら俺っちの味方。
いやぁ、日本に入っちまえば楽って言うか、追撃も無いようだし、うしっ、これで楽園再建と行くかぁっ。
ケッ、ふざけた常識に囚われた魔法使いには、あの温もりが理解できないんだろうぜっ。
たかだか2000枚の下着ドロ程度で投獄しやがって。
俺っちの理想は、この日本で作り上げる。便利な兄貴もいるしなっ。
さてはてな、ほぅ……大層な結界だが、これくらいの結界、俺なら越えられ……おっ、ほら行けた。
ふふん、さすが俺っちさぁ。
よっしゃぁ、手紙を盗み見た感じでは兄貴は女子寮に居るはず。
匂う、匂うっすよ……そう、これは十代のみに許されたブ ル セ ラもとい、今風に言うなら、マ ホ チュ の 匂いっ。
そう、教師に会ったらまず下着を見せる、それがMAHORAっすよぉぉっ。
いざ行かん女子寮へっ!!
ギュゥゥンッ、ドンッ、ガン、スタン。
「げひゅう、て、邪魔するヤツはどこのドイツだこらぁぁぁっ」
女子寮に突き進んでたってのに、ギュゥゥンッって目の前に訳の分からんのが飛んできて、ドンッと右にある樹に深々と突き刺さって、それにガンと鼻をぶつけたぞっ、その上、目の前にスタンと降り立って明確に殺意を浮かべて見下すたぁ……
アレ、何だか本気で殺意持ってないですかい。
スーツ姿の
……アレ、俺死ンダ?
俺っちの生存本能がこの危機的状況下を覆す選択肢を見出す。
そう、オコジョ妖精の俺っちには分かる。俺っちが生き残る可能性の高い順は
①そんなものは無い、現実は非情である。
②諦める、来世でまた会おう。
③土下座、誤魔化し媚び諂って相手に取り入る。
④立ち向かう、死亡。
⑤逃亡する、死亡。
「失礼いたしましたぁっ、へぇ、某、しがないオコジョ妖精にございますが、如何なご用件でございましょう」
てか、土下座ですら生存率2割以下だぁぁっ、死ぬ、死んじまう。
俺っちの下着天国の野望がっ。
「寮に何の用だ」
「へっ、へいっ、俺っちは、この学園に居るネギの兄貴の使い魔 (予定)でして、寮に居られると聞いたもので、お訪ねしようと思っております」
スマネェ、ネギの兄貴。けど、単純なネギの兄貴ならきっと俺っちの口車に……じゃなくて、優しいネギの兄貴なら受け入れて貰えるはずだから前倒しで一つ頼んます。
「彼なら既に女子寮を出て職員寮に移っている、間違いだな」
情報違いがあったようっすね。
まぁ、それはそれとして女子寮にも下着を集めに行きたいんすけど……殺意が増した気がするぜ。
やばい、この兄さん堅物だ、俺っちとは話が通じそうに無い。
「……今は授業中だから不在だろうしな」
「あ、でしたらあっしは学校のほうに……」
女子中学校と言えば更衣室も素晴らしい取り揃えだろうし。
「……私の役目は不審者を一般生徒の寮、ならびに学び舎に近づけぬことだ、許容できる話ではないな」
「いや、あっしはマギステル・マギ候補生のネギの兄貴の使い魔 (予定)でして……」
「そうか……では、一旦確認のため学園長のところに」
「あ、用事を思い出したっす、職員寮にネギの兄貴が戻るまでどっかで時間を潰してくるっすね」
学園長なんかに確認されたら嘘ついてることがばれちまう。
何とかこの場は退いて、再突入の機会を伺うしか……
「……念のために言っておく、次に女子寮に接近した場合、切っ先は鼻先ではなく、頭蓋に狙いを定める、警告はしない……気をつけることだ」
「へい、失礼しやしたーっ」
逃げる、逃げるぜ。
ちっ、俺っちが桃源郷を諦める事になろうとは。
だが、俺っちは諦めない、もう一度この手にチャンスをーーーーー