61話
昨日は告白や魔法バレ、
魔法使いネギ・スプリングフィールドには役目がある。
学園長より託された親書、それを関西呪術協会の長へと届けることこそが、この修学旅行のうちに果たすべき役割で。
「あれー、また長谷川さんが見つからないよー」
昨日同様、起床時間になって直ぐに班の部屋を回ったのだが、またしても長谷川千雨の姿は部屋には無かった。
子供先生は慌てた様子でホテル内を走り回り。
「兄貴、これはもう避けられてるんじゃないですかい」
「うぅ〜、何とかしてやり方を考え直してもらいたいんだけど、少し時間を作って貰いたいだけなのに」
「こうなってくると、呼び出したりしても何かしら理由を付けてバックレそうですぜ、昨日朝倉の姉さんが声をかけた時もバッサリ断られやしたし」
助言者のような関係にあるオコジョの言葉に大きく肩を落す。
結局、朝食の時間になるまでに長谷川千雨と子供先生が遭遇することはなかった。
昨日同様、千雨は他のクラスメイトから少し遅れる形で朝食の用意された部屋へと足を運び。
そんな千雨を見つけると、子供先生は喜色を浮かべると膳を手に近付いていく。
「長谷川さん、少し相談があるんですが」
「……なんですか、ネギ先生」
ちらりと、千雨が目を向けると新田先生が無言のままに立ち上がって近付いてくる。
それを確認しながら、千雨は子供先生に先を促し。
「はい、今日、少し行きたいところがあるんで僕と一緒に行きませんか」
「……それは、1班と一緒にと言うことですか?」
「いえ、長谷川さんだけです」
ゆっくりと、息を吐く。
子供先生にすれば、朝食の時間が終われば、昨日同様、また姿を眩ましてしまうと思っているのだろう。
実際、千雨自身そのつもりのため、間違いではない。
例え、この後、話す時間を作るように言われても適当な名目をでっち上げて逃亡していただろう。追われることや叱責される事に慣れているオコジョはそれを見透かし、子供先生へアドバイスをしていたのだ。
この場であれば、少なくとも食事を終えるまでは千雨は場を離れることは無いので、間違いではないのだが。
「1班は今日は大阪に行く予定です」
「え、えっと、長谷川さんだけで良いので何とか時間は作れませんか、その……大事な役目があって」
クラスの班の行き先くらいは確認しておいて貰いたいのだが、その辺りはきっちり忘れ、修学旅行を遊び倒す気なのが子供先生の子供先生足る所以である。
故に、致命的な台詞をいくつも口にし。
「ネギ先生……先程から聞いていれば、どういうつもりですかな」
それは、近付いてきていた新田先生にすれば聞き逃せるような内容では無かった……
千雨による子供先生の排除と言うか、自分への干渉を防ぐ手段……別に難しいことではないのだ、昨日のうちに千雨が新田先生に相談していたというだけ。
『ネギ先生に付き纏わられて、どこかに連れて行こうとしている感じがする』と一言相談するだけでいい。
其処は、修学旅行初日の夜に学園長公認で生徒の一人と夜間外出を行った実績のある子供先生。実際、二日目の朝にも態々千雨に近付いて行っていたので、言葉に疑う余地はなく。
「えう、新田先生、えっと」
「1班は今日は大阪で自由行動を過ごす事はご存知のはずですし……そもそも、班から一人別行動させようなどと……ひとまず、こちらに来ていただきたい」
ずるずると説教を行うために連れて行かれる子供先生の姿を見送りながら、安堵と共に食事を再開する千雨。
神楽坂や朝倉の意味ありげな視線等も気になるが、完全に無視に徹し。
「千雨ちゃんモテモテ?」
「まったく嬉しくない。少なくとも私はネギ先生には欠片も興味ないから宮崎と委員長は安心して良いぞ」
二日連続で子供先生が自分から近付いていった千雨に視線が集まるが、軽く手を払うようにして切り捨てる。
唯でさえ、幼馴染や指導員関係の噂で困っているのだ、これ以上厄介な噂は増やしたくなく。
「まぁねー、長谷川は頼りがいのある長身の男の人が好みみたいだしねー」
「早乙女、またふざけた噂撒いたら……最後のアホ毛も失うぞ」
「それは勘弁してよっ、真っ直ぐ歩けるようになるまで苦労したんだから」
直ぐに何時ものような姦しい喧騒に包まれる朝食の場。
