45話
神楽坂が何だかんだ理由をつけて相談に来た。
いや、最初は職員寮に来てくれないかって話から始まったんだが……何を考えてんだこいつは。
何故か理由も言わずに、取り敢えず職員寮の子供先生の部屋に来て欲しいと。この辺りで、あぁ、こいつ子供先生の同類だと納得した。
どうも、神楽坂自身は職員寮に入り浸ってカモとか言うやつと子供先生と、色々話し合ってるらしいが……うん、まともに相手にしないほうが良いな。
とりあえず、私は学園で子供先生が何か意味ありげにこっちを見ててもばっさり無視している。
授業中にパートナーの話を振られても完全スルーだ。
神楽坂も何だかんだと付きまとってきて、最終的に、相談があるということで女子寮の私の部屋で聞く事になった。
ネギを呼んで良いか等と言って来た時には叩き返したくなったが。
「で、話って何だ」
「えっとその〜、話自体はエヴァンジェリンの事なんだけどね」
「あぁ、それで」
「……その、長谷川は……どれくらい知ってるのかなぁって」
「外人で小さくて無駄に偉そうで、花粉症で死に掛ける私以下の体力のサボリ魔だな……そんだけだが」
朱雀に聞いた情報のうち、魔法を除くとそんな評価だ、まぁ、体育祭だのなんだのでアレが動いてることすら見たことがないからな。
水泳の授業でも絡繰に支えさせてたし。
「ほ、他は?」
「さて、そんなに仲も良くないしこれくらいだな」
たぶん、神楽坂としてはこっちから魔法関連の文言を口にして欲しいんだろうが。
正直面倒臭い。
さっさと追い返すか。
「うぅぅ、実は今、私とネギがエヴァンジェリンとちょっと険悪なムードで」
「そうか、まぁ頑張れ、それくらいだな……そう言うのは私より新田先生に相談したほうが良いと思うぞ」
生徒間の不和とかそう言うのは担任に聞くべきなんだ、そういう意味なんだが……何故か神楽坂は目を輝かせやがった。
「そう、そうなのね、よし、新田先生なら頼りになるのね、やっぱり長谷川はあっちに関わってる人の事も色々知ってるんだ」
……やばい、違う方向で理解しやがった。
こいつ、新田も魔法関係者だと思い込みやがった、どんだけ楽観と言うか、都合のいい考えしてやがる。
言われたこと真剣に受け止めるのと、鵜呑みにするのは違うんだが。
「……何か勘違いしてるの知らないが、クラスメイトと諍いを起こしたんなら担任の新田先生に相談しろって意味だぞ、何で関係ない私に聞きに来るんだ」
「あ、いや、そっちじゃなくてね」
困った顔で考え込む神楽坂……私も困ってるんだよ、さっさと諦めて帰ってくれ。
「実は……吸血鬼のエヴァンジェリンが呪いを解くためにネギの血を狙って付き纏うんで困ってるの、長谷川なら相談に乗ってくれると思って」
ぶっちゃけやがった。
当たり前のように魔法関係の話題を出しやがった。
駄目だ、こいつ等に付き合ったら本当に駄目だ、付き纏ってくるのが眼に見える。
「……漫画の見すぎだ、いや、まぁ、そういう年頃なんだろうが、そう言うのは早乙女とかに頼め、私も確かにアニメとかは視るが、そういうのに関わる気は無いぞ」
「本当のことなのよー」
「はいはい、子供先生は選ばれし勇者か? バカレンジャーは実は平和を護る秘密戦隊だったのか? ネギ先生と神楽坂は前世で平和を護ると誓い合ったアトランティス人の末裔か? そういうのは将来思い出しただけで悶絶する黒歴史になるだけだぞ」
出来るだけ馬鹿にするように言ってやる。
神楽坂がどんだけ魔法関係のネタを出そうが、痛い子扱いしてやろう。
朱雀のおかげでそう言うのを相手にするのは慣れてるし……いや、朱雀も素だったんだが。
「だから」
「子供の遊びに付き合ってやるのも良いが、もう同じ部屋でもないんだろ、そこまで付き合うことは無いだろ」
と言うか、3学期の頃は子供先生がマスコミに叩かれた影響で高畑にまで累が及んで、仲は険悪になっていたはずだ。
ここまで関わるのはあの時の様子からすると不自然で。
「仕方ないじゃない、高畑先生にネギを支えてあげて欲しいって頼まれちゃったんだから……それに、何となくほっとけないし」
確かこいつ、高畑に惚れてたしな……その線で後押したのか、腹黒いというか何と言うか……カモってのは仮契約を取り扱う妖精だって話だし。
高畑は、神楽坂を仮契約の相手としてネギに差し出したって形か……最悪じゃねぇか。
