54話
「んあー……んっ、朝……ん? んん? ……何だ、何か厄介事が起こりそうな気がするな」
目覚めの第一声で、自分が口にしたのはそれだった。
椎名とか朱雀とかが身近に居ると、何となくそう言うのの理不尽さも理解できてしまうから困るんだが。
何となく、直感的に嫌な予感がした……本当に椎名とか朱雀みたいだな。
5人編成の3-A 第1班はメディアさんが手を加えたであろうホテルの鳳凰の間で……恐らくだが、このホテルで最強の防衛力を誇るだろう部屋で、就寝した。
と言うか、メディアさんが女将やってる時点でこのホテルは人外魔境だ、登録されてる生徒以外を問答無用で地獄へ叩き落してても不思議じゃない……と言うか、実際オコジョは最初、入り口で一瞬消えたし。
たぶん、思い出して登録されて戻されたんだろあれ……まったく不自然な様子を見せなかったオコジョが寧ろ怖ろしかったぞ、罠にかかったことすら自覚してなかったんだから。
とにかく、このホテルは多分鉄壁だ、要塞だ、椎名が安心して床につける環境だ、椎名が安全な場所では完全に無防備になるのは吸血鬼の時に学習してる。
ただ、其の環境にありながら、寝惚け眼のままで何となく嫌な予感がする。
そう、朱雀の言い方を真似れば直感が騒ぎだてるとか、椎名だと、それこそ何となく嫌な予感がするとか言うんだろうけれど。
私も何だか嫌な予感がする……
「……椎名じゃあるまいし……変な夢でも見たんかな」
まだ起床時間までは暫くある、窓の外は薄暗く、大河内と釘宮は然程布団を乱さず、柿崎は少々、椎名は何時も通り布団を撥ね退けて、抱き枕を抱え込み……
……抱き枕……?
「………………おい」
「んにゃー……はたしじょーはん〜〜ぱーんちぃっぼくがみほんをーむにゃ」
椎名が、抱き枕を抱きしめて眠ってる。訳の分からない寝言はどんな夢を見てるか知らないが。抱き枕を抱きしめて眠ってやがる、大事なことは二度思った。
……それだけの事だが、3点ほど問題がある。
まず大前提として、ホテルの枕は抱き枕ではない。宮崎とか綾瀬みたいに修学旅行に枕を持ち込んだわけでもないし、そもそも寝る前にはあんなものは無かった、普通に枕で就寝したはずだ。
二点目、あの抱き枕に見覚えがある。
正確には、あのデザインにだが……椎名が抱きしめるのに丁度いいサイズの、羊のデザインの抱き枕。実物でなくてイラストでしか見たことが無いけど間違いは無いだろう。
三点目、直感が告げる、今の私の異常の原因はアレだと。
アレは間違いなく普通じゃないと直感が断言しやがる……
……椎名の腕の中で淡く光ってるところなんて特になっ!!
「くー〜〜すかぴーーーしぼーふらぐーんー」
まだ薄暗いのに早々に眼を覚ますことが出来たのも幸運か、ついでに言えば直感的に天啓が下りてくる感じもあれのせいか。
と言うか、寝言を言う癖は良いんだが……何だか危険な単語が出てきてないか。
「んむにゃ〜〜〜えへへへへ」
……良い、放っておこう、幸せそうだし。
「……落ち着け、とりあえずポジティブに考えよう、直感が冴えてんなら何が厄介事かを先に確認して……あのガキだな、うわ、椎名の嫌な予感てこんな感じなのか? マジで嫌な感じしかしねぇ」
「んっ……」
騒ぎすぎたか、椎名が覚醒を始めると時を同じくして、その抱き枕は
残るのは、パジャマ姿の椎名が羊の抱き枕を抱えて鼻ちょうちんを作って眠るイラストが描かれた……あの時見た、
それは暫し、淡く光って回りながら中空に留まった後、当然のように椎名のポケットに収まる……メディアさんがお守り代わりに持ってろと言ってたから肌身離さず持ってるんだろうが、勝手に動くとかあるのかあれ。
「んー? ……千雨ちゃん、まだ暗いよー?」
「あぁ、騒いで悪かったな、寝直そう……」
ある一時期から自身の幸運の『お裾分け』が出来るようになった椎名。
その時期は、朱雀との間に仮契約を結んでからで……さっきの感じからすると、直感とかも分け与えられそうだ。
イラストからすると寝てるときにしか発動しないとかの制限もありそうだが……椎名が面倒の矢面に立つなんて事は無いだろうしな。後、仮契約したときに寝てたことも影響してるのかひょっとして。
……ともかく、椎名の幸運と直感をおすそ分けして貰えたのなら、さっきの嫌な予感は本物……
子供先生には要注意だな。
とりあえず、起床時間になって直ぐに子供先生の昨晩の行動を軽く確認してみた。
子供先生の行動に詳しそうなのは神楽坂だろうが……少し昨晩を振り返ってみる。
昨晩は、何時も通りに騒ぐクラスの面々に新田先生が『班部屋からの退出禁止、見つかったらロビーで正座』を厳命。
初日と言うこともあって渋々言うこと聞いて……点呼で5班に神楽坂が居ない事と、子供先生が居ない事が判明、騒ぎになりそうになるが……瀬流彦先生から、学園長の急な頼みで外出したことが説明されてた……