ただ、近衛木乃香だけは、心配そうに連れて行かれた子供先生と、食事を続ける神楽坂を見つめていた。
「うぅ……朝から説教されてしまいました」
「まぁなー、大阪に行く1班から長谷川さんだけ誘うのはまずかったと思うで」
ホテルのロビー。
朝食を追えた後に、子供先生を中心とした、魔法に関わってしまった者たちは集まっていた。
子供先生に、神楽坂明日菜、近衛木乃香、桜咲刹那……そして、朝倉和美。
その中で刹那が目を留めたのは、昨日にも騒ぎを起こしたばかりの朝倉和美が当然のようにオコジョを肩に乗せて居ることで。
「それはそうと、何故朝倉さんが此処に」
「うん、昨日ネギ先生が魔法使うとこ見ちゃってね、カモっちの熱意にほだされて、ネギ先生の秘密を護るエージェントとして協力していくことにしたのよ」
神楽坂と子供先生への説明は既に済んでいたため、刹那と木乃香に軽く説明する朝倉。
朝倉和美への魔法バレと、昨日のイベントを思い出せば嫌な想像しかできない刹那は胡乱な目でオコジョを見る。
なぜか肩を落した様子のオコジョは一枚のカードを手にすると溜息を漏らし。
「きっちり契約できたはずなのにスカ・カードが一枚っすか、しかも男……これは使えないっすねぇ」
よりにもよって魔女のお膝元であんな無茶なイベントを起こしたのだ、このオコジョ……刹那にすれば自殺行為以外の何者でもない。
「しっかり仮契約できてたと思ったんすけどねぇ」
おそらくは、魔女によって何らかの対処が為されたのだろう、仮契約カードはスカ・カードとなって現われる事になってしまった。
そして同時に、故意に一般人と仮契約を結ばせようとした件が未遂ではなく、現行犯になってしまったのだが……その意味をオコジョはまだ知らない。
ともあれ、朝倉の肩から下りて、腰掛の隅で仮契約カードを手に溜息をつくオコジョを無視し、木乃香は一番に気になっていることを確認する。
刹那は子供先生達との接触を嫌がったが、木乃香にすれば気が気でなく。
「それで、ネギ君は今日、お父様のところに行くんやな」
「あ、はい。明日は京都市内の観光ですので、今日行こうかと……それであの」
「6班は絡繰さんの要望で市内の観光名所を巡る予定です。お嬢様の警護は私が問題なく……お嬢様が本山に近づくことは要らぬ火種になりかねませんから」
はっきりと言い切るのは刹那。
既に彼女……魔女メディアからは京都市内における3-Aの一般人の安全は保障する旨が伝えられている。
ただ、これは一般人に限るとされ……
「アスナは……」
「私はネギに誘われてるから、一緒に行くわ、5班は自由行動の予定決まってないし」
不安そうな顔になる木乃香。刹那に目を向けるが、刹那も首を振るだけで小声で木乃香に告げる。
「本山に向かわれると言うのならば、彼女らの助力を得るのは難しいでしょう……関西呪術協会と彼等の確執はこのちゃんも知ってるでしょう」
願わくば、木乃香にすれば、メディアやディルムッドに親友のアスナや、仲の良いネギ先生のことも頼みたい。
けれど、彼女達が関西呪術協会の本山に親書を持って向かう魔法使いを助けてくれるかと言うと、それは絶望的だ。彼女達の嫌う単語のオンパレードなのだから。
「そういう意味では、確かに長谷川さんが協力してくれるならば……助力も得られるかもしれませんが」
「……無理やろうなぁ」
朝食の場で、長谷川千雨に声をかけていた子供先生。それは間違いではないのだ……彼女の助力を得られるということは。即ち最強の武を誇る三者の助力を得られるに値する。
ただ、だからと言って無理に誘おうとする等、命知らず以外の何者でもないが。
「木乃香、長谷川さんの事知ってるの? て言うか、無理って」
小声での会話の一部を聞き留めたか、明日菜が木乃香に問いかける。
「長谷川さん、そう言うんに巻き込まれるの嫌がる思うで」
朱雀の傍にある中では (昨日までは) 唯一、一般人で魔法を知る存在の長谷川千雨。木乃香も最初は同じ程度にしか知識が無かったために色々と話も合い。
「と言うか、無理に長谷川さんを巻き込むような事をすれば朱雀さん……いえ、ディルムッドさんを敵に回しますよ」
長谷川千雨が自分の意思で協力してくれれば、確かに強力な三者の守護者の力を得られるだろう。
けれど、無理強いすれば結果は悲惨な事になると眼に見えて分かってしまう。