「とにかく、私はそういうお遊びに付き合う気は無いんだ、相談はおしまいだな」
「だから、お遊びじゃないって」
そして……考えたくなかったが、前に子供先生と同じ部屋で過ごすよう仕向けられた神楽坂が仮契約するよう仕向けられたって事は、あのクラスに集められた面子は仮契約の候補者として集められた可能性もある……ふざけた話だ。
「……話は終わりだ……私は力にならない、諦めろ神楽坂」
なれないじゃなくて、ならない……そう言い放って、私は神楽坂を追い出した。
……出来れば二度と関わりたくないと思いつつ。
「お帰りなさいネ、ご飯にするカ? お風呂にするカ? それとも、ア・キ・ラ?」
大停電の日、面倒を避けるために早々に私達は施設へと避難する事にしました。
無論、保護者には連絡済の上、外出届もとりました、学園側としても、私達は居ないほうが有難いでしょうから簡単でした。
学園に残ったのはディルムッドだけ……これは万一、吸血鬼が一般人に手を出した時の備えです。
原作ではアキラまで巻き込まれてましたからね。
あの後も、
「お、お帰りなさいネ、ご飯にするカ? お風呂にするカ? それとも、チ・サ・メ?」
新学期の初日、火曜日に佐々木さんの代わりに魔法生徒である春日さんが吸血鬼に襲われました、これは一般人に被害を及ぼせばディルムッドが処断するか、3学期の時のマスコミ報道が再発すると学園側が判断したためでしょう。
これにより、子供先生は吸血鬼事件への干渉を始めました。
同日の晩に闇の福音と遭遇し、敗退、神楽坂さんに助けられました。
翌日の水曜日に子供先生は職務放棄で学校に姿を現さず、原作通りの醜態を曝しました。
同日、オコジョ妖精が学園内に侵入、ディルムッドによって女子寮から退けられましたが、子供先生の管理下に入りました。
同日、千雨ちゃんからの情報ですが、高畑先生から神楽坂さんに『ネギ先生を支えて欲しい』と頼まれたそうです……
木曜日、オコジョ妖精が3-Aの生徒を呼び出そうとしましたが、ディルムッドが気付き妨害、仮契約の強制未遂と学園長へ警告を行いましたが、証拠が無いため保留。
同日、千雨ちゃんのところに神楽坂さんが相談に来たらしいですが、中二病扱いして追い返したそうです。
そして、金曜日。
絡繰茶々丸襲撃も、途中で思い止まって制止、原作通りの流れになりました……超さんは証拠映像を確保したため、暴行未遂で訴える事は可能だそうです。
「す、スルーはボケ殺しヨ、ご飯にするカ? お風呂にするカ? それとも、シ・イ・ナ?」
「……いや、違うぞ超……これはまぁ、何と言うかいつもの事と言うか……」
「久しぶりだよね」
「うん、今回の現実逃避は長いね、学園からずっとこんな感じ」
子供先生は土日と消息を絶ちますが、後日の超さんの聞き込みで長瀬さんと行動を共にしたことが判明。
加えて土曜日には、学園長から工学部に【闇の福音】の制限が電力によるものと“気付けない”プロテクトの解除要請。
超さんが私に報告してくれましたが、学園側が絡繰さんのシステムに不信感を感じると今後の情報収集の精度が落ちるため、私からも解除許可。
……実際、絡繰さん経由で超さんに吸血鬼と学園の情報がリアルタイムで手に入りますからね、有益です。
これで闇の福音は大停電による魔力解放の手段を得ました。
明けて翌週月曜日、子供先生は元気に登校……もとい、出勤してきた後。
教室に顔だけ出して(無論、教職員会議などはスルー)……そのままエスケープ。
新学期が始まって僅か1週間で二度目の職務放棄。
新田先生激怒も、何故か学園長に抑えられる。新田先生の不信感が増大の模様。
そして火曜日……大停電の日。
朝から春日さんは涙目だったそうですが……事情を知るものは同情の眼を向けるだけで何も言えず。
尊君を含めた私達は授業が終わるなり麻帆良学園を脱出。
メディアさんの神殿でもある施設へと向かうため、ディルムッドに最後の声をかけて……
「ええい、ご飯にするカ? お風呂にするカ? それとも、ディ・ル・ムッ」
「■■■■■■—■■■■■■■——■■—■■■■■」
「あっ、影羅、久しぶりだね」
「お、おおおお、朱雀さんが覚醒をしたのカ!?」
「……これ以上触れてやるなよお前等」
「何があったかは聞いても良いカ」
精神の均衡を取り戻すのに数時間を要しました。