……駄目だな、神楽坂はクロだ、あれにも近付かないほうが良い。
結局戻ってきて直ぐに、新田先生によって神楽坂は5班の部屋に連行、子供先生は新田先生に連れて行かれたらしい。
……昨晩何かあったか、私と子供先生の関係を考えればエヴァンジェリンの時みたいな魔法関係、あの時も神楽坂が訳の分からない相談に来たからな、私も魔法を知ってると勘付いてるらしく、今回も相談に来てもおかしくない。
であれば、聞くべきは朱雀かメディアさんか……手近なところで。
「と言うわけで、
起床時間になって直ぐ、部屋を出て良くなると、直ぐに近くにある6班の部屋を訪れた。
下手に男子の方に行ったり女将の私室に行くよりは良いだろう、これで分からなければ朱雀に電話するだけだし。
此処には桜咲も超も居るから魔法関係のことが聞けるだろう。
……そう思って部屋に入ると、桜咲と近衛が同じ布団で寝てるのは良いとしても、超と葉加瀬が絡繰の服を脱がせているのはどういうことだ、この班は実は非常に危険な班なのか、ノーマルは近付いたら駄目なのか。
「……邪魔したな」
仕方ない、朱雀に電話しよう……そう思って踵を返し。
「待つネ、何か非常に問題のある考えをしてないカ? 私達は茶々丸Ⅱ号の整備をしていただけヨ」
確かに、超と葉加瀬の周りには工具が散らばっている。
余程、特殊な性癖でもなければあんなものは使わないだろう……が、とりあえず、部屋には入らないでおこう。扉のところで立ったままで超を手招く。
「昨日のネギ先生の行動を聞きたいんだが」
「ん? 気付いてたのカ?」
「椎名の勘だ」
正確にはちょっと違うが、面倒なので説明は端折る。
超は少し苦笑いする……あまりに非科学的すぎるので信じたくないが、朱雀やメディアさんですら確信的に信頼してるので頭を抱えるらしい……が、軽く周りを見渡した後で変な魔法……外からは会話の内容が違って聞こえるらしいそれを使う……私には全く実感できないんだが、内緒話には必須らしい。
「昨日はホテルに木乃香さんを狙う敵が侵入したヨ、メディアさんの罠に引っかかって偽者を浚って逃亡、ネギ坊主と神楽坂さん、それに桜咲さんがそれを追っていっテ、ディルムッドさんが相手を半殺シ、ネギ坊主はそれは駄目とディルムッドさんにSEKKYOUして聞き入れられず不満そうだっタ……桜咲さんから聞いた経緯は以上ネ」
思い出すのは吸血鬼に槍を振るっていた朱雀。
朱雀ですらあれだけのことをするのだ、ディルムッドさんならもっと非情な事でもしかねない。
……まぁ、子供先生も吸血鬼半殺しの時は現場に居合わせて、一目見ただけでパニクって朱雀に攻撃しようとしてたから……同じ感じでディルムッドさんに突っかかったのかね。
で、ディルムッドさんには聞き入れられず……接点である私から説得とか考えてそうだな。
「早乙女の馬鹿げた噂のせいで知り合いと思われてそうだからな」
「と言うか、私とか長谷川は普通に校内で噂されてるヨ、長谷川は別に相手が居るからそれほどでもないだろうガ」
「黙れ」
とりあえず、出来るだけ面倒から距離を取ったほうが良いだろう。
特に子供先生と神楽坂……5班と行き先が被るのは駄目だな、椎名と相談して少し予定を弄ろう。
「その後は新田先生に連れて行かれて夜中に生徒を連れ出した経緯を聞かれてたヨ、オコジョの入れ知恵で誤魔化してたガ」
あのオコジョ、それなりに弁が立つのか。
と言うか、オコジョに入れ知恵されて対応してるのかあの子供先生。
後、子供先生が新田先生に連れて行かれた後のことも把握してるということは……
「このホテルには各所に隠しカメラが設置されてるネ」
「おい」
一応、これは女子中学校の修学旅行で、子供先生との話し合いは新田先生の部屋で行われたはずで。
「設置指示を出したのはメディアさんネ」
「……変なところに流すんじゃねぇぞ」
「分かってるネ」
……碌でも無い碌でも無い。
京都って時点で嫌な感じはしてたが、また何か起きてるのか……それを、今度は話してくれなかったってことは……
「……あいつ、何か私に隠してやがるな」
舌打ち一つ。
……そして、溜息も一つ。
「……修学旅行を楽しんでやるのが、あいつも一番嬉しいんだろうな」
気を取り直す、要は関わらなければ良いんだ。
ただ、その上でも子供先生は危険だ。一応朱雀にもありのまま言っておこう。
……椎名の寝言の、『ぼくがみほんをー』辺りは何を意味してるんだろうな……あの瞬間に存在した直感では、あれが一番気になったんだが……
短い上に内容も薄い気がする……
仕事上がりだとやっぱり思考能力落ちるなぁ
尚、桜子のAFは究極的に保身的な形になりました(ぉぃ
安全な場所でうたた寝してるのが、一番役に立つと言うある意味最強クラスのAF
うちの桜子は、魔法関係のトラブルは全スルーしますw
フェイトとの会談は土日に頑張ろうと思います。納期近いと脳みそ使う……