それは、【闇の福音】に長谷川千雨が襲われた時、刹那自身も麻帆良学園も嫌と言うほど思い知らされた。
「……それを何とかしたいんですが」
「そういえば、昨日、イベントに誘った時もかなり嫌がってたなぁ」
会話の中でふと朝倉も思い出す、浮ついていた朝倉の意識の中でも千雨ははっきりと朝倉の誘いを切り捨てた。
思えば、あの時点で既に魔法関係が絡んでいると気付いていたのだろうと。
「とにかく、長谷川さんを巻き込むことはやめた方が賢明ですよ……このちゃん、そろそろ時間」
「あ、うん……ごめんなアスナ、ちょっと早目に出んと間に合わないところもあるらしいんで、うちは行くわ」
子供先生や明日菜に、あまり視線を向けることなく其の場を去る刹那。子供先生達からも刹那に向けてなんともいえない視線が向けられていたが、その全ては無視され。
「桜咲さんはお固いねぇ」
魔法使いと言う存在をオコジョの説明でしか得ていない朝倉は軽く頭を掻く。
魔法使いである子供先生と近衛木乃香、そしてパートナーである神楽坂明日菜と桜咲刹那……身の回りで、戦闘とは無縁と思えるものが半分以上のため、彼女には魔法使いとその従者の意味をうまく理解できず。
「じゃ、私は委員長達と京都観光だから、お仕事頑張ってね」
軽く手を振ると、自分の班の部屋へと戻っていく。
残された子供先生と神楽坂はこの後の段取りをもう少し話す様子で。
「お……頑張るねぇ」
途中で、朝倉は角に隠れるようにしながら子供先生と神楽坂を伺う宮崎を見かけるが、特に声をかけることもなく見過ごし。
麻帆良中等部3-Aは私服に着替え、完全自由行動日が始まるのだった。
「戻ったよ」
「随分と遅かったやんけ」
「おかえりなさ〜い」
隠れ家に使っている旧家の離れの一室に足を踏み入れると、迎え入れたのは二つの声だった。
随分とイラついた様子の少年の声と、恍惚として間延びした少女の声。
昨日、午前中に石化処理を行ったフェイトは夕方に朱雀たちと会談を果たし、癒えぬ傷の呪いを解くための宝石とやらを渡された。
その後、直ぐに戻っても疑心を生むだろうと、今朝まで適度に時間を潰してから戻ったのだが。
半日以上の時間を置いて戻った拠点からは石化しているはずの少女の声も聞こえ。
「……治療中かい」
「はい〜小太郎はんが色々用意してくれはったんで〜」
奥の客間へ足を踏み入れたフェイトを迎えたのは、片手と片足を失ったまま完全石化した千草と、片腕を失い、其処と腹部から大量の血を垂れ流す月詠の姿だった。
それぞれ、半数の手足は繋げられたのだが、それ以上は回復が行えなかったので石化したのだが。
「お前がおらん間もがんばっとるんや」
両手を血に染めながら月詠への施術を行っている犬のような耳を頭に付けた少年。
見れば、辺りには増血剤の瓶や輸血用具まで適当に放り散らされ、そして何より。
「随分と色々取り揃えたものだね」
「新入りの西洋魔術師もあてにならんようやからなっ、本山と道場の回復系の呪法具やら魔法具、呪符、魔法薬、片っ端から頂いてきたんや」
部屋の大半を占めるのは、大量の呪符や魔法薬の数々……言葉通り、関西呪術協会本山や神鳴流道場に用意されている回復用の術具を片っ端から持ってきたのだろう。
「よく本山に入れたね」
「青山の分家が夜中に随分狩られとるもんで、こう言うんは直ぐ取れるようになっとったんや」
「なるほど」
それらは殆どが後ろめたい事情が多いため、結果として長に反発する面々が協力して内密に保管庫から出す事になる。
その隙を突き、少年は関西呪術協会に秘蔵されている回復に属する呪具・魔法具をかき集め。
「あかん、繋がらへん」
「凄い傷ですな〜」
治療を施すが、腹部の傷も腕の断面も癒えることが無い。
何故かそれをきらきらと、玩具を見るように見つめる月詠に悲壮感は無いが……傷はやはり致命的だ。
これへの対処として、フェイトは月詠も完全石化して残していったのだが……日中に本山と道場の倉庫を漁って大量の回復手段を得た少年が、フェイトが残していった石化解除の手段を用いて体力のある月詠の石化を解いたらしい。
現状維持のためとは言え、外部の協力者に身内を石化させられることを嫌がった少年のために解除手段を残していったのだが、半日以上も仲間をそのままにするのは我慢出来なかったようで。