何故か部屋に超さんが居ましたが、まぁ、絡繰さんの様子を観察しつつ、緊急事態が発生した時に教えてくれるためでしょう。
「出来れば……聞かないで貰えたほうが」
ちらりと、超さんの視線が千雨ちゃんを向きます。
今、傍には魔法の事を知っている超さんと千雨ちゃんしか居らず。
「……出がけに朱雀がディルムッドさんに一声かけたんだよ、一般人に害が及ばないよう、注意しつつ、問題を起こさないようにって」
アサシンのスキルである【気配遮断】も備えた、メガロメセンブリア元老院に内偵を行ったときにも使用した魔改造悪化・LANCERですからまず大丈夫だとは思いますが。
学園の警備はピリピリしてますし、闇の福音は封印解放で大暴れの予定ですから念のために声をかけたんですが。
「ディルムッドが、我が槍にかけて……その……この麻帆良学園において『薔薇散らす槍』と呼ばれる私が何とか言い出して」
人の知らない間に、何と言う二つ名を冠して、その上誇らしそうにするのかあの男は。
いえ、801文化なんて無縁だろうし、薔薇も槍も誇りであることは確かなんでしょうが。
「……で、聞かなきゃいいのに主は何かあるのかって聞いちまって」
「アア……私も聞いた事があるナ『薔薇を咲かせる主』か」
「■■■■—■■■■■■■——■■—■■■■■」
それは確かに、不遇の元に命を落したディルムッドに新たな機会を与え。
忠義を与える場と、武功を上げる戦場も与えた。
自分が薔薇散らす槍なら、それを咲かせたのは主なのだろうが。
「そうカ、魔法世界では早くから『赫翼の槍騎士』を名乗ってたから、あんまりそう言うのは無かったガ、麻帆良では無名だからナ」
「何だ、その厨臭い二つ名……ディルムッドさん結構……」
「■■■——■■—■■■■■」
千雨ちゃんに止めを食らいました……後悔したんです、黒歴史なんです。
「……まだ麻帆良で活動を始めて一週間と言うのに、相変わらず、早乙女さんの噂の伝達速度は凄いネ」
「って、やはりあのアホ毛ですかっ、くっ、一本だけでは生ぬるかったようですね、次こそ触覚を完全に抜き取って真人間に」
「そ、それは可哀想でないカ、真っ直ぐ歩けず教室でもふらふらしてたヨ、それに女性の髪を……」
「や、あれは徹夜のふらふらじゃねぇかな、眼も血走ってたし」
「バランスを取るには丁度いいでしょう、それとあれは髪ではありません、触覚ないしアホ毛だと言い切ります。触った感じと不自然な形状から断言します。あれは髪とは別のアクセサリーです、ウィッグです、アホ毛と言う名の物体です」
そう、髪とは別のナニカでした。
むしろ、アホ毛が本体でも私は不思議には思いません。
「……ま、まぁ良いが……一応、ネギ坊主の状態なんだガ」
「どうでも良いです、今は厄介な噂を払拭するのとあのアホ毛をどうにかするので頭が一杯です」
「そ、そうか、朱雀さんの中でネギ坊主の試練はアホ毛以下の価値か……」
抜いても生えてきそうですし、如何にかして永久に無くせないものですかね。
あの情熱を別の方向に向けさせるとか……セル×タカを推奨しますか。とにかくディルムッドはあっち方面の発言を避けるようにさせるとして。
「……あー、神楽坂は無事か? 一応クラスメイトだしな」
「ふむ、じゃぁ、長谷川さんに説明しておくので朱雀さんが落ち着いたら話してあげて欲しいネ……闇の福音は春日を吸血鬼の従者にしてネギ坊主を誘い出し空中戦を行い、麻帆良大橋まで追い込んだ、ネギ坊主の策を破り完勝の勢いだったガ……神楽坂さんが参戦、ネギ坊主と仮契約して……予定より早く大停電が復旧して、ネギ坊主の勝利ネ」
「……その、予定より早い停電の復旧って」
「無論、学園が故意に行っタ、ネギ坊主が優勢のときに復旧させることでネギ坊主の勝利を演出したネ、あのまま予定通りの時刻まで戦闘が続いていたら、勝ってたのは闇の福音ヨ」
「………………」
千雨ちゃんは顔を顰めながら説明を聞き終え。
溜息をつく。
けれど、この先、それは事実として裏の世界を駆け抜ける事になる。
【英雄の
朱雀に長めの現実逃避をさせたかったのでディルムッドとその主に麻帆良での適当な二つ名をでっち上げましたが。
5分で考えたせいかあんまり満足がいきません……後日、ばっさり変える可能性が高いと明記しておきます(ぉ
と言うか、良いアイデアがあったら頂けたら幸いですw
ディルムッドが喜んで、朱雀が絶望するような代物を(ぉぃ