「そう……まぁ良いけど、僕も回復手段を探してきてね、それらしき呪いの解除手段を用意できたよ」
「ほんまか」「ほんまでっか〜」
「あぁ、この宝石を飲んでもらえるかい」
フェイトの掌に乗るほどの小さな宝石……月詠は暫し眺めた後に躊躇わずに口へと運ぶ。
傷を癒したい……癒して、あの槍騎士との再戦を……それを望む彼女は、手段を選ぶ気は欠片も無く。どんな手段にでも縋り付く気で。
「あら……」
飲み込んで数秒で、幾ら試しても繋がらなかった片腕は、眩い光と共に断面を繋げさせ、腹部の傷もあっと言う間に癒えていってしまった。
失った血の量が大量のため、気だるい感じこそするものの、一昨日の夜に受け、癒えることの無かった傷はあっと言う間に消え去り。
「な……なんや今の、あっと言う間に治ったで」
「おかしいね、不治の傷の呪いを解くのとちょっとしたオマケだけの筈なんだけど……あぁ、そう言う事かな? 犬上君、傷を回復する魔法薬はどれだけ飲ませたんだい」
「あるだけや」
辺りに散らばるのは回復用の魔法薬や、使いきられた回復呪符の残骸。
本当に、本山にあるだけの回復手段を全て試す気だったようで。
「……呪いが解けて、蓄積されていた回復効果が一度に発現したということだろうね」
「はー助かりましたー……これで、もう一度戦えますな〜……ん〜……けど、何だか」
「暫くは大人しくしたほうが良いよ、大量に血を失ったのは事実なんだ」
朦朧と、意識が混濁した様子を見せ始める月詠に声をかけるフェイト。
少年はフェイトから宝石をもう一つ受け取ると、フェイトが残していった針を完全石化した千草にも突き刺す。
それにより、千草の完全石化も解かれ再び手足の断面から血を噴出し。
「あう……痛ぅ……朝なんか?」
「姉ちゃん、これ飲むんや、これ飲めば治るで」
宝石を口に運び、手近にあった回復用魔法薬で流し込むようにして飲ませる。
急いで切り落とされていた手足の断面を近づけ……月詠にしていたのと同じように回復呪符や魔法薬をどんどん千草に投入する。
頭を抑えふらふらした様子ながら、千草の傷もどんどんと癒えていき。
「苦労して宝石を入手した甲斐はあったようだね」
「新入り、お前すごいな、西洋魔術みたいやけど、こんな効くのがあるなんてな」
「……そう数は用意できないと思うから、次は難しいけどね……君の分もある、念のために持っておくといい」
喜ぶ少年に軽く応えていると、千草と月詠は急激に身体の欠損を戻したせいか、ふらついて意識を失い。
慌てて少年が、それ等を隣室の布団へと運ぶ。
「暫く休ませたほうが良いんやろうな……にしても、西洋魔術師のやつ、騙し討ちなんて卑怯な真似しやがって」
「月詠さんに聞いたのかな」
少年は一昨日の戦闘の詳細は知らないはずだが、石化を解いた月詠に治療を施しながら色々と話を聞いていたようで。
まぁ、そのうちの半分近くが受けた傷の素晴らしさだったというのは辟易したようだが。
少なくとも、話の大筋は聞くことが出来た。
「聞いたわ、罠に嵌めたり女に化けたり、パートナーはともかく、西洋魔術師はまともな戦い方せえへんかったって」
ギリッと牙を噛み締める。
普段は女に手を上げるような真似を嫌う性質だが。
女に槍を振るってこんな目に遭わせる相手ならば尚更だ。
「月詠姉ちゃんの話やと、今日も京都にいるらしい……俺は出るで、我慢できへんっ」
仲間を傷つけられた血気盛んな少年は。我慢なら無いと飛び出していく。
それを眺めながらフェイトは布団に寝かせられた二者を
「……夕方くらいには終わるのかな」
劇の開演を待つこととした。
大阪に住んでたこともあるんですが、USJには行った事が無いです。
何か特徴的と言うか、USJにはこんなアトラクションがあるんで、この子が此処に行くと良いと思いますよみたいなアトラクションがあったら教えていただけますか。
積極的に採用しますwww
3-Aでの参加者は
1班(桜子、千雨、アキラ、柿崎、釘宮)
4班(佐々木、明石、和泉、龍宮、春日)
男子(朱雀、新田)
の予定です。
2班(楓、鳴滝姉妹、相坂、四葉)も参加は可能ですが。
3.5.6班はUSJには参加不可です。
絶叫マシン巡りとかウォーターなんたらしか思いつかないw